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ボノボ
ボノボと聞いてもあまり馴染みのない方もおられるかもしれません。これは当然で、ボノボが発見されたのは1929年の事で、私の知る限りボノボに会える我が国の動物園はないと思います。しかし、ボノボはチンパンジーと同じぐらい私たち人類に近い動物で、約700万年前人類の祖先から分かれ、300万年前にチンパンジーと分かれた種です。写真に示すように、外見も慣れていないとチンパンジーと間違うほど良く似ています。しかし、顔が小さくて黒い、手足が長いなど明らかな違いがあります。
実は私もボノボを見たことがありません。しかしボノボの研究者de Waalさんの著書や論文を読んで以来、ボノボの虜になっています。というのも彼らがチンパンジーとは全く異なる、平和的な社会生活を送っているからです。私たちは、チンパンジーというと愛嬌のあるおとなしい猿を想像してしまいますが、京都賞を授与されたGoodallさんが明らかにしたように、強い男性優位の社会を形成し、争いが絶えず、さらに他の群れを殺戮する残忍さが本性です。これに対してボノボは、女性優位の社会で、争いを好まず、男女、さらには同性間のセックスを道具として誰とでも友好関係を築く、平和的な猿です。de Waalさんの本によれば、オスの持っている食べ物を分けてもらうため、自分の性的魅力で誘惑する一種の売春行為すらあるようです。平和な社会のために、人間から見たら不道徳な性的乱交が維持されるボノボを知ると、私たちの道徳の起源がどこにあるのか、de Waalさんでなくても興味があります。
もちろん専門家は、人間の道徳の起源を求め、今もコンゴのジャングルで、そしてボノボを飼育する動物園で、彼らの行動を観察し続けています。
論文の概要
今日是非紹介したい論文はもちろんボノボについての研究です。コンゴにすむボノボの2つの群が示した、これまで観察されたことのない行動についての報告で、それぞれの独立した群れを追跡し続けているリバプール・ジョン・ムーア大学とドイツマックスプランク人類新科学研究所の研究者が、4月5日号のHuman Natureに発表しました(Furth and Hohmann, Food Sharing across Borders(群れの境界を超えた食料の共有) Human Nature, in press, 2018: https://doi.org/10.1007/s12110-018-9311-9)。
チンパンジーやボノボが木の実などの植物を主食にしていると思っている人は多いはずです。これは間違ってはいませんが、発達した脳を維持するためには、動物の肉のような良質のたんぱく質が必要です。事実、チンパンジーが群れをなしてヒヒなどの小型サルを日常的にハンティングして肉を食べることが、先述のGoodallさんによって報告され、私たちのチンパンジーのイメージを大きく変えるきっかけになりました。
チンパンジーがグループで行う狩の様子について、私も生命誌研究館のブログに狩りの様子について説明したことがあります。頭脳の発達したチンパンジーですが、群れで狩をすると言っても協力するとは名ばかりで、単純化して言うと他の個体と目的を共有することがないため、各個体の頭にあるのは、自分がいち早くえさにありつきたいという利己的な目的だけで獲物を追いかけます。このため、運良くゲットした餌を分け合うのは、見返りが期待できるときだけと言えます。
一方、ボノボは平和的でこれまで残虐な狩りをしないのではと考えられていましたが、最近では小型猿や他の哺乳類をハンティングすることが知られるようになりました。平和的なボノボも、質の高い栄養は必要です。しかし、得られた獲物は独り占めすることはなく、メスが仕切って仲良く分け合うことが明らかになりました。ここでもまたボノボの社会性とチンパンジーの利己性という差が浮き彫りになりました。
おそらくこの研究グループは、食物を分け合うボノボなら、さらに高い道徳性の必要な行為を示すのではと考えたのではないでしょうか。すなわち自分のグループないだけでなく、他のグループのメンバーと獲物を分け合う可能性です。このため、互いに接する縄張りで暮らしている2つのボノボのグループを別々に追跡し続け、ついに1匹のオスが、捕まえた獲物を他のグループのメスに分けるのを目撃したのです。
もう少し詳しく紹介しましょう。あるとき、2つのグループが同じ領域で出会った時のことです。こんな場合もボノボは争いません。この時、1匹のオスが、ダイカー(小型の牛科の動物)を捕まえるのに成功します。すると、間髪入れずなんと両方の群れからメスが全部で9匹もそのオスに近づいて、獲物をねだるポーズをとり、同じグループのメスだけでなく、他のグループのメス1匹が肉を分けてもらうのに成功します。
その後このメスが、自分の子供たちに肉を与えるだけでなく、両方のグループ分け隔てなく他のメスにも肉を与えるのも観察されています。
結局1時間あまりの出来事で、その後は強い雨に遮られ、それ以上の追跡はできなかったようです。
私は専門外で、この分野の論文をいつも読んでいるわけではありません。しかし、このように群れの境界を超えて、獲物を分け与える行動が観察できたのは、今回が初めてではないでしょうか。実際、人間でもグループを超えた交流はけっして自然に行われるものではありません。おそらく、メスが仕切る社会構造のボノボならではの行動で、メスにねだられると本能的にこのオスも反応したのかもしれません。論文を読んで、大変感激しました。
個人的考察
ここからは個人的考察で、正しいことが書かれているとは思わないでください。
私がボノボに興味を持つのは、人間の進化で直立原人が現れてから、男女の体格差がなくなり、おそらく一夫一婦制が定着したきっかけを知りたいからです。ボノボはチンパンジーと比べると、オス・メスの体格差が大きくないことが知られています。これは、オスがボスの座を巡って争う必要がなくなったからだと考えます。かわりにボノボは、性をコミュニケーションの道具とする、いわば乱交型の平和な社会を築きあげます。私も直立原人の一夫一婦制を疑うわけではありませんが、その前にボノボと同じ乱交型のメスが仕切る社会構造を持っていたのかもしれません。もしそうなら、そこに一夫一婦という新しい道徳がどう生まれたのか、興味は尽きません。
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西川伸一
NPO法人オール・アバウト・サイエンスジャパン代表理事
1948年滋賀県生まれ。1973年京都大学医学部卒業。7年医師として勤めた後1980年ドイツ ケルン大学留学。1987年熊本大学医学部教授、 1993年京都大学大学院医学研究科教授を歴任。 2000年理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター副センター長。2013年、あらゆる公職を辞し、NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン代表理事として様々な患者さん団体と協力して、患者さんがもっと医療の前面で活躍する我が国にしたいと活動を行っている。
https://news.yahoo.co.jp/byline/nishikawashinichi/20180409-00083702/
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