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シカゴプラン(貨幣改革)とその電力・製造業への活用 -アベノミクスを超えて / 山口 薫氏 (2)
http://www.asyura2.com/14/idletalk41/msg/485.html
投稿者 Air−Real 日時 2017 年 1 月 29 日 22:56:37: dsfJ1hAY0z6VI gmCCiYKSgXyCcYKFgoGCjA
 

(回答先: シカゴプラン(貨幣改革)とその電力・製造業への活用 -アベノミクスを超えて / 山口 薫氏 (1) 投稿者 Air−Real 日時 2017 年 1 月 29 日 22:47:04)

(1)からの続き
1.アベノミクス効果その1:円高デフレ不況スパイラルの逆転
2.アベノミクス効果その2:インフレターゲット・実質金利効果
3.アベノミクスの不安材料その1: 欧米の経済危機
4.アベノミクスの不安材料その2: 輸入原材料、エネルギーの高騰
5.アベノミクスの不安材料その3:資産バブル、債務増大、デフォルト危機
6.債務貨幣システムの限界

までを(1)としました。残りを転載します。
つづき、ここから↓
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7.貨幣改革:シカゴプラン&米国貨幣法

こうした債務貨幣システムの限界を超えるには、シカゴプランまたその現代版である米国貨幣法 (The American Monetary Act)(本論に付録として掲載)による貨幣改革案 (Monetary Reform) しかありません。それではシカゴプランとは何なのでしょうか。
1929年の世界大恐慌は債 務貨幣システムが引き起こしたと、シカゴ大学の経済学者ヘンリー・サイモンら8名の経済学者 が主張し、こうした大恐慌を回避するために、1933年「銀行改革のシカゴプラン」という提 案書を、ルーズベルト大統領を始めとするワシントンの政府関係者40名に密かに手渡しまし た。シカゴプランの名前はその提案書に由来します。その骨子は債務貨幣システムを根底から変革するもので、次の2つです。

1 民間会社である連邦準備制度理事会(FRB)-米中央銀行-を財務省に統合し、 政府のみ貨幣を発行する。
2 無からお金を作り出す民間銀行の信用創造を禁止し、100%政府貨幣とする。

この提案に米国の偉大な貨幣数量経済学者アービング・フィッシャー等が加わり、議会工作がな された結果、この法案が成立する可能性がありましたが、ウオール街からの政治的抵抗にあい、 より緩やかな「1935年銀行法」(いわゆるグラース・スティーグラ法)に取って代わられました。この銀行法は、銀行本来の預金業務をリスキーな投資業務から分離する法案で、その後の 金融安定化に貢献しましたが、1999年にクリントン大統領によって廃案とされました。これ が契機となり銀行がよりレバリッジの高いサブプライム等のデリバティブに手を回し、2008 年のリーマンショックと金融恐慌の引き金になったといわれています。
この2008年の金融システム崩壊を受けて、米国を再生させるための希望の法案 HR 2990 が 2011年9月21日にデニス・クシニッチ下院議員(前民主党大統領候補2回)によって議会 に提出されました。NEED法(国家非常事態雇用防衛法 National Emergency Employment Defense Act)と呼ばれています。この法案の骨子は、シカゴプランの2つの条件に以下の第3の 条件を付け加えたものからなっています。

3 経済成長に必要な貨幣は、政府が常時流通に投入する。

この法案は米国貨幣研究所(AMI)によって提案された米国貨幣法に立脚しており、さらに そのもとになった改革案が上述の「銀行改革のシカゴプラン」という提案書です。よってNEE D法は現代版シカゴプランと呼ぶに相応しいものです。私は現代版シカゴプランの3条件の下で 発行される貨幣を公共貨幣 (Public Money)と呼び、その経済システムを公共貨幣システムと呼ぶ ことにしました。
それでは、公共貨幣システムのもとで現在の世界経済が直面している金融危機、政府債務危機 は解決できるのでしょうか。こうした問題意識をもって私は、会計システムダイナミックスとい う新しい方法で開発したマクロ経済モデル(方程式約900本)を用いて2011年に、この公 共貨幣システムの有効性をシミュレーション検証しました。そして、増税なしでも国の借金は完 済できるし、不況、失業、賃下げ、インフレそして世界同時不況も引き起こさないという驚きの 分析結果を得ました(このモデルは

www.muratopia.org/JFRC/sd/MacroModel.html

から無料ダウンロードで誰でもシミュレーションできます。草稿 Money and Macroeconomic Dynamics の第 12,13章を参照下さい)。加えて、 公共貨幣システムのもとでは、政府支出の増減によって 公共貨幣の流通量を有効にコントロールすることができるようになるので、不況・インフレ対策 は非常に有効に機能するということも論証しました。14.3兆ドルの債務上限に直面してワシ ントンDCがデフォルト危機で極度に緊張していた最中の2011年7月26日、私は米議会ブ リーフィングにクシニチ議員から招待され、この結果を報告させていただきました。

8.シカゴプラン(貨幣改革)の日本への導入

この公共貨幣システム(現代版シカゴプラン)をわが国に導入するにはどのようにすればいい のでしょうか。以下は私の試案です。

1 政府が55%有する日本銀行を100%政府所有の公共貨幣局 (Public Money Administration)と組織替えし、貨幣、紙幣の発行権を付与する。公共貨幣発行残高 はすべて情報公開する。
2 銀行の信用創造を廃止し、預金通貨準備率を100%マネーとする。 但し、預金準備率は現行の約1%から徐々に引き上げてゆく。この過程で必要となる 資金は、公共貨幣局が無利子、無期限で信用供与する。
3 経済成長、社会福祉等に必要なマネーは公共貨幣局が財政政策等を通じて流通に投入し、インフレの場合には増税等で引きあげる。

このシステム導入によって以下のような経済効果が期待できます。

<政府への効果> 政府は公共貨幣を発行して、これまでに累積した約1,000兆円の政府債務を償還期限がきた 国債から順次返済してゆくことができるようになり、数十年後には債務の完済ができます。また この返済に伴う公共貨幣の市場への投入はインフレを引き起こしません。加えて政府債務の桎梏 から解放されて、インフラ、福祉、教育等の公共事業を促進してゆくことができます。さらにシ ステム導入時に日銀券との交換比率を高めることにより、GDPギャップを即効的に埋めること もできます。さらにこれに伴う不公平をもたらさないために、ある所得以下の家庭に助成金を直 接交付することも可能となります。

<銀行への効果> 銀行業務への効果ですが、まず取引、支払い手段としての当座預金、普通預金が100%保護 されることになり、預金者保護が政府のペイオフ(預金保護)なしに達成されます。同時に、銀 行は手数料を徴収して支払い手段サービスを預金者に提供することになり、その手数料収入を安 定的に確保し、不況・公共のビジネスサイクルに煩わされることなく経営を安定させることが出 来るようになります。さらに貸出に必要な原資は、定期預金、ローンの返済等から確保して運用 してゆかざるを得なくなり、資金のより効率的配分が達成されるようになります。その結果、大手銀行に有利に作用した信用創造にもとづく資金貸出から生じる銀行間格差が解消され、地方銀 行、零細銀行の活性化に繋がり、より潤沢な資金が地方に流れるようになります。

<製造業への効果> 製造業への効果ですが、従来の信用創造のもとで生じた信用拡大・収縮がなくなり、常に一定 量の貨幣が国内で流通することになるので、大企業はもとより中小企業、零細企業にも等しく資 金が循環し始めます。また、銀行は不況下での資金逼迫に陥ることがなくなりますから、貸しは がし、貸し渋りといった銀行の製造業いじめもなくなります。その結果、より長期的視点にたっ た銀行本来の製造業支援が復活してき、製造業が活性化されます。さらに寡占化に伴う産業構造 の非効率化も、大銀行の強大な信用創造力による貸付格差が出来なくなることから、徐々に解消 され、より効率的な産業構造が再生されてきます。さらに公共貨幣による政府の中小企業活性化 のための直接助成も可能となります。

このように現代版シカゴプランは、政府、銀行にも企業にもプラスとなります。さらにこれま でのような債務貨幣システムのもとでのインフレ・デフレ、好況・不況といったビジネスサイク ルが生じにくくなるので、消費者にとってもプラスとなります(ビジネスサイクル縮小化に関し ては上記草稿14章を参照下さい)。このように現代版シカゴプランの導入による経済効果は計 り知れないほど生じてきます。

9.不安材料その1の除去: 欧米の経済危機からの自由

アベノミクスの金融緩和、円安(ドル高)による景気回復を維持しつつ、上述の3,4,5で 述べた3つの不安材料を回避しつつ、経済を持続的に発展させるためには現代版シカゴプランの 導入しかありません。この導入により上述の3つの不安材料がどのように除去され、持続的な経 済成長が可能となるのかを、以下順次具体的に検証してゆきます。まず不安材料その1から始め ましょう。
アベノミクスの金融緩和による円安・ドル高から恩恵を受けているのは主に輸出産業で、こう し輸出主導が景気を回復基調に戻していますが、欧米の経済危機でいつ何時円高ドル安の不況ス パイラルに引き戻されるか分かりません。すなわち、現行の債務貨幣システムでは、日本経済は 常に為替レートに左右される不安定なシステム構造になっているのです。こうした構造から脱却 し、円高や円安から自由な、筋肉質で安定的な経済体質を作る必要があります。そのためには内 需拡大型の構造に変換し、海外からの影響に左右されない経済体質を構築する必要があります。
そのためには、まず正規社員、非正規社員といった米国型の市場経済構造改革によってもたら された弊害を優先的に除去し、賃金格差をなくし、消費需要を拡大、安定化させる必要がありま す。公共貨幣システムはこうした格差を解消する政策を豊富な公共貨幣の投入で支援することが できます。例えば、恒常的な資金不足に苦しむ中小企業・零細企業に資金が十分にまわるように 公共貨幣を市場に直接投入することが可能となり、従来の信用創造による不安定な資金供給メカ ニズムを克服することができるようになります。この結果、非正規社員によるコスト削減の必要 性がなくなり、さらに、全ての労働者が正規社員となることで、職場の士気も高まり、生産性も 上昇し、伝統・革新技術の社内での継承も可能となり、より筋肉質で持続可能な企業経営が可能 となります。
公共貨幣システムでは為替レートの決定は全て市場の手に委ねられることになりますが、いっ たんこうした内需主導型の筋肉質で安定的な経済構造が出来上がると、為替レートの変動を吸収 する弾力性が出てくることになり、万一吸収できない場合でも財政・金融政策での対応が容易と なります。この結果、欧米の経済危機、それに伴う為替変動リスクから自由な経済システムが構 築できることになります。

10.不安材料その2の除去: 輸入原材料、エネルギーの高騰からの自由

ここでは製造業コスト、電気料金に絞ってさらに議論を展開してゆきます。なぜならば目下アベ ノミクスによるしわ寄せがこの分野を直撃しているからです。現代版シカゴプランの導入によっ て、政府は債務問題に煩わされることなく、公共貨幣(資金)を市場に投入できるようになりま す。特に日本経済のようにGDPギャップ(=潜在的GDPー有効需要)が大きい経済(一説で は40〜100兆円)では、その効果はてきめんです。このシカゴプラン効果を電力産業の構造 改革に活かし、電気料金の上昇を阻止するのです。以下は電力産業活性化の試案です。まず、基 本的なフレームワークとして、現在のような発電から送配電を地域独占する非効率な電力の産業 構造を変革することです。すなわち、すでに国内で議論が集約に向かっている方向:発送電を分 離することが不可欠です。発電部分については、競争的な市場で電力が供給されるような市場の 競争メカニズムの構築が必要でしょう。電力会社の電力供給独占を廃して電力供給を自由化し、 より効率的、競争的な電力供給を市場を創造するのです。加えて長期的な視点に立ち、持続可能 な自然エネルギーによる発電等を促進できるように価格体系を誘導する必要があります。
次に送配電部分ですが、電気エネルギーを経済活動の公共財と位置づけて、その国内での送配 電システムを公共電気事業システムとして、公共貨幣を投入してインフラ整備するのです。具体 的には公共貨幣を投入して、送配電システムを電力会社から直接購入し、全国規模の効率的送配 電システムを構築するのです。こうした公共資金の投入によりGDPギャップも埋まり、景気も 刺激されます。その結果、経済が再び成長軌道にのり、雇用も増大します。勿論、インフレ、バ ブルも引き起こしません。上述の米国NEED法が提案している日本語版にするのです。
こうした電力産業の再生、活性化プログラムで、電気代コストが下がり、海外とのコスト競争 環境が整備されてきます。具体的には送配電システムの売却で得た売却益をコスト削減に還元す るのです。これによりアベノミクスの円安・ドル高にともなう電気代コストの高騰を押さえ、国 内の製造業コストを下げてより競争的産業に再生するのです。もしこの効果が十分でない場合に は、助成金による公共貨幣の投入で、政府が直接支援する救済策が考えられますが、シカゴプラ ンの導入により、経済が活性化し始めれば、その必要性はなくなるでしょう。現代版シカゴプラ ンの導入なくして、アベノミクスを超える日本経済の再生策はないと言っても過言ではありませ ん。
現代版シカゴプランはまさに日本経済再生の救世主、希望の星となり得るのです。

11.不安材料その3の除去:バブル、債務増大、デフォルト危機からの自由

公共貨幣システムでは、上述したように政府債務を生じさることなく、公共貨幣が直接実体経 済に投入できるようになり、不況、インフレの制御がよりシンプルで、容易になります。また債 務貨幣システムのような信用創造によるバブル、信用収縮による不況、金融恐慌も引き起こしま せん。このような特質をもつ現代版シカゴプランをシステム思考すれば下の図のようになりま す。
このシステム思考図から、信用創造に基づく金融市場の部分が消滅しているのが読み取れま す。すなわち、金融市場の大半の部分は経済の寄生虫に過ぎず、それが無くても実体経済は機能 するし、金融市場から生じる信用拡大(バブル)、信用収縮(クレジットクランチ)による景気 変動からも自由となり、経済活動はより活性化し、持続可能となります。また為替変動からの影 響は、上述の内需型の筋肉質の経済構造を作り上げることにより吸収できるようになり、さらに 公共貨幣の増減を直接制御することにより対応できるようになります。

結語
金融緩和によるアベノミクスは一見成功しているかのように見えますが、現行の経済活動は債 務貨幣システムのもとでの活動にすぎません。鳥瞰的にこの債務貨幣システムを眺めれば、金融 危機、政府債務危機といった危機に繰り返し見舞われ、このシステムは袋小路的なシステミック 失敗に陥っています。従ってアベノミクスは短期的、局所的には成功するかもしれませんが、そ の効果は限定的であると冷静に観察する必要があります。そこで、こうした現行の債務貨幣によ るシステム失敗から解放され、持続可能な経済を実現するためには、現代版シカゴプランを導入 して、公共貨幣システムを構築することが必要不可欠となります。 米国や欧州でもこうした方向にむかって徐々に舵取りがなされ始めています。中央銀行を5 5%政府所有する日本は、こうした持続可能な公共貨幣システムへの移行が比較優位な立場にあ ります。世界に先駆けて公共貨幣システムを構築することの経済効果、及びその歴史的意義は大 きいと思われます。日本よ、公共貨幣システムで世界から尊敬されるリーダーになろう!

謝辞
この小論執筆の機会は、グループダイナミックス研究所の柳平彬さんのイニシアティブによって 与えられました。執筆中、同氏からは連日貴重なコメント、アイディアを頂きました。また、N PO法人日本未来研究センターの出口恒さんからも有益なフィードバックを頂きました。こうし た激励がなければ本論は誕生しなかったでしょう。あわせて感謝いたします。  

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