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2021年3月7日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/89954
東日本大震災の教訓を心に刻むため、東京新聞など地方紙29紙が展開する協働企画に、震災を巡る多数のエピソードが寄せられました。随時、紹介していきます。今回は3人のエピソードです。
◆私は1人の命じゃない
東京都江戸川区の会社員植松南美(みなみ)さん(23)=宮城県石巻市出身
10年。私は一度も泣いていない。
家も学校も先生も友達も親戚も近所の人も、多くの大好きなものを失った。だけど、この10年、私は一度も泣いていない。
私は遺族じゃないから。
遺体安置所や避難所、友人たち。周りを見渡して、私よりもっと悲しい人がいるんだから、私よりもっとつらい人がいるんだから、私は泣いてはいけないと、強くならなければいけないと、当時、子どもながらに思わざるを得なかった。大人にならなければならなかった。
なぜ私が助かったのか。 この10年、何度も何度も思った。何も悪いことをしていないのに重い十字架を背負ってしまったように。
3月11日。これから先、死ぬまでずっと私は、あの日を思い、考えながら生きてゆく。
私は1人の命じゃない。
◆「この子と一緒に死ねるんだ」
盛岡市 主婦(39)
あの日。生きる意味を見いだせない私は、生後1カ月の子どもを抱きしめて「良かった。この子と一緒に死ねるんだ」。そう思った。
難病を抱えて生まれたわが子は、新生児集中治療室(NICU)をやっと出て、在宅生活へ向けて小児科で、私が付き添って入院生活を送ることになった。
2011年3月1日、わが子が2歳か3歳までしか生きられないと告げられた。
死ぬために生きるということ? この子は何のために生まれてきたの? こんなかわいい顔は最後どんな顔をするんだろうか?
不安と、絶望の中、子どもとの入院生活が始まった。
3月11日、いつか飲めるようになるかもしれない母乳をパックに搾り、冷凍する準備をしていた。
ものすごい音と大きな揺れ。私は急いでベッドに寝かせていたわが子を抱き上げ、きつく抱きしめて守ろうとした。足を大きく広げないと立っていられず、窓は割れんばかりにきしみ、病院は崩れ落ちると思った。恐怖に包まれた瞬間、ほっとした自分がいた。「この子と一緒に死ねるんだ」
沿岸の悲惨な状況を知ったのは次の日の新聞だった。7人部屋の退院できそうな子はどんどん退院して、被災地の医療的ケアの必要な子たちが入院してきた。
2、3年どころか、老人になるまで将来を疑うこともない人たちが一度にたくさんの命を奪われたんだ…。
それは、全ての人の明日が保証されないという忘れがちな現実を突きつけた。
元気に生まれてもいつまで生きられるかなんて分からない。今日という日が来なかった人がたくさんいる。誰もが死ぬために生きるんじゃなく、死ぬまで生きるんだ。そう思えた。
東日本大震災から10年。生きることをかみ締めたあの日を思い出す。
2、3年しか生きられないと言われたわが子は、1月20日をもって10歳となった。これからも、今生きていることを大切に、その日まで生きていく。
◆瓦のかけら1個が宝物
埼玉県川島町 主婦横山時子さん(73)
私の故郷は地震、津波、放射線で苦しんだ福島県相馬市磯部です。磯部地区は壊滅状態でした。たくさんの人が亡くなりました。親戚、同級生、近所の人。
あの時の光景は、とても悲惨なものでした。叔母さんは2011年3月、叔父さんは同年11月、がれきの中から見つかりました。
地元の友達にお世話になりながら、数回、足を運びました。テレビ、新聞では、報道されないことを見たり、聞いたりして、言葉は、ありませんでした。
原発さえなければ今ごろは、少しは笑顔になっていると思うのですが、いまだに苦しんでいます。
原発は反対です。少し不便でも、自然の中で生きるのが一番だと思うのです。
私の頭の中には、昔の地区の地図があります。友達とよく昔の話してます。
自然の中で、海で捕れた新鮮な魚を食べて育ったこと。昭和30年代ですので、そんなに豊かな生活ではありませんでしたが、良い時代だったと思うのです。
がれきの中から、拾って来た実家の瓦のかけら1個が私の宝物です。
17年11月、夫も病気で亡くなりました。1人になった今でも、故郷のことを思いながら生きてます。
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