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どこまで下がる?まだまだ下がる!底なし原油価格 日本の金融市場が“逆オイルショック”に震えるとき
http://diamond.jp/articles/-/64921
2015年1月13日 真壁昭夫 [信州大学教授] ダイヤモンド・オンライン
■原油価格はどこまで下がるのか?“逆オイルショック”再来の衝撃度
昨年末にかけて急落した原油価格は、1月8日現在、ニューヨークのWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)で1バレル=48ドル台まで下落し、不安定な展開が続いている。
1980年代の“逆オイルショック”の再来とも言える今回の原油価格急落によって、株式や為替などの金融市場も大きな影響を被り始めている。今後も原油価格の不安定な推移が続くと見られ、金融市場の動向や世界経済にも無視できない影響が及ぶ可能性が高い。
今回の原油価格急落の最も大きな要因は、米国のシェールオイル開発などによって供給が大幅に拡大したことだ。今や米国は、ロシアやサウジアラビアと並ぶ世界有数の産油国になっている。
供給サイドの構造が大きく変化したことによって、原油が今までのように、OPEC(石油輸出国機構)のカルテルによって価格維持される“特別なモノ”ではなくなったのである。“特別なモノ”でなくなれば、その価格は明確に需給によって決まることになる。
中国の経済成長が鈍化し、欧州経済も低迷を続ける状況を考えると、原油に対する需要は短期間には大きく伸びない。その一方、すでに開発された油田からは毎日、大量の原油が供給される。
今回の原油価格下落は短期間に進んだこともあり、供給サイドの調整にはまだ時間を要すると見た方がよいだろう。そうした見立てが正しいとすれば、原油価格にはまだ下落の余地が残っているはずだ。エネルギー専門家の中には、一時的に1バレル=30ドルを切る水準まで下がるとの見方もある。
原油に係る歴史を振り返ると、いくつかの節目がある。その1つは、1973年の“第一次オイルショック”だ。それまで、多くの企業が原油の使い道を模索する中、世界的に原油が余剰の状況にあった。それは、当時の原油価格が1バレル=4ドル台だったことを見ると明らかだ。
■OPECによる原油価格維持機能は低下 原油は“特別なモノ”から“普通のモノ”へ
ところが、世界経済の発展に伴い、石油化学を中心とした産業が大きく拡大し、エネルギー資源としても原油の重要性が一挙に増すことになった。また、当時を思い起こすと、「近い将来、原油資源が枯渇する」というローマクラブの提言などもあり、原油が“特別なモノ”との認識が広がり始めた。それに拍車をかけたのが、サウジアラビアなど中東の産油国を中心として結成されたOPECの存在だ。
OPECの当初の加盟国が中東地域に偏っていたこともあり、イスラエルとの対立において原油を武器にするケースも多かった。その後加盟国が増えるのに伴い、OPECは原油の価格維持を行うカルテルの機能が鮮明化した。
しかし、1970年代の2回のオイルショックを経て、北海油田を持つ英国やメキシコ、さらにはロシアなどの産油量が拡大したことにより、次第にカルテルとしても価格決定能力が減殺されることになった。
そして、近年の米国のシェールオイルの産出拡大が、OPECの機能低下を決定的にした。原油供給サイドの構造が変わることで供給者にも競争原理が働き、原油はかつてのような“特別なモノ”から“普通のモノ”に変質し、少なくとも足元では「値段が高ければ買わない、安ければ買う」という状況ができ上がった
オイルビジネスが大規模な装置産業であることを考えると、短期間に産出量を自在にコントロールすることは難しい可能性が高い。当面、原油価格は弱含みな展開になることが想定される。
原油価格の下落は、基本的に原油の需要者側には大きなメリットとなり、供給者サイドには深刻なデメリットが及ぶ。その意味では、わが国のような需要者の経済にはプラスの効果をもたらし、株価は本来上昇してもおかしくない。
■ピーク時からの50%低下で7兆円のメリット 日本にとって原油価格の下落は「神風」だが……
内閣府の試算によると、原油価格が昨年のピーク時から約50%下がったことで、わが国経済には約7兆円のメリットがもたらされている。足もとの価格水準が続くと、それだけでGDPを約1%押し上げる効果も期待できる。
また、円安によって輸入物価が上昇し、食料品などの価格が上がったことで、家計部門に厳しさが及んでいることを考えると、わが国経済にとって原油安は、まさに“神風”が吹いている状況だ。天はいまだアベノミクスを見放していないようだ。
さらに、原油輸入量の多いインドなどの新興国にも、相応のメリットが波及するはずだ。今後は、原油価格の下落メリットがアジア地域の新興国にも及ぶはずであり、わが国の輸出企業にとっても少しずつその恩恵が顕在化するだろう。
一方、これだけ短期間に原油価格が大きく下落すると、産油国経済が受ける痛手は大きい。特に、ロシアのようにエネルギー資源の輸出依存度が高いと、影響のマグニチュードは拡大する。
すでにロシア通貨ルーブルは大幅に下落し、それに歯止めをかけるためにロシア中銀が7%を超える金利引き上げを行っている。金利引き上げはロシア国内の企業には重大なマイナスになる。また、輸入物価の上昇によってロシア国内の家計部門にはデメリットが波及している。
足もとで景気減速が続くブラジルとロシアについては、すでにBRICsから脱落する可能性も示唆されている。原油価格下落によってロシアの外貨準備が底を突き、ロシア経済が破綻の淵に追いやられることになると、その影響は計り知れない。
原油価格の急落によって、一時、世界的に株式や為替の市場が不安定化した。それは、大手投資家が保有するリスク許容量の問題を考えるとわかりやすい。
投資家が保有する持ち高=ポジションのリスク量は、「保有するポジションの金額×価格変動率=ボラティリティ」という数式で算定される。今回のように原油価格が大きく変動すると、価格変動率が高まり、エネルギー商品の持ち高から発生するリスク量が拡大する。
また、原油価格が下落することで、エネルギー関連企業の業績は不安定化する。米国のシェールオイル開発企業の中には、資金繰りが厳しくなりつつある企業も目立ち始めている。すでにWBHエネジー社が、約60億円の負債を抱えて破綻した。
中小のシェールオイル開発企業には、その資金調達を信用力の低い、いわゆる“ハイイールド債”に依存しているところも多い。今後、そうした企業の破綻が続くようだと、“ハイイールド債”全体に信用不安の動きが広がることも懸念される。
また、ロシアやベネズエラ、ブラジルといった諸国の経済状況が一段と悪化するようだと、世界的に株式や為替などの金融市場が不安定化することは避けられない。
■大手投資家のポジションが崩れるとき 日本の金融市場に計り知れない影響が
大手投資家が一斉に保有するポジションのリスク量を削減するために、手持ちのポジションを売りに出るようなことになると、世界的に金融市場が混乱状況に陥る懸念は否定できない。その場合には、わが国の金融市場も無傷では済まない。
現在、わが国は日銀による異次元の金融緩和策や年金基金による株式購入などによって、円安・株高・低金利を政策当局の力技でつくりだしている。政策当局の力技を永久に続けることはできない。
政策効果の臨界点と、原油価格急落のリスクの顕在化のタイミングが重なるようなことになると、そのインパクトは計り知れない規模になることも考えられる。そのリスクは我々の生活に直接襲いかかることにもなりかねない。
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