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原油価格をみるための基礎知識
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kosugetsutomu/20141220-00041654/
2014年12月20日 21時21分 小菅努 | 大起産業(株)情報調査室室長/商品アナリスト
ニュース報道などで、原油価格動向が大きく取り上げられることが増えている。しかし、一般消費者にとっても身近なガソリンや灯油などと違い、国際原油価格がどのように形成されているのかは、余り知られていないようだ。本稿では、原油マーケットの世界について、その基礎的な見方を紹介する。
■原油マーケットとは?
原油は世界各地で取引されている国際商品であり、一言で原油マーケットといっても、何か世界の原油価格を統一的に決めるマーケットが存在する訳ではない。日本企業の株価形成であれば、東京証券取引所がほぼ独占的な地位を占めている。しかし、原油価格は取引参加者の各種ニーズに応じて幾つかの違った取引体系が存在しており、また原油価格形成に影響を及ぼしたい各国の政治・経済的な思惑もあって、世界各地に似たようなマーケットが多数設置されている。
原油取引体系としては、1)現物市場、2)先渡し市場、3)先物市場の三つが代表的な存在になるだろう。「現物市場」は原油の現物を取引するものであり、売買契約の成立とその履行がほぼ同時に行われ、原油取引の基本になるものである。そして、ここから派生して実際に原油を売買する契約履行時期を3ヵ月後といった将来に設定する取引も存在し、それが「先渡し市場」と「先物市場」である。
各市場は相互補完の関係にあるが、現物市場と先渡し市場は統一的な取引規格が存在する訳ではなく、また取引参加者が取引情報の公開を嫌う秘匿性が強いこともあり、原油価格の指標性という観点では、十分な役割を果たせるとは言い難い。一方、原油先物市場は各取引所によって、取引対象とされる原油油種(=標準品)、取引単位、受け渡し日、取引に必要な資金(=証拠金)などの詳細な規格が設定されており、日々の価格動向も公表されているため、通常は「原油市場=原油先物市場」を指すことになる。メディアの記事でも、○○原油「先物」価格と記載されているものが多いはずだ。
■原油先物取引の仕組み
では、原油先物取引とは何だろうか。商品先物取引の定義は、1)ある特定の商品を、2)一定数量、3)予め定められた価格で、4)将来の一定期日に受け渡しする、契約取引とされている。要するに、6ヶ月後や1年後といった将来の決まった期日に原油を売買することを、予め約束する取引のことである。
一般には、原油現物取引が存在すれば十分のようにも思われるかもしれない。しかし、原油価格の変動は原油の生産者にとっても消費者にとっても、経営上の大きな不確実性をもたらすことになり、そこに原油先物取引のニーズがある。
例えば、1年後に原油を購入する予定がある企業にとって、現在1バレル=100ドルの原油価格が1年後に120ドルまで上昇した場合、原油調達コストは2割上昇してしまうことになる。もちろん、逆に安く原油を調達できる可能性や、調達コストの上昇分を顧客にそのまま転嫁できる可能性もある。ただ、企業経営上はそうした不確実性(リスク)は背負いたくないものであり、先物市場を利用して将来の原油調達・売却価格を決定し、原油価格変動のリスクを避けることが頻繁に行われている。これを、先物市場を利用した「リスクヘッジ」と言い、石油の大口需要家である航空会社や電力会社、化学産業、生産者である石油メジャーや石油精製業者などが活用している。また、一部産油国も国家歳入が過度に変動すること抑制するために、原油先物・オプション取引を活用している。
下の表は、NYMEX原油先物市場における実際の原油先物価格である。この場合だと、2015年1月に受け渡しを行う原油は1バレル=54.62ドル、その半年後の7月に受け渡しを行う場合は56.65ドルで原油取引を行うことが可能になる。これによって、今後の原油価格動向に関係なく、原油調達・売却価格を固定して、安定的な企業経営ができることになる。
(画像出所:CMEウェブサイトを筆者加工)
ちなみに、このいつ受け渡しをするのかという期限を「限月(げんげつ)」と言い、7月に受け渡しするものは「7月物」や「7月限(がつぎり)」と呼ばれることになる。通常、(海外で)原油価格という場合には、受け渡しまでの期間が短い「期近(きぢか)」価格を指す。特に最も期間が短いものを「当限(とうぎり)」というが、ニュース記事では「期近物」と表記されているものが多い。この表の場合だと、期近物=54.62ドルとなる。なお、NYMEX原油先物市場の場合だと、最大で9年先の原油先物取引まで行うことが制度上は可能である。
そして、原油先物取引では実際に原油の受け渡しを行わず、期限(納会)前にその時点の差金決済によって取引を終了できるため、資産運用手段としても活用されている。原油価格の上昇を予想しているのであれば買い、逆に原油価格の下落を予想しているのであれば売りで、想定通りの値動きになれば利益が生じる。そして、予想が外れた場合には損失になる。ヘッジファンドやHFT(高頻度取引)、ローカルズ(地場筋)と言った短期投機筋の他、近年は年金基金や商品インデックス(指数)ファンドなどの長期投資家も、原油先物市場における主要プレーヤーになっている。また、個人投資家も活発な取引を行っている。ただ、商品先物取引は総取引金額の5〜10%程度の証拠金を担保に取引を行うことが可能なため、ハイリスク・ハイリターンの投機取引であることに注意が必要である。
■世界の主な指標原油
この原油先物市場であるが、域内の石油消費を背景とした北米・欧州・アジアが三大市場になる。
(画像出所:筆者作成)
北米では、CME傘下の米ニューヨークにあるNYMEX(ナイメックス)において、WTI(ウェスト・テキサス・インターメディエイト)原油先物が取引されている。正式には「軽質低硫黄原油(Light Sweet Crude Oil)」と言われ、米テキサス州とニューメキシコ州で産出される油種である。欧州では、イギリスにあるICE Futures Europeにおいて、北海油田で産出されるブレント原油先物が取引されている。また、アジアでは日本の東京商品取引所(TOCOM)において、中東産原油(ドバイ原油)が上場されている。いずれも、産出地域によって硫黄度などの品質が異なるため、一言で原油と言っても全く同じという訳ではない。
従来、原油価格と言えばほぼ100%がWTI原油価格(NY原油価格とも表記される)のことを指していた。WTI原油そのものの産出量は日量30万バレル前後と推計されており、世界全体の原油産出量の3%程度に過ぎない。しかし、1)北米という世界最大の石油消費をバックグラウンドとし、2)1983年に設立された世界最初の原油先物市場という歴史的成熟度、更には3)世界の投機マネーが集まる米国の高い流動性を背景に、指標原油として高い評価を受けていた。
ただ、近年はブレント原油先物取引もWTI原油に匹敵またはそれを上回る高い流動性を確保したことで、ブレント原油価格に注目する向きも増えている。特に、原油輸出が原則として禁止されている米国の原油価格が国際原油価格よりも割安となる傾向が強くなっているだけに、国際原油価格動向の指標としてはブレント原油の方が適切と評価する向きも増えている。NYMEXもブレント原油先物を重複上場するなど、世界の主要商品市場の間で、指標性を巡る激しい勢力争いが行われている最中である。
一方、日本の輸入原油はその8割以上が中東産となっているため、厳密にはWTI原油ともブレント原油とも異なる価格論理に支配されている。日本の原油調達先は、サウジアラビア、UAE、カタールなどが上位にあるが、この地域の原油価格は仕向け地の制約がないドバイ原油(UAE)やオマーン原油を基準に設定されるため、東京商品取引所(TOCOM)ではドバイ原油(2015年5月まではドバイ原油とオマーン原油の平均価格)を取引対象としている。日本の経済専門メディアが、WTI原油やブレント原油と並んでドバイ原油価格を取り上げることが多いのには、このような背景がある。
WTI原油先物やブレント原油先物が存在すれば、日本の原油先物市場は必要ないという議論もある。しかし、日本が調達する原油は約1万2,000kmもの長距離を大型タンカーで往復45〜60日かけて運ばれるため、運送コストの影響なども考慮する必要がある。特に、イラン沖のホルムズ海峡や、マレー半島のマラッカ海峡といった海域は治安も悪く、保険コストなども国際政治環境によって大きく変動する。また、WTI原油先物やブレント原油先物はともに1バレル(約159キロリットル)単位で米ドル決済の価格表記だが、日本の場合はキロリットル当たりで計算することが多く、為替レートの影響(円安で上昇、円高で下落)も考慮する必要がある。このため、WTI原油の1983年、ブレント原油の1988年には大きく遅れたものの、2001年から東京でも原油先物取引が行われるようになっている。
(画像出所:筆者作成)
下の表はTOCOMの中東産原油先物価格であるが、1キロリットル=4万6,180円で取引されている。日本においては、期近物よりも受け渡しまでの期間が長い期先物の方が流動性が高い(=売買高が多い)ため、通常は期先価格(この場合は2015年5月渡し)を見る。これを1,000で徐した46.18円が1リットル当たりの原油価格となり、ガソリンや灯油価格などの原材料コストになる。
(画像出所:TOCOMウェブサイト)
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