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ロシアの経済危機は ウクライナ問題がなくとも予想されていた(WEDGE Infinity)
http://www.asyura2.com/14/hasan92/msg/902.html
投稿者 赤かぶ 日時 2015 年 1 月 15 日 16:42:15: igsppGRN/E9PQ
 

ロシアの経済危機はウクライナ問題がなくとも予想されていた
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/4626
2015年01月13日(Tue)  廣瀬陽子 (慶應義塾大学総合政策学部准教授) WEDGE Infinity


 昨年末からロシアの経済状況がかなり深刻になっていることが日々伝えられている。ロシアは昨年のウクライナ危機深刻化まではG8メンバーであり、BRICSを牽引し、主に欧州のエネルギー輸入元となっているなど、世界での経済ポジションの大きさは小さくなく、ロシアの経済状況は、ロシアのみならず国際的にも影響を及ぼしつつある。



 ロシアは2000年頃から、石油価格の上昇を受け、ソ連解体後の経済の停滞から脱し、経済大国としての評価を確立した。だが、2010年頃から資源の輸出は2009年以前のように強力な経済成長の源とならなくなっており、2013年頃からは経済成長率の予測もかなり低いものとなっていた。そしてそれを一番認識していたのはロシアかもしれない。表1のように、2013年の各種経済成長率の予測を比較すると、ロシア発のもの(ロシア連邦経済開発省(MED)によるもの)が一番低く、実際、MEDは2013年11月に予測を下方修正していた。つまり、2013年の時点で、経済成長率の鈍化が顕著になっていたことはロシア当局も明白だったと考えられる。


■2014年に相次いだ「誤算」


 加えて、2014年には、想定外の出来事が相次いだ。まずはウクライナ危機である。ロシアのクリミア編入やウクライナ東部への介入により、欧米諸国は対露制裁を段階的に強め、またロシアもそれらに対し報復措置をとった。ロシア当局は当初、制裁の影響は軽微で、国内経済へのテコ入れと欧米以外の諸国との経済関係強化により経済的難局を乗り越えられるとしていた。具体的には中央での計画立案の強化およびビジネスへの介入、輸入を減らすための国内の農業や漁業を強化などにより国内経済の強化のみならず、食料自給率向上も達成できるとしていたのだ。


 また、これまで欧州諸国から輸入していた農産物、畜産物、魚介類については、自給率を高める一方、BRICS諸国、南米諸国、トルコ、インドなどからの輸入で代替するとしており、この動きについても「ロシアの経済の多角化」「米国主導の経済システムを打ち壊す一プロセス」として、やはりポジティブなものだと強調していた。だが、それらの発言は単に虚勢を張っていたとしか見えない状況が展開されていく。


 次にロシアを苦しめることになったのは原油価格の激しい下落である。そして、原油価格が低下するにつれ、ロシアの通貨・ルーブルの下落も激しくなっていった。2014年12月に入り、ロシアも経済状況の深刻さを認めざるを得ない状況になり、2日には、ロシア経済発展相が2015年の国民総生産の成長率を、従来のプラス1.2%という見通しから、マイナス0.8%成長と大きく下方修正した(さらに、ロシア財務相は2015年の経済成長率をマイナス4%になる可能性がある見通しを示した)。



ルーブル安で窮状を訴える外貨建てローンの債務者たち
(写真:AP/アフロ)


 ルーブルが日に日に最安値を記録する中、ロシア経済の悪化は誰の目にも明らかになっていった。当局は「ルーブル下落は米国がロシアに仕掛けているハイブリッド戦争である金融戦争の結果」などという見解をも発表しているが、景気後退は明らかにロシアの経済の実情に起因している。


■ウォッカの値上げは認めない


 そして12月4日にはプーチン大統領の恒例の年次教書が発表された。2014年の年次教書では、原油価格の危機を反映してか、毎回必ず言及される石油や天然ガス部門に関する言及がほとんどなく、クリミア編入の正当性と歴史的成果を高らかと掲げ、ウクライナ経済を支援し続けることの重要性を強調した。


 また、欧米による制裁を批判し、仮にウクライナ危機がなくとも、欧米は何らかの制裁をしてきたはずだとさえ主張し、欧米が意図的にロシアの発展を妨害していることを示唆した。そして、国外に逃避した資本がロシアに戻るならば、あらゆる意味でその詮索をしないことも約束し、ロシアに資本を戻すことも呼びかけた。加えて極東・太平洋沿岸地域の活性化と北極圏開発に更に力を入れていくことも約束し、欧米の制裁にも負けず、広く発展するロシアの将来を描いて見せた。


 それでもルーブル安が止まらず、プーチン大統領は「ルーブルへの投機的な攻撃」を取り締まることを約束し、メドヴェージェフ首相は国民に対してパニック回避を呼び掛け、両替や投機的行為などに走らないよう呼びかけたが、ルーブルの下落は止まらなかった。12月半ばには、一時、1ドル=80ルーブルを超える歴史的安値を記録するなど、ルーブル建ての資産価値は50%程度減少してしまった。そこでロシア住民は預貯金が紙切れを化すことを恐れ、ルーブルの投げ売りや不動産、車、電化製品などの購入に走った。両替屋からユーロやドルが消え、モスクワ近郊の不動産や車、iPhoneやiPadなど人気の電化製品は品切れ状態となった。


 他方、ルーブル下落と高級品の品薄化により、ロシアでの値上げも顕著になった一方、北欧の家具店IKEAが店を閉めるなど、外国企業はルーブルでの取引を避けるようになった。ルーブル安でロシア人が海外旅行に行けなくなった一方、中国など主にアジアからのロシアへの観光客が激増するなど皮肉な状況も起きている。


 ただ、高級品の値上げがどんどん進む中、プーチン大統領はウォッカの値上げは認めない方針を貫いている。ロシア人にとっての「大切な息抜き」の機会まで奪えば、国民が怒りで爆発すると危惧しているに違いない。その背景には、ソ連の最後の指導者であったミハイル・ゴルバチョフが改革の手始めにアルコール撲滅キャンペーンを行なったが、国民の大きな怒りを買っただけで失敗に終わったことを教訓にしているのかもしれない。


 そして、ロシア国民は本当に生活が脅かされたらデモに参加すると言っている者も少ない中、忍耐を続けている。


■批判される中銀と解決策を欠くプーチン


 このようにロシア経済が混乱する中、ロシア中央銀行(中銀)と政府も対策に躍起となっている。


 だが、中銀の11月の決定は、ルーブルを更に急落させた。変動相場制に移行させたのである。それまで、中銀はルーブルのレートが安定するまでルーブル買いの介入を行っていたが、変動相場制に移行させたことにより、もはや本格的な通貨介入、すなわちロシア市場におけるドル売り介入を実施しないこととなったのだ。それによりルーブルに対する投機が防止できると中銀は説明したものの、ルーブルは急落した。


 そして中銀は、12月12日に政策金利を9.5%から10.5%に引き上げたが、15日のルーブル相場は、その前の週に決定された利上げ幅への失望感などにより急落した。それを受け、ロシア中央銀行は16日未明に政策金利を10・5%から17%に大幅に引き上げると発表した。ルーブル安に歯止めをかけて投資家の動揺を抑えようとしたのである。この17%というのは、ロシアがデフォルト(債務不履行)に陥った1998年以来で最も大幅な利上げである。前の金利引き上げからわずか4日後の大幅利上げ、しかも真夜中の決定というのは、ルーブル防衛のための強い意思が感じられる。


 また政府は有価証券を担保にした外貨供給も増やし、12月中旬以降だけで50億ドル(約6000億円)以上の市場介入も実施した。


 このような中で、プーチン大統領は、12月18日に年末恒例の大規模な記者会見を行ない、通貨暴落は外的要因によることを強調し、問題の25〜30%が制裁の影響であるとした。具体案はなかったものの、資源依存が高い経済構造から脱し、経済を多角化した上で、この状況を早期に脱するとして国民の不安の打ち消しに努めた。一方で、中銀の措置は概ね正しいとしながらも、対応が遅れたという認識もにじませ、またロシア経済が上昇に転じるまでに最悪で2年ほどかかるとし、経済危機の長期化の可能性も示唆した。


 そして中銀は24日には、国内企業にユーロ建ての低金利融資を実施すると発表し、対外債務の返済を支援し始めた。ロシアの政府系・民間の企業には併せて6000億ドル(約72兆2000億円)の海外債務があり、そのうち1000億ドルが2015年に返済期限を迎えるからである。


 さらに26日には経営難にある中堅トラスト銀行への資金繰り支援策も発表することも発表した。トラスト銀行に最大1270億ルーブル(約2830億円。うち、990億ルーブルはトラスト銀行の資金繰りを10年間支えるため、280億ルーブルは同行を引き継ぐ受け皿会社に融資。なお、中銀は22日に同行を管理下に置き、最大300億ルーブルの支援をすると表明していた)の緊急融資を実施し、2020年末までに別の中堅銀行オトクリチエに吸収合併させることを決めた。さらにオトクリチエに最大280億ルーブルの資金を支援するという。


 そして政府も資金調達が困難である大手の企業や銀行に、国家基金からインフラ投資用の資金を供給することを決定した。たとえば国営石油ロスネフチは2015年上四半期に2000億ルーブルを受け取るという。加えて、12月30日には、メドヴェージェフ首相が国内第2位の銀行であるVTB銀行に対して1000億ルーブル(約2000億円)の資本注入を命じ、31日にはロシア第三位の銀行ガスプロムバンクにも399億5000万ルーブル(約810億円)の資本注入を行なった。


 このように政府と中銀は矢継ぎ早に危機対策を講じてきた。これらなりふり構わぬ必死の防衛策により、ルーブル相場は一時もち直したものの、その安定を維持できるかは予断を許さない状況だ。結局、2014年にルーブルは対ドルで約40%下落した形となる。


 このような中で、国民の批判は中銀に向けられている。公式な議論の多くが中央銀行の女性総裁であるナビウリナ氏の責任を問うものであり、彼女への退陣要求も強まっている。他方、クドリン元財務相などは、政府の経済政策への信頼欠如がルーブルと株式市場の急落に大きな影響をもたらしているとしている。


 そして、外国筋は、ロシア経済をプーチンとその取り巻きによって形成される「お仲間資本主義」と揶揄しており、ロシア経済と心中することを避けようとするのは当然の判断だろう。


■旧ソ連地域も、ロシアと心中する気はなし


 ロシアの経済危機の影響は国内にとどまらない。ロシアと関係の深い旧ソ連地域の経済、そして旧ソ連圏の連帯にも大きな影響を与えている。


 プーチンは2012年の大統領再就任前に、アジアと欧州の橋渡しとなる、旧ソ連諸国を中心とした「ユーラシア連合」の創設する意欲を示し、その前段階として関税同盟や経済同盟を創設して、それを基盤に発展させていくとしていた。そして、2015年1月には、その計画の重要な位置を占める「ユーラシア経済同盟」をカザフスタンやベラルーシ、アルメニアと発足させ、5月にはキルギスも加わって、経済統合を深化させていく予定となっていた。


 だが、2014年末から既にその先行きが危ぶまれる動きが周辺国に見られていた。


 ベラルーシのルカシェンコ大統領は12月18日に最大の友好国であり貿易相手国(ベラルーシの輸出の45%は対露輸出が占める)であるロシアとの取引を従来のルーブルではなくドルかユーロに変更するよう求めた。ルーブル暴落が自国経済に悪影響を与えることを防ごうとしての動きではあるが、ロシアにとって一番の子分ともいえるベラルーシの独善的な動きはユーラシア経済同盟にも大きな悪影響となろう。


 また、ウクライナ危機による対露制裁は、ロシアと関税同盟を組んでいるベラルーシ、カザフスタンにも影響を与えることとなった。ロシアが報復措置で欧米からの輸入を大きく制限する中、ベラルーシ、カザフスタン経由でそれら被制限品がロシアに入ってくるケースが増えたのに鑑み、ロシアが両国からの輸入を一部制限する措置をとったことは、両国、特にベラルーシの大きな反発を招いている。さらにベラルーシ、カザフスタン両大統領は、12月末からウクライナの和平に向け、勝手な独自外交まで始める始末だ。両国共に、ロシアと心中する用意はなさそうだ。


 ベラルーシでは12月27日に首相や経済関係の閣僚、中銀総裁らが解任されており、経済の悪化を阻止できなかったことを引責させたとも考えられている。


 そして、ルーブル下落の混乱は旧ソ連諸国の為替レート下落や通貨切り下げにもつながった。


 ベラルーシのベラルーシ・ルーブルやカザフスタンの通貨・テンゲ、アルメニアの通貨・ドラム、モルドヴァの通貨・レウは10〜20%の下落を見せたという。カザフスタンでも12月半ばからルーブルが崩壊する前に車など価値の高いものを購入する動きが活発化した。


 2015年にはいり、トルクメニスタン中銀は1月1日以降、通貨マナトを対ドルで19%低い1ドル=3.5マナトに切り下げ、ベラルーシ中銀は1月5日にベラルーシ・ルーブルの対ドル公式レートを約7%引き下げると発表すると共に、外貨購入の際の税率を10%へ再度(昨年12月に、外貨購入時に30%の税を課す制度を導入していたが、その後20%に引き下げていた)引き下げたと発表した。


 またロシアでは、南コーカサスや中央アジアの諸国やモルドヴァからのかなり大勢の出稼ぎ労働者が働いているのだが、11月頃から外貨建てでの給料が激しく目減りし、そのことも近隣諸国の一般市民に大きな影響を与えている。


■1月1日には経済同盟が始動


 このように、ルーブル暴落の煽りを受け、親露的な旧ソ連諸国間の連帯にもすきま風がふくなか、発足が危ぶまれていたロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニアによる「ユーラシア経済同盟」が2015年1月1日に予定通り発足した(キルギスも5月1日に正式加盟の予定だが、キルギス政府が加盟延期を決定したという報道も少数ながらあり、不透明)。プーチンは同同盟を欧州連合(EU)に対抗しうる経済ブロックにまで成長させ、将来的には政治統合も視野にいれていると主張してきたが、ロシア経済の停滞で明るい展望を描けなくなってきている。同同盟は、発足には十分な準備がまだ出来ておらず、見切り発車となったが、それでもプーチンの威信をかけて予定通りの発足をともかく強行したと考えられる。


 同同盟は、ロシア、カザフスタン、ベラルーシから成る「関税同盟」を基盤に、関税の免除のみならず、ヒト、モノ、サービス、資本の自由な移動を段階的に進め、その後、金融、通貨、エネルギーなどより広い領域での共通政策を実施していく予定となっている。そして、域外からの輸入に×関税を一定比率で加盟国に配分するが、その比率はロシア約87%、カザフスタン約7%、ベラルーシ約5%、アルメニア約1%となっており、経済規模が大きいロシアが加盟国に貿易収入の一部を分け与える形だ。だが、上述の通り、ロシア経済は火の車であり、この仕組みがロシアを更に苦しめることにもなりそうだ。


 他方、ベラルーシ、カザフスタン両首脳は同同盟の発足への不満、警戒心を隠さない。ルカシェンコ大統領は12月に「自由なモノの移動はまだ実現していない」として、関税同盟がいまだ不十分であることと経済同盟が見切り発車であることに不満を表明した。また、カザフスタンのナザルバエフ大統領は「経済同盟は国家の主権を損なわない」と幾度となく主張し、ロシアに政治的に飲み込まれることを警戒している。


■高支持率でも2015年は試練の年


 このようにロシア経済は混迷しているが、プーチン大統領は威信をかけてクリミアへの支援や極東や北極圏の開発からは手を引かず、またユーラシア経済同盟も発足させてしまった。石油価格や為替の回復は当面望めず、また制裁も続いている中ではロシアの経済は当面、大変厳しいものとなることは間違いない。上述の通り、プーチンは厳しい状況は2年続く可能性があるとしているものの、ロシアが2年「もつのか」という皮肉めいた議論すらでている。


 ただ、現在のプーチンにとっての唯一の支えは、国民の支持率が現在も高いことである。


 だが、今後、もっと経済状況が厳しくなり、国民の生活が逼迫するようになると、市民はまた抗議デモに繰り出すだろう。そのときに、ウクライナの二の舞にならない可能性は否めない。


 今後のプーチンの経済の舵取りが、そのままプーチンの政治人生の命運を決めて行くことになるだろう。



 

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コメント
 
01. 2015年1月15日 18:35:19 : nJF6kGWndY

ロシアのせいもあるが

違う意味で欧州も危ない


http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20150114/276198/?ST=print
「Project syndicate」
欧州は緊縮政策を撤回せよ

2015年1月15日(木)  ジョセフ・E・スティグリッツ

米国経済が回復の兆しを見せる一方で、欧州経済はさらに混迷を深めている。
欧州の指導者は基本的な考え方も政策も間違えているとスティグリッツ氏は指摘する。
緊縮政策を撤回しユーロ圏の構造を改革しない限り、欧州の回復は望めないという。

ジョセフ・スティグリッツ氏
1943年米国生まれ。米アマースト大学卒、67年米マサチューセッツ工科大学にて経済博士号取得。95〜97年クリントン政権で大統領経済諮問委員会委員長、1997〜2000年世界銀行のチーフエコノミスト。2001年にノーベル経済学賞受賞。現在は米コロンビア大学経済学部教授。2011年に米誌「タイム」の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれる。『世界の99%を貧困にする経済』など著書は多い。
 米国経済はようやく、ジョージ・W・ブッシュ政権末期に勃発した金融危機から立ち直る兆しを見せている。米国金融システムの内部崩壊とも言えるこの危機の衝撃波は、全世界に及んだ。

 立ち直りといっても、決して力強い回復ではない。せいぜい、危機が起こらなかったと想定した場合の経済と、現状との差が拡大しなくなったという程度だ。その差は縮小しているとしても、ペースは緩慢だ。危機が残した傷跡は長く残るだろう。

 一方、事態が今より悪化する可能性もなお残る。大西洋を挟んだ欧州では、米国並みのそこそこの回復の兆候すら、ほとんど見えない。危機が起こらなかった場合に予想された欧州経済と現状との差は、今も拡大を続けるばかりだ。

 欧州連合(EU)加盟国の大半で、1人当たり国内総生産(GDP)の値は危機前より低い。欧州経済の不振は「失われた5年」と言われてきたが、その表現は急速に「失われた10年」に言い換えられつつある。

 景気の停滞が(国によっては景気の後退が)1年また1年と延びる中、冷徹な統計数値の裏側で、人々の暮らしが破壊され、夢が潰され、家族がばらばらになって(あるいは家族を作れずに)いる。

欧州は自ら苦境を招いた

 EUには、高度な教育を受けた才能豊かな人々がいる。加盟国には、しっかりとした法制度と、きちんと機能する社会がある。危機が起こる前は、大半の加盟国の経済は非常に良好だったほどだ。1時間当たりの生産性やその伸び率が、世界のトップクラスだった国もある。

 しかし、欧州は被害者ではない。確かに米国は経済の管理を誤った。だが、世界に及んだ悪影響が欧州にまとめて降りかかるようにと、米国が何かの手を使ったわけではないのだ。

 EUの不調は、自ら招いたものだ。経済に関する判断をこれほど立て続けに誤った例は過去にない。最初の過ちは、単一通貨ユーロの創設だった。欧州統一を意図して作られたが、結局、この通貨が欧州を分断してしまった。単一通貨を機能させるための制度を作り上げようという政治的意思が欠けているため、この分断はもはや修復不能だ。

 現在の混乱の根の一端は、「参加者全員がすべての情報を知りうる完全競争の市場は適切に機能する」という、かねて疑問符の付けられてきた考え方を信頼し続けてきたことにある。

 傲慢さも要因の一つだ。欧州の当局が思い上がっているのでなければ、政策がもたらす成果の予測がこれほど毎年外れ続ける説明が付かない。予測が外れてきたのは、処方された政策をEU諸国が実施しなかったからではない。政策の基盤となるモデルがひどく間違っていたからだ。

 例えばギリシャでは、債務負担を減らすために実行した方策が、実際には2010年よりも重い負債をギリシャに負わせることとなった。緊縮財政が生産に大きな打撃を与えた結果、債務の対GDP比率はかえって上昇した。

 考え方と政策にこのような誤りがあったことを、少なくとも国際通貨基金(IMF)は認めている。

緊縮を止めない限り回復なし

 欧州首脳は今でも、最優先するべきは構造改革であると確信している。だが、彼らが指摘する問題点は、危機が起こる何年も前から既に明らかだった。それでも危機が起こるまで、成長は続いていたのだ。

 欧州に必要なのは、加盟国それぞれの国内での構造改革よりも、ユーロ圏自体の構造改革であり、緊縮政策を撤回することだ。緊縮政策は、再び経済を成長させることを何度も繰り返し妨げてきた。

 ユーロが存続し続けることは不可能――との予測は覆され続けてきた。しかし、ユーロを批判する者たちの指摘で正しかったことが一つある。ユーロ圏の構造を改革し、緊縮政策を破棄しない限り、欧州の回復はないということだ。

 欧州という舞台の幕は、まだ当分下りない。EUの強みの一つは、民主主義が持つ活力にある。ところがユーロという通貨は、市民、特に危機に陥った国の市民から、自分たちの経済の行く末に対する発言権を奪ってしまった。

 EU諸国では、経済が向かう方向に不満を抱く有権者が現政府を政権の座から引きずり下ろす事態が繰り返されてきた。だが、新しくできた政権も結局、ブリュッセルやフランクフルトやベルリンの言いなりで、同じ政策を続けるばかりだった。

 このようなことがいつまで続くのだろうか。有権者はどう動くだろうか。欧州全土で極右政党の勢力が危険なほど増している。欧州をここまで成功させてきた啓蒙主義的価値観とは相容れない勢力だ。一部地域では、大規模な分離(独立)運動が高まりを見せる。

問題はギリシャではなく欧州

 そしてまた、ギリシャが再び欧州に試練を与えようとしている。ギリシャのGDPが2010年以降これまでに縮小した規模は、1930年代の世界大恐慌期に米国を襲った景気後退をはるかに上回るものだ。若者の失業率は50%を超える。

 アントニス・サマラス政権は経済の立て直しに失敗した。そして今、議会も新大統領を選出できずに解散を余儀なくされた。1月25日に総選挙が実施される。

 世論調査では、野党「急進左派連合」がリードを保っている。急進左派連合は、ギリシャがEUから救済を受けた際に飲んだ条件について再交渉することを公約に掲げる。仮に急進左派連合が勝利して第一党になりながら政権を取れない結果に終わったなら、一番の理由は、EUがどう反応するかを有権者が恐れているからだろう。恐れというのは気高い感情ではない。そうした感情から、ギリシャが未来に向かうために必要な国内のコンセンサスが生まれることはない。

 問題はギリシャではなく、欧州なのだ。欧州が現在の方針を転換しない限り、つまりユーロ圏を改革し、緊縮政策を撤回しない限り、一般市民が反発することは避けられない。

 ギリシャが今回、方向を変えない可能性はある。だが、このような異常な経済的混乱が永遠に続くことはあり得ない。民主主義がそれを許さない。しかし、理性が取り戻されるまでに、欧州はさらにどれほどの痛みを耐えなければならないのだろう。

国内独占掲載:Joseph E. Stiglitz © Project Syndicate

このコラムについて
Project syndicate

世界の新聞に論評を配信しているProject Syndicationの翻訳記事をお送りする。Project Syndicationは、ジョージ・ソロス、バリー・アイケングリーン、ノリエリ・ルービニ、ブラッドフォード・デロング、ロバート・スキデルスキーなど、著名な研究者、コラムニストによる論評を、加盟社に配信している。日経ビジネス編集部が、これらのコラムの中から価値あるものを厳選し、翻訳する。

Project Syndicationは90年代に、中欧・東欧圏のメディアを支援するプロジェクトとして始まった。これらの国々の民主化を支援する最上の方法の1つは、周辺の国々で進歩がどのように進んできたか、に関する情報を提供することだと考えた。そし て、鉄のカーテンの両側の国のメディアが互いに交流することが重要だと結論づけた。

Project Syndicationは最初に配信したコラムで、当時最もホットだった「ロシアと西欧の関係」を取り上げた。そして、ロシアとNATO加盟国が対話の場 を持つことを提案した。

その後、Project Syndicationは西欧、アフリカ、アジアに展開。現在、論評を配信するシンジケートとしては世界最大規模になっている。

先進国の加盟社からの財政援助により、途上国の加盟社には無料もしくは低い料金で論評を配信している。


02. 2015年1月15日 22:00:10 : aQq0UGoaxY
廣瀬陽子はロシアのことを全く理解できていない。
ゴルバチョフとエリツィンの時代に欧米に騙されてひどい目にあったことを、ロシア国民はしっかり覚えている。

■2014年に相次いだ「誤算」などと戯けたことを言っているが、
ソチ大会の最中に始まったウクライナのクーデターをプーチンは当初より知っていたのだ。
日をおかずして整然と進められたクリミアの軍事制圧と併合がその証拠である。

それにロシアへの経済制裁で困っているのはEUの農民だよ。
この人は、ユーラシア経済圏が出来つつあることを理解できていないし、ドルを使わない取引になることも知らない。
50億ドルの介入がルーブルを取り戻すためと現物金を得るためになされたことが分からないとプーチン政策を理解できないだろう。
今年中に決着がつくと考えられるので楽しみにしているよ。

しかし、この人は慶應義塾大学総合政策学部准教授と言う肩書きだけで、なんてマヌケでステレオタイプなのだろう。
廣瀬陽子は毎日「Voice of Russia」を読んだ方が良いと思うよ。


03. 2015年1月15日 22:09:57 : jXbiWWJBCA

1998年、2008年、そして2015年のロシア
繰り返される経済危機と通貨危機、原油安の先にあるもの
2015年01月15日(Thu) 大坪 祐介
 ロシアはどこに向かうのか――。

 筆者が当コーナーに最初に寄稿したのは2009年2月のことだが、その時のタイトルがこれだった。リーマンショックから半年余のロシアは1998年危機後のロシアを嫌がうえにも思い起こさせる暗い雰囲気で年末年始を迎えていた。

5分の1になった株価


モスクワ市庁舎前 氷の大砲
 原油価格は1バレル30ドル台に急落、ルーブルは1ドル24ルーブルから36ルーブルに50%近く下落した。株価(RTS)に至っては最高値の2500ポイントから500ポイントへと5分の1になった。

 あれから6年・・・2015年初のロシアは再び同じ状況にあるようだ。

 しかし、ロシアのマクロ経済状況は2009年当時よりもはるかに強靭である。他方、国際関係の面からは、ロシアはもはやG8の仲間ではなく、欧米諸国からのサポートは期待できない。

 筆者は昨年12月、ちょうどルーブルが急落しロシア中銀が政策金利の大幅引き上げを余儀なくされた日(12月16日)にモスクワに滞在していた。

 その後1週間ほど仕事の合間をぬって街中を眺めて回ったが、「金融市場の変化ほどには、街中の変化は大きくない」というのが筆者の印象である。

 確かに銀行や両替所のレートのボードを見ると、ただならぬことが起こっていることは間違いない。さりとて銀行に長蛇の列ができるわけでもなく、商店に人が殺到するわけでもなく、多くの人々が新年に向けてプレゼントや食料品の買い物にいそしんでいるようであった。

ルーブルは今までが高すぎた?


赤の広場近くのクリスマスデコレーション
 ロシアで根強い人気を誇るアディダスなどのスポーツブランドは年初のセールを前倒しに実施、店内全品50%オフと謳っている。

 筆者も久しぶりにモスクワで買い物をしてみようと言う気になった。ちょうどスニーカーに穴が開いたところだったので、早速一足買い求めたが、その価格は極めてリーズナブル。

 高すぎもせず、安すぎもせず、日本や欧米で同じ商品を買ったときと同じ感覚だった。要するにこれまでのルーブルが実力以上に高止まりしていたということなのだろう。

 ルーブル安の影響が顕著だったのは海外旅行であろう。

 今年は筆者の周りでは年末年始を海外で過ごすというロシア人は少なくなった。彼らの多くはこれまでヨーロッパのスキー場で大晦日を迎えるというのがスタイルだったが、今年はソチやグルジアのスキー場に行くという。

 それでも年末の空港行きのエアポートエクスプレスは大きな荷物を抱えたロシア人で超満員であった。ロシアの消費市場の大きさを感じる光景である。

 さて、ロシアの2015年の行方を展望するに当たり、改めて2014年に起こったことを振り返っておきたい。

 言うまでもなく、昨年のロシアにとってはクリミア併合・ウクライナとの紛争が最重要のイベントであることは間違いないのだが、ここでは経済問題に絞って振り返ってみたい。

2014年、9つの重大ニュース


グム・ショッピングモールもまずまずの人出
 ロシア政府系の新聞社、ロシスカヤ・ガゼータが海外向けに提供している「RussiaBeyondTheHeadlines」という英文のニュースポータルにビジネス・経済面での重要ニュースとして9つの出来事が挙げられている。

1 北極圏における初の石油採掘(4月)
2 中国とのガスパイプライン契約締結(5月)
3 Yandexのモスクワ市場上場(6月)
4 欧米諸国による対ロシア追加経済制裁(7月)
5 ロシアによる欧米諸国からの食料禁輸(8月)
6 OPECによる減産見送り(11月)
7 ルーブル下落(10月)
8 オフショア会社への課税強化(11月)
9 サウスストリーム・パイプライン計画の中止(12月)

 さて、これらを眺めていると、2015年のロシア経済の次のようなテーマが見えてくる。

●ロシア経済は東と北に拡大

 ウクライナ問題が起こるまでは、ロシアにとって最大のビジネスパートナーは欧州であった。最大の貿易相手国であり、ロシアに対する最大の直接投資家であり資金調達先であった。

 しかし、クリミア併合、マレーシア航空機撃墜をきっかけとする2次の対ロシア経済制裁、またこれに対するロシア側の食料禁輸措置によって、欧州との経済関係は貿易・金融の両面でフリーズ状態にある。

 勢いロシアは欧州に代わる経済パートナーが必要となり、それは中国・インドをはじめとするアジアの国々である。アジアの国々にとってもロシアのエネルギー・地下資源は魅力的であり、また比較的安価なロシア製の兵器もこれらの国々の需要と一致した。

 また、ロシアにとってのニューフロンティア、北極圏の資源開発本格化も注目される。しかしながら、欧米の経済制裁には資源開発に係る先端技術の供与の制限も含まれており、今後ロシアの自力開発がどこまで進むのか楽観はできない。

 何より気がかりなのは、ロシアが東と北に拡大すれば、やがて米国と対面することである。米ロ関係がこれまでになく悪化している状況下で、両国の利害が衝突する事態が起こらないことを祈るばかりである。

●ビジネス界にはアメとムチ


中銀の緊急利上げから1週間後、レート、売買スプレッドも落ち着きを取り戻している
 Yandexはロシア国内で圧倒的なシェアを持つ検索サイトで、検索にとどまらず地図、渋滞情報、小口送金、マーケットプレイスなど、新たなインターネットビジネスを次々と生み出す成長企業である。

 同社は2011年5月に米ナスダック(NASDAQ)に上場、現在の時価総額は56億ドルである。昨年6月にはモスクワ市場(MOEX)にデュアル上場し、同社の株式は24時間取引が可能となった。

 このロシア国内でのデュアル上場については、国内資本市場の拡大を期待する当局の意向が強く働いたことは想像に難くない。インターネットビジネスは常に当局の規制対象として取り上げられ、当局の意に反する行動はとりにくい環境にある。

 また、2014年11月にロシア政府はロシア人が保有する海外のオフショア会社に対する課税強化、政府入札からの排除などを打ち出している。

 一方、ウラジーミル・プーチン大統領は昨年12月初に行われた年次教書演説で、海外に逃避させた資金を国内に還流させる場合の特赦について言及している。つまり、還流させた資金に関しては法的・行政的さらには税務上の調査は行わないというのである。

 アメとムチを使い分けながらロシアへの資金還流を促そうという目論見だが、その成否はロシア人ビジネスマンがロシア政府をどれだけ信頼しているかにかかっている。

●経済制裁の行方


赤の広場はスケートリンクと遊園地に模様替え
 ロシアのビジネスマン、特に金融関係者から強く聞かれたのは、欧米諸国による対ロシア経済制裁の解除である。

 これまでのところ欧米の経済制裁によってロシア国内の大手企業や金融機関がデフォルトに至ったという事例はない。ロシア政府も民間企業も当面の対外債務返済に必要な外貨は手許に積み上げている。

 ルーブルの相場が一定の水準で落ち着けば、つまりロシア中銀による為替介入の必要がなくなり、ロシアの経常収支は黒字なので外貨準備の水準も徐々に回復するだろう。

 しかし、ロシア経済が安定した回復軌道に乗るためには欧州市場における長期資金の調達は不可欠である(そのすべてを中国が肩代わりすれば別だが)。

 また、ロシア側の対抗措置とも相まって、経済制裁が国全体に停滞感、あるいは反欧米のムードを漂わせる原因となっていることも無視できない。

 ウクライナ問題の解決なくして経済制裁の解除は難しいと思われるが、ウクライナ東部地域での停戦合意は可能であっても、クリミア併合に関してロシアと欧米の間の認識の隔たりは大きい。ロシア人にとってクリミア問題は解決済みであり、交渉の余地はない。

 このように2015年はロシアにとって、どう転んでも苦難の道となることは避け難いように思える。

 しかし、1998年、2008年の危機の後も多くの人が同様に考えていたが、ロシアは復活を遂げている。また、すべてのロシアビジネスが危機に瀕しているわけでもない。ここはじっくりと腰を据えて、数少ないビジネスチャンスを探るほかあるまい。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42664

ロシア:孤立の危険性
2015年01月14日(Wed) Financial Times
(2015年1月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 ミンスクからモスクワへ向かう幹線道路。ベラルーシ側から国境を越えたことを示す大きな標識には、「ロシアへようこそ」と書かれている。だが、ベラルーシの町オルシャから来たトラック運転手のロマンさんは、標識の下を通過しながら皮肉っぽく鼻を鳴らす。

 何しろ、ロシアの町スモレンスクにソーセージを運ぶ彼の大型トラックは、ベラルーシの税関に1時間も止められたばかりだ。

 ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの3カ国が貿易円滑化を図るために国境での検問を廃止してから3年以上経った今、ロシアに渡る最大の検問所であるクラスナヤゴルカにベラルーシの税関職員が戻って来た。検査官は綿密で、凍てつくような風が背中に雪を吹き付ける中で、ほぼすべての車両をチェックする。

 「この国境はほぼ消えたも同然だったが、今では非常に厳しくなった」とロマンさんは言う。「選択肢があったら、もうここには来たくない」

正式発足したばかりのユーラシア経済連合にいきなり亀裂?

プーチン大統領、ロシア独自のカードシステム開発に意欲
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領〔AFPBB News〕

 本来こんなはずではなかった。ロマンさんが税関で止められる4日前の1月1日、ユーラシア経済連合(EEU)が正式に発足した。EEUは加盟国3カ国の関税同盟を、単一市場を持ち、いずれは単一通貨まで備える地域の国家クラブに拡大させるプロジェクトだ。

 今年、アルメニアとキルギスタンが加盟するが、ロシアは最終的に大半の旧ソ連諸国を取り込みたいと考えている。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって、これは経済だけに限らない、ずっと大きな問題だ。

 プーチン氏は、同氏がソ連を再建しようとしているとの見方を繰り返し否定してきたが、かつてソ連を構成していた共和国は共通のインフラと地域的な専門性、文化を共有しており、各国はこれを共同開発の資源として利用すべきだと語っている。

 「我々は、現代世界の1つの極となり、欧州とダイナミックなアジア太平洋地域を結ぶ効率的な架け橋の役目を果たすことのできる強力な超国家同盟を提案する」。プーチン氏は2011年にこう書いた。

 多くのロシア観測筋はEEUのことを、ロシアを再び強くする――プーチン氏の政策課題の中核を成すもの――ための主な手段と見なしている。親クレムリンのアナリスト、セルゲイ・マルコフ氏は「EEUはロシアを、本来ロシアにふさわしい場所である世界の中心に戻すことになる」と言う。

 モスクワに駐在するある東欧の外交官はもっと無遠慮で、「このブロックが意図している拡大計画を見れば、目的は明白だ。プーチンの元に帝国を返すことが狙いだ」と言い切る。

 2013年後半からウクライナで展開してきた一連の出来事は、こうした計画を頓挫させかねないことをプーチン氏がいかに激しく批判するかを浮き彫りにした。隣国ウクライナで危機が勃発したのは、ビクトル・ヤヌコビッチ大統領(当時)が計画されていた欧州連合(EU)との貿易協定を白紙撤回した時のことだ。

 ヤヌコビッチ氏はロシア政府からの強力な圧力を受け、この決断を下した。ウクライナ抜きでは、プーチン氏の貿易圏構想の発展性が大きく損なわれるからだ。ヤヌコビッチ氏がいなくなり、ウクライナ政府が結局EUとの貿易協定に署名しようとしている今、プーチン氏の帝国構想は急速に綻びつつある。

大きく舵を切った盟友ベラルーシ

「ポストソ連の経済圏、2015年に発足を」 プーチン露大統領
1年余り前は蜜月に見えたが・・・(写真は2013年12月、ユーラシア経済連合の発足に向けた会議に臨む首脳。左からカザフスタンのナザルバエフ大統領、ロシアのプーチン大統領、ベラルーシのルカシェンコ大統領)〔AFPBB News〕

 ベラルーシはEEUにおけるロシアの中核的なパートナーの1つだ。だが、そのベラルーシは過去1カ月間で、国境の検問を再開しただけでなく、2国間貿易の決済通貨をルーブルからドルに戻そうとしてきた。

 「我々は1.5市場だけに依存するわけにはいかない」

 ベラルーシの独裁的な支配者であるアレクサンドル・ルカシェンコ大統領は年初に、ベラルーシの輸出の半分以上がロシア向けで、その9割以上がルーブルで決済されているという事実に言及し、こう語った。

 「確かに、ロシアは我々の兄弟であり、友人だ。だが、彼らが時にどう振る舞うか見るといい。だから我々は、どれほどコストがかかろうとも確実に多角化する必要がある」

 ロシアの専門家らは、そのような懸念は地域統合を危うくすると指摘する。「ベラルーシとカザフスタンの観点からすると、事態は深刻だ」。ロシア大統領府直属国立経済行政アカデミー(RANEPA)の研究員、セルゲイ・ベスパロフ氏はこう話す。「最近まで両国は共通の経済空間の誕生、EEUの誕生が自国のためになると考えていた・・・ルーブルの下落が状況を劇的に変えた」

 一方、ルカシェンコ氏は、ベラルーシは軍事的に自国を防衛する用意があるとまで述べ、同国が近隣の大国ロシアについて根深い安全保障上の懸念を抱いていることをうかがわせた。

 ルカシェンコ氏は先月、こう言った。「東方の兄弟の態度が懸念を招かないわけがない。強い立場から我が国と話すことは誰にも許されない。ベラルーシは巨大国家ではなく、核兵器の力を持たないが、我が国の軍はどんな脅威にも対応できるだけの効率性を備えている」

ロシアと西側の対立とルーブル急落が近隣諸国の経済を直撃

 こうした状況を招く引き金となったのは、ロシア経済を打ちのめしつつあるのと同じ有害な組み合わせだ。すなわち、ロシアと西側の対立と、原油安を受けたロシア通貨の急落だ。

 ベラルーシが税関審査を再開させたのは、ウクライナ問題を巡って西側諸国に科された制裁への対抗策としてロシアが実施した欧米食品の輸入禁止措置をベラルーシが骨抜きにするような事態をロシア政府が阻止しようとした後のことだ。

 貿易決済に関する動きは、ロシアの近隣国を経済危機に巻き込む恐れがあるルーブル暴落に対する反応だった。1年前は1ドル=33ルーブルだったロシアルーブル相場が61ルーブル前後まで下げて推移する中で、ベラルーシの中央銀行は1月5日、ベラルーシルーブルの対ドル公式レートを7%引き下げた。

ロシア・ルーブル急落、過去最安値記録 試される大統領の手腕
ロシアルーブルは昨年末にかけて下げ足を速めた〔AFPBB News〕

 また、ロシア通貨の価値下落は、ロシアで働く出稼ぎ労働者からの送金に依存する一部の近隣諸国にとって貴重な収入源を枯渇させている。

 ロシア連邦統計局によると、2014年1〜10月期の移住者の純流入数は前年同期比で10%減少しており、11月、12月の一段と急激なルーブル安を受け、この傾向がいっそう強まると見られている。

 「多くの労働者がまだロシアにとどまる価値があるかどうか真剣に考えている」。移住者に法的支援を提供する非政府組織、移住・法律センター(CMR)のガブハル・ジュラエバ所長はこう言う。「賃金が以前ほど価値を持たなくなっているのに、生活費が上昇しているからだ」

 この問題に一番大きな打撃を受けているのがタジキスタンのような国々だ。世界銀行によると、タジキスタンは国内総生産(GDP)の52%を出稼ぎ労働者の送金で得ている。

 また、自国ベラルーシを軍事的に防衛すると誓ったルカシェンコ氏の発言は、ロシアのウクライナ侵攻が他の近隣諸国の間で不安と不信と全面的な恐怖を引き起こしたことを物語っている。

 ルカシェンコ氏とカザフスタン――ロシアにとって旧ソ連圏のもう1つの中核的同盟国――のヌルスルタン・ナザルバエフ大統領はともに、ロシアとウクライナ政府との対立においてプーチン氏を支持するのを拒み、ウクライナは自国の敵ではないと強調した。

プーチン大統領の功績を巡り割れる評価

 地域の一部の人は、プーチン氏はロシアに力と尊敬と栄光を取り戻した指導者として称えられたが、過去1年の同氏の政策は実際にはロシアを事実上の孤立に追い込んだと主張する。西側とロシアの近隣諸国にとって、これは決して勝ち誇る理由ではない。

 中には、プーチン氏が窮地に追い込まれたと感じると、ロシアがより危険になる可能性があると危惧する人もいる。

 「世界的な大国としてロシアを再建するプラットフォームとしてのユーラシア連合・・・これはもう純粋な幻想になった」。前出の東欧の外交官は言う。

 「我々はウクライナ危機を、プーチンが勝っている地政学的なゲームとして注視してきた。だが実際は、彼は地政学的なカジノチップをすべて博打で使い果たしてしまった。プーチンは旧ソ連圏にまだ残っていたモスクワのわずかなソフトパワーを損ねてしまい、今、経済危機がその残骸にとどめを刺している」

 ロシアの政治家と理想家はこうした見方を激しく否定する。「中国はロシアが西側の制裁に断固立ち向かう手助けをしてくれている」。ロシア諸民族友好大学のユーリ・タブロフスキ名誉教授はこう言い切る。「同時に、BRICs諸国は長年西側に支配されてきた国際機関に代わるものを構築している」

中国の関与の限界

上海で中露首脳会談、合同軍事演習も 天然ガス交渉は妥結せず
中国とロシアの接近が目立つが・・・〔AFPBB News〕

 だが、中国政府の関与は、ロシアが必要としている同盟関係には遠く及ばない。国内で分離派の心理を煽り、無用に米国との新たな対立の可能性を生んでしまうことを警戒する中国政府は、ロシアのクリミア併合を支持することを控えた。

 中国政府は昨年、複数年に及ぶ4000億ドル規模のガス供給契約などの大規模協定に調印することでプーチン氏を後押しし、中国の国営銀行はロシアの金融機関や企業数社に与信枠を設定した。

 だが、ガス供給契約の条件はまだはっきりしておらず、中国からの融資はロシア株式会社の資金調達源として欧米の銀行に取って代わるには遠く及ばない。

 また、中国は伝統的にロシアの勢力圏だった中央アジアで競争相手になる可能性もある。

 ロシアのアナリストらは、中国の習近平国家主席が提案した「シルクロード経済ベルト」を、アジアと欧州の間に位置するロシアの重要性の例として引き合いに出すが、中国政府のコンセプトは、例えばシベリアへの追加投資の代わりにカザフスタンを通る鉄道を開発することで、ロシアを迂回できる欧州とのルートを開発することにも少なくとも同じくらい重点を置いている。

 ロシアが地政学的な名声を急速に失っていることが一段と明白になるには、時間がかかるかもしれない。ユーラシア連合は、経済的な問題にもかかわらず、計画されているEUとの協議を通して正当性が高まることになりそうだ。一連の協議は、ウクライナの域を越えた問題についてロシアを再び対話に関与させる手段としてドイツが提案したものだ。

 だが、欧州の外交官らは、交渉はプーチン氏の面子を多少保つ以外に何の成果も上げられないのではないかと見ている。

 軍事的な面でも、ロシアは引き続き影響力を振るい続けると見られている。ロシアの軍隊は国境を越えた場所での活動の頻度と規模を高めてきた。北大西洋条約機構(NATO)によると、ロシアの航空機が自国領空を侵犯しかけたことに対応し、NATO加盟国が戦闘機をスクランブル(緊急発進)させた回数は過去1年間で急増したという。

ロシア軍の実力にも疑問符

 だが、軍事専門家らは、こうした行動は決して力と同一ではないと指摘する。ロシア軍は複数年に及ぶ近代化プログラムを進めており、ひどく訓練不足の人員を新たな装備を動かす立場に据えようとしているという。

 「NATO軍と比べると、ロシアは信じがたいほどのキャッチアップを遂げなければならない」と、西側のある軍関係者は言う。モスクワの防衛専門家らによると、ロシアの戦闘機のパイロットは最近まで、年間の飛行時間が最大20時間だった。これに対し、NATOのパイロットは、月間30時間の飛行を完了しないと、再試験を受ける必要がある。

 ここへ来て、原油価格の下落がロシアの予算――歳入の半分以上を石油と天然ガスの採掘に依存している――を圧迫する中、軍備アップグレードの継続にさえ疑問が投げかけられるようになっている。

 指導部はこうした弱点を十分認識している。だが、プーチン氏は新たな地政学の現実に甘んじることなく、その現実に対処するために新たな戦術を使っていると、ハーバード大学のロシア軍の専門家、ドミトリー・ゴレンブルク氏は言う。「我々は、ハイブリッド戦争や新戦争と呼ばれるものをもっとたくさん目にすることを想定すべきだ」

 一部の人の目からすると、プーチン氏のユーラシア・プロジェクトが頓挫する兆しを見せる中、こうしたリスクは増大する一方だ。

By Kathrin Hille
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42660


04. 2015年1月15日 23:09:50 : qpd25J8Ajs
ロシアは大丈夫、安倍ではない。

05. 2015年1月16日 13:56:06 : xAQCJA1WS6
日本は円安で成長、ロシアはルーブル安で経済危機。同じ自国通貨安で、どうして評価が間逆?

ロシアは自国で必要な最低限のエネルギー、食糧、資源を自前できるのだから、通貨安は自国産業の保護のために好都合ではないか。贅沢品さえ我慢すればさして不都合はあるまい。少なくとも、エネルギー、食糧、資源を輸入に頼る日本より、国内経済への打撃は少ないはずだ。


06. 2015年1月16日 22:16:31 : GpYSA1qr2Y
慶応の教授連には多国籍企業中心思考の方が多いように感じます。
悪気はないんでしょうが、自分にどういうバイアスがかかっているか
一度検証なさって、ご自身のスタンスをきちんと表明なさった方が
信頼感が増していいのではないでしょうかね!?

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