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原油急落の分析:(下) 景気刺激、輸出経由でも
http://www.asyura2.com/14/hasan92/msg/467.html
投稿者 あっしら 日時 2014 年 12 月 25 日 04:31:24: Mo7ApAlflbQ6s
 


「原油急落の分析: (上) サウジ、目標下げ覇権争い 」
http://www.asyura2.com/14/kokusai9/msg/702.html

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原油急落の分析
(下) 景気刺激、輸出経由でも

 斎藤潤 慶応義塾大学特任教授

 今年6月をピークに原油価格が急落している。代表的な指標原油である米国産WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は6月平均の1バレル約106ドルから10月に約84ドル(6月比約20%下落)、11月には約76ドル(同約28%下落)と下落し、12月に入ってからはついに60ドルを割り込んでいる(同40%超下落)。急落傾向は、アジア向けの指標原油である中東産ドバイ原油も同様である。

 背景には、需給両面の要因があると考えられる。供給面では米国を中心としたシェールオイルの大幅な増産の影響がある。しかし穀物など他の1次産品の価格も下落していることを考えると、新興国を中心とした世界経済の減速傾向による消費需要の減退という需要面の要因も大きいと考えられる。加えて需給が緩んでいるにもかかわらず、石油輸出国機構(OPEC)が減産しないでいることも、下落を促す要因となっている。

 原油価格の下落は、一般的には国内経済に交易条件改善効果をもたらし、景気に刺激的な影響を及ぼすことになると考えられる。

 その主要な経路は以下の通りである。まずは原油輸入代金の減少をもたらす。そうした輸入代金の減少は、原油輸入企業には一種の減税のような効果を及ぼし、企業収益の改善をもたらす。仮に2013年度の原油輸入金額(通関べース)を40%節約できたとすると、節約額は約6兆円、国内総生産(GDP)比約1.2%にも及ぶ規模となる。
 もちろんその恩恵は、原油を直接輸入する企業にとどまらない。原油コストの減少が製品価格などに転嫁されることになれば、産業連関を通して、他の企業にもその恩恵が及ぶことになる。いずれの場合にあっても、企業部門における設備投資や雇用、賃金を増加させる要因となる。
 さらに原油価格下落の影響が小売価格に転嫁されることになると、その恩恵は家計にも及ぶ。所得は一定でも、小売価格の下落を通じて家計の購買力は高まり、消費支出を拡大させる要因となる。

 以上のような景気刺激効果の定量的な大きさの目安を得るため、内閣府の短期日本経済マクロ計量モデルの乗数表を用いて試算してみると、仮に原油価格が1年間にわたって40%下落した場合、日本の実質GDPは1年目に0.44%増、2年目にはさらに0.32%増という結果となる。

 ただし、原油価格下落の景気刺激効果については、以下のような点にも留意すべきである。
 第一に、交易条件の改善効果が実際に日本経済に影響を及ぼしてくるのにはタイムラグがあることである。
 価格の下落した原油が日本に入着するには、市況の変化から通常1カ月程度かかる。実際、現在までの円建ての原油輸入価格の下落は入手可能な最新のデータである11月時点の日銀の輸入物価指数でみると、直近のピーク時(7月)に比べ8%程度の下落にとどまる(図参照)。
 影響の一部が円安によって相殺されており、同期間中の契約通貨建て価格の下落は19%であったことを考慮しても、原油価格下落の影響はかなりの部分がこれから発現することになると考えられる。
 既に企業間取引価格を表す国内企業物価のうちガソリンはピークであった7月から11月までに約8%下落している。ガソリン(レギュラー)の小売価格も12月中旬にはピーク(7月平均)から約10%の下落を示している。今後、こうした価格下落がさらに進行していくことが予想される。

 第二に、以上のような原油価格が我が国の輸入価格の下落をもたらすことに伴う直接的な影響とは別に、同様の効果が海外諸国にも及び、そのことが日本の輸出に好影響をもたらすという間接的な影響も考えられることである。
 特に、原油価格の下落が自動車の保有コストを引き下げ、自動車購買を促進する効果をもたらすことを考えると、今後、米国を中心とした地域への自動車輸出の増加が期待できる。実際、米国の新車販売台数は7月以降11月までに前年比7%近い増加を示しているが、日系メーカーだけをみると、さらに高い8%近い伸びとなっている。
 他方、自動車はいわゆる裾野が広い産業で、他産業の生産拡大をもたらす効果が大きい。生産波及力(最終需要が1単位増加した時の全生産額に対する影響を表す)を12年の簡易延長産業連関表でみても、自動車関係は抜きんでており、例えば乗用車は約3.1と全産業平均の約1.9を大幅に上回っているのである。こうした間接的な景気刺激効果が加わってくることも見落としてはならないだろう。

 原油価格下落がもたらすこのような景気刺激効果を考えると、先般、日銀が、量的・質的金融緩和の拡大を発表した際に(このこと自身は妥当と考えるが)、原油価格下落を理由の一つとして挙げていたことには、少し分かりにくい点がある。原油価格下落に景気刺激効果があるとするならば、金融政策にとっては、どちらかというと引き締め要因となるはずだからである。
 にもかかわらず、原油価格の下落を要因として挙げることになったのは、第一に、日銀がエネルギーを含む消費者物価の上昇率を2%にすることにコミット(約束)しているからである。このために原油価格の下落によってガソリン価格などが下落すると、2%目標から遠ざかることになってしまうので、対応せざるを得なかったのである。

 第二に、日銀がエネルギーを含む物価上昇率の目標を、設定の2年後という特定の時期に達成することにコミットしているからである。諸外国も、エネルギーを含む消費者物価指数の上昇率で目標を設定している。しかし、そうした国では目標を長期的に達成すべきものと位置づけている。日銀もそうした時間軸で考えていたとすれば、短期的な対応を迫られることにはならなかったのかもしれない。

 他方、もし特定の時期におけるインフレ目標の達成にコミットするのであれば、短期的な変動に振り回されないように、食品やエネルギーを除いた消費者物価指数(いわゆるコアコア指数)などで目標を設定すべきではなかったのだろうか。
 以上のように、原油価格には景気刺激効果が期待できる。景気が過熱しているのであれば別だが、そうでなければ、景気回復を後押しするものとして歓迎すべき事象である。しかし、原油価格下落も、それが長続きをするとリスクを伴うものであることには注意を払う必要がある。

 第一に、原油価格下落は、原油関連企業や産油国には大きな交易条件の悪化効果を及ぼすことである。
 グローバルには、こうした影響は一般的には景気刺激効果に比べて相対的に小さいと考えられる。しかし、企業の採算悪化や産油国の財政悪化などが強く意識されるようになると、マーケットが動揺し、金融や通貨面の影響からマクロ経済に負の影響を及ぼす可能性が出てくる。最近みられる米国での株価下落やロシアの通貨下落はそうしたことの端緒になる懸念がある。
 第二に、枯渇性資源である原油の価格が低水準で推移することは、省エネルギーや代替的エネルギーのための技術開発を阻害する懸念があることである。そうした技術開発は長期的には極めて重要な意味を持つが、しばしば短期的な採算性の問題から取り組みが先送りされてしまう。
 政策当局は、短期的にはこれから出てくることが見込まれる景気刺激効果を十分に考慮したマクロ経済政策に努めるべきであるが、同時に長期的な原油安の弊害にも目配りした政策運営を心がける必要があるのではないだろうか。

<ポイント>
○輸入代金減の交易条件改善は今後本格化
○自動車の輸出増につながれば幅広く波及
○金融通貨面からの負の影響にも目配りを

 さいとう・じゅん 51年生まれ。東大院修了、旧経済企画庁へ。オックスフォード大経済学修士。元内閣府政策統括官

[日経新聞12月23日朝刊P.25]

 

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コメント
 
01. 2014年12月25日 04:51:10 : BDKJJlWsRk

原油安とルーブル安を分析する(近藤雅世)


原油価格の下落は需給が短期でも中長期でも緩んでいるからだ

 原油価格の下落が止まらない。需給要因では供給過剰であることは以前から同じであるが、近年米国のシェールオイルとカナダのオイルサンド、及び、ブラジル等での深海油田が増産を始め、急激に供給が増え始めているのに対し、需要は石油需要の半分を占める輸送分野の伸びが頼みであるが、新興諸国の経済成長に翳りが見えることから、原油が激しく売られることになった。

 石油輸出国機構(OPEC)が毎月発行しているOil Market Report12月号によれば、2014年の世界の原油需要は前年比+93万バレル増の日量9,113万バレルであるが、非OPEC諸国からの供給量は前年比+190万バレルの日量6,178万バレル、需要量から非OPEC諸国の生産量を差し引くと2,935万バレルが、OPEC諸国が生産すべき量である。しかし、実際の11月のOPECの生産量は日量3,005万バレルであり、11月時点で日量+70万バレルの供給過剰であり、OPECの生産量がこのままなら、来年は+113万バレルの供給過剰となる。

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 EIAは12月10日に発行した短期予測12月号において2015年のWTI原油価格は平均63ドルと予測している。ただ、直近の原油価格の急落は、サウジアラビアのOPEC総会における減産見送りがきっかけとなっているが、OPEC諸国の財政に火が付けば、いつまでも減産を先延ばしすることはできないだろう。サウジアラビアの減産をほのめかす発言等で、近い将来原油価格は短期的には反転上昇すると予想する。

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 穀物や金などの売り残は10月以降解消されているが、原油の場合は、売り残が過去最高の水準まで貯まったままである。ファンドのNY原油に対するネット買い残は既に12月12日の週までの3週間、増加に転じているが、一方で、売り残も増加している。何かのきっかけで売り残の一部が解消されれば、雪崩を打って買戻しが始まると思われる。しかし、短期的な揺り戻しはあるとしても、中長期的な原油価格は低迷すると思われる。上記のように、需要は代替燃料の開発により伸び悩み、生産も簡単には減らないと思われるためだ。



ルーブル下落が産んだ商品への影響

 原油価格の下落により、ロシアの通貨ルーブルや株価が下落している。シティグループのグローバル・コモディティー・リサーチによれば、ロシアは、原油・ガスの輸出が全輸出額の70%を占めており、政府歳入の50%以上を占めているという。ロシアの原油の60%以上はコストの高いシベリア産であり、原油価格の下落は、世界最大の原油輸出国であるサウジアラビア以上にロシアにとって打撃となるという。

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 カリフォルニア大学デービス校のエネルギーおよびサステナビリティーのエグゼクティブ・ディレクターであるエイミー・ジャッフェ氏は、ロシア政府の収支均衡のためには2020年まで原油価格が100ドル以上であることが必要であるという。U.S. Energy Information Administration(EIA)によれば、ロシアは原油資源の枯渇にも見舞われており、2015年は▲5万バレルの減産となるため、価格下落と数量の減少により、天然ガスをいかに多くの国に売るかという戦略を強化せざるを得なくなるという。そのため、ロシアは中国や極東地域に急接近しつつある。  ロシアルーブルの急落は、産油国がいかに原油価格下落に弱いかを見せつけている。イランやベネズエラも50ドル台の原油価格が続けば大きな財政赤字に陥る。それはオイルマネー還流の停滞となって、先進国にも影響を与えるだろう。米国の石油開発企業の株価や債券価格が下落すれば、再び金融不安が生じる恐れもある。また、太陽熱や風力、エタノール等のバイオエネルギー産業も原油価格下落の影響を受けるだろう。エネルギー価格の低下はバランスしていた経済の均衡を変化させる。

 また、ルーブルの急落を見て、NY金価格は少し値下がった。それはロシア中央銀行が外貨準備として毎月購入していた金を、通貨防衛のために売却するのではないかと噂されたためである。しかし、12月19日ロシア中央銀行は、11月には金を売却するどころか、60万オンス(約18.7トン)の金を購入していたことを明らかにした。

 さらにルーブル安の影響は、シカゴ小麦価格の急騰を引き起こした。それは、通貨安により、ロシアからの農産物の輸出が急増すると思われ、ロシア政府は国内需要を満たすために、急遽小麦等穀物を二度にわたり買い上げた。これを見た市場は、ロシア政府は小麦等の穀物を輸出規制するのではないかと噂し、小麦価格が急騰し、トウモロコシが追随した。大豆は旧ソ連邦ではあまり生産されていないので、影響はなかった。

 昨年から今年にかけては、世界の株価が上昇した年だと規定できる。2013年1月初めから比べると、12月22日の価格は、日経平均株価+65%、S&P500+41.7%、インドセンセックス+40%、ドイツDAX+26.9%、ベトナムVNI+26.2%、台湾加権+16.5%、ジャカルタ総合指数+16.2%、上海B株+15%、豪州オールオーディナリーズ+14.2%、フランスCAC+14.1%、タイSETI+8.5%、英国FTSE+8%、シンガポールFTSTI+3.3%、マレ−シアKLSE+3.0%と大半の株価が上昇している。下落したのはロシアロイター▲48.5%、ブラジルボベスパ▲19.8%、韓国▲3.4%である。21市場中18市場が上昇している。

 一方この二年間で、商品は33銘柄の中で、値上がった銘柄はパラジウム、コーヒー、プラチナ、粗糖等7銘柄に過ぎず、残り26銘柄は昨年から下落している。この状況から来年を予測すると、高くなった株価に更に投資する資金は少なくなり、投資家は他の割安な資産を物色するであろう。その中には下落している商品が、投資の対象として見直される可能性がある。高くなったものは売られ、安いものが買われるが世の常である。2015年はそろそろ商品の時代が復活するのではなかろうか。




講師紹介


近藤 雅世
ビジネス・ブレークスルー大学 オープンカレッジ講師
株式会社コモディティーインテリジェンス 代表取締役社長
近藤 雅世
講師より寄稿いただいた文章をご紹介しております。
http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/20141224_105616.html


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