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ロシアの経済危機はウクライナ問題がなくとも予想されていた
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4626
2015年01月13日(Tue) 廣瀬陽子 (慶應義塾大学総合政策学部准教授) WEDGE Infinity
昨年末からロシアの経済状況がかなり深刻になっていることが日々伝えられている。ロシアは昨年のウクライナ危機深刻化まではG8メンバーであり、BRICSを牽引し、主に欧州のエネルギー輸入元となっているなど、世界での経済ポジションの大きさは小さくなく、ロシアの経済状況は、ロシアのみならず国際的にも影響を及ぼしつつある。
ロシアは2000年頃から、石油価格の上昇を受け、ソ連解体後の経済の停滞から脱し、経済大国としての評価を確立した。だが、2010年頃から資源の輸出は2009年以前のように強力な経済成長の源とならなくなっており、2013年頃からは経済成長率の予測もかなり低いものとなっていた。そしてそれを一番認識していたのはロシアかもしれない。表1のように、2013年の各種経済成長率の予測を比較すると、ロシア発のもの(ロシア連邦経済開発省(MED)によるもの)が一番低く、実際、MEDは2013年11月に予測を下方修正していた。つまり、2013年の時点で、経済成長率の鈍化が顕著になっていたことはロシア当局も明白だったと考えられる。
■2014年に相次いだ「誤算」
加えて、2014年には、想定外の出来事が相次いだ。まずはウクライナ危機である。ロシアのクリミア編入やウクライナ東部への介入により、欧米諸国は対露制裁を段階的に強め、またロシアもそれらに対し報復措置をとった。ロシア当局は当初、制裁の影響は軽微で、国内経済へのテコ入れと欧米以外の諸国との経済関係強化により経済的難局を乗り越えられるとしていた。具体的には中央での計画立案の強化およびビジネスへの介入、輸入を減らすための国内の農業や漁業を強化などにより国内経済の強化のみならず、食料自給率向上も達成できるとしていたのだ。
また、これまで欧州諸国から輸入していた農産物、畜産物、魚介類については、自給率を高める一方、BRICS諸国、南米諸国、トルコ、インドなどからの輸入で代替するとしており、この動きについても「ロシアの経済の多角化」「米国主導の経済システムを打ち壊す一プロセス」として、やはりポジティブなものだと強調していた。だが、それらの発言は単に虚勢を張っていたとしか見えない状況が展開されていく。
次にロシアを苦しめることになったのは原油価格の激しい下落である。そして、原油価格が低下するにつれ、ロシアの通貨・ルーブルの下落も激しくなっていった。2014年12月に入り、ロシアも経済状況の深刻さを認めざるを得ない状況になり、2日には、ロシア経済発展相が2015年の国民総生産の成長率を、従来のプラス1.2%という見通しから、マイナス0.8%成長と大きく下方修正した(さらに、ロシア財務相は2015年の経済成長率をマイナス4%になる可能性がある見通しを示した)。
ルーブル安で窮状を訴える外貨建てローンの債務者たち
(写真:AP/アフロ)
ルーブルが日に日に最安値を記録する中、ロシア経済の悪化は誰の目にも明らかになっていった。当局は「ルーブル下落は米国がロシアに仕掛けているハイブリッド戦争である金融戦争の結果」などという見解をも発表しているが、景気後退は明らかにロシアの経済の実情に起因している。
■ウォッカの値上げは認めない
そして12月4日にはプーチン大統領の恒例の年次教書が発表された。2014年の年次教書では、原油価格の危機を反映してか、毎回必ず言及される石油や天然ガス部門に関する言及がほとんどなく、クリミア編入の正当性と歴史的成果を高らかと掲げ、ウクライナ経済を支援し続けることの重要性を強調した。
また、欧米による制裁を批判し、仮にウクライナ危機がなくとも、欧米は何らかの制裁をしてきたはずだとさえ主張し、欧米が意図的にロシアの発展を妨害していることを示唆した。そして、国外に逃避した資本がロシアに戻るならば、あらゆる意味でその詮索をしないことも約束し、ロシアに資本を戻すことも呼びかけた。加えて極東・太平洋沿岸地域の活性化と北極圏開発に更に力を入れていくことも約束し、欧米の制裁にも負けず、広く発展するロシアの将来を描いて見せた。
それでもルーブル安が止まらず、プーチン大統領は「ルーブルへの投機的な攻撃」を取り締まることを約束し、メドヴェージェフ首相は国民に対してパニック回避を呼び掛け、両替や投機的行為などに走らないよう呼びかけたが、ルーブルの下落は止まらなかった。12月半ばには、一時、1ドル=80ルーブルを超える歴史的安値を記録するなど、ルーブル建ての資産価値は50%程度減少してしまった。そこでロシア住民は預貯金が紙切れを化すことを恐れ、ルーブルの投げ売りや不動産、車、電化製品などの購入に走った。両替屋からユーロやドルが消え、モスクワ近郊の不動産や車、iPhoneやiPadなど人気の電化製品は品切れ状態となった。
他方、ルーブル下落と高級品の品薄化により、ロシアでの値上げも顕著になった一方、北欧の家具店IKEAが店を閉めるなど、外国企業はルーブルでの取引を避けるようになった。ルーブル安でロシア人が海外旅行に行けなくなった一方、中国など主にアジアからのロシアへの観光客が激増するなど皮肉な状況も起きている。
ただ、高級品の値上げがどんどん進む中、プーチン大統領はウォッカの値上げは認めない方針を貫いている。ロシア人にとっての「大切な息抜き」の機会まで奪えば、国民が怒りで爆発すると危惧しているに違いない。その背景には、ソ連の最後の指導者であったミハイル・ゴルバチョフが改革の手始めにアルコール撲滅キャンペーンを行なったが、国民の大きな怒りを買っただけで失敗に終わったことを教訓にしているのかもしれない。
そして、ロシア国民は本当に生活が脅かされたらデモに参加すると言っている者も少ない中、忍耐を続けている。
■批判される中銀と解決策を欠くプーチン
このようにロシア経済が混乱する中、ロシア中央銀行(中銀)と政府も対策に躍起となっている。
だが、中銀の11月の決定は、ルーブルを更に急落させた。変動相場制に移行させたのである。それまで、中銀はルーブルのレートが安定するまでルーブル買いの介入を行っていたが、変動相場制に移行させたことにより、もはや本格的な通貨介入、すなわちロシア市場におけるドル売り介入を実施しないこととなったのだ。それによりルーブルに対する投機が防止できると中銀は説明したものの、ルーブルは急落した。
そして中銀は、12月12日に政策金利を9.5%から10.5%に引き上げたが、15日のルーブル相場は、その前の週に決定された利上げ幅への失望感などにより急落した。それを受け、ロシア中央銀行は16日未明に政策金利を10・5%から17%に大幅に引き上げると発表した。ルーブル安に歯止めをかけて投資家の動揺を抑えようとしたのである。この17%というのは、ロシアがデフォルト(債務不履行)に陥った1998年以来で最も大幅な利上げである。前の金利引き上げからわずか4日後の大幅利上げ、しかも真夜中の決定というのは、ルーブル防衛のための強い意思が感じられる。
また政府は有価証券を担保にした外貨供給も増やし、12月中旬以降だけで50億ドル(約6000億円)以上の市場介入も実施した。
このような中で、プーチン大統領は、12月18日に年末恒例の大規模な記者会見を行ない、通貨暴落は外的要因によることを強調し、問題の25〜30%が制裁の影響であるとした。具体案はなかったものの、資源依存が高い経済構造から脱し、経済を多角化した上で、この状況を早期に脱するとして国民の不安の打ち消しに努めた。一方で、中銀の措置は概ね正しいとしながらも、対応が遅れたという認識もにじませ、またロシア経済が上昇に転じるまでに最悪で2年ほどかかるとし、経済危機の長期化の可能性も示唆した。
そして中銀は24日には、国内企業にユーロ建ての低金利融資を実施すると発表し、対外債務の返済を支援し始めた。ロシアの政府系・民間の企業には併せて6000億ドル(約72兆2000億円)の海外債務があり、そのうち1000億ドルが2015年に返済期限を迎えるからである。
さらに26日には経営難にある中堅トラスト銀行への資金繰り支援策も発表することも発表した。トラスト銀行に最大1270億ルーブル(約2830億円。うち、990億ルーブルはトラスト銀行の資金繰りを10年間支えるため、280億ルーブルは同行を引き継ぐ受け皿会社に融資。なお、中銀は22日に同行を管理下に置き、最大300億ルーブルの支援をすると表明していた)の緊急融資を実施し、2020年末までに別の中堅銀行オトクリチエに吸収合併させることを決めた。さらにオトクリチエに最大280億ルーブルの資金を支援するという。
そして政府も資金調達が困難である大手の企業や銀行に、国家基金からインフラ投資用の資金を供給することを決定した。たとえば国営石油ロスネフチは2015年上四半期に2000億ルーブルを受け取るという。加えて、12月30日には、メドヴェージェフ首相が国内第2位の銀行であるVTB銀行に対して1000億ルーブル(約2000億円)の資本注入を命じ、31日にはロシア第三位の銀行ガスプロムバンクにも399億5000万ルーブル(約810億円)の資本注入を行なった。
このように政府と中銀は矢継ぎ早に危機対策を講じてきた。これらなりふり構わぬ必死の防衛策により、ルーブル相場は一時もち直したものの、その安定を維持できるかは予断を許さない状況だ。結局、2014年にルーブルは対ドルで約40%下落した形となる。
このような中で、国民の批判は中銀に向けられている。公式な議論の多くが中央銀行の女性総裁であるナビウリナ氏の責任を問うものであり、彼女への退陣要求も強まっている。他方、クドリン元財務相などは、政府の経済政策への信頼欠如がルーブルと株式市場の急落に大きな影響をもたらしているとしている。
そして、外国筋は、ロシア経済をプーチンとその取り巻きによって形成される「お仲間資本主義」と揶揄しており、ロシア経済と心中することを避けようとするのは当然の判断だろう。
■旧ソ連地域も、ロシアと心中する気はなし
ロシアの経済危機の影響は国内にとどまらない。ロシアと関係の深い旧ソ連地域の経済、そして旧ソ連圏の連帯にも大きな影響を与えている。
プーチンは2012年の大統領再就任前に、アジアと欧州の橋渡しとなる、旧ソ連諸国を中心とした「ユーラシア連合」の創設する意欲を示し、その前段階として関税同盟や経済同盟を創設して、それを基盤に発展させていくとしていた。そして、2015年1月には、その計画の重要な位置を占める「ユーラシア経済同盟」をカザフスタンやベラルーシ、アルメニアと発足させ、5月にはキルギスも加わって、経済統合を深化させていく予定となっていた。
だが、2014年末から既にその先行きが危ぶまれる動きが周辺国に見られていた。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は12月18日に最大の友好国であり貿易相手国(ベラルーシの輸出の45%は対露輸出が占める)であるロシアとの取引を従来のルーブルではなくドルかユーロに変更するよう求めた。ルーブル暴落が自国経済に悪影響を与えることを防ごうとしての動きではあるが、ロシアにとって一番の子分ともいえるベラルーシの独善的な動きはユーラシア経済同盟にも大きな悪影響となろう。
また、ウクライナ危機による対露制裁は、ロシアと関税同盟を組んでいるベラルーシ、カザフスタンにも影響を与えることとなった。ロシアが報復措置で欧米からの輸入を大きく制限する中、ベラルーシ、カザフスタン経由でそれら被制限品がロシアに入ってくるケースが増えたのに鑑み、ロシアが両国からの輸入を一部制限する措置をとったことは、両国、特にベラルーシの大きな反発を招いている。さらにベラルーシ、カザフスタン両大統領は、12月末からウクライナの和平に向け、勝手な独自外交まで始める始末だ。両国共に、ロシアと心中する用意はなさそうだ。
ベラルーシでは12月27日に首相や経済関係の閣僚、中銀総裁らが解任されており、経済の悪化を阻止できなかったことを引責させたとも考えられている。
そして、ルーブル下落の混乱は旧ソ連諸国の為替レート下落や通貨切り下げにもつながった。
ベラルーシのベラルーシ・ルーブルやカザフスタンの通貨・テンゲ、アルメニアの通貨・ドラム、モルドヴァの通貨・レウは10〜20%の下落を見せたという。カザフスタンでも12月半ばからルーブルが崩壊する前に車など価値の高いものを購入する動きが活発化した。
2015年にはいり、トルクメニスタン中銀は1月1日以降、通貨マナトを対ドルで19%低い1ドル=3.5マナトに切り下げ、ベラルーシ中銀は1月5日にベラルーシ・ルーブルの対ドル公式レートを約7%引き下げると発表すると共に、外貨購入の際の税率を10%へ再度(昨年12月に、外貨購入時に30%の税を課す制度を導入していたが、その後20%に引き下げていた)引き下げたと発表した。
またロシアでは、南コーカサスや中央アジアの諸国やモルドヴァからのかなり大勢の出稼ぎ労働者が働いているのだが、11月頃から外貨建てでの給料が激しく目減りし、そのことも近隣諸国の一般市民に大きな影響を与えている。
■1月1日には経済同盟が始動
このように、ルーブル暴落の煽りを受け、親露的な旧ソ連諸国間の連帯にもすきま風がふくなか、発足が危ぶまれていたロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニアによる「ユーラシア経済同盟」が2015年1月1日に予定通り発足した(キルギスも5月1日に正式加盟の予定だが、キルギス政府が加盟延期を決定したという報道も少数ながらあり、不透明)。プーチンは同同盟を欧州連合(EU)に対抗しうる経済ブロックにまで成長させ、将来的には政治統合も視野にいれていると主張してきたが、ロシア経済の停滞で明るい展望を描けなくなってきている。同同盟は、発足には十分な準備がまだ出来ておらず、見切り発車となったが、それでもプーチンの威信をかけて予定通りの発足をともかく強行したと考えられる。
同同盟は、ロシア、カザフスタン、ベラルーシから成る「関税同盟」を基盤に、関税の免除のみならず、ヒト、モノ、サービス、資本の自由な移動を段階的に進め、その後、金融、通貨、エネルギーなどより広い領域での共通政策を実施していく予定となっている。そして、域外からの輸入に×関税を一定比率で加盟国に配分するが、その比率はロシア約87%、カザフスタン約7%、ベラルーシ約5%、アルメニア約1%となっており、経済規模が大きいロシアが加盟国に貿易収入の一部を分け与える形だ。だが、上述の通り、ロシア経済は火の車であり、この仕組みがロシアを更に苦しめることにもなりそうだ。
他方、ベラルーシ、カザフスタン両首脳は同同盟の発足への不満、警戒心を隠さない。ルカシェンコ大統領は12月に「自由なモノの移動はまだ実現していない」として、関税同盟がいまだ不十分であることと経済同盟が見切り発車であることに不満を表明した。また、カザフスタンのナザルバエフ大統領は「経済同盟は国家の主権を損なわない」と幾度となく主張し、ロシアに政治的に飲み込まれることを警戒している。
■高支持率でも2015年は試練の年
このようにロシア経済は混迷しているが、プーチン大統領は威信をかけてクリミアへの支援や極東や北極圏の開発からは手を引かず、またユーラシア経済同盟も発足させてしまった。石油価格や為替の回復は当面望めず、また制裁も続いている中ではロシアの経済は当面、大変厳しいものとなることは間違いない。上述の通り、プーチンは厳しい状況は2年続く可能性があるとしているものの、ロシアが2年「もつのか」という皮肉めいた議論すらでている。
ただ、現在のプーチンにとっての唯一の支えは、国民の支持率が現在も高いことである。
だが、今後、もっと経済状況が厳しくなり、国民の生活が逼迫するようになると、市民はまた抗議デモに繰り出すだろう。そのときに、ウクライナの二の舞にならない可能性は否めない。
今後のプーチンの経済の舵取りが、そのままプーチンの政治人生の命運を決めて行くことになるだろう。
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