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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第106回 グローバリズムの番犬たち
http://wjn.jp/article/detail/5818254/
週刊実話 2015年1月1日 特大号
第二次安倍晋三政権が'15年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを「延期」した際、「増税を延期すると、格付け会社が日本国債を格下げし、長期金利が急騰して財政破綻する」と、愚かしいレトリック(効果的な言語表現法)で批判した政治家やエコノミストたちがいた。
彼らは相変わらず「日本国債の金利が低い(世界一低い)理由」について、何も理解していない。
12月1日、実際に大手格付け会社のムーディーズが、日本国債の格付けをAa3からA1に引き下げた。
格下げの理由として、ムーディーズは「財政赤字の中期的な削減目標の達成可能性などについて、不確実性が高まったため」と、いつも通り抽象的でわかりにくいことを挙げている。
それはともかく、格付け会社から格下げを受けた結果、何が起きたか。
格下げ後の日本国債の長期金利が、0.421%から0.428%にまで上昇してしまったのだ!
「大変だ! 長期金利が0.007%も上昇してしまった」
というオチであったわけだが、翌日に長期金利は早くも0.424%に下がった。
そもそも、日本国債の金利が低い理由は、経済がデフレ化し、民間の資金需要が乏しいためである。「格付け」が高いためでも、「国の信認」があるためでもない。
現在、ユーロ6カ国(ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー、フィンランド、オーストリア)の長期金利も1%を割り込んでいるが、同じ理由からだ。
バブル崩壊後と緊縮財政でデフレ化しつつあるユーロ各国は、「堅調」に経済がデフレ化しつつある。
バブル崩壊後に緊縮財政を強行した国は、国内の総需要(名目GDP)が縮小し、投資先がなくなり、民間企業がお金を借りなくなる。
その状況に至ると、中央銀行が政策金利を引き下げようが、量的緩和で国債を買い取り、通貨を発行しようが、民間企業は銀行融資や設備投資を増やさなくなる。銀行にとって「借入金」である預金が貯まる一方になるわけだ。
銀行から企業への貸出が減る反対側で、国民はひたすら銀行に預金をしてくる。結果、銀行は預金を国債で運用せざるを得なくなり、国債金利は下がる。ただ、それだけの話だ。
12月9日、ムーディーズに続き、大手格付け会社のフィッチが、日本国債の格付けを「ウォッチネガティブ(格付けを引き下げる方向で見直す)」に引き下げた。
ところで、格付け会社に格下げをされると、何が困るのだろうか。
日本の場合、世界最大の対外純資産国である。しかも、国債が自国通貨建てであり、独自通貨国であるため、全く困らない。
その上、日本経済はいまだにデフレで、国債金利はスイスと並んで世界最低である。地球上で、最も安い資金コストでお金を借りられるのが、日本政府という話だ。
どれだけ格付け会社が格下げを繰り返そうが、政府が自国通貨建てで発行した日本国債は、何の影響も受けない。それに対し、政府や民間が「外貨建て」もしくは「共通通貨建て」でお金を借りざるを得ない国は、金利上昇などの「ペナルティー」を受けることになる。
現在、日本は国内の銀行の日銀当座預金の額、企業の内部留保(現預金)の額が史上最大になっている。外国に投資をするならばともかく、日本国内で誰かが投資をしようとしたとき、「海外からお金を借りる」必要など全くない。
国内でお金が借りられず、金余り、投資不足が極端な水準に至っているからこそ、日本政府の国債金利は世界最低なのだ。
問題は「投資が不足していること」であり、「資金が不足していること」ではない。
ドイツ連銀のイェンス・バイトマン総裁などが典型なのだが、現在の主要国の政策担当者は、
「政策金利を引き下げ、お金を市中に供給していけば、設備投資は増える」
と、信じ込んでいる節がある。
現実の日本やユーロでは、長期金利が1%を下回る状況に至っているにもかかわらず、設備投資は活性化しない。
理由は、仕事の総量、すなわち「需要」が不足しているためだ。
ムーディーズやフィッチ、S&Pといった格付け会社の問題は、日本国債の場合、
「そもそも、独自通貨国、世界最低の金利、国債が100%自国通貨建ての国がデフォルトするなど、あり得ない(格付けとは“デフォルトの確率”を記号で表現したもの)」
に加え、
「国民経済が貯蓄不足で、投資のために外国からお金を借りる必要がある」
ことを前提としていることだ。
つまり「需要」が十分に存在し、企業が投資を拡大しようとしている「インフレ経済の世界」に、今もなお彼らは生きているのである。
いわゆる『セイの法則(供給は自ら需要を作り出す)』が成立している世界だが、少なくとも日欧はバブル崩壊と政府の緊縮財政で経済がデフレ化し、問題は「資金不足」ではなく「投資不足」に移っている。
それでもまだ「資金不足」の経済を前提に、格上げだ、格下げだ、とやっているのが、現実の格付け会社なのである。
「違う世界で生きている格付け会社」の格付けに、政治家が過敏に反応し、自国の経済的主権を毀損している国が少なくないわけだから、バカバカしい限りだ。
日本で「増税を延期すると、格付けを引き下げられて財政破綻する」と、嘘八百をまき散らしていた政治家、エコノミストたちは、果たして何が目的だったのか(財務省の“子飼い”という線が濃厚だと思う)。
「違う世界」ではなく、現実の世界を生きる我々は、格付け会社や民間調査会社、エコノミスト、経済学者らがどれほど愚かで「間違っているか」を理解し、政治に反映させる必要がある。
総選挙の論戦を見ていると、道は遠いと言わざるを得ないが、実はアメリカや欧州でも同じ動きが出てきている。道程が近かろうが、遠かろうが、やるしかない。グローバル投資家ではなく「国民が豊かになる経済」を取り戻すために。
格付け会社は、少なくとも日本にとっては、グローバリズムの警察犬などではない。彼らは違う世界で生きる、現実離れした周回遅れのランナーたちなのである。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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