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生活保護は切り捨てる? 2015年度予算案 住宅扶助190億円、冬季加算30億円削減の衝撃
http://www.asyura2.com/14/hasan92/msg/914.html
投稿者 蟲 日時 2015 年 1 月 16 日 07:32:25: VXoEun45fU5tI
 

【政策ウォッチ編・第91回】 2015年1月16日 みわよしこ [フリーランス・ライター]

生活保護は切り捨てる? 2015年度予算案

住宅扶助190億円、冬季加算30億円削減の衝撃
――政策ウォッチ編・第91回

2015年1月14日、2015年度予算が閣議決定された。この予算には、生活保護の住宅扶助・冬季加算の削減が含まれている。

これに先立って、1月9日、社保審・生活保護基準部会は、2013年10月からの議論と調査結果を報告書に取りまとめた。

報告書の内容は、どのように政策に反映されたのであろうか?

住宅扶助3.5%、冬季加算8.5%引き下げ
「聖域なき」2015年度予算案

第22回基準部会開始直前の様子。手前の二列は厚労省事務局
Photo by Yoshiko Miwa

 2015年1月9日の午後、社保審・生活保護基準部会(以下、基準部会)が開催され、一連の議論にもとづいて報告書を取りまとめた。この報告書は同日に公開された。

 報告書内には、住宅扶助については全く、冬季加算についてもほとんど、「引き下げが妥当」とする結論は書かれていない。冒頭の前文の最初の一文では、生活保護制度の意味が

「生活保護制度は、国家が国民に対し、人間らしい生活=健康で文化的な最低限度の生活を保障するナショナルミニマムとしての機能を担っている。それと併せて所得再分配機能やセーフティネット機能等を有しており、格差・不平等の是正や他制度等の補完・補充を果たす最終的施策として社会保障制度を基底から支えている」

 と再確認された上、

・国交省「最低居住面積水準(2007年)」の重要性
・生活保護世帯の住居の最低居住面積水準達成率が、一般世帯を大きく下回っていること(単身世帯では、生活保護世帯で46%、一般世帯で76%)
・住宅扶助は「住のナショナルミニマム=健康で文化的な最低限度の住生活の保障(筆者注:すなわち最低居住面積水準が充たされていること)」を可能にする必要があること
・冬季加算は、「冬季における健康で文化的な生活の維持」が可能な金額である必要があること

 など、基準部会委員たちが「重要」と合意を見た事項が列挙されている。しかしながらこの日、基準部会が終了した直後、まだ報告書が公開されていない時間帯に、「基準部会で引き下げ方針が決定された」と読める一部報道があった。

第22回基準部会には、在京TVキー局のほとんどとNHKのカメラクルーが取材に訪れていた。しかしNHK以外は、冒頭の「頭撮り」後はすぐ退出した Photo by Y.M.

 連休明けの2015年1月14日、2015年度予算案が閣議決定された。この予算案には、生活保護費の削減も含まれている。2015年度、住宅扶助と冬季加算は、それぞれ30億円削減されることになった。

 特に住宅扶助削減は今年度の30億円削減にとどまらず、2015年7月から2017年度までの足かけ3年間で、190億円削減される方針となっている。現時点で最新の2013年度実績では、住宅扶助は5384億円(国費分)であった。190億円削減は、3.5%減にあたる。

 冬季加算の方は、2014年度実績推計値356億円(国費分)に対して、30億円の減額は8.5%減となる。なお生活保護費負担は、国75%・各自治体25%となっているので、いずれも4/3を掛ければ、各自治体の負担分も含めた総額が判明する。

開会直前。厳粛な面持ちの部会長・駒村康平氏
Photo by Y.M.

 この閣議決定および予算編成に先立ち、2014年12月27日、「平成27年度予算編成の基本方針」という文書が閣議決定されている。この文書内には、

「強い経済の実現による税収の増加等と、聖域なき徹底的な歳出削減を一層加速させる」(1ページ)
 「社会保障経費についても、いわゆる『自然増』も含め聖域なく見直し、効率化・適正化を図り」(2ページ)
 「生活困窮者に対する自立支援の強化と生活保護の適正化に取り組むなど、徹底した効率化・適正化を行うことで極力全体の水準を抑制する」(2〜3ページ)

 とある。公的扶助に関わる経費(日本では生活保護費)・公債費・公務員の人件費は、先進国の多くで義務的経費となっており、日本も同様だ。「聖域なき見直し」という名の政策判断によって増減させることの可能な裁量的経費ではない。

 2015年度予算は、

・一般会計総額 前年度比0.5%増の96.3兆円
・社会保障費総額 前年度比3.3%増の31.5兆円(増加分は主に医療・介護)
・防衛費 前年度比2.0%増の4.9兆円

 となっている。社会保障費の中には、裁量的経費も含まれている。防衛費はもともと裁量的経費である。一方で義務的経費である生活保護費は、

・生活保護費総額 前年度比較2.1%増の3.0兆円 

 である。生活保護費に関しては、2013年度予算で決定された生活扶助削減が2013年8月より開始されているにもかかわらず、2013年実績の2.8兆円以後、増加が続いている。それは、生活保護利用者の増加が続いているからだ。「背景にある貧困の拡大に対して、有効な政策が実行されていないから」というしかないであろう(生活保護関連の予算額は厚労省の「平成27年度歳出概算要求書」による)。筆者は、しばしば生活保護利用者にぶつけられる「義務は果たさず権利(裁量権)ばかり主張」という非難を、政府に対してぶつけたい気持ちになる。

 第二次安倍内閣は、発足以後一貫して景気対策・産業振興・国防を重視している。その必要性と重要性は、もちろん筆者も大いに認めるところだ。しかし、国防の拡大・あるいは戦争を前提とした軍備までが真に必要であると認めるとしても、国内に貧困が拡大しており、低所得層も含めて個人も社会も「心身ともに健康」とは言いがたい状態を解消しないままで、産業振興や国防・軍備は機能しうるのだろうか?

基準部会は
「冬季加算は引き下げが妥当」と認めたのか?

 いまさら感はあるが、冬季加算の意味を再確認しておきたい。

 生活保護基準は、憲法第25条に定められた「健康で文化的な最低限度の生活(最低生活)」を実現するはずの金額である。しかし冬季には、光熱費・雪や強風への対策・防寒衣料等が必要不可欠なため、生活が圧迫されて最低生活以下になる。それを最低生活まで引き上げるために、冬季加算がある。

 冬季加算に対しては、2015年度予算では30億円の引き下げが行われる。この根拠は、基準部会報告書の、

「2人以上の低所得世帯における冬季の光熱費増加支出額と冬季加算額を比較した場合、現行の冬季加算の地区区分では、I区を含む大部分の地区において、低所得世帯における光熱費増加支出額が冬季加算額を下回っていた」(報告書30ページ)

 に基づく、と考えられている。確かに、下記のグラフを見る限り、概ね、一般低所得世帯での冬季の寒冷による光熱費増加を冬季加算が上回っている。より高い所得階層との比較もあるが、この傾向は変わらない。

世帯人員による冬季の光熱費増加と冬季加算を比較したグラフ(第20回基準部会資料より)。2人世帯・6人以上の世帯を除き、現状の冬季加算は高すぎるかのように見えるけれども、どのような計算によっているのかに注意する必要がありそうだ。
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基準部会報告書45ページの表から作成した、2人以上世帯における所得階層別の冬季の月当たり光熱費増加を、同等の世帯構成に対する冬季加算額(第20回基準部会資料・12ページ)と比較したグラフ(筆者作成)。横軸は地域区分。直感的に「消費実態の方に、地域による差がなさすぎる」などの違和感を覚える。なお、地域区分については下記の地域区分の表を参照
現在の生活保護制度では、冬季の気候によって地域区分が行われている。しかし、たとえば北海道の中での冬季の寒冷の状況・積雪の状況の違いや、岩手県内での沿岸部と山間部での冬季の問題の違い(強風か、積雪か)は反映されていない

 数多くの生活保護世帯の暮らしぶりを実際に見ている筆者から見ると、この原因は極めて明らかだ。生活保護世帯の住居は概ね「安い・古い・不便」の全てを満たしている。建物自体の断熱性能も強度も、「快適」「安全」には程遠く、破損箇所があることも少なくない。このため、問題の少ない住居に暮らしている世帯に比べて、より多くの光熱費を必要とするのは当然であろう。

 生活保護世帯の住居の劣悪さは、基準部会報告書にも掲載されている。

民営賃貸住宅を利用している生活保護世帯の場合、世帯人員によらず、面積・設備とも国交省の「最低居住面積水準」の達成率は一般世帯に比べて劣ることが明確になった(基準部会報告書より)
災害時等に避難経路が確保されているといえる、幅4メートル以上の道路に接した住居に居住しているのは、生活保護世帯のうち38.0%。一般世帯では58.3%
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 さらに、「冬季とはいつからいつまでを指すのか?」という問題もある。現在の冬季加算は、11月〜翌年3月に支給されているが、寒冷により光熱費の増大する時期は地域によって異なる。また、「3月の暖房費は4月に請求され5月に支払われる」といった「カレンダー要因」の問題もある。これらの問題について、議論はされかけたが結論には至っていないまま、報告書は取りまとめられている。

生活保護世帯の13.8%は、腐朽・破損のある住居に住んでいる。パーセンテージでいえば一般世帯の11.3%と「大差ない」とも言えるが、民営賃貸住宅のみの統計であることに注意が必要。生活保護世帯で自家の保有を認められている場合、補修費用が十分でないため、さらに住宅の状況は劣悪となる場合が多い
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 なお、生活保護世帯の光熱費の高さが、生活保護世帯の住環境の劣悪さと関連している問題については、本連載第86回でレポートした第20回基準部会で、委員の園田眞理子氏(明治大学教授・建築学)より、

「(筆者注:生活保護世帯の最初の住宅の質は保障されているわけではなく、断熱性も低いことが多いため)初期値の状態が良い状態をキープされていないのを、月々のお金で辻褄を合わせる構造になっています。『そもそも』が良くないと、月々の追い銭、フローが大きくなります。そういう関係にあることを前提において、どうするか議論する必要があるのでは?」(筆者のメモによる)

 という指摘があった。

開会前、熱心に文書を読む部会長代理・岩田正美氏 Photo by Y.M.

 また1月9日の取りまとめの際、「生活保護世帯の光熱費は高すぎるということを基準部会が認めた」と取れなくもない文言を報告書に含めるにあたって、委員の岩田正美氏(日本女子大教授・社会福祉学)は、前回、2014年12月26日に開催された第21回基準部会において、

「実質的に冬季に暖房が使えなくならないような傍証が必要。(略)あとでとんでもないことが起こったら、私たちは責任を負うことができません。(略)現実的な消費量を取り上げていくことが大事。差額、そんなにないにしても。確証がほしいです」

 という懸念を述べた。これらの検討および発言は、基準部会報告書に、

「今回の検証結果を踏まえて冬季加算を見直すに当たっては、(略)留意事項を十分に踏まえつつ、生活保護受給世帯の健康に悪影響を及ぼすことのないようにする必要がある」(31ページ)

 として含まれている。留意事項には、冬季加算が万一引き下げられた場合に起こりうる問題が数多く列挙されている。

 筆者には、厚労省が「十分に踏まえた」結果として、冬季加算の引き下げを判断したとは、到底思えない。

劣悪さが明らかになった「生活保護の住」
それでも住宅扶助まで引き下げへ

 では、冒頭で述べたとおり、190億円の削減、3.5%減となる住宅扶助は、誰にどの程度適用されるのであろうか? 

毎日新聞の報道によれば、引き下げは主に都市部で行われる見通しである。

生活保護:住宅扶助190億円減額 17年度、厚労省
毎日新聞 2015年01月11日 21時53分(最終更新 01月12日 00時59分)
(略)
(引用注:厚労省は)08年の総務省の住宅・土地統計調査などを検証し、支給額以下でも借りられる物件が地域によって市場の十数%あるとして都市部を中心に上限額引き下げが可能と判断した。
 ただし、緩和措置として、家賃の契約更新まで新たな上限の適用は猶予する。家賃が上昇している東日本大震災の被災地域などでは相場との比較で上限額を引き上げることもあるとした。(略)

 もし、一部地域では引き上げもありうることを考慮し、東京都の単身者に対する現在の上限額5万3700円が4%引き下げられるとすれば、5万1500円となる。現在でも、上限額の範囲で最低居住面積水準を満たす賃貸住宅を探すことは困難だが、さらに困難になるであろう。単身者を対象とした公営住宅は非常に少ないため、現状では「公営住宅に入居する」も解決策となりえない。

 2014年8月、基準部会は全国の福祉事務所に勤務するケースワーカーの協力のもと、「生活保護の住」の実態を調査した。生活保護全世帯の約10%をカバーする大規模な調査であった。この調査により、「生活保護の住」の貧困は極めて明確になった。このことは、基準部会報告書にも、

「生活保護受給世帯の住宅水準は、一般世帯(生活保護受給世帯を含む)に比べると、低くなっている」(11ページ)

「(筆者注:生活保護世帯の)最低居住面積水準の達成率は、単身世帯で 46%、2人以上世帯で 67%となっており、一般世帯(生活保護受給世帯を含む)の最低居住面積水準が、単身世帯で 76%、2人以上世帯で 86%となっているのと比較すると、大きく下回っている」(11ページ)

 と記述され、さらに

「以上のことから、生活保護受給世帯において、より適切な住環境を確保するための方策を検討することが必要である」

 とある。公営住宅の少ない現状でただちに実施できることは、住宅扶助の引き上げであろう。しかし、厚労省は「引き下げ」という判断を下した。

生活保護とは別立ての
困窮者に対する住宅施策の可能性は?

第22回基準部会には、社会・援護局長・鈴木俊彦氏も出席していた Photo by Y.M.

 一連の動きは、

「国交省が定めた『最低居住面積水準』という基準は、厚労省によって事実上『生活保護世帯に対しては適用しなくてよい』とされ、それを財務省と内閣が認めた」

 というチグハグな形になっている。「官僚制度自体が内部から破綻?」と考えてもよいところかもしれない。

 しかし、基準部会は、国費、すなわち税金を財源として行われている審議会である。予算ベースで約700万円(委員手当231万円・委員旅費348万円・厚労省庁費113万円 2014年度概算要求による)、当初予定になかった作業班による作業・実態調査を含めても、実績1000万円前後であろう。この「チンケすぎる」と言いたくなる予算の範囲でベストを尽くしたと思われる委員たちの発言から、将来のポジティブな展開につながりそうな発言を3つ紹介して、一連の基準部会レポートの結びとしたい。

開会直前、会話する道中隆氏(左)と宮本みち子氏(右)。宮本氏からは、ビッグイシュー基金による若者の住の貧困に関する調査に関しての言及もあった Photo by Y.M.

「戦後、社会保障が何もない時期に発足した制度。もっとスリムにすべきでは。住宅は国交省、教育は文科省。そういう制度設計の見直しという方向性も、ぼちぼちあっていいのでは」(道中隆氏(関西国際大学教授・社会福祉学))

「『自分はここに住んでいていいんだ』という安心感は、すべての人に必要です。それが社会的に包摂するということです」(阿部彩氏〈国立社会保障・人口問題研究所〉)

「(生活保護は)制度疲労しています。抜本的見直しが必要だと思います。(略・日本の豊かさを)維持するために、最も貧困な人たちに手当をしなくちゃいけないけれども、足りていません。やるなら『今でしょ』。外国から見た時に、日本、見習うものが何もありません。住宅政策、建設省と厚生省、今は国交省と厚労省に分かれている。(略)国交省が庶民的。厚労省が逆。米国では住宅局が一括。統合的にどういう仕組がよいのか、考えざるをえない時期。(略)市場家賃、ビッグデータ駆使でかなりのことがわかります。(略)PDCAサイクルを回すことは世界の常識です。国だから遅れていていいわけではなく、最先端ができるはず。待ったなしだと思います」(園田眞理子氏)

 次回は、大阪市で構想されている「生活扶助費の一部をプリペイドカードで支給」というモデル事業をレポートしたい。具体的には、どのように実行されそうなのだろうか? メリットを上回るデメリットが隠れているのではないだろうか? 大阪市のみならず、日本全体にかかわる大問題となる可能性はないだろうか?

http://diamond.jp/articles/-/65175  

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コメント
 
01. 2015年1月16日 07:52:52 : jXbiWWJBCA

ますます難しくなった財政再建

改めて日本経済の課題を考える(3)

2015年1月16日(金)  小峰 隆夫

 2014年末の総選挙の結果を受けて、現政権は「これまでのアベノミクスをさらに進めることが国民的支持を得た」と考えるかもしれない。しかし、これから必要になるのは、「広義の出口戦略」だ。アベノミクスの「第1の矢・金融政策」「第2の矢・公共投資の増額」は、いずれも非常時における臨時的措置であり、これをいつまでも続けるわけにはいかない。そこで、いずれはこれを平常モードに戻す必要がある。非常時モードを円滑に平常モードに移行させる。これが私の言う広義の出口戦略である。

 広義の出口戦略には、財政の出口戦略と金融の出口戦略がある。前者は、要するに財政再建を軌道に乗せることだ。第2の矢・公共投資で大盤振る舞いをしてきたこともあって、財政は全く再建軌道からかけ離れてしまった。そのためには、単に公共投資を削るだけではなく、社会保障改革に取り組む必要がある。これはアベノミクスの政策体系になかった点であり、これから新たな取り組みが必要となる。

 金融政策の出口戦略は、異次元状態にある金融政策をいかにして平穏に平時モードに戻すかという問題だ。異次元緩和への道が長く、かつまだ続いているだけに、平時モードへの回帰の道も長く難しいものになりそうだ。それはまた財政再建問題とも関係してくることになる。

政府の財政再建目標達成はほぼ絶望的

 政府・与党は、財政再建についての目標を持っており、これを達成することを繰り返し表明している。政府は、2014年6月に決めた骨太方針(正確には「経済財政運営と改革の基本方針」)で「国・地方を合わせた基礎的財政収支について、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比を半減、2020年度までに黒字化、その後の債務残高対GDP比の安定的な引き下げを目指す」としている。今回の衆院選挙に際しての自民党の公約にも、そっくりそのままの表現が盛り込まれている。

 この財政再建目標のうち、第1の「15年度までに10年度に比べ半減」については、15年度予算の姿が明らかになった時に見当がつくが、これは何とか達成できそうである。

 次に注目されるのは、第2の「20年度までに黒字化」だが、これは達成できそうにない。私はほぼ絶望的ではないかと考えている。理由は次の通りだ。

 まず、政府自身がこの目標をどう捉えていたかを考えよう。内閣府は、2014年7月に「中長期の経済財政に関する試算」(以下、中長期試算)という資料を経済財政諮問会議に提出している。これは、一定の経済前提の下で、長期的な財政の姿を試算したものだ。

 その結果を見ると、アベノミクスの効果が着実に現れて、実質2%、名目3%程度の成長が実現し、かつ消費税が当初の予定通り2015年10月に10%まで引き上げられるとした「経済再生ケース」でも、2020年度の基礎的収支は11.0兆円(GDP比1.8%)の赤字となる。また、成長率が実質1%、名目2%程度にとどまる「参考ケース」では、2020年度の基礎的収支は16.2兆円(GDP比2.9%)の赤字となっている。

 要するに、政府の思惑通り経済が推移し、かつ予定通り消費税を上げても、2020年度の財政再建目標は達成できない。経済が思惑通り行かなければもっと達成できないということだ。

 その後情勢はどう変化したか。中長期試算の「経済再生ケース」では、2014年度の成長率を実質1.2%、名目2.8%、2015年度は実質1.4%、名目2.8%と想定していた。13日に公表された政府の経済見通しによると、14年度は実質マイナス0.5%、名目1.7%、15年度は実質1.5%、名目1.7%である。財政に影響するのは主に名目成長率だから、少なくとも足元の経済情勢は、中長期試算で想定していた姿ほどにはうまくいっていないことは明らかだ。

 これに加えて、消費税率の10%への引き上げは、2017年4月に先送りされた。財政をめぐる環境は、中長期試算の時よりも悪化しているわけだ。ということは、中長期試算で示した以上に、20年度黒字化という目標は達成困難ということになる。

 ここまででも20年度黒字化目標の厳しさは十分示されているはずだが、話はまだ終わらない。中長期試算そのものが楽観的な経済前提に基づいているという指摘があるからだ。

 例えば、中長期試算の「経済再生ケース」では「実質2%程度、名目3%程度となる」と説明されているのだが、具体的な試算では、実質成長率は2020年度2.3%、2023年度は2.4%、名目成長率も2020年度3.6%、2023年度3.7%となっている。「実質2%、名目3%」の割にはいずれも高めの成長を前提にしているのだ。成長率を高めにすれば、それだけ税収が増えるから財政再建には好都合である。

 ちなみに民間ではこうした点をどう見ているだろうか。民間の代表として、日本経済研究センターの「中期経済予測」(2014年12月)を紹介しよう。この予測によれば、2016〜20年の成長率は、実質1.1%、名目1.1%であり、その後の2021〜25年は実質1.0%、名目1.1%となっている。こうした前提の上で、消費税率は2017年4月に10%に引き上げられた後横ばいと仮定すると、2020年度の基礎的収支のGDP比率は2020年度以降もGDP比3%程度の赤字が続くことになる。

もっと大きな問題は2020年度以降

 さて、これまでの議論で「2020年度基礎的収支黒字目標」の実現がいかに厳しいかが分かっていただけたと思うが、まだ話は終わらない。2020年度以降はさらに厳しい財政の姿が待っているからだ。

 政府は、2015年夏をメドに新たな財政再建計画を取りまとめるとしている。その過程で、最も問題になるのは2020年度基礎的収支黒字目標の扱いであろう。しかし、あまりにもこの目標に焦点が当たると、あたかも2020年度に基礎的収支を黒字にすれば、財政再建が相当程度片付くかのように考えられてしまうと、それはそれで困ったことである。その理由は次の通りである。

 第1に、基礎的収支を黒字にすることは、財政再建の入り口に過ぎない。この点を考えるには、なぜ基礎的収支を黒字化することが必要なのかを考えればよい。

 財政の先行きを考える時、基本的に重要な指標は、債務残高の名目GDP比である。この比率が上昇していくと、債務の累積はいずれは限界に達し、財政は破綻するからだ。現在の日本は、債務残高のGDP比が上昇するコースに乗っている。したがって、まずはこの比率を横ばいにする必要がある。

 比率を横ばいにするためには何が必要か。詳しい説明は省略するが、仮に、名目成長率と長期金利の水準が等しいとすると、基礎的収支がゼロになった時、債務比率は横ばいとなる。これが基礎的収支を黒字化することが重要である理由だ。つまり、基礎的収支が赤字ではお話にならないのであり、これがゼロまたは黒字になって初めて、我々は財政再建の入り口に立ったことになる。その後、債務比率を引き下げていくことが求められるが、そのためには基礎的収支の黒字幅をさらに拡大していくことが必要となるわけだ。

 また、この議論は成長率と長期金利が等しいという前提なので、仮に、長期金利が成長率を上回るような状況になると、さらに基礎的収支の黒字を大幅に増やさないと、債務比率は低下しないことになる。

 なお、政府は、2015年夏の新たな財政再建計画に向けて、新指標を検討しているとも言われている。どんな新指標が出てくるのか見当もつかないが、ここで私が説明してきたことは、経済理論というよりは、動かしようのない定義的事実なのだから、どんな指標を使ったとしても、これまでの議論の枠を離れることはできないはずである。

 第2に、2025年くらいから社会保障費の負担がさらに厳しくなることが目に見えている。この頃から団塊の世代が後期高齢者となり、年金に加えて、医療・介護のための負担が増えるからである。

 社会保障については、回を改めて述べることにするが、日本では人口オーナス(人口に占める働く人の割合が低下する現象)が進行中であり、特に2025年頃から、働く人に対する後期高齢者の比率が一段と上昇する。日本の社会保障は賦課方式(現時点の働く人が負担して、現時点の高齢者向けの社会保障を支払う方式)を取っている。つまり、2025年頃から、人口オーナスと賦課方式の社会保障制度との矛盾が一段と強まるということである。

 この社会保障の負担は、基本的には保険料と政府の歳出(税金または国債)によって賄われている。こうして、現行制度の下では、社会保障の支払いが増えれば、自動的に政府の歳出が膨張し、財政赤字を増やすことになる。

 これに対応するには、税収を増やすか社会保障費を削減するしかない。これは誰でも分かることなのだが、今回の選挙戦でもそのような話はほとんど出なかったし、これからも当分は出る気配はない。

 そして第3に、金融政策の出口の問題がある。この点は後述する。

経済成長と財政再建

 先ほど、社会保障関係費の増加によって財政赤字が拡大していくのを防ぐには、増税するか、社会保障費を削減するしかないと述べた。これに対して、「経済が成長すればよいではないか」という議論がある。誰もが当然だと考えているようだが、私はこの議論に違和感を覚えている。それは次のような理由だ。

 経済が成長すれば、税収が増えるから、財政再建が進展することは事実だ。しかし、経済の成長はそれ自体が望ましいことなのであり、成長すれば、しないよりは確実にいいことがある。失業が減り、国民生活は充実し、企業は栄える。だから、「財政再建のために経済を成長させる」という発想はおかしい。成長力を生かして持続的な成長を最大限追求することは、それ自体が重要な政策目標だからだ。

 ただし、財政を再建するための措置によって、一時的に成長が損なわれることはあり得る。例えば、2014年度のように消費税を引き上げれば物価が上昇して、実質賃金が減少するから、消費支出は控えられ、成長は減速することになる。しかし、増税すれば成長に悪影響が現れることは当然のことであり、それが財政を再建するための負担というものである。

 この時、増税を止めれば、成長率は高まり、その分税収が増えるが、その税収の増加が増税をあきらめたことによる税収減を完全にカバーすることはあり得ない。例えば、2014年度に増税しなければ、成長率の鈍化は防げたかもしれないが、財政事情は現在よりも確実に悪化していたはずだ。要するに、財政の再建と若干の成長の減速はワンセットで考えるしかないのであり、逆に言えば、成長頼みで財政を再建することもできないのである。

 なお、この点に関連して、14年12月27日の経済財政諮問会議の際に、「PB(基礎的収支)を黒字に持っていくと同時に、債務の対GDP比の観点から見ていくべきであろう。また、PB赤字縮減のスピードを上げようとして成長率が減少しないように、適正なスピードを保つ必要がある」という安倍総理の発言があったとされる(甘利大臣の会議後の会見より)。

 これだけでは総理の意図は不明だが、「基礎的収支だけではなく、債務比率という観点も忘れるな」という趣旨だとすると、前述のように、基礎的収支にこだわるのは債務比率を見ているからであって、元々両者は一体として議論されているのだから、改めて確認するようなことではない。

 また、「基礎的収支の赤字を減らそうとして、成長率が低下したら何にもならない」という趣旨だとすると、基礎的収支の赤字削減によって、仮に成長率が低下したとしても、債務のGDP比率は間違いなく低下する(逆に、成長へのマイナスの影響を懸念して、赤字の削減を止めてしまうと、債務比率は確実に上昇する)のだから、やはり基礎的収支を重視せざるを得ないことになる。

金融政策の出口と財政

 日本の金融政策は異例の量的緩和を続けてきた結果、長期金利が極端に低水準を続け、日本銀行のバランスシートが極端に膨張するという異常な状態になっている。もちろんこれは、デフレから脱却するための措置なのだから、デフレ脱却のメドが立ってきたら、できるだけ早く正常化しなければならない。長く続けば続くほど、バブルになるリスクが高まるし、正常化するためのハードルが上がっていくからだ。

 常識的に考えれば、出口に向かう時には、これまで進んできた道の逆をたどることになるから、「出口の議論を始める」→「資産の買い入れ額を減らして、やがて停止する」→「単なるゼロ金利に戻る」→「プラス金利に誘導する」→「日銀が保有する資産を売却していって保有資産を縮小・正常化する」という順番をたどることになるだろう。

 出口については、黒田総裁は、これまで出口の議論について聞かれるたびに、「その議論をするのは時期尚早」と答えている。まだ議論していないということだ。政策決定会合でも議論していないということであろう。

 最初の「出口の議論を始める」段階が結構難しいかもしれない。金融政策の基本的な流れが変わることを示すわけだから、市場は大きく反応する可能性があるが、この点は正直やってみないと分からない。

 次に、実際に資産の買い入れ額を減らし始めた時までに財政再建が進み、国債の発行額が減っていれば話は違うが、これがあまり変わらないとすると、日銀の購入が減った分、市中で引き受ける分が増えるわけだから、国債金利(長期金利)は上昇するだろう。プラス金利の世界に入っていけばなおさらのことだ。

 なお、本当に金利が上がりそうになると、金融機関は早めに保有国債を処分しようとする。ある金融機関がそう考えるような時は、他の金融機関も同じように考えているはずだから、一斉に国債が売られ、経済情勢とは関係なく一気に国債金利が跳ね上がるというリスクもある。

 長期金利の上昇は、民間投資を抑制するし、国債の値下がりによって評価損が発生するので、大量に国債を保有している民間金融機関のバランスシートが悪化するといった問題を引き起こす。

「金利ボーナス」から「金利オーナス」へ

 財政との関係では、金利の上昇によって、政府の利払い費が増えることになる。これも深刻な問題である。「金利ボーナス」から「金利オーナス」への局面変化が起きるからだ。この点は、既に本連載で解説したことがあるので簡単に言うと次のようになる(「『金利オーナス』で財政はどうなる?」2013年11月13日)。これまでの日本の財政は、金利が低下を続けていたため、債務残高が増えても利払い費は増えなかった(むしろ減少した)。これが「金利ボーナス」である。ところが、逆に金利が上昇し始めると、財務残高を減らしていっても、利払い費は増加する可能性がある。これが「金利オーナス」である。

 2014年7月に公表された、内閣府「中長期の経済財政に関する試算」によると、消費者物価が2%となる2020年度の名目長期金利は3.9%となっており、2023年度には4.7%に上昇することになっている。すると、今度は、財政再建努力によって債務残高の増加を抑制していっても利払い費はかなりの期間増加し続けることになるだろう。

 さらに、日銀自身にも巨額の評価損が発生する。ここで、異次元緩和で行った「国債の残存期間の長期化」が効いてくる。日銀は2006年にもそれまでの量的緩和を停止し、出口への道を歩んだ経験がある。しかし、この時は、保有していた国債の残存期間が短かったので、順次償還され、国債の保有残高を急速に減少させることができた。

 しかし、今回は保有する国債の規模は大きく、残存期間も長いので、よほど順調に国債を売りさばいていかないと、日銀の損失が長期化することになる。仮に、日銀が債務超過に陥るようなことがあれば、何らかの救済措置が必要だが、今のところ日本ではその規定がない。常識的には財政で救うしかないので、これも歳出の増加要因となる。

 こうした困難を避けるため、あるいは日銀は国債を買い支え続けて、長期金利の低水準を維持することになるかもしれない。その場合、財政赤字を日銀がファイナンスするという「財政ファイナンス」状態であることが明らかになっていくので、それが通貨の信認を弱め、本格的に物価が上がり始める可能性がある。

 これは「金融抑圧」と呼ばれる状態だ。金融抑圧というのは、政府・中央銀行が市場の実勢より低い状態に金利を維持することにより、実質的に債務を圧縮することを指す言葉だ。物価が上がっても長期金利を低水準で維持していれば、既存の債務はどんどん目減りする一方で、新規国債の発行は低コストで済むから、財政再建は進むことになる。これは消費税の引き上げのように選挙で信を問う必要はないから、現実の財政再建はこの方法で進むことになるかもしれない(「金融抑圧」については、小黒一正氏の「『金融抑圧税』は現代日本で機能するか」2014年12月9日を参照)。

 ただし私に言わせれば、これによって家計の貯蓄は目減りするから、実質的には家計から貯蓄税を取って財政を再建するのと同じことだ。消費税をいつまでも拒否していると、貯蓄税を取られるというわけだ。これは同じ財政再建でも最悪の形での財政再建になるだろう。

独立財政機関の検討が必要

 今回の選挙では、日本にとって最重要の課題であるはずの財政再建や社会保障改革はほとんど議論にならなかった。これは、誰もが重要だと分かっていながらも、その議論を始めると、増税や社会保障給付の削減といった国民に負担を強いる議論をせざるを得なくなり、選挙に負けてしまうことを恐れるからだ。

 その結果、問題は先送りされ続け、ついには最悪の形で解決せざるを得ない状況に追い込まれていくことが心配である。政治家が心を入れ替えて、超党派で問題解決に当たり、国民を説得しながら財政再建を進められれば理想的である。

 しかしこれまでのところそんな動きはない。だとすると、財政政策の意思決定の仕組みそのものに手を入れる必要があるのかもしれない。この点については、欧米で政府・議会から独立して財政展望、政策評価などを行う「独立財政機関」を設ける動きがある。これについては、本連載で既に説明したことがあるので、詳しくは繰り返さない(「本格的な『独立財政委員会』の議論を」2013年11月27日)。

 要するに、政府が財政を展望すると、どうしても楽観的な見通しを前提としたものになりがちだし、政府自身が政策評価を行うと、自分の政策を合理化するような結論を出しがちだから、独立した第3者機関がこれを行うようにすればいいのではないかという提案である。

 日本でも、例えば、超党派で専門家からなる独立機関を設け、現実的な経済見通しの下で、2040年くらいまでの財政の姿を描き、常にこの見通しを念頭に置きながら政策論議を行うといった工夫をしてはどうかというのが私の考えだ。

(次回に続きます)

このコラムについて
小峰隆夫の日本経済に明日はあるのか

進まない財政再建と社会保障改革、急速に進む少子高齢化、見えない成長戦略…。日本経済が抱える問題点は明かになっているにもかかわらず、政治には危機感は感じられない。日本経済を40年以上観察し続けてきたエコノミストである著者が、日本経済に本気で警鐘を鳴らす。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20150109/276018/


02. 2015年1月16日 07:55:16 : jXbiWWJBCA

岸博幸のクリエイティブ国富論
【第285回】 2015年1月16日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
中途半端な2015年度予算と補正予算
 このおよそ一週間の間に、昨年末の衆院選により遅れていた今年度補正予算案と来年度予算案の双方が閣議決定されました。その内容を見ると、どちらも非常に中途半端という印象が強いのですが、それ以上に、それをちゃんと批判しないマスメディアこそ大丈夫かと言わざるを得ません。

財政再建の観点から見た予算
震災から3年、100兆円規模の異常

 予算を評価する場合、軸足を財政再建と景気刺激のどちらに置くかで評価はだいぶ違ってきます。

 まず財政再建の観点から来年度予算を見ると、もちろん税収が前年度比9%増の54.5兆円と91年度以来の高水準が見込まれ、また財政再建の中間目標(プライマリーバランス赤字の対GDP比を2010年度比で半減)も達成できるといった前向きな要素はあるのですが、やはり“過去最大”と報道されている予算の規模がどうしても気になります。

 ここで、安倍首相が初めて首相になった2006年度以降の一般会計の予算規模を羅列してみると、以下のとおりです(2013年度までは決算ベース、2014年度は当初予算+補正予算なので、2015年度の予算案の金額が最高とはなりません)。

2006年度   81.4兆円
2007年度   81.8兆円
2008年度   84.7兆円
2009年度 101.0兆円
2010年度  95.3兆円
2011年度 100.7兆円
2012年度 97.1兆円
2013年度 100.2兆円
2014年度  99.0兆円
2015年度  96.3兆円

 即ち、2008年度までは政府の一般会計予算の規模は80兆円台前半だったのが、2009年度以降は100兆円前後へと約2割も増えたままとなっているのです。

 もちろん、2009年度はリーマンショックへの対応、2011年度は東日本大震災への対応という特殊要因があったので、それらの年度は予算額が膨張して当然です。しかし、東日本大震災から3年が経過した後も100兆円規模のままというのは、予算の水膨れが何も修正されていないのです。

 ちなみに言えば、2006年度のGDPは509兆円でしたが、2013年度は483兆円と減少しています。当然、この間に人口も減少しています。経済の規模も人口も減少しているのに予算だけは2割も増加しているというのは、国の姿として異常と言わざるを得ません。

 政府は来年度予算の税収は9%増、新規国債発行額は10%減と自慢していますが、税収が増える分だけ新たな借金を減らしただけで、財政再建に不可欠な歳出削減にはまだ取り組んでいないのです。

 実際、2015年度予算案はそれまでの数年間の予算額より多少とはいえ規模が小さくなっていますが、主要経費別の予算額をみると、ほとんどの経費が対前年度比マイナスとなっている中で、毎年の財政赤字の最大の要因である社会保障関係費は逆に3%の増加となっています。これでは、財政再建の観点からは来年度予算はとても評価するに値しません。

景気刺激の観点から見た予算
2500億円という中途半端さ

 一方で、景気刺激の観点から見ると、また違った中途半端さが目立ちます。昨年4月の消費税増税により今年度はマイナス成長となってしまうので、早く景気回復軌道に戻すことを最優先という財政出動の観点から来年度予算案をみると、上記の数字の羅列からも明らかなように、中途半端に小さいと言わざるを得ません。

 補正予算をみるとその中途半端さが更に鮮明になります。補正予算は財政出動による景気刺激の常套手段ですが、2年前の安倍政権発足直後の補正予算(2013年2月)が10.2兆円、昨年の消費税増税対応の補正予算(2014年2月)が5.5兆円であったのと比較すると、今回の3.1兆円という補正予算の規模は小さ過ぎるのが明らかです。

 さらに言えば、昨年の消費税増税で消費が悪化したことが景気減速の要因と言われていますが、富裕層の消費は増税の影響を受けていないことを考えると、低所得者層の消費の悪化が一番の問題です。従って、地方自治体がプレミアム付き商品券などを発行できるようにする「消費喚起・生活支援型」交付金を措置したこと自体は評価できますが、その規模もスキームも中途半端過ぎます。

 第一に、予算規模が2500億円しかありません。1999年の地域振興券が6200億円、2009年の定額給付金が2兆円の予算規模であったのと比較すると、これらの措置は対象を低所得者層のみに絞ったものではないものの、それは明らかです。これらと同額くらいの予算規模を低所得者層に集中して給付するくらいの対応が必要だったのではないでしょうか。

 第二に、この交付金のスキームをみると、そもそも低所得者層の消費喚起にフォーカスなどしておらず、地方自治体が地元への観光客誘致など様々な目的に使えるようになっています。それじゃなくても少ない予算額の中で、(低所得者層のみならず全体としての)消費喚起と地方経済の活性化という複数の政策目標がごっちゃになってしまっているのです。これでは、消費悪化の最大の原因である低所得者層の消費の回復は望み得ないのではないでしょうか。

ポリシーウォッチのシンポジウムを開催します!

 以上のように、閣議決定された補正予算案と来年度予算案の双方とも、あらゆる意味で中途半端さばかりが目立ちます。安倍首相は来年度予算について「経済の再生と財政の健全化を同時に達成する予算」と記者団に語ったようですが、逆に“二兎を追うものは一兎も得ず”という中途半端な内容となってしまっているのです。

 その原因は、年末の総選挙で時間がなかったために、何でも足して二で割る官僚主導の予算編成になってしまったことではないでしょうか。2017年4月に消費税を10%に上げると公約したことを考えると、それまでに経済再生と財政再建の道筋の両方を確実なものとしなければいけないのに、安倍政権はスタートダッシュで早速つまずいてしまった感があります。

 それにしても、やはり疑問になるのは、なぜこうした当たり前の問題点が新聞などのマスメディアではちゃんと指摘されないのかということです。一方で、介護報酬の削減で現場にどういう影響が出るかという話題などは一生懸命報じ、逆に社会保障関係費の削減という財政再建に不可欠な課題の先送りを後押ししているように見えます。このように、記者クラブに所属する記者が担当の省庁から聞いた話だけを記事にしているようでは、正しい現状と本当に必要な課題が国民に伝わらず、逆にマスメディアが経済の再生を阻害しかねないと懸念してしまいます。

 最後に宣伝になりますが、そうした問題意識もあり、竹中平蔵先生がトップを務めるポリシーウォッチという政策監視組織が、2月3日(火)の19時から虎ノ門ヒルズで「第3次安倍内閣の経済運営と2015年の日本経済を占う」というシンポジウムを開催します。

 竹中先生に加え、冨山和彦(経営共創基盤)、ロバート・フェルドマン(モルガン・スタンレー)、野村修也(中央大学)、松原聡(東洋大学)といった、経済政策の分析ではもっとも信頼できるメンバーが参加し、国会議員などのゲストとともに議論しますので、ご関心ある方はぜひ参加いただければと思います。
http://www.academyhills.com/school/detail/policywatch150203.html
http://diamond.jp/articles/-/65176
 


03. 2015年1月16日 07:56:39 : WxeCBjW9Ms
「生活保護は切り捨てる?」・・・いや今までが異常に優遇しすぎたのでは?
住宅扶助だって、過疎地に行けば家賃は戸建ての古いもので1月〜4万円とかだし、過疎地などでは冬季など薪ストーブで燃料をやりくりするのが普通。
そもそも食えない人が何故都市部にいて何もせずにブラブラして便利な都市生活をしてるのか?
昔は食えない人は開拓民とか屯田兵とかで国内の辺境に近い不便な場所に行って、電気もガスも水道も何も無い所で、自分でなんとかエネルギーや水を確保して食料をつくり、そこで原野や森を開拓して生活していたのですよ。
年寄りだって今ならもっと便利な設備があるので、薪ストーブ位は使えます。井戸だって自動運転。雨水タンクだって良いものがたくさんある。昔と違いインターネットや電話やスマホなどで親族や知人といくらでも連絡を取れます。
地方が過疎になって荒れて行くのは、生活保護者を都市部に住まわせて便利でラクな生活をさせ、ブラブラさせる制度だったからでしょう。


04. 2015年1月16日 08:04:41 : jXbiWWJBCA


アベノミクスで税収は上振れ

それでも「過去最大の予算」では財政再建は無理

2015年1月16日(金)  磯山 友幸

 財務省が1月5日に発表した「11月末租税及び印紙収入、収入額調」によると、昨年4月から11月までの国の税収(一般会計分)は、25兆519億円と前年の同期間に比べて11.4%増えた。

 4月に消費税率を5%から8%に引き上げた効果ももちろんあるが、企業業績の好調による法人税収の伸びや、所得税収の伸びが目立った。2014年度の税収は予算では前の年度よりも6.5%多い50兆円を見込んでいるが、このままのペースが続けば数兆円規模で税収が上振れするのが確実な情勢だ。

 「税収は安倍政権になってから12兆円も増えた」

 麻生太郎副総理兼財務相はアベノミクスが税収増につながっていると繰り返し発言している。実際、税収面でみる限り、アベノミクスは効果を上げつつあるようにみえる。

 消費増税による税収増も、表面的には小さくない。税率を引き上げた後の8カ月間の消費税収は5兆9228億円。前年の同期間に比べて24%増えた。税率を引き上げた分(国税分4%→6.3%)がそっくり税収増になれば50%以上の増加になる計算だが、そこまでには達していない。増税によって買い控えなど消費減退が起きているためだ。

消費が落ち込んでも税収はアップ

 増税反対派の中からは、「税率を引き上げても、消費が落ち込めば、税収自体はマイナスになりかねない」という声もあったが、そうした事態は今のところ避けられている。ただ、2014年度予算では消費税収を15兆3390億円と見込んでおり、2013年度の決算額10兆8293億円と比較すると42%の増加に当たる。財務省としては達成確実な線を予算にしたということだろう。

 だが、現状の伸び率が、このまま年度末まで続いたとすると、消費税収は予算に届かない可能性もある。年末年始商戦での売れ具合や、住宅建設の回復度合いなどに左右されそうだ。仮に予算を下回れば、増税で景気を冷やしたという批判が一段と強くなる可能性が大きい。

 消費税分を差し引いて、それ以外の8カ月間の税収をみると、大幅に増加している。累計税収は19兆1291億円と前年の同期間に比べて7.9%増えた。

法人税収は21%の伸び

 中でも伸び率が大きいのは法人税収。前年に比べて21%も増えた。アベノミクスによる大胆な金融緩和によって円安が進み、自動車産業など輸出企業の採算が改善して、利益が大きく伸びたことが税収増につながっている。

 所得税も大幅に伸びている。8カ月間の所得税収は8兆9956億円で、6.9%増えた。大企業や公務員の賃金が増えたことが主因。さらに企業業績の好調に伴う配当の増加や、株式売買にかかる譲渡益課税の税率引き上げがフルに寄与していることも大きい。

 税収金額としては大きくないが、相続税の伸び率も大きい。累計で9035億円と25.7%増えた。1月以降は相続税の免税範囲が縮小されており、相続税収も予算(1兆5450億円)を上回る可能性がありそうだ。

たばこ、酒税は減収

 一方で落ち込みが激しいのが、たばこ税や酒税。健康志向による喫煙者の減少や、若者の酒離れの影響で、ジワジワと税収が減っている。予算ベースでもたばこ税は11.1%減、酒税は2.2%減を見込んでいるが、11月までの累計でもたばこは10.1%減、酒は2.6%減となっている。明治以来、酒税は税収の柱だったが、今年度予算では1兆3410億円と税収全体の2.7%に過ぎないところまで縮小している。

 法人税や所得税など、消費税以外の税収が現状の7.9%の伸びを続けたと仮定すると、消費税以外の税収は今年度38兆9773億円になる。これに消費税収が予算どおり15兆3390億円を確保したとすると、税収は54兆3163億円になる計算だ。現状では、エコノミストは2兆円程度の税収上振れを想定しているケースが多いが、このままのペースが続くようなら4兆円以上の税収増になる可能性もありそうだ。

 安倍晋三内閣は、1月14日に2015年度予算案を閣議決定したが、その税収予算は54.5兆円。24年ぶりの高水準を見込むが、これもあながち無理な数字でないことが分かる。これに伴って、国債の新規発行も40兆円を下回ることになりそう。

 国債の元本償還や利払いなどの費用を除いた一般経費が税収でどれぐらい賄えているかを示すプライマリーバランス(基礎的財政収支)は2015年度予算では13兆4000億円の赤字になる。政府は「基礎的財政収支の赤字を半減する目標の達成にメドがついた」と言うが、単年度で赤字を垂れ流していることに変わりはない。

 にもかかわらず、2015年度の一般会計の予算総額は96兆3420億円と、当初予算としては過去最大になった。昨年秋の概算要求では初めて100兆円を突破していたが、さすがにそれは抑え込んだ。もっとも、ここ数年は補正予算で年度途中に予算が積み増されるのが一般的になっている。2013年度決算の歳出は100兆1888億円で、2015年度も100兆円を突破することになりそう。いくら税収が増えても、歳出が増え続ければプライマリーバランスの黒字化は難しい。

社会保障費削減だけでは足りない

 安倍首相が言うように、デフレ脱却によって景気を好転させれば税収が増え、結果的に財政状態が改善する、というのは正しいだろう。ここ2年間の税収の伸びを見ている限り、アベノミクスの成果が税収増をもたらしているのは間違いない。だが消費税収が税率引き上げほどに伸びていないことを考えると、財務省が主張するように、とにかく税率を引き上げることが優先事項、とはいえないことも徐々に明らかになっている。

 ただ、そうした景気回復によって税収増を実現しても、支出で大盤振る舞いをしていては何もならない。いい加減に歳出拡大を止めることを真剣に考えないと財政再建はできない。最大の課題として指摘される社会保障費の伸びの抑制も不可欠だが、それ以外の歳出も抜本的に見直すことが不可欠だろう。

このコラムについて
磯山友幸の「政策ウラ読み」

重要な政策を担う政治家や政策人に登場いただき、政策の焦点やポイントに切り込みます。政局にばかり目が行きがちな政治ニュース、日々の動きに振り回されがちな経済ニュースの真ん中で抜け落ちている「政治経済」の本質に迫ります。(隔週掲載)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150115/276248/?ST=print



05. 2015年1月16日 19:07:46 : C3lq0gpU9A

  外国人は外せ! それが先だ。


06. 2015年1月17日 16:40:18 : LeN221pt5A
>>03
アホ。過疎地なんぞで仕事はどう見つけるのだ。
家だけあっても暮らせないぞ。
それと交通機関は無いから自動車は必須。免許も取らないといけないな。
車はあってもガソリンスタンドは遠く町まで行かないとだめ。
食料品を買いに行くのも遠くまで。

>昔は食えない人は開拓民とか屯田兵とかで国内の辺境に近い不便な場所に行って、
>電気もガスも水道も何も無い所で、自分でなんとかエネルギーや水を確保して食
>料をつくり、そこで原野や森を開拓して生活していたのですよ。

昔話など止めろアホ。
昔なら都会だって「電気もガスも水道」はなかったぞ。

原野を開拓?
いまどき残ってる原野など劣等地で作物など実らんよ。
土壌改良で金かけないと無理。
だいたい農業が主産業の時代じゃなかろう。

>昔と違いインターネットや電話やスマホなどで親族や知人といくらでも連絡を取れます。

過疎地にインターネットなどほとんど無い。
携帯だってつながらないところ多いぞ。


まずは自分が過疎地に住んでみてからものを言え。


7. 2015年6月28日 14:43:31 : EUkdfVzCyM

福村武雄、あすか法律事務所 048-825-8312
Takeo Fukumura
2012年6月11日 12:51 ·
私は、現在の生活保護制度に全面賛成の立場ではなく、一部見直しが必要だと考えているし、犯罪的な保護費詐取を取り締まる機関が必要だとも考えているが、保護制度自体を「税金の無駄」だとか「全面廃止にして働かないものは死んでもいい」、などと(特にネット上で)言っている人達は、食えなくなった人間によって行われる、昨日大阪で起こった無差別殺人や強盗などの犯罪の急増により、自分や最愛の家族が巻き込まれる可能性が飛躍的に増大してしまうことを想像したことがあるのだろうか。
現時点でも、刑事の法廷で、そこまで墜ちるくらいならその前に生活保護受けろよ、と思う犯罪者は多数おり、生活保護制度が貧困層のセーフティネットとなっているだけではなく、社会全体の治安維持におけるセーフティネットとなっている事実は否定できない。
これはいささか乱暴な意見だが、生活保護費はほぼ国内で消費されるため、経済の活性化や消費税の納税総額に貢献している一面もあり、国が行っている無駄なばらまきはもっと他にあるのではないだろうか。
まあ、どんなに社会保障を充実させても狂った犯罪を撲滅することは不可能なのだが。

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