02. 2015年1月09日 18:00:46
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コラム:未年の波乱、低すぎる米金利でマグマ蓄積へ=熊野英生氏 2015年 01月 9日 16:53 JST 熊野英生 第一生命経済研究所 首席エコノミスト[東京 9日] - 未(ひつじ)の年はあまり縁起の良い年ではないそうだ。干支の未は、相場の格言では「辛抱」という年らしい。辛く苦しいことを我慢する、耐え忍ぶのが2015年に肝心だという。 辛抱強いは英語で「patient」である。12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、声明文が書き換えられ、「can be patient」という表現で利上げを辛抱する姿勢を示した。米連邦準備理事会(FRB)は、景気が良くなって正常化=利上げを開始したいと思うが、できるだけ利上げを辛抱するという。今年は、まさにFRBの辛抱にかかっている。 筆者は、FRBの利上げに対する警戒感がまだ薄いように思う。仮に、2015年6月にFRBの利上げが行われれば、2004年6月以来の金融引き締め。しかも、リーマンショック後の巨大な過剰流動性を引き揚げるという意味で、巨大な不確実性が隠れているはずだ。 すでに、2013年5月のバーナンキFRB議長(当時)の発言による新興国通貨の下落、2014年1月のアルゼンチン・ペソの急落そして12月のロシア・ルーブルの暴落、と3度も混乱が起こっている。過剰流動性が解消される不安が、買われ過ぎていた新興国通貨の売りを誘っている。ドル資金の巻き戻し現象である。原油急落の原因にも、マネーの巻き戻しがあるかもしれない。 <ひっ迫しやすい債券需給> ところで、米国の利上げの影響は相場形成に十分に織り込まれているのだろうか。例えば、米長期金利は、10年金利で1.974%(1月7日)。一方、12月のFOMCで示されたメンバーの政策金利予想は、2年後の2017年末で3.625%(中央値)となっている。数カ月後に迫っている利上げは、あまり強く意識されていないのではあるまいか。2004年6月以降の利上げ局面でも、上昇しない長期金利をみて、当時のグリーンスパンFRB議長が「コナンドラム(謎)」と言っていたことを筆者は思い出す。 ひとつの見方は、すでに新興国通貨が売られ、その資金がドルにシフトしたという解釈。質への逃避である。通常であれば、米経済が強いという前提で、インフレ予想が高まり、米長期金利が上昇してもおかしくない。今回は、カネ余りが大きかった分、利上げの反動を恐れた資金が、前もって債券市場に多く流入したのだろう。 もうひとつの見方は、米国の財政再建の影響。最近の米財政赤字は、2010年に比べて4割も縮小している。財政赤字が縮小すれば、国債発行は減り、債券需給の改善によって金利は下がる。日本を含めた先進国全体の政府債務残高(グロス)でみても、2013年は対名目国内総生産(GDP)比が2008年以降で初めて低下した。これは、マネーの総量に比べて、相対的に国債の総量が少なくなり、債券需給がひっ迫しやすくなっていることを示す。 日本の場合でも、日銀の資産買い入れによって流通市場における長期国債の量が少なくなっている。欧州中央銀行(ECB)が量的緩和を始めれば、市場に供給される長期国債の総量が一層減ることで、世界的な債券供給の不足感が、長期金利低下をさらに進めるだろう。 <継続する過剰流動性> では、米国で利上げが始まれば、米長期金利が上昇して、世界のカネ余りが解消されるのだろうか。そこでは、原油安によってカネ余りが温存されるだろう。 利上げが既定路線となっているFRBを除き、日銀もECBも、物価上昇圧力が弱まって、緩和モードである。原油安は、物価上昇率を低位に抑える。ユーロ圏では、消費者物価総合指数の前年比が2014年12月、ついにマイナスに転じた。ユーロ圏に限らず、原油安で物価が上がりにくい環境は、各国の中央銀行に金融引き締めを思いとどまらせる効果を持つ。 筆者は、過剰流動性が米国発からいずれ日欧発にスイッチするかたちで継続するとみる。2015年央の米利上げは、それなりの混乱を起こすだろうが、時間が経過すると日欧の量的緩和によって落ち着くのではあるまいか。 また、今後、長期金利低下が長引くことは、長期運用資金をリスクテイクに駆り立てる結果を招くだろう。これほど各国長期金利が下がると、運用難が極端なほどに進む。すると、社債などのリスク性資産の買われ過ぎが起こり、クレジット・スプレッドがタイト化する。信用リスクの低下は、間接的に株価の押し上げにもつながる。ただし、ハイイールド債などに人気が集まり過ぎると、利回りが極端に下がって、万一のリスクを吸収するために必要な蓄積がなくなる。長期金利が需給要因で下がり過ぎると、金融ショックに対するシステムの脆弱性という予期せぬ変化を生む。 確かに、2015年に経済が強くなり、かつ長期金利が低いことは歓迎すべきことだが、その中で歪みが蓄積されることは注意しなくてはいけない。思い出すのは、2000年代前半の米住宅バブルである。むろん現在、2006年のサブプラムローン問題はない。証券化バブルも再現されそうにない。あるとすれば、先進国から新興国に投資された資金が、新興国の経済悪化によって焦げ付くようなリスクではないか。資源価格の急落によって資源国経済がおかしくなるかもしれないという不安はその先取りでもあろう。 達観すると、2015年に米国で利上げが行われて、世界的な過剰流動性が速やかに正常化するとは思えない。カネ余りは、日欧の金融緩和で温存されるだろう。2015年は、目先のリスクよりも、歪みが構造的に貯め込まれるリスクに、もっと目を向けていく必要があろう。 *熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0KI0EW20150109
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