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2021年4月5日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/95795?rct=world
インターネットに押されて世界各地の報道機関が経営難に陥る中、米国には倒産危機から再建を果たし、過去最大規模の読者と記者を抱える新聞社がある。その1社ワシントン・ポストは、アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏が買収しネット戦略を強化。その下で2月まで編集主幹を務めたマーティン・バロン氏(66)に、ジャーナリズムと利益の両立などについて聞いた。 (ワシントン・吉田通夫)
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◆「ワシントン・ポストにとっていいこと」
バロン氏がベゾス氏によるポスト買収を知ったのは、同紙の編集主幹に就いて7カ月後の2013年7月末。発表の6日前だった。驚いたが、「ポストにとっていいことだ」とも思ったという。
取材対象からの独立を主義とし、自身が指揮した報道も含めて米ピュリツァー賞を17回受賞、映画にも描かれた敏腕ジャーナリスト。それでも新聞社の経営難には「ポストや業界全体が新しい発想を必要としていたのに対応できなかった」と無力だった。同時に「ベゾス氏なら縮小するための投資はしないだろう」と直感した。
職を追われる覚悟もしたが、ベゾス氏の「ネットは新聞業界を破壊したが、贈り物もある」との言葉に動かされた。「コストをかけず全国に、世界に配信できるという贈り物に、それまで気付かなかった」
◆SNSや動画など駆使、でも「報道姿勢は変えず」
ポスト紙はワシントンと近郊に集中していたが、首都の名を冠したブランド力も生かし、全国配信に乗り出す。ベゾス氏はいくつか助言し、そのひとつがネット世代を生きる若者へのアピールだった。将来の購読者を確保することにもつながるからだ。
戦略を練っていたバロン氏は「紙とテレビとラジオが異なるように、ネットには別のジャーナリズムの形がある」と思い至った。スマートフォンや会員制交流サイト(SNS)で読まれることを踏まえ「難しい記事を、友人に話すように分かりやすく」。動画やアニメーションCGなど「視覚効果を駆使することで説得力が高まった」と感じる。かつて編集局に数人しかいなかったCGなどの制作担当者は100人を超え、記者と二人三脚で記事をつくる。
一方、「伝え方は変わっても、報道姿勢は変えなかった」。権力を監視し続け、トランプ前大統領にまつわる調査報道も読者を集めた。16年大統領選の勝利に貢献したとされるロシアとの蜜月関係や、慈善団体「トランプ財団」が集めた資金の流用など数々の不正や疑惑を報じ、怒ったトランプ氏の指示でホワイトハウスが全政府機関に購読中止を呼び掛ける事態に発展した。
買収前はほとんどいなかったデジタル版の購読者は300万人に膨らみ、記者の人数は580人から千人超に。ポスト紙144年の歴史で最大の陣容を抱える。
◆地方紙の衰退に危機感
大都市の新聞社が復活する一方、地方紙の衰退は続く。バロン氏も「正しい情報は民主主義の基盤であり、最大の危機は地方にある」と危機感を強める。
「購読者が新聞社にお金を払うのは新聞社を信じているからであり、私たちの信頼性と誠実さにかかっている」として、記事の根拠とした文書へのリンクを張るなど「仕事の透明性を高めることが信頼を高める一助になる」と指摘。また「報道機関側も、吟味した情報の配信には相応の料金をとるべきだ」と語った。
◇ ◇
◆バロン氏「ネットにはネットのジャーナリズムを」
マーティン・バロン氏へのインタビューは、ビデオ会議システム「ZOOM(ズーム)」で行った。主な一問一答は以下の通り。
Q カトリック教会やトランプ前大統領など、常に強大な権力に立ち向かってきた。
A 仕事柄、権力者と会うことはあるが、仲良くする必要はないと思っている。メディアには独自の力があり、それは権力から独立しているからこそ得られる力だと考えているからだ。
Q 2013年、ワシントン・ポストの編集主幹に就いた7カ月後にジェフ・ベゾス氏が買収すると知った時は、どう感じたのか
A 発表の6日前に上司である発行人から飲みに誘われて、そこで知らされた。そんなうわさはなかったし、まったくの驚きだった。
同時に、ポストにとって良いことだとも思った。私は職を追われるかもしれないと思ったが、さまざまな報道機関は新鮮な発想が必要だったのに対応できず、ポストも財政難で社員が解雇されたりしていた。でも、ジェフ・ベゾスなら好転させる可能性があると感じた。縮小するために買収するような人物ではないし、テクノロジーと消費者行動について豊富な知識を持っていたから。
Q ベゾス氏から言われたことは。
A 彼は2013年10月1日にオーナーになったが、その前に何回か事前の打ち合わせをした。そこで「戦略を根本的に変える必要がある」と言った。それまで私たちは首都ワシントンと近郊に焦点を当て、それに合わせて縮小していた。
しかし彼は、大きな可能性を口にした。「インターネットは新聞社や収益源を破壊したが、同時に贈り物もある」と。言われるまで気付かなかったが、実質的にコストをかけずに全国、世界に配信できるという贈り物だ。そして彼は「私たちはその恩恵を受ける立場にある」と言った。米国の首都に拠点を置き、全国、世界に発信するのにふさわしい場所だからだ。「ワシントン・ポスト」という名前も良かったし、「ウオーターゲート事件」を暴いた新聞として知名度もあった。これらすべてが、全国的、国際的な存在になれることを意味していた。
Q 買収後、編集方法はどのように変わったか。
A ベゾス氏の助言は2つ。全米にアピールするようなアイデアと、将来の購読者となる若い人たちにアピールするアイデアを考えることだった。私たちは、紙とテレビとラジオが違うように、インターネットには別のジャーナリズムが必要だと考えた。
Q 「別のジャーナリズム」とは。
A 私たち新聞業界の人間は、ネットは「記事を転載するだけのもの」と考えていた。しかし、それは間違っていた。人々はスマートフォンや会員制交流サイト(SNS)などを駆使して、紙とはまったく違う形で新聞を読む。そのためには、紙よりも堅苦しくない、別のコミュニケーションが必要だ。
例えばわれわれのブログでは、記者は複雑で難しいテーマを、家族や友人に話すように書いていた。そのように、ネットという私たちが実際に生きている環境に合わせて調節した。
Q ほかにはどのような変化があったか。
A ニュースの伝え方は大きく変わった。(音声で伝える)ポッドキャスト、動画、(動きで変化を示す)インタラクティブCGなど、ビジュアル・ジャーナリズムはますます重要になっている。グーグル検索やフェイスブックやインスタグラムなど、各種サービスの仕組みや特徴を研究して最大限に利用するため、専門のチームもつくった。
Q ジャーナリズムの質に変化は。
A さまざまなツールを使いこなせるようになり、記事は説得力を持ち、効果的に訴えられるようになった。これはジャーナリズムの質が向上したということだろう。
ただ、重要なのは、変えてはならないものもあるということだ。配信方法や見せ方は変わっても、権力者に責任を負わせるという私たちの価値観や原則は変えていない。人々がポストのデジタル版を購読する理由のひとつが調査報道だと分かったので、調査活動にも投資した。
Q トランプ氏の存在が、逆に購読者を増やした側面もあったのでは。
A そこに疑いの余地はない。トランプ氏のことをおかしいと感じていた米国民は多かったが、さまざまな政府機関や議会、裁判所ですらも、トランプ氏が人事をちらつかせるので仕事をしないのではないかと懸念していた。そこでトランプ氏に責任をとらせるための機関を探し回った結果、仕事をしているのが私たちポストとニューヨーク・タイムズだけだった。だから購読者には私たちをサポートしようという思いもあっただろう。
Q トランプ氏の退任後、購読者が少し減ったようだが。
A 最新の動向は分からないが、少なくとも今後はトランプ政権時のように伸びることはないかもしれない。しかし国民には、特定の政権に関心を持ったときだけ購読するのでなく、長い目で見てサポートしてほしい。私たちのような報道機関が当然のように存在するとは限らないのだから。
Q ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズが復活する一方、地方紙の衰退は止まっていない。
A 米国のジャーナリズム最大の危機は、地方にある。各都市をカバーする新聞だけでなく、もっと小さな街の新聞も、経営は非常に厳しい。民主主義は地域レベルから始まる。だから、市議会や地元警策、地元の教育委員会について正しい情報を提供する報道機関の存在は、非常に重要だ。しかし、地域新聞などに掲載されていた広告がネットに奪われるなど、深刻な問題を抱えている。
Q ネットの隆盛とともに、偽情報や偏った主張など注目を集めるための言論も増えてきたが、健全なジャーナリズムのために持続可能なビジネスモデルはあるか。
A 私たちの成否は、信頼と誠実さにかかっている。民主主義社会では人々がいろいろな判断を自由にできるが、判断基準になるのが信頼できる情報源だ。報道機関はその地位を確立しなければならず、そのために信頼を高めなければならない。購読者が私たちにお金を払う理由は、私たちの仕事を信じて、支持してくれるからだ。
今は報道機関への信頼が低下していると言われるが、例えばある文書を基に記事を書いた時は原典へのリンクをつけるなど、読者に一次情報を明らかにして仕事の透明性を高めることで、信頼を高めることができる。
報道機関の側も、吟味した情報を提供する場合に、それにふさわしい料金をとるべきだろう。
マーティン・バロン 1954年フロリダ州タンパ生まれ。リーハイ大ジャーナリズム学科卒。76年にマイアミ・ヘラルド紙記者、ニューヨーク・タイムズ副編集主幹などを経て13年1月にワシントン・ポスト編集主幹。今年2月末に勇退した。ボストン・グローブ編集主幹だった03年にカトリック教会の性暴力を暴いた記事を指揮してピュリツァー賞を受賞。その取材過程を描いた15年の映画「スポットライト」はアカデミー賞作品賞を受賞した。
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