05. 2014年12月17日 07:01:11
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【第235回】 2014年12月17日 週刊ダイヤモンド編集部 労働基準監督官の職場もブラック化 我々だってつらいんです ――ダンダリン原作者&現役監督官 覆面座談会 警察や検察との関係から、政治的圧力、職場の悩みまで──。労働基準監督官を描いた漫画『ダンダリン一〇一』の原作者である田島隆氏が現役監督官たちの本音にたっぷり迫った。【座談会参加者】 監督官A 50代ベテラン 監督官B 50代ベテラン 監督官C 40代ベテラン 監督官D 30代中堅 田島 隆 『ダンダリン一〇一』原作者(敬称略、順不同) たじま・たかし 1968年、広島県呉市生まれ。司法書士補助者を経て海事代理士試験に合格。漫画原作者として活躍する一方で、海事代理士・行政書士として法律実務に携わる。 Photo by Hiroyuki Oya 田島 労働基準監督官を一言でどう説明するか? ダンダリンの連載が決まったときに編集部の担当者と頭を抱えたのがここでした。監督官の仕事というのは、企業労務の監督・指導に始まり、労働法違反があった場合には法的責任も追及する。職務範囲が多面にわたるので表現が難しかった。でも、一番インパクトのある側面を表現するなら「労働法の警察」ですよね。
監督官A 司法警察員として逮捕も送検もします。ただ、逮捕権を行使するのって、そりゃあ大変。まず逮捕しても留置場がないから、警察に借りなきゃならない。 田島 警察の留置場って、いつも混んでますよね。すんなり貸してくれます? 監督官A 嫌がられます。 田島 やっぱり(苦笑)。知人の刑事に聞いたら「賃金不払いとかのせこい犯罪で留置場を使うなら、自分たちで捕まえたホシをぶち込んだ方が有益だ」と。労働法違反を軽く見てるんですよね。それと、警察はわっぱ(手錠)をかけて逮捕権を行使することに誇りを持っているので、「(被疑者に)わっぱをかけていいのは、百歩譲って海上保安庁までだ」と言ってました。 監督官C 昔かたぎの警察官ほど縄張り意識が強い。 監督官B 労働安全衛生法上の死亡事故現場に行っても、なかなか現場検証させてもらえなかったり。でも今は、意思疎通できるようになってきたかな。 監督官A 労災現場ってクレーンとかボイラーとか特殊な機械があって警察から質問されることもよくある。 監督官D 撮り忘れた現場写真を融通し合ったり。仲良くやってます。 監督官B 厄介さでいえば、検察官や裁判官が負けていない。賃金不払いはもちろん、残業代不払いとかも、刑事罰の担保された法律で罰せられるのに、借りた金を返さない債務不履行と同じようなものだと考えがち。労働法をもっと勉強したらいいのにとは思います。 でも、起訴するか否かを判断するのは検察官。われわれができるのは、その判断材料となる捜査資料を逮捕後48時間以内に仕上げて送検し、彼らに託すところまで。警察は組織が大きいから捜査資料の作成分担とかするみたいだけど、労基署は400〜500枚の資料をだいたい自分1人で2日間徹夜して作成します。 監督官A 逮捕しないで書類送検する場合は、もっと時間をかけて作れるんだけどね。 田島 送検事案って、ノルマというか、立件数の目標はあるんですか。 監督官C 送検は監督官1人で年間1件。私は今年、2件やっています。どちらも賃金を払わないことに対してちっとも悪びれていない。 監督官B 送検して罰金刑を科されたのに「罰金30万円のションベン刑で済みました」と勝ち誇って嫌みの礼を言ってきた経営者もいました。未払い賃金が100万円以上あったから、安上がりだと。「この後に裁判起こされたら、そんな額じゃ済まない」と言い返してやりました。 たちの悪い社長は逮捕も辞せず!『ダンダリン一〇一』の主人公である労働基準監督官の段田凛は、権限を限界まで使い切って労働トラブルに挑んでいく(c)田島隆(とんたにたかし)/鈴木マサカズ/講談社 送検を逃れようと 議員事務所へ 駆け込む企業も
田島 答えにくいことをあえてお尋ねしますが、送検を逃れたいという企業が調査中の案件をつぶそうと政治的な圧力をかけてくることはないんですか? 監督官B まあ、事業主はいろんな所に相談へ行きますわ。縁のある議員事務所に相談したりとか。議員事務所としては霞が関に問い合わせをしたりするんでしょうかね。すると霞が関は、捜査状況を現場に聞いてくる。ただ、「手心を加えろ」なんて直接的な言葉があるわけでもないので、それを現場が圧力と捉えるかどうか。 田島 でも、心理的な圧力にはなりかねない。そんな場合、どう対処されるのですか? 監督官B 私の場合、しっかり捜査して、きっちり送検しました。だらだら時間をかけて邪魔される隙を与えないよう、さっさと証拠を押さえてやろうと頑張っちゃう。 監督官A 私もむしろ燃えます。ただ、山のように事案を抱えているのでどの捜査にこだわるかは、監督官個人の判断でそれぞれ違ってきます。 監督官C 私は“におい”を感じるかどうかが判断材料ですね。 田島 へぇ、においですか? 監督官C 残業代不払いや過重労働の垂れ込みがあったら、現場に嗅ぎに行くんです。窓口の課長や部長の話や態度で、垂れ込みをした労働者の上司個人に属人的な問題があるのか、あるいは社長が労働法を守る意思がそもそもなくて会社ぐるみで問題があるのか、行けばおおよそ分かってくる。会社ぐるみと感じたら、問題は特に大きいのでGO。 監督官D 3年を過ぎたころから私にもそれ、分かるようになってきました。 監督官C われわれは「労働法の警察」の他に、企業が労働法を順守するよう指導する行政官としての役割がある。この仕事を始めたとき、「ああ自分は二重人格になればいいんだ」と思いました。問題のある企業にはまず、行政官として接する。それじゃあこの会社は変わらないと判断したら、検挙目的に徹する。企業には「こちらがあなたの話を聞こうとしているうちに、やるべきことをやってください。やらなかったら私は変身しますよ」と事前に伝える。 田島 それって、まるでおかあちゃんですね。「言われるうちが花よ、やらずにいたらお尻ぺんぺんだからね!」。なるほど、監督官って、労働法のおかあちゃんなんだ! 一同 ハハハ(笑)。 監督官A ただ、期待頂いても素直に喜べない葛藤もあるのが正直なところです。 田島 どんな葛藤でしょう? 監督官A はい。二つあって、まず、われわれの武器である労働法制が中途半端であること。例えば企業には労働者の労働時間を把握するよう迫るけど、把握する義務って法律には書かれていない。指針だけなので、お尻をたたけないんです。 田島 もう一つは? 監督官A 監督官の頭数が絶対数として足りない。 監督官B 実動部隊として動く監督官って全国で2000人を切っていますから。組織のてっぺんである霞が関の厚生労働省は不夜城といわれますが、時に現場も同じ。ブラック企業を取り締まるべき職場がブラック企業化している。だから、やるべきところをやり切れない。 監督官C 労働者には自分でやれることはやってほしい。これは監督官不足の問題を抜きにしても言っておきたい。監督官が労働問題解決の代行をやってくれるという他人任せでは、自分が求める結果は得られません。だから、労働者に闘う意思があるならばサポートします。 ある若い労働者がさぼりのぬれぎぬを着せられて給料を払ってもらえないから助けてくれと相談に来たとき、使用者に誤解があるならもう一度自分で説明に行ってはどうかといろいろアドバイスしました。彼は最初こそ怖がっていましたが、自力で給料を受け取ることができました。 田島 私も、20代に同じような体験をしました。アルバイトをしていた運転代行会社で無断欠勤扱いされて給料をもらえず、即解雇された。専務の許可をもらって休んだのですが、彼が社長に言い忘れていたんです。 労基署の監督官に泣き付いたら、「捜査は何カ月もかかるかもしれないから、自分でやってみては」と。助言通りに労基署に相談したことにも触れた内容証明を送ったら、社長から電話がかかってきて「金払っちゃる。労基署にまで駆け込んで怖いやつだ」と白旗を揚げた。これが大人のけんかだと知りました。 法律は武器になる。そう思って私は法律家の道へ進み、行政書士になりました。自分で声を上げた上で労基署、労働組合、弁護士といった専門家に手伝ってもらうというのが本来のスタンスなんだと思います。 一同 その通り。 田島 激務の監督官たちも一労働者としてもっと声を上げては? 一同 その通り、なんでしょうね…。 http://diamond.jp/articles/-/63870
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