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ベネッセ、大リストラは失敗する?深刻な会員減、人材流出懸念、無料&高品質の競合台頭
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141217-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 12月17日(水)6時0分配信
ベネッセは、12月2日付リリース「グループ成長を目指した組織・人事に関する構造改革について」で、リストラの実施を発表した。
このリストラ策は各所でさまざまな議論を呼んでいるが、これらの議論では重要な視点が抜け落ちている感がある。それは「文部科学省中央教育審議会 高大接続特別部会」で提案されている、大学入試センター試験を廃止して導入する「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」が、教育業界に与える影響を考慮していないという点だ。この改革が実施されれば、教育業界は大きく様変わりする可能性がある。そう考えると、今回のリストラ策がベネッセにもたらす影響は、今後の教育業界にとっても、未来を探るリトマス試験紙となりそうだ。
●エリアベネッセへの人員シフトは成功しない?
ベネッセの看板事業が厳しい状況に立たされている。「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」などの通信講座の10月時点の国内会員数は、1年前より7.1%(約25万人)少ない325万人まで減少している。通信講座事業は、コンテンツ制作費と教材配送費が主な支出項目になるが、収入は会員数に正比例する。会員数の大幅な減少と新規会員の獲得ができなかったことで、看板事業の見直しを迫られたというのが足元の状況だ。
この苦境を打破するため、ダイレクトメール(DM)による新規会員獲得から、全国500カ所に設ける学習相談スペース「エリアベネッセ」での営業活動へのシフトを図っている。しかし、このエリアベネッセで進研ゼミの会員減少を補うことができるだろうか?
通信講座事業に携わっている社員の大半は、コンテンツ制作の人材であり、彼らがエリアベネッセの運営と営業活動に業務転換できるかどうかがカギとなるだろう。得てしてコンテンツ制作に携わる人材は、“いいもの”をつくり出すことに関しては高い能力を発揮し、モチベーションも高い。出版・放送業界でサービス残業も厭わない過酷な労働環境で就業している若手社員には、このようなモチベーションを持ち合わせているメンバーが多いのは、業界内の常識だ。
そのような人材が、エリアベネッセという営業拠点で営業マンとして、スーツを着てカウンターでの対応や進研ゼミのターゲットとなる子どもがいる家庭への訪問、さらにはチラシやビラの配布などの営業活動に従事するのは容易ではないと考えられる。
今回の人員シフトは700名ということで、まずは現在のマネージャークラスが第一陣のシフトメンバーとして500カ所のエリアベネッセの所長クラスで赴任すると見られているが、その後徐々に営業社員として異動を要請される制作スタッフが増えてくれば、元々そのような営業活動自体経験したことがない人材は、その辞令を嫌って他の教育産業へと転職することも予想される。今回の人員シフトは、このような人材流出のきっかけをつくり出すことになるのである。
●無料教育コンテンツとの競合
進研ゼミをはじめとした通信講座のウリの1つは、受講料が予備校や塾と比べて安いことだ。また、都心部に集中している予備校や塾に通学することが困難な地方の学生にとっては、優良な教育コンテンツが郵送されてくることも強みといえよう。
しかし、ここに風穴を開ける存在が現れた。1つはインターネットによる教材配信だ。これによって、テキストを郵送する必要性がなくなった。さらに大きいのは、講義風景を動画で配信できるようになったことだ。それも専用のソフトや回線を必要としないで、パソコンやスマートフォンで視聴できるような環境が整ってきたことも大きい。このような環境変化の中で、無料や格安の教育コンテンツを提供する業者も増えている。
特にマスコミなどで盛んに取り上げられている、現役東大生が運営している特定非営利活動法人manaveeは注目だ。manaveeは、花房孟胤代表が日本の大学受験における地理的・経済的な格差をなくし教育の機会均等を実現するために、無料の教育コンテンツをインターネット上に流通させようと始めた団体だ。すでに、9000本余りの講義を動画で配信している。運営はすべて寄付金で賄われており、多くの大学生がボランティアとして参加している。講師は主に難関大学に在学中の大学生だ。大学のサークル活動のようなノリも感じられるが、講義は学生たちが受験勉強で学んだ難解問題の解法や定理など、予備校や塾の講義に勝るとも劣らない内容だ。
昨今の大学生の就職活動では、面接の中で社会貢献活動やボランティア活動の有無を質問されることも多いといわれるが、その1つとしてもmanaveeのスキームは、企業側が注目するに違いない。無料講座の動画配信サービスは、今後も普及していくだろう。
またリクルートが運営しているインターネット予備校「受験サプリ」は、大学入試の過去問題、センター試験の模擬試験、センター試験問題集、暗記カードなどが無料で提供される上に、月額980円で予備校さながらのプロ講師の全教科・全講座の授業を見ることができる。しかもPDF版のテキストをダウンロードすることもできる。受験サプリのホームページでは、国公立大学や難関私立大学に合格した受験生の合格体験インタビューが掲載されている。
これらのように無料や低価格の動画配信サービスが普及している昨今、ベネッセが通信教育をエリアベネッセと形態を変えて事業運営したとしても、価格的な競争力はもちろん、コンテンツ自体の競争力でも、かなり厳しい状況に置かれているといえよう。
●学校教育主体への転換?
さらに、この状況に追い打ちをかけるのは、大学入試改革だ。「高大接続特別部会」での答申案の中では、大学入試センター試験を廃止し、「大学入学希望者学力評価テスト」を導入することが提案されている。これは基本的な生徒の学習改善に役立て、教育の質の確保・向上を図る「高等学校基礎学力テスト(仮称)」とともに1回限りのセンター試験や各大学の入学試験での1点刻みの選抜テストのようにではなく、数回に分けて実施する。成績は段階別表示で、その結果は大学側にも提供される。
これは、大学受験にかかわらず、高校の学習そのものを大きく変えるきっかけになる可能性がある。しばらくは試行錯誤が続くと見られるが、公立・私立に関係なく各々の学校独自での取り組みをしていくことは十分に考えられる。もちろん、試験の実施日が決定されれば、それに向けた対策授業を行うだろう。
ここで難点となるのは、教科型の試験問題だけではなくて、「思考力・判断力・表現力」を評価する問題が出題されることだ。文科省の指導要領の案では、コミュニケーション重視の授業を増やし、自分の言葉で表現させるように導くことを求めているが、このような問題には、簡単に事前準備ができない。また、対面式でない教育方法では、この点の指導が難しい。そうなると、普段の学校内での教育・授業内容が大きな差となっていく可能性もある。知識を問うだけであれば、これまでの予備校・塾、通信教育や講座の動画配信などで対応できるだろうが、思考力・判断力・表現力となると、教師と生徒との直接対話をして培っていく「人間力」を鍛える必要がある。
つまり、学校教育の担う領域が格段に広がるのだ。少子化が進む中で、入学希望者を集めたい中学や高校が、授業として人間力を鍛える授業や課外活動を充実させることは十分に考えられる。そのほうが通学する生徒にとっても、教育費を負担する親にしても、納得がいくものになるだろう。
●ベネッセの改革が教育産業の未来を占う
また、ベネッセが成長分野と位置付けている介護事業への人材シフトもあり得るだろうが、教育産業との接点は少ない。このような分野へ強引な人材シフトが行われると、おそらく優秀な人材が流出するきっかけとなるだろう。
このようにしてみると、人材シフトによる優秀な人材の流出、無料もしくは低価格でサービスを提供する競合企業などの出現、さらに学校教育や対面式授業での環境変化など懸案事由も多く、これらへの対策を立てなければ、ベネッセは沈みゆくことになる。すなわち今回の変革は、ベネッセの将来を左右する一因となることは間違いない。
現段階では、どのようにベネッセが組織改革を行い、中核事業である進研ゼミのビジネスモデルとコンテンツの変革を行うのかは見えてこないが、6年後に迫った大学入試改革をきっかけとした教育産業の未来を映す鏡になるだろう。つまり、今回のリストラ策は単なる経営危機への対処というだけでなく、教育界の行く末に大きな影響を与える実験台の役割を果たすことになるといえる。
大坪和博/PLAN G 代表
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