04. 2014年12月24日 08:32:54
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【第359回】 2014年12月24日 真壁昭夫 [信州大学教授] 円安・株高の官制相場が永久に続くと思うべからず 投資家が心得るべきマネーの変化と“10年周期リスク” 世界的なマネーフローの変化が始まる 与党大勝でも円安・株高の演出は難しい 衆院総選挙の結果は、ほぼ事前の予想通り自民・公明の与党が定数の3分の2を上回った。これによって、当面アベノミクスによる経済運営がなされることになるだろう。政策運営が安定するという意味では、それなりの効果は期待できる。 ただ、足もとのわが国の景気回復の足取りは重い。円安で大手輸出企業の業績は大きく改善しているものの、海外展開が少ない中小企業の景況感の回復は鈍い。大手企業の立地が少ない地方都市の経済は、少子高齢化の影響もあり、回復を実感できない状況が続いている。 また、わが国を取り巻く世界経済の状況を見ると、米国経済の回復ぶりは鮮明化しているものの、ユーロ圏の景気低迷や中国をはじめとする新興国経済の減速など、不透明な要素が目白押しだ。 さらに、原油価格の急落を背景にした“逆オイルショック”の影響もあり、世界的なマネーフローに変化が生じている。それに伴い、ヘッジファンドなど大手投資家はリスク量を軽減するリスクオフに走っており、株式や為替などの金融市場の動きが不安定化している。 そうした状況が続くと、今までのように日銀の“異次元の金融緩和策”によって円安が進み、円安を背景にGPIF(公的年金資金管理運用機構)と日銀の株式購入で株価が上昇するという構図を考えることは、難しくなる。 今後注目されるのは、安倍政権の成長戦略実施の本気度だ。規制緩和策などを中心とした改革を推進する姿勢を示すことができないと、本当の意味でわが国経済を回復基調に回帰させることは困難だ。 今回の選挙による国民の審判には、「野党がしっかりしないため、仕方なく自民党を選択せざるを得なかった」という思いがあっただろう。しかし、より広い選択肢を持つ海外投資家などは、これからより厳しい目を安倍政権に向けることになる。安倍政権はそれに耐えられるか、冷静に見据える必要がある。 金融政策頼みの“官制相場”を 永久に続けることはできない これまで安倍政権は、思い切った金融政策に頼って円安・株高を演出してきた。日銀が多額の資金を市中に供給し、金利を極限まで引き下げることで、円が売られやすい土壌をつくり上げた。 それに、米国経済の立ち直りによる米国金利の先高観が加わり、ヘッジファンドなど大手投資家のドル買い・円売りが重なり、円安トレンドが形成された。 円が安くなると、海外展開が進んだ大手輸出企業を中心に業績が大幅改善し、基本的に株価は堅調な展開を示しやすくなる。さらに、約130兆円の公的年金資金の運用を行っているGPIFが、国内株の投資比率を上げる決定を行った。 もともと日銀は、金融政策の運用として、ETFやREITを中心に国内株式や不動産投信を購入している。株式市場の関係者にとっては、「株が大きく下がりそうになると、日銀が下支えしてくれる」との安心感があった。 そこに世界最大級の機関投資家であるGPIFが、援軍として入ってきたインパクトは大きい。短期の取引を得意とするヘッジファンドなどの投資家にとって、日銀やGPIFが下支えする“官制相場”には、「十分な収益チャンスあり」と映るはずだ。 知り合いのファンドマネジャーの1人は、「日本株が落ちたところで拾っておけば、かなりの確率で稼げる」と言っていた。彼らも“官制相場”の意味を十分に理解しているようだ。 ただし、日銀などが相場の方向性を規定する“官制相場”を永久に続けることは困難だ。わが国経済の回復が遅れ、企業業績が悪化すると見れば、中長期を念頭に置く投資家は日本株を敬遠する。その場合には、いくら日銀などが買い支えを行っても、株価を維持することは難しい。 2015年も米国頼みにならざるを得ない 金融政策の変更で株価は大きく下落も 2015年の世界経済と株価・為替などの金融市場の動きを考えると、最も重要なファクターとなるのは米国経済の動きだ。足もとの世界経済を概括すると、ユーロ圏の景気は低迷が続き、中国を中心とした新興国の経済にも明確なブレーキがかかっている。 わが国の景気も、消費税率の引き上げと天候不順の影響を受けて、2四半期連続でGDPが低下している。2014年10−12月期以降は徐々に景気回復へと進むと見られるものの、輸出の伸びが限定的なこともあり、短期間に大きく盛り上がることは考え難い。 こうしたなか、世界経済はどうしても「2015年も米国経済頼み」という状況にならざるを得ない。問題は、2015年に金融政策の変更時期を迎える米国経済が、これまでの回復ペースを維持して回復に向かうことができるか否かだ。 足もとの米国の経済指標を見ると、米国経済がすぐに失速する可能性は低い。肝心の労働市場の回復はここへ来て加速しており、賃金が上昇すれば米国GDPの約7割を占める個人消費は、しっかりした推移を辿るはずだ。 足もとのリスク要因が突然顕在化することがなければ、2015年も米国経済は回復の道を歩むことになるだろう。米国経済が世界経済を牽引する構図には、大きな変化が生じることはないと見る。 ただ、米国経済にもリスク要因があることを忘れてはならない。原油価格の下落による“逆オイルショック”の影響で、エネルギー関連企業の株価は不安定化している。また、オバマ大統領の指導力の低下が懸念されるなか、財政状況の悪化が経済の足かせになる懸念も完全には払拭できない。 特に、米国株価の水準が史上最高値近辺にあることを考えると、金融政策の変更などをきかっけに株価が大きく下がりる可能性もある。そうなると、経済に与えるインパクトは大きいはずだ。世界の実体経済にも大きなマイナス要因として作用する。 おそらく、向こう1〜2年は米国経済がしっかり世界経済を引っ張っていく絵が描けるが、気になるのはむしろその後だ。2015年の米国経済が堅調な展開を示すことは世界にとって好ましいことなのだが、一方で米国の金融政策を変更する必然性が高まる。 経済が持ち直した後まで金融緩和策を継続すると、金融市場でバブルが発生したり、経済全体にモラトリアムの雰囲気を醸成することも考えられる。それを防ぐために米国のFRBは、来年どこかで政策金利の引き上げに動くことになるだろう。 そうした政策変更がスムーズに実施されても、基軸通貨であるドルの需給の変化は微妙に世界の経済や金融市場の動向に影響を与える。金融市場には、従来から“10年周期説”との見方がある。 気になる金融市場の「10年周期説」 海外投資家も危ぶむそのリスク “10年周期説”とは、1987年以降、10年ごとに米国の金融政策がきっかけになって、世界的に株価が急落するなどの異変が起きていることだ。1987年にはブラックマンデーがあり、1997年にはアジア通貨危機が発生した。そして、2007年にはサブプライム問題が顕在化した。 それらはいずれも、FRBの金融政策が緩和から引き締めに転じ、世界的にマネーフローが変化したことが原因の1つとなって、発生した事例と考えられる。 2015年、FRBはそうした事例を十分に研究しており、政策金利の引き上げには慎重を期し、拙速に実行することはないだろう。しかし、今までに供給した過剰流動性を吸い上げれば、基軸通貨であるドルの流れに変化が出ることは避けられない。 新興国の金融市場に回っていた資金が、少しずつ米国に回帰することなどが考えられる。 また、米国の投資資金がFRBに吸い上げられる可能性もある。そうしたマネーフローの変化は、株式や為替市場のトレンドを変えることも想定される。 海外投資家連中とメールのやり取りをすると、彼らが「ここ1〜2年は大丈夫だろうが、その後はマーケットが大きく振れる」と見ていることがよくわかる。我々も、そうしたリスクを十分頭に入れておくべきだ。 http://diamond.jp/articles/-/64161 |