http://www.asyura2.com/14/hasan92/msg/842.html
Tweet |
食糧自給率の推移(農林水産省「2013年度食料・農業・農村白書」より)
農業の大規模化・企業参入促進という愚行 経済・雇用・食料自給率に打撃、自然資源劣化も
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150113-00010002-bjournal-bus_all
Business Journal 1月13日(火)6時0分配信
昨年11月24日、東京・立教大学経済研究所主催で公開シンポジウム「国際家族農業年から始まる小規模家族農業の道」が開かれた。昨年は、国連が2011年総会で定めた国際家族農業年に当たっていた。雇用労働に依存する企業農業に対し、主に家族が田畑耕作や家畜飼育などに従事するのが家族農業だ。
国連は(1)食料安全保障のための持続可能な食料生産、(2)15年までに飢餓人口割合を1990年水準から半減する「ミレニアム開発目標」(2000年採択)などの達成のために小規模の家族農業が重要な役割を果たすとして、国際家族農業年を定めた。なお、アメリカなどのように、農地が数百ヘクタールもあるような大規模な家族農業は除く。
それにしても、なぜ小規模の家族農業なのか。
同シンポジウムでは、その関連報告書「食料保障のための小規模農業への投資」をまとめた、FAO(国連食糧農業機関)の世界食料保障委員会研究チーム代表のピエール・マリー・ボスク氏(フランス農業開発研究国際協力センター上席研究員)や、チームに参加した愛知学院大学専任講師の関根佳恵氏などが発表を行った。
●小規模家族農業の存在意義の大きさ
「彼ら(世界中の小規模の家族農業)が農業をやめたら、どうなるのか」と、ボスク氏は問いかけた。日本ではつい大規模農業だけが強調されがちだ。しかし、12年の81カ国のデータによれば、農地1ヘクタール未満の小規模家族農業数は、全体の73%を占めるという。同2 ヘクタール未満なら85%になる。これが日本の場合、それぞれ55%、81%だ。つまり、世界的に見れば小規模の家族農業が圧倒的多数を占めている。
それだけではない。ふつう小規模家族農業は、大規模農業に比べて生産効率が低いとみられている。例えば、中国では2億戸の小規模家族農業が耕す農地は、世界全体の10%にすぎない。ところが、穀類などの生産量は世界全体の20%、つまり単位面積当たりの生産量は2倍もあり、生産効率は高いという。
このように、意外なことに量的にも質的にも小規模家族農業の存在意義は非常に大きい。ボスク氏が問いかけたように、小規模家族農業がなくなれば世界中で一大食料パニックが起きてしまう。
●大規模農業から家族農業へ
実は他の原因によるのだが、08年9月のリーマン・ショック発生の直前、実際にその世界食料危機が起きてしまった。
06年秋から08年夏にかけて低い在庫水準に干ばつ、バイオ燃料向け穀物需要、投機資金流入、穀物輸出規制などが加わって、米と小麦、大豆、トウモロコシのすべてが過去最高を記録(08年2〜7月。【編注1】)するなど、主要食料の国際価格が高騰した。そのため40カ国近くが食料危機に陥り、南米やアジア、アフリカなどの途上国で暴動や抗議などが続いた。
本来、先進国の企業農業や大規模な家族農業などは、世界の食料安全保障の役割を担っているはずだが、自ら干ばつなどの被害を受け、食料危機を招く引き金になった。しかも被害を受けても農業保険や政府援助などでカバーされることが多く、逆に被害を受けなければ価格高騰の恩恵を受けた。
片や、小規模家族農業はどうなったのか。
例えばアフリカなどの発展途上国の場合、家族農業の多くが食料を自給できず、食料の一部を購入しているため、価格高騰で食料を購入できずに栄養不足に追い詰められた。さらに食料危機による世界の食料安全保障システムの破綻を機に、アフリカなどに対する外国企業などの買収・長期賃貸による大規模土地投資【編注2】が増え、「農地収奪」「新植民地主義」だとして大きな問題になった。この投資では外国労働者が輸出向けなどの農作物を生産することも多く、投資受け入れ国にとっては雇用にも食料安全保障にも役に立たないと批判された。
さらに、11年にFAOが、化学肥料や農薬、大型農業機械などを集中的に投下する世界的な大規模集約農業による、土地や水、生物多様性など自然資源の劣化について警告を発した。
このような世界的な主要食料生産システムに対する危機感を背景に、持続可能な小規模家族農業が浮上し、再評価されることになった。ボスク氏は、小規模家族農業の価値について、次のような旨を同シンポジウムで指摘した。
(1)生産効率が高く(先の中国の例)、食料安全保障と国の経済成長に果たす役割が大きい。家族農業ではがんばるほど収穫量・収入が増え、労働意欲を高めるインセンティブ(やる気を起こさせる刺激)が働く。雇用労働依存の企業農業は管理コストなどが高い。
(2)女性や高齢者などに働く場を提供する。
(3)失業者の受け皿になるなど、社会的セーフティネットとしての機能を果たす。
(4)農外収入によって経営が安定する。
(5)農薬・化学肥料、大型機械などの投入が少なく、生物多様性保存や在来種保護に貢献する。
●日本もパラダイムシフトを
前出の関根氏は、次のように指摘した。
「大規模化を目指す日本の農政は、小規模家族農業の役割を重視する国際社会の潮流に逆行している」
今や世界の農業政策は、かつての農業の近代化によって小規模家族農業は消滅し、農業は大規模化・企業農業化するという考え方(1980年代型途上国発展モデル)から、小規模家族農業重視へと転換している【編注3】。日本はまさにその“農業近代化路線”によって、「食料自給率低下」「高齢化・後継者不足」「耕作放棄地増加」「限界集落・鳥獣被害問題」などを招いた。
それにもかかわらず、「農業経営の規模拡大」「企業の農業参入促進」「TPP参加で国際競争に耐えられる経営育成」「農産物・食品輸出で農業所得倍増」と、旧態依然の新自由主義的な農業成長モデルにしがみついたままだ。ただ日本には有機・自然農法や産消提携(生産者と消費者の結びつき)、里山保全など、世界に誇れる実践の歴史があるという。
関根氏は「日本農業の未来の鍵は、新自由主義を超えた説得力(正当性)を持つモデルを具体的に示すことにある。日本もパラダイムシフト(価値観・発想の転換)が必要ではないか」と、呼びかけた。
【編注1】農林水産省「2009年度食料・農業・農村白書」(10年6月)
【編注2】原弘平『2014国際家族農業年―今問われる『家族農業』の価値」』(「農林金融 14年1月」/農林中金総合研究所)
【編注3】関根佳恵「なぜ今、国際家族農業年なのか?」(オルター・トレード・ジャパン報告/14年6月など)
石堂徹生/農業・食品ジャーナリスト
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。