02. 2014年12月30日 23:06:44
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中国のゾンビ工場が支える繁栄の幻想 2014年12月30日(Tue) Financial Times (2014年12月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 巨大な煙突の一群と打ち捨てられた工場の陰に、塗料のはげ始めた看板がある。聞喜鋼鉄工業園区への来訪者を歓迎する看板だ。 しかし近くの村では、働ける年齢の男性と多くの女性がよそに出ていってしまっている。残るのはお年寄りと小さな子供たちだけだ。 「大木を切り倒せば、その周りの小さな木もみんな死んじまう」。69歳になるワン・ペイキンさんは、海鑫鋼鉄集団の経営破綻についてこう話す。同社はかつて中国中部・山西省のこの地で製鉄所を運営していたが、それが先日閉鎖され、繁栄していた周辺地域の経済は壊滅的な打撃を受けている。 「地域全体があの製鉄所に頼り切っていた。今じゃ、若い者は町を出て、国中回ってでも仕事を探さにゃならんのです」 住民の4分の1の生活を支え、県の税収の6割を担ってきた製鉄所 海鑫鋼鉄は、従業員1万人への給与の支払いを6カ月前に停止した。地元の当局の推計によれば、聞喜県の人口40万人のうち、約4分の1の人々の生活がこの製鉄所によって間接的に支えられていたという。 海鑫鋼鉄集団は山西省最大の民間製鉄会社で、聞喜県の税収の60%は同社からのものだった。同社の財務は数年前から厳しい状況にあったものの、そうした事情から地元の政府は同社を破綻させることに消極的だった。 「海鑫鋼鉄はすでに2011年の時点で、死んではいるが死後硬直はまだ始まっていないムカデのような状況だった」。ある当局者は、外国人記者と話をすることが認められていないため名前は出さないでほしいとしながら、こう語る。 「工場は半分以上閉鎖されていた。しかし、代金を前払いしなければ納入業者が原材料などを持ってこないような状況になっても、借金まみれになっても、まだ鉄を作っていた」 今日では、広大な中国のあちこちで同様な光景が展開されている。この国の重工業部門には慢性的な過剰生産能力に苦しむ企業が多々あり、本来は経営破綻すべきなのに、地方政府の支援を受けて生き延びている。 この国では、各地の共産党幹部が裁判所、国有銀行、地方の行政府などに対して強大な影響力を持っており、自分の担当地域で事業に失敗した巨大企業を何としてでも支援する覚悟でいる。 海鑫鋼鉄が破産手続きの開始を政府から認められたのは、つい先月のことだった。同社が破綻状態に陥り始めてから4年も経っていた計算になる。 政府当局がゾンビ企業の破産を認めたがらない理由 生産は停止しているものの正式な破産手続きに入ることがまだ認められていない宙ぶらりんの状態にある――。そのように見られる大手製鉄会社のことを、中国のメディアはここ1カ月だけで少なくとも9社取り上げて報道している。 「破産すべきなのにまだ破産していない企業が、中国には数多く存在する」。北京の法律事務所、中諮律師事務所で破産関連の業務に携わる弁護士のハン・チュアンファ(韓伝華)氏はそう指摘する。 「政府は破産を望んでいない。なぜなら、企業が破産するや否や失業が急増し、税収もなくなるからだ。破産するのを止めておけば、当局は地方の繁栄、経済成長、そして安定した税収という幻影を維持することができる」 オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の推計によれば、中国の銀行セクターが抱える不良債権の残高は2013年の年初から50%増加している。しかし、同セクター全体で見た不良債権比率は非常に低く、1.2%をわずかに上回るにすぎない。 ただ、中国金融当局の幹部らは、実際の比率がこれよりもはるかに高いことはほぼ確実だと非公式に認めている。地方政府が企業の支援を試みているために、実態が分かりにくくなっているのだ。 減速する中国経済 中国の今年の経済成長率は、1990年以降で最も低い水準にとどまりそうだ。1990年と言えば、天安門事件の発生を受けた中国への国際的な制裁がまだ続いていた年だ。 驚異的な経済成長と建設活動に明け暮れた数年間が終わり、中国の不動産セクターの不振は、すでに慢性的な過剰生産能力に苦しんでいる鉄鋼、ガラス、セメントなどの川上産業に深刻な問題をもたらしている。 買収反対で経営者を撲殺、中国の鉄鋼労働者 中国は2013年に世界の粗鋼生産の5割を占めていた〔AFPBB News〕 鉄鋼の場合、中国の生産量は2006年から2013年にかけて3倍に増えた。世界の粗鋼生産量に占める中国のシェアも、2006年の約3分の1から2013年の約50%へと上昇した。 この過剰生産と中国国内の需要鈍化が相まって、製鉄の最重要原料である鉄鉱石の価格は下落しており、世界銀行によれば2011年7月から2014年7月にかけて46%も安くなっている。 現在の傾向が続けば、今年の中国は1995年以降では初めて、年間の鉄鋼消費量の前年割れを経験することになるだろう。 政府は製鉄所の売却を目論むが、負債は誰が払うのか? 海鑫鋼鉄集団はこうした過剰生産能力と競争から大きな打撃を受けたが、この地方のある当局者は、同社のオーナー、李兆会氏の責任も指摘している。李氏は2003年、弱冠22歳で同社のオーナーになった。同氏の父親が、激怒した仕事仲間によって銃で殺害されたことから経営を引き継いだのだ。 李氏は数カ月前から行方が分からなくなっており、本紙(フィナンシャル・タイムズ)は接触することができなかった。 「製鉄所を早急に売却してかつてのように生産を再開させるのが政府の計画です。鉄鋼市場がこれほどひどい状況にあるにもかかわらず、ですよ」。ある当局者は匿名を希望しながらこう語った。 「問題は、あの会社に少なくとも100億人民元(16億ドル)の負債があることです。恐らく、実際はもっと多いでしょう。どこに行けばそれをすべて返済できる人を見つけられるのか、全く見当がつきませんよ」 By Jamil Anderlini in Beijing http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42571 |