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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第108回 日銀インフレ目標2%の矛盾
http://wjn.jp/article/detail/7997980/
週刊実話 2015年1月22日 特大号
意外かも知れないが、日本は他国と比べた相対的な数値で見ると、「輸入大国」でも何でもない。日本の輸入依存度(財の輸入÷名目GDP)は17%程度('13年)、主要国の中ではブラジル、アメリカに次いで低い。
とはいえ、我が国が「エネルギー輸入大国」であることは間違いないのである。2011年の福島第一原発の事故を受け、我が国ではLNG(液化天然ガス)と原油の輸入が急増した。結果、我が国の鉱物性燃料の輸入は、全体の三分の一の水準に至っている。
すなわち、我が国の物価や経済は、原油価格やガス価格の変動の影響を受けやすいのである。LNGの価格は、基本的には原油価格に連動するため、原油先物の価格が上がれば、日本の消費者物価は「輸入物価上昇」の影響で引き上げられる。逆に、原油先物が下がれば、「輸入物価下落」の影響を受け、消費者物価は引き下げられる。
もちろん、「食料(酒類を除く)とエネルギーを除く消費者物価指数」すなわちコアコアCPIであれば、エネルギー価格変動の影響をある程度は排除できる。ところが、日本銀行のインフレ目標はコアコアCPIではなく、「生鮮食品を除く消費者物価指数」すなわちコアCPIで設定されているのだ。
結果、様々な「矛盾」が噴出し始めているのである。
改めて「消費者物価指数(CPI)」について解説するが、我が国の消費者物価指数には、主に三つの種類がある。
◆CPI(総合指数):エネルギーや生鮮食料品など、日本の需給関係と無関係に価格が変動しがちな商品を含む消費者物価の総合指数。
◆コアCPI(生鮮食品を除く総合指数):生鮮食料品を除いた消費者物価指数。エネルギー価格の影響を受ける。
◆コアコアCPI(食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数):天候や外国の影響を受けやすい食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く消費者物価指数。実は、グローバルで「コアCPI」といえば、この指標のことを示す。なぜか、日本銀行だけ「グローバルなコアCPI」を「コアコアCPI」と呼び、オリジナルな「コアCPI(生鮮食品を除く総合)」という指標を用いている。
12月22日、黒田東彦日銀総裁がNHKのインタビューで、最近の原油価格の大幅な下落について、短期的に物価を下押しするものの、今後、景気や物価を押し上げると語った。日銀のインフレ目標はコアCPIで設定されているため、原油価格(エネルギー価格)が下がると、下落圧力を受けることになる。
ところで、そもそも現在の日本政府及び日本銀行の物価に関する「政策目標」とは、何であろうか。インフレ率を引き上げることそのものではない。インフレ目標を設定することで、消費や投資を促し、「国民の所得」を安定的な増加に持っていくことだ。
国民の所得が増えない中、物価のみが上昇すると、実質賃金が下落してしまう(そうなっている)。実質賃金の下落は国民の「貧困化」である。インフレ目標をコアCPIで設定していた場合、国民が貧困化する中、原油価格の上昇で「インフレ目標2%達成」という事態が普通に起きえる。何しろ、コアCPIは外国から輸入するエネルギー価格を含む物価指数なのだ。
当たり前だが、外国から輸入する原油の価格が上昇し、それを日本の事業者が消費者物価に「そのまま上乗せ」した場合、日本のGDP(所得)は一円も増えない。増えるのは、日本に石油を輸出した外国のGDPになる。輸入とは、日本のGDPにとって控除項目なのだ。
(1)日本の原油輸入1リットル100円+日本のガソリン販売1リットル(消費)150円
(2)日本の原油輸入1リットル200円+日本のガソリン販売1リットル(消費)250円
(1)と(2)において、日本のGDPはそれぞれ幾らになるだろうか。答えは、両方とも同じ50円だ。GDPとは「付加価値」の合計であり、売上の合計ではないのである。そして、日本の付加価値が拡大しなければ、日本国民の所得は増えない。
「日本国民の所得拡大」を目的にするべき日本政府や日本銀行が、エネルギーを含むコアCPIでインフレ率を測っている時点で、奇妙極まりないのだ。
外国から輸入する原油価格上昇でコアCPIが上昇しても、日本国民の所得が増えているとは限らない。むしろ、エネルギーコストの上昇は国民の可処分所得を減らし、内需を縮小させる方向に機能する。
というわけで、黒田総裁の認識「原油安が景気や物価を押し上げる」は、認識として間違っているわけではないのだ。問題は、その場合は、国民の可処分所得を増やす原油安が「コアCPI」を押し下げるため、日銀のインフレ目標達成を困難にするという、意味不明な環境が生じてしまうことである。
日本銀行は、早急にインフレ目標の「定義」を、コアCPIからコアコアCPI、あるいはGDPデフレータに変更するべきだ。さもなければ、原油安で国民の可処分所得が増え、実質賃金のマイナス幅が縮小する(縮小するだろう)環境下において、日銀のインフレ目標達成がどんどん困難になるという、訳がわからない状況に至るだろう。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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