01. 2014年12月22日 07:31:58
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世界経済:過去と未来の相似 2014年12月22日(Mon) The Economist (英エコノミスト誌 2014年12月20・27日合併号)2015年の世界経済は、苦難が相次いだ1990年代末を彷彿させるものになりそうだ。 ロシアで金融危機が発生する。原油価格が下落し、為替はドル高傾向にある。シリコンバレーは新たなゴールドラッシュに沸き、米国経済が復活を遂げる。ドイツと日本の経済は弱含みの状況にある。ブラジルからインドネシアに至るまで、新興国通貨が急落する。ホワイトハウスの主は、苦境に立たされる民主党政権だ――。 これらの記述はいったい、2015年の世界経済の予想なのか、それとも1990年代末の状況を描いたものなのか? 1990年代末の世界経済 近年の経済史についての記述は、2008〜09年の信用収縮に塗りつぶされているため、その前の数十年間に何が起きたかは忘れられがちだ。だが、15年ほど前を振り返ることも有益と言える。その振り返りは、今後なすべきこと、逆に避けるべきことの両方ついて示唆を与えてくれる。 当時も、現在と同様に、米国は既存の価値観を覆すようなデジタル革命の最前線に立っていた。インターネットの普及によりイノベーションが花開き、米国の将来に対しても楽観的な見方が広がった。 1999年まで、米国の国内総生産(GDP)は年率4%以上と、先進国平均の2倍近いペースで成長を遂げていた。失業率も30年来の低水準である4%以下に下がった。投資家が海外から続々と参入し、ドルと株価の両方を引き上げた。S&P500株価指数の株価収益率(PER)は30倍近くにまで上昇した。特にハイテク株の急騰は著しかった。 米国経済の明るさとは対照的に、世界の他の地域は不振に苦しんでいた。これも現在と通じる部分だ。日本の経済は1997年にデフレに突入した。ドイツは当時、「欧州の病人」と呼ばれ、同国の企業は硬直化した労働市場をはじめとする高コスト構造に縛られて身動きがとれない状況だった。 飛ぶ鳥を落とす勢いだった新興国も危機に陥った。1997年から1999年にかけては、タイからブラジルに至る国々で、外国資本が流出し、ドル建て債務の返済が不能となる中で、通貨急落に見舞われた。 最終的には、米国も問題にぶち当たった。2000年初頭にハイテク株バブルが弾け、株安は他のセクターにも波及した。企業投資は特にIT分野で落ち込み、株価の下落で消費者は出費を控えるようになった。2001年初めには、米国は大多数の他の先進国と同様に、それほど深刻なものではないものの、景気後退に陥った。 米国のみに牽引された世界経済 当然のことだが、1990年代後半と現在の状況は完全に一致するわけではない。最大の相違点は中国だ。1999年にはまだ小さな存在だった中国は、いまや世界第2の経済大国となり、世界経済の成長において異常なほど大きな割合を占めている。 とはいえ、当時の世界経済を不安定化させた3つの傾向が、今回もまた働く可能性はある。 NYSEユーロネクストが始動、世界最大の証券取引所に - 米国 他の先進国と比べると、米国の強さは際立つ〔AFPBB News〕 1つ目は、成長が加速している米国と、経済が減速傾向にあるその他の大半の国々との間に存在する乖離だ。1990年代末には、当時財務副長官だったラリー・サマーズ氏が、世界経済は「たった1つのエンジンで飛行している」と警告した。 2015年に関しても、本誌(英エコノミスト)の景気予測パネルによれば、米国の経済成長率は3%と予想されるのに対し、日本とユーロ圏は1.1%という予想にとどまっている。また、中国の成長率は7%前後にまで低下する可能性がある。 ただし、米国民にとっての救いは、1990年代の終わり前後と同様に、他国との景況感の乖離がある程度確実なことだ。現在の米国では、1999年以来となる急速なペースで雇用が創出されている。安価なガソリンが個人消費を押し上げ、企業投資も上向いている。 だが、良いことばかりではない。原油価格の下落は、2015年に米国のシェールオイル開発業者の多くを破産に追い込みかねない。また、ドル高と国外経済の弱含み傾向は、15年前と同様に、米国の輸出企業にとってはマイナス要因だ。英語圏のもう1つの勝ち組である英国も、ユーロ圏の不調から打撃を受けるかもしれない。 1990年代末との気がかりな相似の2つ目は、あと2つの先進経済大国の見通しが芳しくない点だ。 ドイツと日本の弱さ ドイツの成長率は1%前後にまで落ち込んでいるうえ、長年の過少投資や支離滅裂なエネルギー政策、緊縮財政政策などが、より深い停滞を引き起こしている。 現在のドイツ政府は、財政目標の達成にこだわるあまりに支出を過度に抑制し、有権者の反発を恐れて2003年に当時のゲルハルト・シュレーダー首相が実施したような構造改革を推進することもできない。 一方、日本は消費税の時期尚早な引き上げで経済停滞からの脱却の芽を摘むという、1997年に犯した過ちをまたしても繰り返している。 1990年代との共通点の3つ目は、新興国に潜む危険だ。1990年代末の問題は、為替の固定相場制と膨大な対外債務だった。現在は債務水準は低下し、為替相場も変動制に移行しており、大半の国々では政府が外貨準備金を積み上げている。 とはいえ、問題の兆候も高まりつつある。この傾向はロシアに顕著だが、他のコモディティー(商品)輸出国も、特にアフリカ諸国を中心に、脆弱に見える。ナイジェリアは、輸出額の95%、政府の歳入の75%を石油に頼る。ガーナは既に国際通貨基金(IMF)に支援を要請している。 その他の国々では、危険なのは企業セクターだ。ブラジルでは多くの企業が多額のドル建て債務を抱えている。企業のデフォルト(債務不履行)ラッシュが起きたとしても、各国の公的債務が危機的状況に陥った1990年代のアジア金融危機ほどの派手さはないかもしれないが、投資家を不安に陥れ、ドル相場を押し上げる要因にはなる。 1990年代末の危機の再現はあるか これらの要素すべてを勘案すると、来たる2015年は困難な道のりとなりそうだ。弱気筋は、ドル高とユーロ圏の停滞が重なり、ここにいくつかの新興国で危機が発生すれば、米国の景気もいずれ悪化に転じると考えるだろう。 ただしプラス材料もあり、現在の株式市場には1990年代のようなバブルの兆候はない。S&P500のPERは18倍で、これは過去の平均値からそれほど上振れしていない。IT系大手企業の中には無謀なまでの投資を続けているところが多いとはいえ、大半の企業のバランスシートはそこそこ良好だ。 また、世界の金融システムも以前ほどのレバレッジはかかっておらず、それゆえ危機の波及に対する耐性は上がっている。 1998年にロシアがデフォルトに陥った際には、米国の大手ヘッジファンド、LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)の破綻につながった。現在の金融市場では、こうした連鎖反応が起きる可能性は低くなっている。 しかし、仮に世界経済がそれでも停滞に陥った場合に、安定性を取り戻すのは以前よりも難しくなるだろう。というのも、現在は政策立案者の対策の余地が非常に限られているからだ。 1999年当時、米連邦準備理事会(FRB)の政策金利は5%前後で、経済が減速した際にも引き下げの余地は大いに残されていた。これに対して現在では、ほぼすべての先進国で、金利がゼロに近い状況にある。 今回の方が深刻なのは政治情勢 また、政治の状況も、良くない意味で、1990年代とは異なる。1990年代末の時点では、先進国に住む人々の大半が、好況の成果を享受していた。1995〜2000年に、米国の賃金の中央値は実質7.7%上昇した。 これとは対照的に、2007年以降、賃金は米国で横ばいの状態が続いているほか、英国やユーロ圏の大部分ではマイナスに転じた。 先進諸国では全般に、有権者からの政府に対する不満の声が、現政権に異を唱える政党への投票数や支持率の上昇という形で既に表出している。来たる2015年も苦境が続くようであれば、こうした不満は怒りに転じるだろう。 2015年の経済状況は1990年代末に似ているかもしれないが、政治面では、恐らく当時よりも状況は悪くなるはずだ。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42508
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