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[田村秀男]【新自由主義に決別し、格差是正せよ】〜法人税減税に重大な疑義〜
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150105-00010003-jindepth-soci
Japan In-depth 1月5日(月)18時0分配信
ことしは日本でも格差是正に向けた議論が高まりそうだが、問題の本質はどこにあるだろうか。
まず、仏経済学者のトマ・ピケティは世界的なベストセラー「21世紀の資本」で「資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す」(邦訳本=みすず書房刊=の内容紹介から)と断じている。それを「ピケティの定理」と名付けよう。
最近の日本はどうか、さっそくデータを調べてみた。まずは、法人企業統計(財務省)からとった総資本経常利益率を「資本収益率」に、国内総生産(GDP)の実質成長率を「産出と所得の成長率」にみなして、それらの推移を追ってみた。すると、興味深いことに1997年度以降、資本収益率が実質成長率を一貫して上回っているではないか。
それまではおおむね成長率のほうが収益率を上回ってきた。下回ったときは石油危機、プラザ合意による急激な円高、90年代前半のバブル崩壊というふうな「ショック効果」と言うべきで、成長率は1,2年で元通り収益率を上回る軌道に回帰している。ピケティの定理を前提にするなら、日本経済は97年度以降、「格差」の時代に突入したことになる。
97年度と言えば、橋本龍太郎政権が消費税増税と公共投資削減など緊縮財政路線に踏み切り、日本経済は一挙に慢性デフレ局面にはまりこみ、今なお抜け出られないでいる。経済の実額規模である名目GDPは2013年度、97年度に比べて7.3%、38兆円のマイナス、国民一人当たりで年間3万円も少ないのだ。
「デフレは企業者の生産制限を導き、労働と企業にとって貧困化を意味する。したがって、雇用にとっては災厄になる」と、かのケインズは喝破したが、格差拡大所得の元になるGDPが縮小してみんな等しく貧しくなるわけではない。
デフレは格差拡大の元凶である。一般に現役世代の賃金水準が下がるのに比べ、預金など金融資産を持っている富裕層はカネの価値が上がるのでますます豊かになる。給付水準が一定の年金生活者は有利だし、勤労者でも給与カットの恐れがない大企業や公務員は恵まれている。
デフレで売上額が下がる中小企業の従業員は賃下げの憂き目にあいやすい。デフレは円高を呼び込むので、生産の空洞化が進み、地方経済は疲弊する。若者の雇用の機会は失われる。
慢性デフレの局面でとられたのが「構造改革」路線である。モデルは米英型「新自由主義」である。1997年の金融自由化「ビッグバン」で持ち株会社を解禁した。2001年に発足した小泉純一郎政権は、日銀による量的緩和とゼロ金利政策で円安に誘導して輸出部門を押し上げる一方で、郵政民営化で政治的な求心力を高め、米国からの各種改革要求に応じた。
製造業の派遣労働解禁(2004年)など非正規雇用の拡大、会社法(2006年)制定など株主中心主義への転換などが代表例だ。法人税制は98年度以降、2002年度までに段階的に改正され、持ち株会社やグローバルな企業の事業展開を後押ししている。
小泉政権までの自由化・改革路線は外国の金融資本の対日投資を促す一方で、日本の企業や金融機関の多国籍化を促すという両側面で、日本経済のグローバル標準への純化路線であり、それを通じて大企業や金融主導で日本経済の再生をもくろむ狙いがあった。結果はどうか。
全企業が従業員給与100に対してどれだけ配当に回しているかを年度ごとにみると、1970年代後半から2001年度までは3前後(資本金10億円以上の大企業は7台)だった。この比率は、02年度からは徐々に上昇し、03年度は11.5(同32)と飛躍的に高まった。小泉改革路線は伝統的な従業員中心の日本型資本主義を株主資本主義に転換させたのだ。この構図は、従業員給与を可能な限り抑制して利益を捻出し、株主配当に回す、グローバル標準の経営そのものである。
このパターンでは経済成長率を押し上げる力が弱い。GDPの6割を占める家計の大多数の収入が抑えられるからだ。名目賃金上昇率から物価上昇率を差し引いた実質賃金上昇率は97年以降、ほぼ一貫してマイナスである。賃金はマイナス、配当はプラスという、株主資本主義は機関投資家や海外の投資ファンドを引きつけても、実体経済の回復に貢献するとは考えにくい。需要減・デフレ・賃金下落という悪循環だけが残る。
そこで、安倍晋三首相が追求する一部の政策には重大な疑問が生じる。まず、法人税実効税率の引き下げだが、巨大な配当収入に対する課税を免れる多国籍大企業や金融大手の法人諸税の負担率は極端なまでに低い。これらの法人向け減税は、配当を求める株主資本主義の欲望を満たすだけではないか。首相が経団連首脳に賃上げを求めるのは悪くない。だが、首相が口先介入して、おいそれと応じる企業の経営者はこれまで一体何をしてきたのか、と外部からは不思議がられるだろう。
安倍首相が本格的に取り組むべきは、これまで20年近くに渡って日本経済の路線となってきた新自由主義に決別し、格差社会の勝者を太らせる政策を廃棄し、旧世代や新世代を支え、養う現役世代を勝者にさせる政策への転換ではないか。
田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)
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