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「財政健全化目標は変わっていない」。安倍首相も明言したはずだが、選挙後の経済財政諮問会議では微妙に変化が・・(写真:ロイター/アフロ)
安倍政権、このままでは「ねずみ講財政」だ 財政健全化に早くも逃げ腰?
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2014年12月29日 土居 丈朗:慶應義塾大学 経済学部教授 東洋経済
衆議院総選挙が終わり、12月22日に首相官邸で経済財政諮問会議が開催された。「新内閣における今後の検討課題について」が議題となったのだが、要するに、2020年度の財政健全化目標の実現に向けた議論が行われた。
2020年度に国・地方合わせた基礎的財政収支(PB、プライマリーバランス)を黒字化するという財政健全化目標は、すでに2014年6月の「基本方針2014」で閣議決定され、衆議院の解散を表明する際の記者会見でも、安倍首相はこの目標の堅持を明言した。今般の衆議院総選挙での自民党の政権公約でもそう明記されている。もはや逃げて通れない。
■財政健全化目標が「骨抜き」になる可能性?
ところが、この22日と27日の経済財政諮問会議では、逃げ道を作ろうとする動きが見受けられた。同会議の資料や議事要旨を見ると、PB黒字化というフローの目標も大事だが、政府債務残高対GDP比というストックの指標も重視すべき、とされた点である。これは、前述の財政健全化目標を骨抜きにしかねない。
なぜそうなのか。順を追って説明しよう。財政健全化の究極的な目標は、フローの財政赤字を減らすだけでなく、ストックでの公債残高対GDP比を低下させることである。だから、ストックの指標を重視することは、一見すると、もっともらしい。
問題は、それを実現する政策手段である。公債残高対GDP比を低下させるためにはどうすればよいか。この分母と分子に注目すれば、分子の増加率より分母の増加率が高ければこの比率は下がる。つまり、公債残高増加率より名目経済成長率(名目GDP増加率)が高ければ、公債残高対GDP比が下がる。
経済成長率を高めるには、「アベノミクス」でいえば第3の矢である成長戦略が重要だ。では、公債残高増加率を低くするにはどうすればよいか。財政支出を、できるだけ借金に依存しないようにすればよい、と言えば簡単だが、ここはもう少し精緻にみる必要がある。
厳密な計算が気になる読者は、別途詳細な計算式をご覧頂くとして、この計算結果を踏まえると、わが国では、公債残高増加率は「公債金利マイナスPB対GDP比の2分の1」とほぼ等しくなる。
■名目成長率さえ高くすれば、すべてはうまく行く?
この意味を一言でいうと、公債残高が増えないようにするには、できるだけ利払費が少なければよい。特に、公債金利が低いと利払費も少なくなるので、公債金利が低いと公債残高増加率も低くなる。それとともに、歳出削減を積極的に行ったり、税収をきちんと確保したりすれば、PBが改善する(赤字が減ったり黒字になったりする)ので、PBの値が増える(赤字が減ったり黒字が増えたりする)と、財源を借金に依存しなくてよくなるので、公債残高増加率は低くなる。
ちなみに、最後に2分の1がついているのは、わが国では公債残高はGDPの約2倍になっていることによる。
いったんここで話をまとめると、名目経済成長率が、「公債金利マイナスPB対GDP比の2分の1」より高ければ、公債残高対GDP比が下がる。
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では、どうすればよいか。実は、すでにその答えは、内閣府「中長期の経済財政に関する試算(平成26年7月25日)」が暗示している。
結論から言えば、「名目成長率さえ高くすれば、厳しい歳出削減努力も、消費税率を10%超にする増税もしなくても、公債残高対GDP比は下げられる」と言いた気なのである。
この試算結果については、拙稿「アベノミクスで財政再建は進んでいるのか」で詳述したが、2010年代後半に3%台後半の高い名目成長率が続く「経済再生ケース」でも、2020年度には名目GDP比で1.8%、金額で11.0兆円の基礎的財政収支の赤字が生じるとの結果が出ている。
これと合わせて、同じ試算結果として、国・地方の公債残高対GDP比をみると、消費税率を2015年10月に10%にすることを前提とした結果だが、「経済再生ケース」のように名目成長率が3%台後半になれば、上の図のように、厳しい歳出削減努力も、消費税率を10%超にする増税もしなくても、公債残高対GDP比が2014年度をピークに下がっている。
だから、2020年度の財政健全化目標を達成させるためには、基礎的財政収支の改善に資する歳出削減と税収確保が必要、という話だったのが、先の12月22日と27日の経済財政諮問会議では、基礎的財政収支の黒字化だけでなく、公債残高対GDP比の低下も重視してはどうかという話が出てきたようである。
では、どうして基礎的財政収支が赤字なのに、公債残高対GDP比が図のように低下するのか。それは、前述した名目経済成長率と、「公債金利マイナスPB対GDP比の2分の1」の大小関係が、決め手となっている。
内閣府試算の「経済再生ケース」では、2010年代後半において、名目経済成長率は、前述のように3%台後半である。他方、(加重平均の)公債金利は2%台、PB対GDP比はマイナス2%台である。要するに、かろうじて名目経済成長率が上回るというのが、内閣府の試算結果である。だから、厳しい歳出削減努力も、消費税率を10%超にする増税もしなくても、基礎的財政収支は依然赤字なのに、公債残高対GDP比は低下する結果となっている。
公債残高対GDP比さえ下がれば、基礎的財政収支は黒字化しなくてよい、とまでは言っていないようだが、名目経済成長率さえ高くすれば公債残高対GDP比は下げられるから、公債残高対GDP比を重視すべきだ、と言いたいようである。これでは、第3次内閣が始まる前から、財政健全化の努力を手抜きしていると疑われかねない。
■「公債残高対GDP比重視」の3つの問題点
「名目経済成長率さえ高くすれば公債残高対GDP比は下げられるから、公債残高対GDP比を重視すべきだ」という考え方には、3つの重大な問題がある。
第1は、この路線は、「ねずみ講財政」である。たとえて言えばこうである。親が浪費して、そのつけを借金として子や孫につけ回したとする。子や孫は、それを返済できるだけの所得がないと破産する。
しかし、子や孫の方が親より所得が増えると見込まれるので、返済負担がより軽くなる(公債残高対GDP比が下がることに対応)。しかも、金利負担もあるのだが、借金の利子率より所得の増加率が高いと、これにも耐えられる。
親から子や孫へもそうなら、子や孫もまたその子や孫に同様にして借金をつけ回せばよい。まさにこれは、「ねずみ講」である。名目経済成長率さえ高くすれば、という意味は、まさに「ねずみ講」式に借金をつけ回しても破産しないから大丈夫(=財政健全化できる)、と言っているだけにすぎないのである。
「ねずみ講財政」の重大な問題は、財政支出の便益を受けた親世代が、負担から逃れて、子や孫の世代に負担をつけ回すことである。いまや、国も地方自治体も、公共投資のためではなく、社会保障費をはじめとする経常的経費を賄うために借金を増やしている状態だ。だから、親世代で返済負担を負うと重いから、子孫の所得を増やすべく経済成長に力を入れれば、借金をつけ回しても子孫のためになる、というのは偽善である。子や孫は、借金の元となった財政支出の便益は受けていないのだから。
「ねずみ講財政」は、世代間の受益と負担の格差を拡大させる点で、重大な問題である。
第2に、財政健全化を経済成長に依存しすぎるのは、危険なギャンブルとなることである。公債残高対GDP比が低下すればよいといえども、先の図のように、名目経済成長率が約2%になる「参考ケース」では、追加的な歳出削減や増税を含む税収確保を行わなければ、2020年代に向けて公債残高対GDP比が上昇する試算結果となっている。
名目経済成長率について、「経済再生ケース」と「参考ケース」の差は、わずか1%強である。つまり、「経済再生ケース」で公債残高対GDP比が低下したというのは、十分な余裕をもって下がっているのではなく、紙一重で下がっていただけだったのである。
もし名目経済成長率が「経済再生ケース」ほど高くない結果になってしまったら、公債残高対GDP比が下がるどころか、逆に上がってしまうのである。公債残高対GDP比が上昇してしまうと、ますます国債金利の上昇圧力が将来的に強まることになる。こうした風任せ的な形で公債残高対GDP比が下がったり上がったりするようなギャンブルに賭ける余裕は、日本の財政にはない。
第3に、わが国の財政における歳出構造や税制の解決すべき課題から目を背けることである。社会保障費は、高齢化の進展とともに増大するが、すべてを現状のまま増やしてよいわけではない。
例えば、患者への過剰投薬や頻回重複受診をなくせば、医療の質を下げずに給付を抑制できる。これは一例に過ぎないが、社会保障改革は真剣に取り組むべき課題として残されている。しかし、名目経済成長率さえ高くすれば公債残高対GDP比が下げられるから、それ以上歳出削減に手を付けなくてよい、となれば、こうした問題はそのまま放置されてしまう。
■歳出削減と税収確保の具体策提示を
わが国の税制においても、所得税や法人税において、グローバル化や格差是正に対して的確な対応ができておらず、さらなる改革が必要だ。そして、世代間で税負担を分かち合うには、所得税より消費税が適しており、消費課税へのシフトが欠かせない。こうしたさらなる税制改革も、名目経済成長率さえ高くすれば公債残高対GDP比が下げられる、として手を抜いてしまうことが懸念される。
現時点でこう言ってしまうのは、杞憂かもしれない。否、杞憂であってほしい。しかし、12月22日の経済財政諮問会議での議論は、「名目経済成長率さえ高くすれば公債残高対GDP比は下げられるから、公債残高対GDP比を重視すべきだ」という方向へ向かいかねない危惧を抱かせる。
わが国の財政健全化は、国民にとって耳の痛い話が含まれるといえども、歳出削減と増税を含む税収確保についての具体策が伴ってはじめて達成できるものであり、そのためにも2020年度の基礎的財政収支の黒字化は、堅持しなければならない目標である。そして、その目標達成のためには、経済成長に過度に依存することなく、堅実な形で、歳出削減と増税を含む税収確保についてコミット(約束)しなければならない。
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