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円安がもたらす製造業の国内回帰 動きは本物か? 雇用は生まれるのか?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150116-00003053-gentosha-ent
幻冬舎plus 1月16日(金)6時0分配信
渋谷 和宏
1ドル120円台の円安が製造業を変え始めている。大手メーカーがかつて海外に移した生産ラインの一部を日本に戻し始めているのだ。国内回帰あるいはリショアリングと呼ぶこの動きは日本の産業構造を大きく変え、ひいては僕たちの雇用、生活にも多大な影響をもたらす可能性を秘めている。
家電最大手のパナソニックは今年(2015年)1月初頭、中国などで生産し、日本に逆輸入している家電製品の多くを日本国内での生産に回帰させる方針を明らかにした。
パナソニックは、国内販売額が約5000億円に達する家電製品の約4割を中国など海外で生産している。これらをこの春から順次、国内生産に切り替えていくという。まずは洗濯機の生産を中国から静岡県袋井市の工場に戻し、続いて全量を中国から輸入している家庭用電子レンジを神戸市に、最上位機種を除いて中国で生産している家庭用エアコンを滋賀県草津市での生産に回帰させる計画だ。
国内回帰の最大の理由は、円安によって中国などから逆輸入した製品の採算性が悪化したためだ。円安が進めば進むほど逆輸入した際の円建ての製品価格は上がっていく。しかし上昇分を日本国内での販売価格に転嫁するわけにはいかない。値上げしたら国内での競争力を失いかねないからだ。
このため1ドル110円よりも円安に傾くと、家電製品が稼ぐパナソニックの利益は1円の円安で18億円も減少するという。一方、円安で日本からの輸出品は価格競争力が高まっている。しかもアジアを中心にメイド・イン・ジャパン製品の人気はもともと高い。パナソニックは採算性や競争力の点で国内生産の方が有利だと判断したのだ。
国内回帰は日本国内で新たな雇用を生むので僕たち働く側には間違いなく朗報だ。実際、パナソニックは国内での生産拡大に伴い雇用を増やす方針を表明している。
日本の大手メーカーは1990年代以降の円高の進展に背中を押されるようにして生産拠点の海外移転を進めてきた。部品メーカーもこの動きに追随した。結果、音響・映像機器を除く家電製品の輸入額は2000年の約2000億円から2013年には約9000億円と4倍以上に増え、国内製造業の空洞化が進んだ。影響は雇用にも及び、サービスや外食に比べて相対的に賃金が高い製造ラインでの職が失われ、所得の二極化が進んだ。
国内回帰の動きはこの歯車を元に戻せるだろうか。
それはどこまで広がり、日本の産業構造や僕たちの雇用、生活をどこまで変えるのだろうか──。
国内回帰を決断したのはパナソニックだけではない。キヤノンもまた3年以内に事務機などの国内生産比率を今の43%から60%に拡大する方針を打ち出した。(1月9日付の産経新聞)
キャノンでは、プリンターなど事務機器のモデルチェンジは1〜3年ごとに行い、現行機種の生産を減らし、新機種へと切り替えているという。この切り替えのタイミングで海外生産を減らし、日本に回帰させる計画だ。
シャープも海外で生産し日本に逆輸入している家電製品の一部を日本での生産に回帰させる方針を明らかにした。
この1月6日、新聞各紙のインタビューに応じた�橋興三社長によれば、今年6月までに中国とマレーシアで生産している日本向けの液晶テレビを栃木県矢板市の工場に、中国で生産している冷蔵庫を大阪府八尾市の工場に切り替えるという。さらに中国で生産している家庭向け空気清浄機と除菌イオン発生機も八尾市の工場に戻す予定だ。
加えてシャープは部品の調達先を中国やマレーシアから国内に切り替えられるかどうか検討している。実現すればシャープの国内回帰は中小の部品メーカーにも波及し、雇用をいっそう増やすはずだ。
こうした動きは大手家電メーカーだけではない。ホンダはベトナムで生産している排気量50cc以下の小型二輪車(オートバイ)を今年中に日本での生産に回帰させる計画だ。対象は日本で販売する原付スクーター、ダンクが中心になるという。円安によって日本国内での生産でも価格競争力を発揮できると判断したのだ。
国内回帰の動きは業種を越え、多くの企業に及んでいる。では今後、あらゆる業種・業界に広がっていくのだろうか。
結論を言えば、今の段階では大手メーカーはそろりと半歩、国内に足を差し出したに過ぎない。現在はあくまで採算が悪化した逆輸入製品の国内回帰にとどまり、中国やアジアなど海外向けの製品については現地生産を貫く戦略を変えていない。軸足はまだ海外にあるのだ。
パナソニックの津賀一宏社長は「中国生産分の国内回帰はもちろんあるが、積極的対応ではない」と明言し、中国やアジア市場向けの製品については今後も「地産地消」を進めていく方針を明らかにしている。
またトヨタ自動車の豊田章男社長は「(生産の国内回帰について)我々には別にそういう考えはない」と語り、九州で生産している高級車レクサスの一部を今年夏以降、米国で生産する計画に変更はないと明言した。
1ドル120円の円安にもかかわらず軸足を海外に置き、アジアを中心とする海外市場向けの生産についてはあくまで「地産地消」にこだわる最大の理由はアジア市場の魅力だ。中国はかつての二けた成長の勢いは失われたものの7パーセント台の成長を続けている。ASEAN(東南アジア諸国連合)各国は今、急速な経済発展の真っただ中だ。アジアでは富裕層、中間層が続々と生まれ、日本製品の潜在的な顧客は急増している。
これに対して日本は人口が減少に転じており、市場としての魅力は年々、薄れている。デフレ脱却の兆しはあるが消費増税が個人消費を腰折れさせてしまいアベノミクスの行方は怪しくなっている。
つまり今の国内回帰は、1990年代の円高局面を通して構築した国際分業体制の採算性を改善する微調整のレベルにとどまっているのだ。
とはいえ微調整レベルであろうが、国内に新たな雇用が生まれるのは円安による数少ないメリットの1つだ。
さらに長い目で見れば、中国やアジア市場向けの製品についても国内回帰があり得るかもしれない。経済発展によって中国やASEANの労働者の賃金は上昇の一途をたどっている。労働についての調査研究を行う独立行政法人の労働政策研究・研修機構によれば、北京市内で働く労働者の2014年の最低賃金は月額約3万円と2005年の2.7倍に達したという。
他方で米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は今年4月以降の利上げを示唆しており、もし利上げに踏み切ったらドル高円安がさらに進み、1ドル130円も現実味を帯びてくる。今の水準を上回る超円安が進んだ時、大企業製造業が軸足を国内に戻さないとは言えない。
なぜなら円安が進めば進むほど、ドルに換算した時の僕たちの賃金が下落していくからだ。
今は過渡期だと言えるだろう。国内回帰の動きを注視したい。
■渋谷 和宏
1959年12月、横浜生まれ。作家・経済ジャーナリスト。大正大学表現学部客員教授。1984年4月、日経BP社入社。日経ビジネス副編集長などを経て2002年4月『日経ビジネスアソシエ』を創刊、編集長に。2006年4月18日号では10万部を突破(ABC公査部数)。日経ビジネス発行人、日経BPnet総編集長などを務めた後、2014年3月末、日経BP社を退職、独立。
また、1997年に長編ミステリー『銹色(さびいろ)の警鐘』(中央公論新社)で作家デビューも果たし、以来、渋沢和樹の筆名で『バーチャル・ドリーム』(中央公論新社)や『罪人(とがびと)の愛』(幻冬舎)、井伏洋介の筆名で『月曜の朝、ぼくたちは』(幻冬舎)や『さよならの週末』(幻冬舎)など著書多数。
TVやラジオでコメンテーターとしても活躍し、主な出演番組に『シューイチ』(日本テレビ)、『いま世界は』(BS朝日)、『日本にプラス』(テレ朝チャンネル2)、『森本毅郎・スタンバイ! 』(TBSラジオ)などがある。2014年4月から冠番組『渋谷和宏・ヒント』(TBSラジオ)がスタート。http://www.tbsradio.jp/hint954/
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