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トヨタの近未来の敵は?(写真は、トヨタのFCV「MIRAI」、撮影:梅谷秀司)
5年後、トヨタ最大の敵はグーグルになる 競争領域の“高次元化”が止まらない!
http://toyokeizai.net/articles/-/57672
2015年01月12日 泉田 良輔:GFリサーチ合同会社 代表 東洋経済
最近、メディアで「自動運転車」についての報道を見かける方も多いのではないだろうか。
運転が苦手でも自由に好きなところに行けるようになったり、飲酒運転による事故が減る可能性があるなど、メディアでは期待とともに取り上げられている。これまでは自動車産業とは無縁だったインターネット広告企業であるグーグルが、自動運転車の開発に乗り出すといった話題も増えている。
グーグルだけではない。新興の電気自動車メーカーであるテスラ・モーターズも、自動運転に積極的に取り組んでいる。
今後、自動運転車は、夢の乗り物として多くの人に受け入れられていくのであろうか。その中で、これまで世界の自動車産業で競争優位を確立してきた日本の自動車メーカーは、どうなってしまうのであろうか。これまでの自動車産業の覇者・トヨタはどのように打って出るのか。
■気になる動きを見せるグーグル
グーグルは巨大なデータセンターを運営し、スマートフォン向けOSであるアンドロイドを開発するなどICT(情報通信技術)領域では圧倒的な地位を確立している。最近は自動車に直接搭載するアンドロイドの開発を準備しているという報道もあり、自動車産業にどのように食い込もうか画策しているように見える。
しかし、トヨタも今であれば、分厚い株主資本を背景とした「資金調達における優位性」を活用して、グーグルに対抗することができるというのが筆者の見方だ。
グーグルは、これまで利益成長を牽引してきたインターネットの検索広告のモバイルシフトに苦しみ、将来的な収益源を模索する状況が続いている。一方、トヨタも日本人が思い込んでいるほど“リーン”でもない。
両社は共に世界を代表する企業であるが、共に課題を抱えている。トヨタがグーグルに対して先手を打つことで、自動車メーカーとして生き残り、自動運転車の時代でも覇権を握り続けることができる可能性がまだ残されている。もし、トヨタがそれに失敗すれば、日本人が「産業の最後の砦」ととらえている自動車産業が、崩壊する可能性もある。
筆者は自動運転車が自動車の産業構造を変えるだけではなく、鉄道、電力、通信、金融業界や、それらの監督官庁による規制を含めた「社会システム」にも大きな影響を及ぼすと考えている。そして最終的には自動運転車は、「都市デザイン」を変えるほどの影響がある強力なアプリケーションだと考えている。
実際、グーグルのトップマネジメントも、グーグルグラスをはじめとしたハードウエアを中心に開発するプロジェクト「Google X」では、「自動運転車が最も大きなインパクトを与えるだろう 」と語っている。
■電気自動車が優勢になれば、日本勢は危うい?
そもそもグーグルが、世の中の仕組みそのものを変えるきっかけにもなりうる自動運転車に期待を寄せるのはなぜか。それは「都市や社会システムに大きく関係するハードウエアにおいて、主導権を握りたい」と考えているからであろう。
自動運転車の駆動プラットフォームが、ガソリン車のままなのか、それとも電気自動車なのかの議論はあるが(燃料電池車の駆動プラットフォームは電気自動車である)、充・給電の技術的変化を考慮すれば、電気自動車ベースの自動運転車のほうがガソリン車ベースのそれと比較すると、変化余地や拡張性があるように見える。
自動車が電気で動くようになれば、日本の自動車メーカーが競争優位を確立してきたエンジンは不要になる。
電気自動車では、駆動プラットフォームに必要な基幹部品は、主にはモーター、インバーター、バッテリーだ。電気自動車では、ガソリン車と比べて部品点数は大幅に減少する。これまで必要だった部品が必要なくなり、結果、自動車の「バリューチェーン」が大幅に短縮化されることになる。
バリューチェーンとは、ひとつの製品が研究開発を経て、原材料購入・製造から顧客に届くまでの間で、「どこで付加価値が生み出されているか」に注目したつながりを言う。高品質な製品を最適なタイミングで顧客に届けるためには、自社や下請けを含めた多くの関係者のハイレベルな仕事が要求される。そのため、バリューチェーンが長い(社内外の関係者が多い)ほど、その分野の監督官庁との人脈や事業経験、技術などの蓄積のない新規参入者にはハードルが高くなる。
現在の自動車部品メーカーは、事業ポートフォリオの整理の準備だけではなく、生産プロセスの見直しや資金調達での競争優位を高めなければならない。なぜか? 「バリューチェーンが短くなる」ことは、「ハードルが下がり、新規参入者が増える」ということを意味するからだ。
■競争のルール自体が変わる?
自動車産業を取り巻く環境の変化はそれだけではない。「競争のルール」自体が変わりつつあるのだ。
これまでの自動車産業では、燃費や環境規制対応の分野で競争のルールが確立していた(上図の@)。そして、そのルールの中の勝者が日本の自動車メーカーだった。
しかし、その競争のルールが、ADAS(先進運転支援システム)をはじめとして、「ハードウエアとしての自動車の安全性をいかに担保することができるか」というものにシフトしてきている(A)。競争領域がシフトする際には、技術がきっかけになることが多いが、現在もそのパターンだ。そして、すでにその影響が表れている。
エンジンからトランスミッションなどを経てタイヤに駆動力を伝える一連の装置を「パワートレイン」と呼ぶが、これを得意とするドイツの自動車部品メーカー、ZFフリードリヒスハーフェンが、米国のTRWオートモーティブを買収すると発表している。TRWはエアバッグなどの安全技術を持っている。また、日本でもパナソニックが、スペインの自動車向けミラーメーカーであるフィコサ・インターナショナルへの出資を決定したりしているが、これも自動車の「安全性」に関する事業ポートフォリオ強化の目的によるものだと考えられる。
上図のAに関しては、もともと欧州を中心とした既存プレーヤーが先手を打っていた格好だ。BMW、ダイムラー、ボッシュなどをはじめとして、2003年にAUTOSAR(オートザー)という組織を設立し、車載向け基本ソフトウエアの標準化を進めている。
バリューチェーンの中で、安全性に関する自分たちの基準を国際標準にしようとする「デジュール戦略」を推し進めようとしているのだ。デジュールとは、国際機関などにより決められた“公式の標準”のことで、事後的な“事実上の標準”を意味するデファクトの対義語である。
その流れでイニシアティブをとるために、必要な技術や企業を買収したいと考える企業もあるであろうし、多額の研究開発費用を負担できずに売却しようとする経営者もいるであろう。まさに、現状の業界再編がそれだ。
自動運転車の競争領域のシフトはこれだけにとどまらない。実は「自動運転」といっても2種類がある。
ひとつは、オートパイロット(Autopilot)と呼ばれるもので、飛行機のパイロットが離陸後に活用するような操縦支援をするものと考えてよいだろう。そしてもうひとつが、自律運転(Self-driving)と呼ばれる、搭乗者が運転にかかわることなく目的地に到着できるものだ。
前者はテスラが好んで使う概念であり、比較的近い将来の自動運転と考えてよい。後者は、グーグルが開発をしている自動運転技術であり、ハードウエアの開発だけではなく、そのハードウエアを運用するために必要な「システム」にまで取り組まなければ実現できないものだ。
自律運転の世界が実現する際には、競争領域は前出の図のA「ハードウエアの安全性」の競争から、B「システムの安全性」にシフトしているだろう。そしてそのシステムを確立するためには、システムを運用するためのインフラ整備だけではなく、ICTを活用してハードウエアを制御したり、そのハードウエアを運用したりするためのエネルギー調達が重要となってくる。
■都市をデザインする必要性
つまり、自律運転を可能にする自動運転車が走り回るためには、「都市」をデザインしなければならないことになる。
こうしたデザインを実行することができる企業が、世界にはたして何社存在するであろうか。都市をデザインし、構築し、運用するためには、「資金調達」が競争優位を確立するうえで非常に重要となる。ハードウエアとしての自動車をつくることができればいい、という次元の話ではない。はたして、既存の自動車メーカーに、こうしたスケールの事業を運用することができるであろうか。
グーグルには、「Google X」のほかに、「Google Y」といわれるプロジェクトが存在しているようだ。グーグルのラリー・ペイジCEOは、超効率的な空港の建設に興味を示しているとも言われる。また、グーグル傘下のベンチャーキャピタルであるGoogle Venturesの投資先には、都市デザインにかかわる企業も含まれている。
このように自動運転車は、「都市」を舞台に、さまざまな産業を巻き込んで繰り広げられる、極めてスケールの大きな「異種格闘技戦」のきっかけになるはずだ。
自動車というハードウエアがネットワークに接続され、ハードウエアの使い勝手が、ネットワークの先にあるサービスプラットフォームに左右されるようになれば、「ハードウエア単独の競争」ではなくなる。
■教訓にしたい、日本の電機産業の惨敗
こうした自動車産業の状況と構造的に酷似しているのが、アップルやサムスンに苦杯をなめた、数年前の日本の電機産業だ。
かつてスマートフォンが登場した際には、デジタルカメラや携帯型ゲーム機、ナビゲーションといった機能が次々と携帯電話に取り込まれ、それまでスタンドアローンであったハードウエアが、移動通信システムによりネットワークに接続された。その結果、「ハードウエア」から「システム」へ、競争領域がより高い次元にシフトしたのである。
このようにして、ハードウエア専業メーカーは、競争領域の「高次元化」に巻き込まれ、これまでの競争優位がもろくも崩れ去ってしまったのだ。
日本人はこうした動きを「ハードとソフトの戦い」ととらえがちだが、それは違う。「ハードとシステムの戦い」だと認識すべきだろう。
このような「敗戦」を振り返ったとき、日本の電機産業の反省として言えるのは、競争領域をシステムにまで広げられることで、ハードウエアの領域での競争領域を奪われてしまったということである。
過去の日本の電機産業の「負けパターン」を顧みれば、トヨタをはじめとした日本の自動車産業が練るべき策は明らかだ。自動運転技術も、オートパイロットから自律運転へと変化していくのを前提としたとき、日本の自動車産業が、今後、いかに「システム」で優位に立つことができるかが重要である。
そのシステムの競争優位を決定づけるのは何か。筆者は、「ハードウエア」「ICT」「エネルギー」の3つの要素と考える。
トヨタなど日本の完成車メーカーは、ガソリン車をはじめハードウエアの作り込みに競争優位があったのは、多くの知るところである。今後、エネルギー調達に強みを持たないトヨタが勝ち抜くには、「ICT」が焦点になってくる。
競争領域の高次元化はとどまることを知らない。グーグルは衛星動画を撮影することができるSkybox Imagingを買収し、テスラの創業者であるイーロン・マスクCEOやアマゾンのジェフ・ベゾスCEOも宇宙事業を行っている。今後、「Google Z」というプロジェクトが生まれ、その領域が宇宙であった場合、これまで日本の産業を牽引してきた電機や自動車産業は、その競争領域の高次元化に、はたしてついていくことができるであろうか。自動運転車は、そうした「超長期の競争領域シフト」の前哨戦とも言える。
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