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大手電機社長たちに異変 「明るさ」を取り戻した素顔、業績回復と攻めの経営鮮明に
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141227-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 12月27日(土)6時0分配信
年末から年始にかけて、メディア関係者を呼び「懇談(親)会」なる催しを開く企業は多い。多くは立食形式で、会長、社長をはじめとする役員たちを囲んで話を聞く場である。招かれたメディア関係者やアナリストは料理や飲み物を多少口にするが、ほとんど話を聞くことに熱中している。企業の人びとは料理さえ口にしないケースが多く、「懇談会」と称しながらも、一言一句気をつけながら話しているようだ。そこにいる記者たちもいろいろな質問をぶつける。フォーマルなインタビューとは違った気のおけない雰囲気で、1時間半から2時間ほどを過ごす。
筆者はジャーナリスト経験を積んだ経営学者ということもあり、このような会合に呼ばれるケースが少なくない。スケジュール上、講義や学務などでどうしても行けない時を除いてはできるだけ参加しているが、2014年の年末に開かれた各社の懇親会で、ある変化に気づいた。それは、一時は総崩れ状態にあった電機メーカー各社社長の顔つきが元気になってきたことだ。筆者の気のせいではないようで、同席していたメディア関係者が異口同音に同じ感想を述べていた。
まず、元気印を見せてくれたのがパナソニックの津賀一宏社長。もともと、社長として出来上がっていない鮮度の高さが津賀社長の魅力なのだが、持論を展開し、ときには新聞記者を相手に反論する姿を見ていると、構造改革から攻めに転じた同社を映しているように見えた。同社は自動車と住宅関連領域を新たな屋台骨にする計画だが、津賀社長は「自動車分野では、当社はあくまでもサプライヤーの立場ですが、住宅分野には世界を見渡しても巨人が存在せず、ローカルな企業が多い。その中で海外での販売ということになれば、当社に一日の長があるため主役になれるでしょう」と東南アジアを手始めに世界で住宅事業を展開していく意欲を見せていた。
「金がありませんから、誰も連れないで一人で飛び回っています」と明るい表情で話すのは、4年ぶりに懇談会を開催したシャープの高橋興三社長。2013年6月に就任してから1年半で、同社の事業所を138カ所(14年12月17日現在)回り、従業員と議論し親交を深めた。「スピードを重視した経営をするためには、社内の情報流通を良くしなくてはならない。裸の王様にならないようにしたい」という。経営再建途上で安堵するのは時期尚早と戒めながらも、やっと明るい兆しが見え始めてきたせいか、元気な表情で「社員を向いて動くことが、何よりも再生の力になる」と語っていたのが印象的だった。
会場にはヒット商品になった「ヘルシオお茶プレッソ」が展示してあった。これは、「社内の9割が反対しても、1割だけが賛成した商品」の具体例。単価は2万5000円と安いが「目の付けどころがシャープ」の復活を象徴している。
シャープが「転地」の候補の一つにしているのが医療である。特に最先端医療に注目している。あまり知られていないが、実は1950年代、シャープは医療分野でビジネスを展開していたことがある。入社以来、液晶の研究開発に携わってきた水嶋繁光副社長(技術担当)は、「私の血管には液晶が流れています」と豪語していた。ところが、今回の懇談会では「今は、血液を研究しています」と話す。「液晶のシャープ」が「医療のシャープ」になる布石を打ち始めたようだ。
●「先祖返り」したNEC
今、家電事業を大幅に縮小し、インフラ関連事業にシフトした日立製作所の躍進が注目されている。同社も1月に同様の会合を開くが、インフラという面では先祖返りしているNECの懇談会で遠藤信博社長が昨年に増して元気に見えた。「NECはいったいどうなるのか」「顔が見えなくなった」という声が高まるほど同社の売り上げは大幅に落ち、低迷が続いていた。かつて見せた「パソコンの雄」の姿を知らない人も珍しくない。
NECが「先祖返り」したというのは、パソコンや携帯電話など店頭で販売される「見える商品」で一時は繁栄を謳歌したものの、現在はICT(情報通信技術)をベースにしたB to B系の会社になってきたからだ。つまり、「顔が見えなくなったといわれますが、元に戻っただけ」(同社広報)なのである。遠藤社長も「社会インフラとグローバル化が成長するための経済基盤」と強調していた。その顔が見えなくなっている会社は、冗談のようだが、最近「顔が見える」先端技術で注目されている。
それは、顔の目や鼻、口の傾きや位置などの特徴点を抽出し、照合する顔認証技術である。同社のそれは、国内外のオフィスやデータセンターの入退出管理や空港の出入国管理、街角の防犯カメラなどのシステムで活用されている。1秒間に620万人以上の顔写真と照合できる。顔が見える技術であっても、今のNECは黒子に徹している。
遠藤社長は81年にNECに入社し、主に衛星通信装置や携帯電話基地局など無線通信機器の開発に従事してきた。また、03年には超小型マイクロ波通信装置「パソリンク」の事業責任者として、新興国をはじめとした海外市場の開拓を敢行し、同装置を世界トップシェアに成長させた。これまでのキャリアを通じて、世界のマーケットに通じる先進的な技術の開発(イノベーション)に注力するとともに、国内外において幅広い顧客との信頼関係を構築してきた。97年の英国駐在や、海外での豊富なビジネス経験に基づく国際的な視野を持つことでも知られている。三つ子の魂百までもというべきか、遠藤社長の経験を生かせる分野に事業がシフトしつつある。
●問われるサラリーマン社長の成果
近年、日立の復活の陰に隠れ、やや水をあけられた感じである東芝もインフラ事業に重点を移しつつある。その結果は吉と出つつある。そのせいか、懇談会で見せた田中久雄社長の表情も明るかった。「広報活動に理解がある社長」という社内の評判どおり、とても人当たりの良い人物である。しかし、(今回から参加しなくなった)前々任者の西田厚聰氏や前任者の佐々木則夫氏のような、いわゆるスポークスマンタイプではない。声も小さく、押し出しの強さは感じない。だが、その仕事ぶりは「詰めが甘くない」とのこと。話していると、物静かな雰囲気の中に隠された闘志が感じられた。
16年度に向けた中期経営計画について、田中社長は次のように語っている。
「私が最も重視しているポイントは、財務規律の重視、オーガニックな成長、収益性の向上です。成長事業においては競争力の持続に必要な資源投入を継続的に行いますが、その実行に当たっては財務体質の強化を優先します。中期経営計画中の設備投資・投融資は、あらかじめ計画している1兆5000億円の枠内で実施します。他社との提携や事業買収についても、ヘルスケア、ストレージ、エネルギーを中心に計画の枠内で行う考えですが、特に事業買収については既存事業とのシナジーによって高い収益をあげることで、財務基盤の強化にもつながる案件に厳選する方針です」
この計画を達成した後、田中社長は本格的なM&Aを仕掛ける腹づもりだ。
「買いたい会社がいっぱいありますが、今は品定めしているところ」
東芝といえば、財界の顔を輩出してきた会社である。石坂泰三氏、土光敏夫氏といった元社長が経団連会長を務めた。岡村正元社長は前日本商工会議所会頭だった。西田氏も経団連会長候補になったことがある。こうした伝統からすれば、田中社長は「タレント性」という点でやや地味に見える。しかし、雰囲気と経営力が異なるのは世の常である。競争の激しい半導体畑を歩んできた室町正志会長はいう。
「今はプロの経営者(専門経営者)の時代と言われますが、日本企業にはそのようなアメリカ型の経営者はまだ少ない。生え抜きのサラリーマン経営者が大企業では主流。ただ、情報量が格段に増えるなど、昔の経営者とは大きく環境が異なります。サラリーマン社長の成果が問われています。この形がいいのかどうかは、歴史が証明することでしょう」
●懇談会をやめたソニー
このように、1時間半から2時間の「立ち話」でも、かなり突っ込んだ会話が懇談会で行われている。単なる懇談、懇親の場ではない。経営者が壇上から発表・プレゼンした後に質疑応答に移る記者(アナリスト)会見でフォーマルなやりとりが行われる。それとは異なり懇談会では、経営者は「本当はこう考えているんだ」と細かな説明をする機会が生まれ、形式ばった場では決して見せることのない表情や感情を交えた会話の中から「人間らしさ」を披露できる。聞き手の側も「あの事実はそうだったのか」と理解を深め、「意外とざっくばらんな人なんだ」と、これまで知ることができなかった性格の一面を垣間見ることができる。そういうことで、企業にとって「懇談会」はバカにできないものだ。
どういうわけか、ソニーはこのような会合を行わなくなってしまった。公式的な会見、例えば経営方針説明会やアナリストを主対象にしたIRディなどに平井一夫社長が登壇するものの、近距離で懇談する場は設けられていない。たしか、大賀典雄社長時代までは懇談会が行われていた。筆者もプロのバリトン歌手であった異色経営者の大賀氏と文化談義に花を咲かせたことを思い出す。その当時、ソニーに文化の香りを感じ、経営者からブランドを感じたものだ。創業者の井深大氏と盛田昭夫氏も、こうした人間的交流、メディア人との接点を非常に重視していた。
出井伸之元社長も、広報の責任者を務めていただけあって、メディア、アナリスト対策には熱心な経営者であった。その影響力を熟知していたはずである。そのためか、インタビューにも積極的に応じていた。その人が懇談会をやめてしまったのだ。投資した資本に対して、企業が作り出した経済価値を把握するEVA(Economic Value Added=経済付加価値)を導入した社長だけに、懇談会は経済価値を生まないイベントと判断したのだろうか。その真意はわかりかねる。
ただ一つ言えることは、業績が向上し、出井ブームが巻き起こった頃はメディアの取材もラッシュとなったが、「ソニーショック」を機に業績が悪化し始めると、メディアは手のひらを返したかのように集中砲火を浴びせた。その傾向は今も続いているのではないだろうか。もちろん、懇談会をやめたからソニーはメディアから批判されるようになったとは考えられない。今も良心を有する日本のメディアは、そこまで低俗ではないだろう。
懇談会の原点は「人の交流」である。レピュテーション・マネジメント(評判の管理)と懇談会の因果関係は、経営学的に実証されているわけではない。また、広報効果を定量的に実証しようとしても限界がある。このようなアナログな場で、卓越した「芸」を発揮できるジャーナリストやアナリストも減ったが、彼らをオン・ザ・ジョブ・トレーニングで鍛えてくれる、広義の文学性を備えた人間的魅力のある経営者も少なくなってきた。この現象は、あらゆる職場の縮図かもしれない。
社長の表情が元気になってきた――。この変化から何を読み取るか。そして、経営者は世の中に発信する人を目前にして、どのような表情をし、魅力ある表現ができるか。若い経験のない記者を相手にして、ストレスを溜める経営者も少なくないと拝察する。たしかに、勉強不足、教養・学識のないジャーナリストがいることは否めない事実である。だが、彼らが平均であると、経営者も広報関係者も誤解してはならない。経営者が接することにより、発信だけでなく、さまざまな情報を得、アイデアを生むきっかけをつくってくれる、深きコンテンツを持つ人物もいる。懇談会に来ているいろいろな人種とどのように付き合っていくか。百戦錬磨の経営者にとっても、決して無駄な1時間半、2時間ではないはずだ。そう理解することが、真の広報マインドではないだろうか。
長田貴仁/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー、岡山商科大学教授
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