http://www.asyura2.com/14/hasan92/msg/571.html
Tweet |
JBpress>日本再生>日本経済の幻想と真実 [日本経済の幻想と真実]
原油安の「神風」を止めたアベノミクス
倒錯した金融政策が日本経済の体力を消耗する
2012年末の総選挙で、自民党の安倍晋三総裁が「輪転機をぐるぐる回して日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう」と宣言したことが、アベノミクスと呼ばれる経済政策の原点だった。彼によれば、日銀がお札を刷れば日本経済は「デフレ脱却」し、経済は一挙に回復するはずだった。
それから2年たち、日本経済は改善したのだろうか。11月のコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)上昇率は0.7%と10月より0.2%下がり、日銀が目標としている2015年3月にはゼロに近づくだろう。貿易赤字は史上最大を記録し、2014年度の実質成長率はマイナスになる見通しだ。何が間違っていたのだろうか?
アベノミクスの目的は円安誘導による「日本売り」
2年前に安倍氏が経済を理解していたとは思えないが、側近にはリフレ派と呼ばれる奇妙な経済理論を信じる人々がいた。それに乗って彼は「デフレ脱却議員連盟」の会長になり、リフレを政策の看板に掲げた。
彼のブレーンになった浜田宏一氏(内閣官房参与)は「日銀がエルピーダをつぶした」と公言し、円高を放置したことがデフレの原因であり、金融を緩和すれば日本経済はよみがえると主張した。
翌年4月に黒田東彦氏が日銀総裁に就任して「2年で2倍」の量的緩和を約束したとき、その狙いは物価ではなく為替レートだった。かつて財務省で「円高ファイター」として活躍した黒田氏にとって、1ドル=80円台の過剰な円高が景気回復の障害になっていることは明らかだった。
しかし政府が為替レートの操作を行うことは通貨の切り下げ競争を招くので、「2%のインフレ目標」という暗号で、世界の投機筋に「日本を売れ」というシグナルを出したのだ。日銀が際限なく円を供給する政策は円売り介入のようなもので、1年半で1ドルは120円まで50%近く上がった。
日本株が割安になったため、株式市場の主役である海外投資家が株を買い上げ、日経平均株価も2倍近くまで上がった。これによって輸出産業は競争力を回復し、日本経済は一挙によみがえるはずだった。
ところが株価以外のマクロ経済指標は、ほぼ全滅だ。政府はあわてて「円安対策」の補正予算を組んだが、日銀が円安誘導しておいて円安対策とは、笑止千万である。それなら最初から、円安に誘導しなければよかったのだ。
「デフレ脱却」にこだわると原油安が生かせない
いい材料もある。原油価格は、半年で1バレル=110ドルから50ドル台に半減した。これは日本経済にとって「神風」ともいうべき幸運だが、日銀の黒田総裁は「原油安でデフレ脱却が困難になった」として、10月末に追加緩和した。
これによって1ドル=120円台を突破した結果、図1のように今年後半、原油価格がドル建てで半減した時期に、円建てでは30%ぐらいしか下がっていない。せっかくの原油安の半分が、ドル高で相殺されてしまったのだ。
日本の電力会社が大量に輸入しているLNG(液化天然ガス)の価格も原油に連動するので、これとほぼ同じ動きを示している。2011年の東日本大震災以降、民主党政権が原発を法的根拠なく止めたため、日本のエネルギー供給は不足している。そこに原油価格の上昇が加わり、ドル高になったため、日本経済は三重苦の状態だ。
原油価格が暴落する幸運に恵まれたのに、日銀がそれを妨害している。黒田総裁は、いまだに「インフレ期待を起こす」ことを目的にしているが、こんな金融政策を続けていると、原油安というチャンスが生かせない。
インフレ自体に意味はなく、それを日銀が自由自在に操ることもできない。それは2年近い「実験」で分かったはずだが、黒田総裁の面子のために2%のインフレを実現するのは本末転倒だ。
日本経済のGDPギャップ(実質GDP−潜在GDP)がマイナスだった時期には、日銀の「量的・質的緩和」の偽薬効果は小さくなかったが、GDPギャップがほぼゼロになった現在では、その効果はもうない。
円安に歯止めをかけて製造業のグローバル化を
このような金融政策の変化は、実体経済にはほとんど影響を与えていない。次の図は失業率と実質賃金上昇率を見たものだが、2010年からゆるやかに賃金と失業率が下がっている。
リーマンショックで失業率が上がって賃金が下がり、それによって雇用が増える普通の景気循環が起こったのだ。2012年末以降のアベノミクスは、ほとんど影響を与えていない。しいて言えば、2013年から「デフレ脱却」で実質賃金(名目賃金/物価)が大きく下がったことぐらいだろう。
景気が回復するとき、企業収益が上がって雇用が増えない現象を「雇用なき景気回復」というが、日本では賃上げなき景気回復が起こっている。安倍政権は企業に「賃上げ要請」しているが、それは無駄である。この賃下げは、高齢化した正社員が引退して低賃金の非正社員に置き換わる労働の非正規化で起こっているので、正社員の給与を上げても止めることはできない。
日本の単純労働者(非正社員が多い)の単位労働コスト(賃金/労働生産性)は中国などの新興国に比べるとまだ高く、それが新興国の水準に引き寄せられることは避けられないのだ。賃金を上げるには、労働生産性を上げるしかない。
このためにはサービス業の生産性を上げる必要があるが、日本が比較優位をもつ製造業のグローバル化も重要だ。製造業の比率は、所得収支(海外収益)を加算した国民総所得(GNI)ベースで見ると25%以上で、関連産業を加えるとGNIの30%以上を占める。今後とも、付加価値の高い製造業が日本経済のコアである。
他方、雇用の9割近くは非製造業になるだろう。冨山和彦氏(経営コンサルタント)は、こうしたグローバルなG型産業が海外で高い収益を上げて国内に還元し、労働人口の大部分を占めるローカルなL型産業を支えるべきだと言う。
海外投資を増やしてGNIを高めれば、日本経済の将来はそれほど悲観すべきでもない。むしろ問題は、グローバル化が十分進んでいないことだ。「貿易立国」を卒業して海外投資を増やし、「資産大国」になる上では、アベノミクスの円安政策は逆効果だった。自国通貨の価値を下げる倒錯した金融政策はもうやめ、円安に歯止めをかけるべきだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42575
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。