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家計貯蓄率がマイナスに
内閣府が発表した2013年度の国民経済計算確報によると、低下傾向にあった日本の家計貯蓄率はついにマイナス1.3%となった。
日本の家計貯蓄率は1970年代半ばには20%以上もあったが、2000年代に入る頃には5%程度に低下していた。日本の家計貯蓄率が低下してきたのは、人口の高齢化によるところが大きい。
日本の高齢者は年金をもらっても貯蓄してしまうという誤解があるが、引退して仕事をしなくなった高齢者は、公的な年金に加えて自分が蓄えた貯蓄を少しずつ取り崩すことによって生活しており、貯蓄率はかなりのマイナスだ。人口の中で貯蓄を取り崩す高齢者の割合が高まることで、日本の家計貯蓄率は徐々に低下してきた。
我田引水でお恥ずかしいが、筆者はかつて「貯蓄率ゼロ経済」という本を書いている(*1)。2020年頃には日本の家計貯蓄率がゼロになり、日本経済は大きな変化を経験するという趣旨だった。
出版当時は、日本の貯蓄率がゼロになり経常収支の黒字が消滅するという筆者の予想に対して懐疑的な反応が多かった。しかし現実は、筆者の予想を上回るスピードで家計貯蓄率が低下して、2020年を待たずにマイナスに突入してしまった。
貯蓄に対する発想の転換
日本経済が需要不足に悩まされる中で、貯蓄優遇は消費を抑制するとして否定的に見られることが多かった。家計は手取り所得の中から毎月の消費支出を賄い、残りを貯蓄する。貯蓄率が高いことは消費に使われるお金が少ないことを意味するので、特に日本の貿易黒字を批判する海外から問題とされることが多かった。
日米の経済摩擦が激しかった時代の応酬と言えば、米国が日本の貯蓄過剰を批判し、日本は米国の貯蓄不足を指摘してやり返すというものだった。
米国が批判の槍玉にあげたのは、マル優、特別マル優と呼ばれた貯蓄優遇制度であった。少額貯蓄非課税制度によって、一人当たり300万円までの預金の利子が非課税とされ、郵便貯金は300万円まで、国債も特別マル優(少額公債非課税制度)で300万円まで非課税だったので、合計すると一人当たり900万円までの貯蓄が非課税だったことになる。
こうした貯蓄に対する非課税制度は、日米協議の結果1988年に原則として廃止となっている。
バブル崩壊後の経済では需要の不足が常に問題となり、常に消費の拡大が課題とされてきたが、これはとりもなおさず貯蓄率を引き下げようとしていたことになる。しかし、貯蓄率がマイナスになった現在、貯蓄に対する発想の転換が必要になっているのではないだろうか。
老後生活の自助努力促進
家計貯蓄は、企業が資金を借り入れて設備投資を行ったり、政府が国債を発行して財政赤字を賄ったりするための原資である。
日本の高齢化がさらに進み、貯蓄を取り崩す高齢者が増えることは誰の目にも明らかだ。家計貯蓄率がさらに低下して企業の投資や財政赤字を賄う資金を国内だけで調達することができなくなれば、海外からの借り入れに頼らざるを得なくなる。
日本の家計貯蓄率がマイナスとなったことは、とにかく家計にどんどんお金を使わせれば良いという発想だけでは日本経済の抱える問題を解決できない時代になったことを意味している。
日本経済全体としてみると家計貯蓄が多すぎるという問題は無くなったのだから、日本社会にとって必要な貯蓄を奨励することにも眼を向けるべきではないか。
2060年には65歳以上の高齢者の割合が約4割となる日本では、公的な制度だけによる老後保障には限界がある。こうした状況下で余裕のある老後生活を実現するには、個々の国民の自助努力を促す以外に方法はない。
老後対策として家計の自助努力をサポートするための貯蓄優遇制度の充実なども、真剣に考える価値があるのではないだろうか?
http://bylines.news.yahoo.co.jp/hajikoichi/20150101-00041885/
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