01. 2014年12月16日 07:52:54
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原油価格下落が世界金融危機の引き金に? 次の主役はジャンク債囁かれる米国経済「大爆発」の危険性 2014.12.16(火) 藤 和彦 http://goo.gl/QGFL0v 著者プロフィール&コラム概要 「原油価格急落がなぜ次のサブプライム危機のきっかけとなり得るのか」 12月3日の米ニュースサイト「ビジネスインサイダー」は上記表題の記事の中で、「原油価格急落による米国のジ ャンク債市場の崩壊が次の金融危機の引き金となる」との警告を発した。 ジャンク債とは、低格付けのデフォルトリスクの高い債券のことであり、その投資の性格はハイリスク・ハイリ ターンである(「ジャンク」とはガラクタや紙くずという意味)。 1970年代の米国で、将来のキャッシュフローに焦点を絞ることにより投資リスク判断の精度を上げる手法が確立 されたことから、「ジャンク債」市場は徐々に成長し、30年かけてその規模は1兆ドルにまで達した。 1980年代に「ジャンク債の帝王」と呼ばれ、最近再び脚光を浴びているマイケル・ミルケン氏は、「1970年から 2000年にかけて『ジャンク』企業は6200万人の雇用増をもたらした」として、ジャンク債のことを「繁栄の方程式 」と称賛している。 ジャンク債のデフォルト率は、リーマンショック直後には10%を超えていたが、ここ数年は2%という低いデフォ ルト率が続いている。 これに目をつけたのがリーマンショック後の低金利で運用に苦しむ投資家たちだった。高リスクだが利回りの高 いジャンク債が飛ぶように売れるようになり、「ジャンク債でも危険はない」との見方が定着しつつある。リスク 分散化のための「CBO」(注)も開発されたため、ジャンク債市場の規模は直近の7年間で2倍となり、2兆ドルに急 膨張したという。 (注)「CBO」とは“Collateralized Bond Obligation”の略称で「社債担保証券」と訳されている。リスクの高 い債券を束ね、破綻時に優先返済するものを高い格付けにし、破綻したら返済しないものを低い格付けにするなど 、格付けごとに輪切りにした債券である。今年の年間販売額は史上最多の1000億ドルに達すると言われている。サ ブプライムローンの場合、CDO(Collateralized Debt Obligation:債務担保証券)が多数組成されたことが金融危 機の要因となったが、CBOの組成に関与する金融機関は「リーマンショック前より担保審査が厳格化したのでバブル ではなく問題はない」としている。 ジャンク債市場で資金を調達してきたエネルギー企業 今年のジャンク債の発行は11月末までに3440億ドルに達し、昨年の3480億ドルを上回り過去最高となる見込みで ある。そして、その好調の原因を作りだしているのが実はエネルギー企業である。 エネルギー企業はリーマンショック後の金融緩和の下、ジャンク債市場で多額の資金を調達し、シェール分野な どの開発を手がけてきた。10月末時点でエネルギー企業が発行するジャンク債の総額は2972億ドルで、5年前の約3 倍の規模に達している。10年前は4%に過ぎなかった市場全体のシェアは16%にまでに急拡大している。 しかし、この活況に水を差しているのが原油価格の急落である。 ジャンク債を購入した投資家は原油価格の急落を全く想定していなかったため、エネルギー関連のジャンク債の3 分の1がほとんど取引されておらず(社債利回りは過去5年で最高の9.5%に達し、債券投資家は85億ドル以上の損失 を出したとの観測がある)、11月下旬からジャンク債市場全体に対する警戒感が高まっているのだ。 現在シェール層から石油を採掘している企業の多くは、当初天然ガスの生産を始めたが供給過剰により米国の天 然ガス価格が急落したため、採算割れに陥ってしまった。この苦境を脱するべく生産を石油に切り替え、石油部門 から上がる収益で糊口を凌ぐとともに、ジャンク債市場から投資資金を獲得することにより増産を続けてきた。だ が、今後はどうなるのだろうか。 最近の原油価格の下落により、ヒューストンの石油・天然ガス開発企業が、多額の債務を抱えて資金繰りに窮し 、10月に米連邦破産法11条の適用を申請した。この企業に限らずかなりの数のエネルギー企業が今後苦境に追い込 まれ、来年は企業再生案件が増えるとして、「バンカーらが手ぐすねを引いている」との噂も流れている。 ジャーナリストの田中宇氏は、「米国のシェール開発はブレーキがついていないトラックが暴走しているような ものだ。シェール革命は米金融界が立案した詐欺であり、主役は石油業界でなく金融業界だ。原油安で儲からない といって減産すると、シェール革命が失敗したと見なされ、債券が売れなくなり、金融が破綻する。シェール業界 は原油安でも増産せねばならない」とその「自転車操業」ぶりを説明する。さらに「今後石油相場がさらに下がる と、米国のシェール投資が儲からない投資であることが顕在化し、投資が枯渇して業者の多くが連鎖破綻する」と している。 原油価格の下落が止まらない 12月に入り、JPモルガン・チェースが「原油価格が1バレル当たり65ドルを割り込み、今後3年間その水準にとど まれば、エネルギー関連のジャンク債の最大40%が今後数年間でデフォルトを起こす可能性がある」との見方を示 した。 バークレイズも「原油価格が1バレル=60ドルを下回り、その水準がしばらく続くと、多額の借り入れを抱える米 エネルギー企業は見向きもされなくなる」として60ドルを節目に財務上の不安が意識されるようになるとの懸念を 抱いている。 一方、サウジアラビアをはじめとする中東産油国にとっても「1バレル=60ドル」が現状を維持できるギリギリの ラインとの観測が強まっている。 くしくも60ドルという価格が浮上しているが、この価格を維持するのは困難な情勢である(12月11日、2009年7月 以来で初めて1バレル=60ドルを割り込み、「原油価格は自由落下の状態」と囁かれ始めている)。 世界の原油市場の供給過剰のレベルは日量200万バレルとされ、供給過剰な状態が2015年に入っても継続するとの 見方が広まっていることから、「原油価格は2015年に1バレル=43ドルまで下落する可能性がある(モルガンスタン レー)」という予想まで出ている。アラブ首長国連邦のエネルギー大臣からは、「原油価格が1バレル=40ドルに下 落しても、OPECは直ちには減産せず、少なくとも3カ月間は状況を見る」との発言も飛び出した。 石油ビジネスがまるで「飲料の製造」に? 危機感を高めつつあるOPEC諸国は11月に産油量を徐々に減少させている(前月比1.4%減の日量3056万バレル)が 、シェールオイルの増産が止まらない。原油価格の急落を受け、ここ数年急成長してきたシェールオイルも鈍化は 避けられないと見られていたが、12月8日、米エネルギー省は「米国のシェールオイル生産は来年1月も大幅な拡大 が続く」という見通しを示したように、当面は急ピッチの生産が続きそうだ。 調査会社IHSによれば、典型的なシェール油井コストは、油井をより迅速に掘削し、各油井からより多くの石油を 抽出する術を石油業者が学んだため、過去1年で1バレル当たり70ドルから57ドルに低下しているという。 11月の米国の油井・ガス井の掘削認可件数が原油安の影響で40%近く急減したことから、60〜90日後のリグの稼
働数が減るとの観測があるが、シェール開発企業は掘削装置を減らし生産性の低い鉱床での生産を減らす一方で、 主要鉱床で増産し生産全体を伸ばすことを見込んでいる。 英国のエコノミスト誌(2014年12月6日号)は、「石油ビジネス全体がいわば飲料の製造に近いものになっている 」と指摘する。 シェールオイルの開発は、市場の動静に応じて少しずつ投資を増やせるという特徴がある。従来型の大型油田の 場合、原油が発見されても、その開発には何年もの時間と膨大なコストがかかる。だがシェール油井は最短の場合1 週間で掘削でき、コストも約150万ドルと安価である。シェールオイル企業はシェール層がどこにあるかを熟知して おり、掘削装置も簡単に調達できる環境にある。 「世界の喉が渇いたら、いつでもボトリング工場の稼働率を上げればいい」(同誌)というように、シェール企 業は臨機応変な対応が可能なのである。 シェールオイルの総生産量(日量300万バレル)は、日量9000万バレルに上る世界の石油消費量のごく一部にすぎ ない。しかし米国のシェールオイルは、OPECが減産すれば相場の上昇を見込んで即座に増産するため、世界の原油 価格の上値を抑え続ける存在となってしまった。 サブプライム危機と同様の構図 このように、OPECは打つ手がない状態に追い込まれつつあるが、原油価格がこのまま下落を続けば、ジャンク債 バブルが破裂する危険性が高まってしまう。 米財務省が12月に「投資家が金融の安定に突きつける脅威が増している」との見解を示したように、現在の金融 市場におけるリスクの引受先は銀行から債券の買い手に移りつつあると言われている。投資家が頻繁に取り引きさ れない債券(ジャンク債)に投資しているとされているからだ。 米国に本拠を置く資産運用会社ブラックロックは、原油価格急落について、「多くの資産運用会社が運用するポ ートフォリオの構成が時勢に合わなくなり、新たに発生した投資機会を逃している」と語っている。ちなみに同社 の運用資産総額は世界のGDP(72兆ドル)の6%に当たる4.5兆ドル(2014年7月現在)と世界最大である。 サブプライム危機のそもそもの原因は、米国におけるサブプライム住宅ローン債権(1.3兆ドル)が証券化され世 界中に売りさばかれたことにある。サブプライム市場でパニックが発生すると、次々と関連のない健全な資産市場 に波及し、金融市場全体が流動性の危機に陥ってしまったのだ。 エネルギー企業のジャンク債市場は約3000億ドルとサブプライムの場合より小規模であるが、CBOという形で世界 中にリスクが分散されているという構図は、サブプライムのCDOと同様である。 リーマンショック直後の各国政府は「決済機能を担う金融機関を救済する」という理由で多額の資金を投入する ことができたが、資産運用会社の破綻を救う手段は限られている。 10月以降、米国の著名な専門家たちが「我々は巨大な金融資産バブルの真っ只中におり、近い将来、大爆発が起 きる。そうなれば米国株式市場は50%下落する」と恐ろしい予測を出している。 米国では金融緩和により大企業は低金利で社債が発行できるため、社債を発行した資金で自社株を買い戻して自 社の株式を高値に誘導することが常態化している。しかし、ジャンク債バブルが崩壊すれば社債市場全体が機能不 全に陥り、このような錬金術が使えなくなる。 米国株式市場が暴落すれば、好調を取り戻しつつある米国経済にとって大打撃である。そうなれば世界経済は再 び不況に陥り、原油価格は20〜30ドルまで暴落してもおかしくない。中東湾岸諸国の混乱は必至である。 「原油価格の急落」→「ジャンク債バブルの崩壊」→「米株式市場の急落」→「世界規模の景気後退」→「原油 価格のさらなる急落」→「中東地域の地政学的リスクの上昇」という負の連鎖を回避する手段が、私たちにはまだ 残されているのだろうか。 【あわせてお読みください】 ・「石油の新たな経済学:アラブvsシェール業者」 ( 2014.12.08(月) The Economist ) ・「米国のサブプライムローンの復活」 ( 2014.04.14、Financial Times ) ・「『オイルショック』が再来?シェールオイルがもたらすエネルギー情勢の激変」 (2014.09.12、藤 和彦 )
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42456
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