07. 2014年12月24日 07:40:36
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【第360回】 2014年12月24日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] 2015年、バブルは来るか? バブルは本当にやって来るか? 早降りしたい気持ちを抑えて 先日、ある経済メディアが主催する会合で、今年の日本経済のまとめと来年の予想を問われた。まとめに関しては、ひとことで言うと「4月の消費税率引き上げが失敗で、日本経済とアベノミクスが『息切れ』してゼイゼイ(税税)!言っている」とでもまとめておけばいいが、問題は来年の予想だ。これはかなり迷った。 迷った結果、バブルが起こる方に賭けることにした。来年の日経平均の高値予想は、思い切って2万3000円とした(注:アテにしないでください!)。ちなみに、3人の登壇者のお1人は「今が高値、もう限界」というお答えだったので、意見にコントラストがついて、会合としては良かった。 ちょうど、現在発売中の『週刊ダイヤモンド』(2014年12月27日・2015年1月3日新年合併号)の特集は、年末恒例の来年(2015年)の「総予測」だが、表紙には「バブルがやってくる!」とある。心強いではないか。 実は、個人の傾向として、筆者はどちらかと言うとバブルから「早く降りたくなる」タイプだ。資産価格が適正と思う水準をはっきり超えて来たと思うと、割合早めに相場でも論陣でも「売り」の側に立ちたくなる。しかし、経験的に言ってバブルは最後の一上げが大きくて、途中で降りると寂しいことが多い。 個人的に印象的な経験は、1980年代後半のバブルの時期にあって、1988年に日経平均が2万7000円程度だったときに、「Qレシオ」というバブルを測るには正しくない尺度をもって「日本の株価はまだ高くない」と主張した、ある証券系の研究所のレポートを批判する原稿を『週刊東洋経済』に載せて(実質的に筆者のデビュー原稿だ)、株価は高すぎるという立場を取った。 しかし、その後株価は期間にして1年強、値幅にして日経平均で1万円以上上げて、1989年末に歴史的高値である3万8915円まで上昇した。この間、筆者は信託銀行で投資調査の仕事をしていたので、極めて居心地が悪かった。ちなみに翌年以降、株価が大幅に下がったときに、やっと正義が実現したようなホッとした気持ちになったが、そのときには自分が日本株のファンドを運用していた。なかなか上手く行かないものだ。 では2015年に対して、1989年のような「バブルの仕上げ」のイメージを持つことは正しいのだろうか。 筆者が株価に対して強気な3つの理由 金融の大規模質的緩和と公的相場操縦 株価に対して強気を持つ理由は3つある。 第一に、引き続き行われている金融緩和とGPIFの合わせ技によって、実質的に大規模な「金融の質的緩和」であると同時に「公的相場操縦」が行われていることだ。 本連載でも何度か書いたように、GPIF及びGPIFにある程度連動する年金基金(共済年金と厚生年金基金)の買いは、日銀のETF買いによる年間3兆円と合わせると、今後の購入分でも10兆円規模に上る可能性がある。 特に、GPIFはすでに基本ポートフォリオを発表しているので、運用現場はいつまでも基本ポートフォリオから大きく離れたポートフォリオを抱えていると、運用パフォーマンスの評価上大きなリスクを抱えることになる(基本ポートフォリオの配分に基づく複合ベンチマークのパフォーマンスが、比較相手のベンチマークになる)。 年度末である来年3月末には、計画の中央値には届かないまでも、意外なくらい近づくのではないかと筆者は予想する。この場合、来年の1−3月期には、相当の額の買いが日本株と外貨に発生することになる。「需給」を要因に挙げることは気が進まないが、これだけの規模になると無視できない株高・円安要因だ。 第二に、米国経済が絶好調であることだ。失業率はFRB(連邦準備制度理事会)が当初メドとしていた6.5%を大きく下回る5.8%(11月)まで下がったが、エネルギー価格の下落もあってインフレ率は2%にまだ余裕があり(消費者物価10月前年比1.4%、卸売物価11月同1.4%)、金融緩和状態をしばらく継続する余裕がある。加えて、エネルギー価格の下落も米経済にとって追い風だ。 今夏より4割下がった原油価格は 日本経済全体にとって圧倒的なプラス 第三に、原油価格の下落だ。今夏の水準よりもざっと4割下がった原油価格は、日本の民間経済にとって、5%から8%への消費税率引き上げ分のマイナス効果をほぼ相殺する所得効果がある。後述のような心配点があるとしても、日本経済全体にとっては、圧倒的にプラス効果が大きいはずだ。 また、原油価格の下落は、エネルギーの大消費国である中国経済にとってもプラスであり、中国経済の諸問題を緩和する効果があることも安心材料だ。 本来なら強気要因を4つと言って、第四に、総選挙で大勝した政権の勢いを背景にしたアベノミクスの「第三の矢」である成長戦略の進展を挙げたいところなのだが、こちらの方は、来年の通常国会に具体的な法案が上がるかどうかを見極めて本気度を見ないと、信用できない。 1−3月期には、政府の方針として、新聞などに勇ましい見出しが踊るかもしれないが、法案にならないまま有識者会議や審議会に検討を持ち込まれたものに関しては、時間稼ぎと骨抜きの対象になってしまうだろう。 もっとも、1-3月期にはそれなりに「前向きな話」が、結局話題だけに終わるとしても、世間を賑わすかもしれないので、株価の好材料となる可能性はある。場合によっては、来年の1-3月期あたりに、見渡すと好材料だらけで将来が明るく見えるような、月齢で言うと「満月」のような状況が来るかもしれない。 しかし、満月は次には欠けるのだ。翳りが見え始めたときにバブルは崩壊し、その影響は資産価格が高すぎる程度と、資産の背景にあるローンの質によって変化する。 好材料ばかりでも満月は必ず欠ける バブルに翳りが見えるときの心配材料 昨今、原油価格が大幅に下がったことに伴う信用不安の懸念から、世界の株価が乱高下したことが記憶に新しいが、原油価格に問題はないのか。原油価格下落と資源価格全般の下落は、ロシア、ナイジェリア、ベネズエラ、ブラジルなどの資源国経済にとって大きなダメージだが、ロシア、アフリカ、南米と並べてみると、いずれも欧州の大銀行が大きな債権を持っている地域だ。 欧州の銀行は、損失処理に伴う財政問題が各国に任される仕組みの脆弱性もあって、金融危機の不良債権をまだ十分に処理していない。個別にどの銀行とは言えないものの、欧州においてではないかと予想しておくが、経営が悪化する銀行が個別に発生して波乱要因になる可能性はある。 もちろん、最大の不安要因は、米国の金融引き締めへの移行とそれに伴うショックだ。最終的に金融引き締めに勝つ上昇相場はないし、世界の金融の一体化が進んでいるので、米国の金融引き締めが米国市場あるいは新興市場の不調と平行して、日本株の下落を招く可能性は否定できない。 もう1つ不安要因を挙げておくと、政権の弱体化の可能性だ。確かに、総選挙に大勝して安倍政権は勢いを得たと言えるが、官僚集団の利害から見ると、安倍政権は2017年4月に消費税率を上げることを決定してしまったので、「用済み」の政権だと言える。今後、内閣に対する官僚のサポートが弱まると、たとえば閣僚の不首尾や不祥事が頻発するようになる可能性がある。理屈上は、安倍政権が「あと4年の信認を得た」ということなのだが、その劣化は案外早いかもしれないと心配しておく。 株価のレベルはそもそも適正なのか? 自分にとって適当なリスクで参加しよう 東証一部の時価総額は12月22日終値で約512兆円と、しばしばメドとされる名目GDPの約484兆円を上回ってきている(日経平均は1万7635円)。もっともバブルの場合、名目GDPを超えたからと言って、株価がすぐに下落することは稀だ。 名目GDPから推測する方法を使うとすると、東証一部の時価総額が名目GDPの2割上で日経平均はほぼ2万円、3割上で2万1670円といったあたりだ。 現在の東証一部の平均PER(株価収益率)は16.94倍だ(日本経済新聞社予想今期利益ベース)。これは益利回りに直すと5.9%であり、0.335%に低下した長期金利に対して5.565%のスプレッドがある。今後の経済成長率を考えると、株価は十分安いという結論が出そうだが、現在の長期金利は日銀が国債市場を制圧することによって形成された不自然な金利なので、これとの比較で株が割安に見えることをもって「株価が安い」と安心はできない。 80年代バブルの頃のQレシオは、バブル化した地価でバブル化した株価を測る信用のできないバブル判断指標だったが、現在の債券利回りと株価の比較には同様の間違いが含まれる可能性が大きい。 こうなると、公的に相場操縦されている株価を絶対水準で判断しなければならないが、たとえば今後に期待される状況の好転が楽観につながり、益利回りが1%低下するとして日経平均を計算してみると(注:日経平均が東証株価指数と同じ率で動くと仮定している)、2万2804円で、このへんが当面の天井の1つのメドではないか。 筆者は、こうした高値が来年の前半にも実現するのではないかと期待しているのだが、たまたまこの予想が当たった場合でも、年後半には米国の金融引き締め移行の可能性が控えていることを忘れてはならない。市場が「熱狂」しそうになったら、ぜひ思い出してほしい。そして、あくまでも自分にとって適当な大きさのリスクで市場に参加することだ(たとえばGPIFは「自分にとって適当な大きさのリスク」を超えた運用計画を立てたようで心配だ)。 http://diamond.jp/articles/-/64160 【第158回】 2014年12月24日 高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト],森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト],熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト] 「逆オイルショック」は1985年にも起きていた!当時のデジャブから予想する来年のトリプルメリット ――高田創・みずほ総合研究所チーフエコノミスト 世界的需要減退による 原油価格急落 原油価格は12月、WTIで50ドル台の水準まで低下した。図表1は原油価格と銅相場の推移を示したものだ。銅と原油相場は2011年までは連動した動きを示していたが、2011年以降、銅価格が中国の景気減速と連動して低下に向かうなか、原油相場は地政学的な不安などもあって、高止まりした状態が続いていた。 本来、中国を中心として世界的需要不足、設備投資停滞のなかで資源価格全般に低下圧力がかかっても、原油価格は地政学的な要因で高止まりした状況にあった。しかし、景気減速傾向が続くなか、特に2014年前半の世界的にも期待外れの低成長のなか、これまで原油価格を高止まりさせていた「つっかえ棒」が外れ、一転して大幅調整に陥ったと考えれば自然であろう。 今後、米国のシェールオイルを中心とした生産調整によって原油価格は低水準が続くと見られるが、当面はもう一段の下方水準にオーバーシュートする可能性もある。 (資料)Bloombergよりみずほ総合研究所作成 米国のシェール革命 による供給要因も 原油相場は基本的にその需給、すなわち需要と供給の2要因によって規定される。一般的に、地政学的影響から供給要因が注目されやすいが、その潮流を定めるのはやはり需要要因であり、それを補完して供給要因が加わることが多い。 今回の需要状況は、2000年代後半の先進国の低成長に加え、足元における中国も含めた新興国の減速が大きな背景にある。加えて供給要因として、米国でのシェール革命で中東の原油生産を中心としたOPECの価格支配力が低下したことも大きい。 1985年の逆オイルショック 今回の環境について、筆者は今から30年前の1985年から86年に起きた原油価格の急落との類似性を強く意識してきた。当時「逆オイルショック」として、それ以前の1970年代に大幅な石油価格高騰、石油危機の反動として生じた側面もあった。次の図表2は、1985年と今回の原油価格の動向を振り返ったものである。1985年から1986年には60%以上の低下が生じたが、今回もすでに50%近い下落が生じている。 (注)2014年12月18日 終値 (資料)Bloombergよりみずほ総合研究所作成 2015年は原油価格下落も含めた トリプルメリットに みずほ総合研究所では2015年の見通しを行うに際し、「トリプルメリット」として、(1)金融緩和での円安、(2)財政拡大、(3)原油価格下落、として原油価格下落要因を重視してきた。1985年当時も、同様に「トリプルメリット」が指摘され、(1)円高、(2)低金利、(3)原油価格が指摘されていた。 世界経済は、1980年代前半の世界的な金融引き締めに伴い低成長状況にあり、需要の低下が背景にあった。さらに、新たな北海油田の存在で、OPECの価格支配力が揺らいだことも大幅な価格下落につながった。 1980年代後半に生じた 先進国の回復と新興国不安 1980年代後半に生じた原油価格の下落は、日米欧、先進国の経済の底上げにつながった。すなわち、原油価格下落が物価下落を招き、それが各国中央銀行の金利引き下げ余地を拡大し、それまでのインフレから物価水準の大幅下落を意識するようになった。 その結果、各国で株式を中心とした資産価格の上昇が生じた。一方、産油国を中心に新興国では債務累積問題として深刻な経済問題が生じた。地政学的には、大幅な原油価格下落は当時、最大の原油産出国であったソ連の影響力低下を招き、それが1980年代後半に向けたソ連の崩壊の一因になったともされる。 先進国の物価下落、 金融緩和、資産価格上昇 今日においても、原油価格下落は日米欧の先進国の景気底上げ要因につながる。一方、産油国を中心とした新興国の多くにとっては、不安定な要因になりやすい。今回も、原油に大きく依存するロシアの状況には留意も必要であろう。 なお、市場動向としては、今回も原油価格下落が物価の低下、金利低下要因になるのと同時に、各国中央銀行の金融緩和余地を一段と広げやすい。実物投資が鈍いなか、緩和マネーが資産価格を上昇させやすいのも、1980年代と同様である。今日の環境は1980年代後半のデジャブを思わせる。 http://diamond.jp/articles/-/64164
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