04. 2014年12月16日 06:29:45
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【第163回】 2014年12月16日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長] 原油安で困り顔という異常事態 必要性高まる日銀の“逃げ道” 日米のガソリン価格の動向が、両国の中央銀行の違いを際立たせている。 夏のピーク時からガソリン価格が大きく下がった米国に対して、小幅な下落にとどまる日本 Photo:AP/アフロ 今年のピーク時から10月までのガソリン価格の値動きを消費者物価指数で見てみると、日本は−3%、米国は−13.4%の下落だった。米国の方が圧倒的に安くなっている。日本銀行による事実上の円安誘導で、その開きは今後さらに大きくなりそうだ。
ダドリー・ニューヨーク連邦準備銀行総裁は12月の講演で「エネルギー価格の下落はわれわれの経済にとって有益だ。これは交易条件のポジティブなショックであり、家計の実質収入を顕著に高め消費支出に拍車をかける」と語った。 原油価格が1バレル当たり20ドル下がると、産油国から消費国へ1年で6700億ドルもの所得移転になる。他のエネルギー価格もつられて下がるので、米国を含むエネルギー輸入国にとって実際の利益はより大きい。米国内のシェールオイルなどへの投資は打撃を受けるが、同産業が米国のGDPに占める割合は小さいため、悪影響を過大視すべきではないとダドリー総裁は主張した。 フィッシャーFRB(米連邦準備制度理事会)副議長も同様の考えを12月初めに示している。エネルギー価格の下落は米国のインフレ率が目標(2%)に到達する時期を遅らせるが、消費が活発化して経済成長が高まれば、賃金が徐々に上昇してインフレ率もやがて適度に高まっていくとFRB幹部は考えている。 一方、日銀幹部はガソリン価格の下落を見て「困った、困った」と言っている。「2年程度を念頭にできるだけ早期にインフレ率を2%にする」と昨年春に宣言してしまったからだ。10月31日には、円安誘導を事実上強化するために追加の金融緩和策を決定した。 岩田規久男副総裁は、エネルギー価格が下落しても、それによって浮いた購買力が他の品目の価格を押し上げるので全体のインフレ率は低下しないと、以前は強く主張していた。しかし、いつの間にか宗旨変えしたらしく、追加緩和策に賛成していた。 追加緩和後も黒田東彦総裁は「できることは何でもやる」「薬は飲み切る」と強調して円安を推し進めたため、120円を超える円安となった。原油価格下落に大歓迎のFRBと実に対照的だ。米国よりもエネルギー輸入依存度がはるかに高い日本で、交易条件の改善を円安で相殺する政策は奇妙といえる。9月に日本商工会議所が行ったアンケートでは、120円以上の円安を望む企業は約3100社中、わずか1.3%だった。 日銀が無理にでもインフレ率2%を早期達成することは日本経済にとって本当に良いことなのか。 日銀が四半期ごとに実施しているアンケートでは、「1年以内に支出を減少させる」と答えた人が昨年6月以降増加中で、9月は50%を超えた。所得増加と物価上昇の好循環ができる前に、「何が何でも物価を上昇させる」と中央銀行が力んでしまうと、消費者は財布のひもを固く縛ってしまう。 ニュージーランドをはじめ、幾つかのインフレ目標採用国はエネルギー価格など外生要因でインフレ率が目標から逸脱しても、中央銀行の責任を問わないとしている。短期的に目標達成を無理やり狙うと、経済にゆがみをもたらしてしまうからだ。 日銀もそうある方がよい。原油安が進むたびに円安誘導を行うと、原油価格が反転上昇したときに日本経済へ深刻な悪影響を及ぼす輸入物価上昇が生じる恐れすらある。 (東短リサーチ取締役 加藤 出) http://diamond.jp/articles/-/63770 【第358回】 2014年12月16日 真壁昭夫 [信州大学教授] 原油価格の下落は日本にとって福音ばかりではない? 「逆オイルショック」で回り出す負のループの正体 “逆オイルショック”到来でどうなる? なぜ原油価格は急落してしまったか
最近、“逆オイルショック”という言葉がよく使われている。今から約半年前の6月、代表的な原油価格であるWTI(米国ニューヨークで扱われる原油の指標銘柄)は、1バレル当たり107ドル台だった。 ところが足もとの12月10日現在、同価格は60ドル台まで急落した。約6ヵ月間の下落率は57%を超えた。 従来原油価格は、中東での紛争などをきっかけに急上昇することが多く、それによって世界経済に痛手が及ぶことが多かった。今回の原油価格の下落が今までの反対、つまり“逆オイルショック”と呼ばれる所以なのだ。 原油価格の下落は、輸入国にとっては基本的に大きなプラス要因となる一方、原油を輸出している国にとっては大きなマイナス要因になる。円安傾向が続いているにもかかわらず、ガソリン価格が下落気味になっていることなど、わが国経済にとって重要な福音をもたらしていることなどがその例だ。 しかし、原油価格が短期間にこれだけ下落すると、国際金融市場でのお金の流れ(マネーフロー)などに大きな影響を与える。ベネズエラやロシアなど主要産油国の経済状況が悪化したり、エネルギー関連株の動きが不安定になるなどの悪影響も、顕在化している。 中長期的な原油価格の動向については、専門家の間でも様々な見方があるようだが、当面すぐに原油価格が急上昇することは考え難い。その背景と影響、さらには今後の展開を考える。 原油価格下落の主な理由については、ロシアに対する制裁強化説など様々なものがある。ロシアに対する制裁強化説とは、ウクライナ問題の制裁を強化するために、米国やサウジアラビアなど一部の産油国が結束して、原油価格を意図的に下げているとの見方だ。 あるいは、主要産油国であるサウジアラビアが、米国のシェールオイル産出に対抗するため、減産を見送って価格を押し下げているとの見方もある。それらは、いずれもストーリーとしては面白いのだが、それに要するコストを考えると、あまり説得力はないと思う。 現在の世界の原油市場の構図を整理すると、まず欧州やわが国、さらには中国をはじめとする主要新興国の景気回復が遅れているため、原油に対する需要は当初の予想よりもやや下振れしている。 OPECやサウジのプレゼンス低下で 供給過剰の状況は変わらない? 一方供給サイドはと言うと、非OPEC(原油輸出国機構)国を中心に増産が顕著になっている。特に、米国のシェールオイルの大幅な産出拡大が目立っている。こうした状況を冷静に分析すると、供給が需要を上回る状況になっている。 また、サウジアラビアをはじめとするOPECは、原油価格の下落に歯止めをかけるために総会を開催したのだが、結果的に合意を形成することができなかった。ということは、当面供給超過が続くことになる。 世界の原油を巡る構図は明らかに変化している。1つの変化は、OPECが以前ほどの価格決定能力を持てなくなったことだ。ロシアや米国などのシェア上昇で、カルテル機能が大きく低下している。 もう1つは、かつての盟主であるサウジアラビアのプレゼンス低下だ。かつて同国は、原油市場の盟主としてプライスリーダーの役目を果たしてきた。しかし、アブドラ国王の高齢懸念や後継者などの国内問題に加えて、中東地域の紛争が大規模化していることもあり、盟主としての実力を果たす余裕が低下している。 盟主の力量が低下すると、どうしてもマーケットは不安定になり易い。それは原油だけに限ったことではない。 “逆オイルショック”は大きな福音だが 日本にとってプラス面ばかりではない 原油価格が下がることは、多くのエネルギー資源を海外からの輸入に頼らざるを得ないわが国にとっては、大きな福音だ。国内の物価上昇のペースが、賃金上昇のそれを上回って消費が伸び悩んでいることを考えると、アベノミクスには神風と言ってよいだろう。 しかし、短期間に原油価格が大きく下落することは、世界経済にとって無視できない攪乱要因になる。まず、原油産出国には重大なマイナス要因として働く。すでにロシアの通貨であるルーブルは、過去半年間で約40%以上下落しており、今後輸出手取り代金の大幅減少により、国内経済が痛手を受けることは避けられない。 また、ベネズエラなどでは財政の悪化懸念が顕在化している。原油価格の下落によって、それ以外の商品市況が不安定化していることも見逃せない。こうしたマイナス要因によって、国際的なマネーフローが変化するはずだ。 たとえば、鉄鉱石などの有力な資源国であるブラジルは、国際的なマネーフローの変化によって自国通貨レアルが大きく売られた。それに対して、ブラジル中銀は政策金利の引き上げを行った。ブラジルは結果的に、景気が減速している状況下で金利を引き上げることを余儀なくされた。同国の経済は、さらに悪化することが懸念される。 “逆オイルショック”をきっかけに、ブラジルなど主要新興国の経済が減速すると、世界経済の足を引っ張る可能性が高い。欧州やわが国、さらには中国の経済回復が遅れている状況下で、ブラジルなどの新興国経済までもが減速すると、世界経済全体に“逆オイルショック”のマイナス効果が波及する可能性は高まる。 そうしたリスクを見越して、足もとでは株式や為替などの金融市場が不安定な展開になっている。それは、大手投資家がリスクオフに走っている証拠だろう。 円安の巻き戻しで好調株価に影響も? 日本経済にマイナス効果が波及する可能性 主要供給国であるサウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相は、米国のシェールオイルとのシェア争いに言及したという。かつて同国が減産によって、国際市場でのシェアを落とした苦い経験が働いているのだろう。 また、同国が抱える国内外の問題を考えると、短期的に減産に踏み切ることは考え難い。おそらく、エネルギー輸出依存度の高いロシアなどと同じ状況だろう。とすると、当面国際市場での需給状況は大きく変化することはないだろう。原油価格が短期間に大きく上昇することは考え難い。問題は、“逆オイルショック”がこれからも続くことだ。 わが国に関しては、今のところ、原材料としての原油価格の下落によるメリットの方が多い。ガソリン価格の低下は、一般家計や運送費用の低下を通して経済全体にプラスの効果をもたらすからだ。 しかし、これから徐々に、“逆オイルショック”のマイナス面が波及すると覚悟した方がよい。世界的なマネーフローの変化によって、ブラジルなどの主要資源国を中心に新興国の経済が痛手を受け、それがわが国をはじめ世界経済の足を引っ張ることになる。 また、マネーフローの変化は投資家のリスク許容量を低下させ、ヘッジファンドなど大手投資家をリスクオフの方向へと追いやる。為替市場では、リスクオフの動きに従って円安に巻き戻しの動きが出るだろう。 円安に修正が加わると、わが国ではGPIF(年金資金管理運営機構)や日銀に支えられてきた、官制の株式上昇のトレンドに変化が出ることも考えられる。また、原油価格の下落は、デフレからの脱却を目指す日銀にとって大きな逆風になる。 金融市場が不安定になり、デフレ脱却のメドがつかなくなると、アベノミクスに大きな打撃になることも考えられる。原油価格が下がれば、我々にとってプラスになると単純に考えることはできない。 http://diamond.jp/articles/-/63745 【第1088回】 2014年12月16日 週刊ダイヤモンド編集部 為替と原油価格に翻弄される家庭用太陽光発電の前途 急激な円安の進展が、家庭用の太陽光発電普及に大きな影響を与えそうだ。給湯設備メーカーのノーリツは12月5日、太陽光発電システムの生産・販売を縮小すると発表した。産業用は継続するものの、家庭用は2015年末をめどに生産・販売を中止する。 同社は11年から家庭用に本格参入。主力の温水機器で構築した施工・アフターサービスの体制を強みにシェアを広げたが、「市場価格が当社の想定以上に下落する一方で、急激な円安の影響でモジュールを構成するセルなどの仕入れ価格が上昇し、家庭用太陽光発電システムの収益性に大きな影響を及ぼした」(同社IR)という。 経済産業省の出先機関、中国経済産業局がまとめたデータによれば、この5年間で家庭用は46万件から155万件まで伸びたが、普及率は全国平均で5.6%にとどまる。需要が拡大しない中で円安がこのまま続けば、ノーリツと同様の動きを見せる企業が連鎖的に出てくる可能性もある。 拡大画像表示 その判断材料となりそうなのが、発電コストと電気料金の関係だ。発電コストは1キロワット時当たり50円から30円未満まで低減しているのに対し、家庭の電気料金は少しずつ値上げされてきた(右図参照)。 理由として、12年に始まった固定価格買い取り制度(FIT)に伴う「再生可能エネルギー発電促進賦課金」が指摘されるが、それ以上に円安による燃料価格上昇に伴う燃料調整費の影響が大きい。 例えば、東京電力が示す平均モデルなら、電気料金が8417円の家庭では再エネ賦課金217円に対し、燃料調整費は675.5円と約3倍の負担になる。 自然エネルギー財団は、「今の傾向が続けば、15年第2四半期には家庭用太陽光発電の発電単価と通常の電気料金が同等になる」と試算しており、そうなれば普及への壁は取り払われる。 原油価格にも注目 もう一つの注目が、原油価格だ。今月開かれた石油輸出国機構(OPEC)総会で、産油国が減産に踏み込まなかったために、原油価格は下落の一途をたどっている。 原油価格に連動する形で液化天然ガス(LNG)を大量調達している日本の電力会社は、本来ならば価格下落の恩恵を被ってもおかしくない。しかし、「総括原価方式」で燃料費の負担を国民に転嫁できる仕組みにより、企業努力をしにくい契約となっており、依然高値での取引を余儀なくされている。 バーゲニングパワーによって市場価格を反映した調達ができるようになれば、円安の影響を十分相殺できる上に、電気料金の上昇も抑えることが可能になる。東日本大震災後、自然エネルギーの代表選手として大きな期待を集めてきた太陽光発電だが、為替と原油という巨大市場の動きが普及への大きな鍵を握っている。 大根田康介) (ライター http://diamond.jp/articles/-/63778
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