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いわゆる「6重苦」の是正を実行に移した安倍首相(右は榊原日本経団連会長)(写真:AP/アフロ)
法人税減税、実をとった財務省と総務省 法人税改革決着の舞台裏を検証する
http://toyokeizai.net/articles/-/57553
2015年01月12日 土居 丈朗:慶應義塾大学 経済学部教授 東洋経済
年の暮れも押し迫った昨年の12月30日、来年度(2015年度)の与党税制改正大綱が取りまとめられた。来年度以降の税制に大きな影響を与える決定としては、法人税改革が挙げられる。法人税改革の議論の途中経過については、東洋経済オンラインでの拙稿「本当に『法人税減税』はできるのか」や、「法人減税めぐる『骨太の方針』の本当の読み方」でもリアルタイムで言及した。
■3.29%減、フランスよりも低くなる法人税
法人税改革をめぐる議論の展開は、昨年6月に閣議決定した「骨太の方針2014」で2015年度から法人実効税率を引き下げると明言したことから、「どれだけ下げられるか、そして税率を下げただけだと税収が減ることから、その減収を補うための代替財源として法人税の中でどの仕組みを変えるか(課税ベースを拡大するか)」をめぐるものだった。この度、ひとまずその決着がついた。
最大の焦点と言える法人実効税率の引き下げは、標準税率ベースで現行の34.62%から2015年度には32.11%に下げ、2016年度には31.33%に下げることが決まった。これにより、アジア諸国やイギリス、ドイツよりはまだ高いが、フランス(33.33%)よりは低くなるところまで下がることとなった。
現行から3.29%税率が下がることによって、法人税収は平年度ベースで1兆3300億円の減収となると見込まれている(ここでの税収は国の法人税と地方の法人住民税と法人事業税を合わせたもの)。
ただ、日本の財政難の現状に鑑みれば、これが恒久的に減収となってしまうわけにはいかないので、代替財源として法人税の中で課税ベースの拡大を行うこととなった。その代替財源の候補は、前出の拙稿「本当に『法人税減税』はできるのか」で列挙したとおりである。
来年度の税制改正大綱では、結論から言うと、代替財源として、法人事業税での外形標準課税の適用拡大(6600億円)、欠損金繰越控除の見直し(4000億円)、租税特別措置の縮小(1800億円)、受取配当等益金不算入の縮小(900億円)が決まった(金額は平年度ベース)。
法人実効税率が引き下げられることで企業には減税となる。他方、課税ベースの拡大の分は企業にとって増税となる。日本全体で見ると、その増減税は、平年度ベースでは同額となる(ただし、2015年度と2016年度は国の法人税では2100億円ほど減税が先行する)。
■課税ベースの拡大で財源を確保
当然ながら、個々の企業によって、増減税の影響は異なる。概していえば、過去に被った赤字(欠損金)の影響から脱して今や利益を多く上げている企業は、減税の恩恵を多く受けられる。他方、税法上依然として赤字のままの企業で人件費を多く費やしている企業は増税となる可能性がある。
ちなみに、今回決まった税制改正大綱では、法人税改革の影響の大半は、資本金が1億円超の大企業に及ぶ。資本金が1億円以下の中小企業のうち、税法上の法人所得が800万円を超える企業では、法人実効税率の引き下げのみが及び、減税となる。資本金が1億円以下の中小企業のうち、税法上の法人所得が800万円以下で、出資する子会社もないような企業は、よい影響も悪い影響もほとんどない。
というのも、前述の課税ベース拡大の具体策で挙げた最大の項目である外形標準課税の適用拡大は、資本金が1億円超の大企業のみが対象である。さらに、資本金が1億円以下の中小企業は、税法上の800万円以下の法人所得に対して、国の法人税率はすでに15%にまで下げられており、これがこの度継続することとなったこともある。
では、どうしてこのような決着となったのか。中小企業にも幅広く法人実効税率の引き下げの恩恵が及ぶようにするには、すでに15%にまで下げられている法人税率をさらに下げることでもしなければならない。
しかし、日本で法人実効税率が他国より高いのは、大企業に適用されている税率が高いからである。そうなると、税率の引き下げの焦点は大企業に適用されている税率が主となる。
税率引き下げの恩恵が受けられる大企業には、その代替財源としての課税ベースの拡大は求めやすい。しかし、税率引き下げの恩恵が中小企業にほとんど及ばない中で、赤字法人が多いとされる中小企業にも税負担を求めるような課税ベースの拡大を行えば、中小企業を狙い撃ちにしたかのように増税となってしまう。いわば、「大企業は減税、中小企業は増税」となると、経済界はまとまらない。
■外形標準課税の適用拡大で一致した総務省と財務省
そうなると、法人税改革の具体策は、なにかと大企業が対象とならざるを得ないことが、今回の議論の背景にある。しかも、外形標準課税は大企業にだけ適用されており、法人実効税率の引き下げと引き換えに、外形標準課税の適用拡大も求めやすかったのだろう。
税率引下げと課税ベース拡大の効果がどの企業にどう及ぶかは、本来注意深く分析して、改革策を取りまとめるべきものだ。税制改正論議の経緯を見ると、首相官邸サイドは税率引下げに強くこだわったが、課税ベース拡大策にはあまり関心がなかったフシがある。官邸サイドは税率引下げで手柄を上げた。
他方、外形標準課税の適用拡大は総務省がいわば「悲願」としていることであり、これを実行すれば地方の法人事業税(所得割)の税率を下げることで国と地方を合わせた法人実効税率が下げられるので、国の法人税率をそれだけ下げずに済むという財務省の思惑もある。外形標準課税の適用拡大は総務省と財務省はともに認めていたと言ってよい。両省は、課税ベース拡大のところで実をとった。
2015年度の税制改正大綱は、以上のように決着したが、2016年度改正においても、課税ベースの拡大等により財源を確保して、2016年度における税率引き下げ幅の更なる上乗せを図ることがうたわれた。さらに、その後の年度の税制改正においても、引き続き、法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して、改革を継続するともしている。
したがって、今回取りまとめられた法人税改革は、第1弾であって、最終形ではない。始まったばかりの今年も、法人税改革の議論はさらに続く。
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