01. 2014年12月11日 07:21:26
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シリーズ・日本のアジェンダ 消費増税先送りYES or NO 【第6回】 2014年12月11日 ダイヤモンド・オンライン編集部 消費税はむしろ5%に戻すべきだった 再増税までに法人税率を下げ給料へ回せ ――安田隆夫・ドンキホーテホールディングス代表取締役会長兼CEO「本来なら、5%に戻す、減税するということでもよかったくらいです」と話す安田隆夫・ドンキホーテホールディングス代表取締役会長兼CEO?Photo by Kazutoshi Sumitomo 4月の消費税率の引き上げ後、軒並み苦戦を続ける小売業界にあって、ドン・キホーテは既存店すら前年を上回り、一人気を吐いている。そこでドンキホーテホールディングスの安田隆夫会長に、消費増税先送りの賛否について話を聞くと、意外な答が返ってきた。「消費税はむしろ5%に戻すべきだった」、さらに「法人税率を引き下げて給料へ回すべき」と言うのだ。その真意やいかに……。 (取材・構成/ダイヤモンド・オンライン編集長?原英次郎、片田江康男) 増税延期は喜ばしい 本来なら減税すべき ――4月の増税の際は、どのような影響がでましたか。 ?4月の増税は、もう確定事項でずいぶん前から分かっていたことでしたので、いろいろと準備をしていました。結果的に、増税後の反動減をこなし、既存店売上は5月には100%を超え、今期に入って7月からはそれが定着しています。準備が功を奏したということでしょう。 ?今回、延期になりましたが、私が感じている消費の現場の感覚からすると、増税延期は非常に喜ばしいことです。やはり、消費税が上がるということ自体が、われわれのような小売業にとってポジティブなことではありません。 ?変化に対応するという意味では、私たちは変化があるほうが動きやすいということもあって、増税という変化が抗し難い運命ならば、ポジティブに捉えて、変化対応し、チャンスにしようということになります。 ?ですが、抗し難い運命ではないというのであれば、話は違ってきます。そりゃあ8%のままがいい。もっと言えばね、本来なら5%に戻す、減税するということでもよかったくらいです。 ――ということは、消費は相当に弱い、ということでしょうか。 やすだ・たかお ドンキホーテホールディングス会長兼CEO。1949年5月生まれ。80年9月ジャスト(現ドンキホーテホールディングス)設立、社長就任。長崎屋の買収や新業態開発など、同社の業様拡大を主導。 Photo by K.S. ?そうですね、5%に戻すくらいのことをやっても良かったと思いますよ。それくらい、私どもの会社の業績を見ると堅調に見えるかもしれませんが、消費全体を見てみると、著しく低迷しています。この不都合な真実を、政府は直視しなければならない。この消費の弱さはアベノミクスに暗雲をもたらすことは間違いないです。
――消費の弱さとおっしゃっているのは、駆け込み需要からの反動減で落ち込んだ消費が、戻ってくるといわれたのが、その戻りが弱いということなのでしょうか。 ?お客さまの可処分所得があまり増えていないということなんですね。そこに8%へ増税されて、気分的にうんざりというものが拭いきれていない。そこへ来年さらなる10%への増税ということになると、のしかかる将来不安を拭うことなんてできません。そういうときに大事なおカネを無駄に消費することはできません。警戒感が高まっていると思います。 ――アベノミクスでメリットを得られている人たちは、いまのところ株や不動産などの資産を持つ一部の人たちに偏っています。 ?まさにその通りで、今後は資産価値の上昇による恩恵を得られていない人に、どうやって恩恵が及ぶようにするかが重要で、アベノミクスの真価が問われますね。 ?政府は株高と円安で輸出企業や投資家が利益を上げて、景気が上昇し、それによって所得が増えるという、過去の経済原則に基づいていると思います。今、それがそのままいくかというと、分からないですよね。そもそも円安で利益を上げるような企業は一部の大企業です。 霞が関では決して議論されない 10%という税率が持つ意味 ――御社には4月の増税前に取材をさせていただきました。その時は、増税は事業にはプラスだと予想されていて、その後、実際に御社はチャンスをものにしました。安田会長は5%に戻すべきだったとおっしゃいましたが、10%にするときも、同様にチャンスになるのではないでしょうか。安田会長は、そうお答えになるかと思っていました。 ?もし10%に増税されることが決まっていて、先ほど申し上げたように抗し難い運命ならば、「10%への増税は当社にとってチャンスだ」と言ったと思いますよ。私たち民間企業は、政策は変えられません。常に周りの環境、政策、消費者の変化に対応して生き延びていかないといけない。変えるのは自分自身です。 ?ただね、10%への増税が延期になったら、そりゃ話は別ですよ。率直に言わせてもらいますけど、もし10%に消費税上げたら、そりゃあもう、消費に対するダメージは大きいですよ。消費は確実に低迷します。当社はなんとか変化対応してやっていきますけど、10%になったら、今のまま持つかどうかわからない。 ――でも、先月の消費再増税について議論した政府の点検会合では、有識者45人のうち、30人が法律通りの増税を求め、増税の延長・中止を求めたのは12人だけで(賛否を表明しなかったのは3人)、予定通り増税すべきだと言う意見が大勢でした。政府の考える経済状況と、安田会長が消費の現場から感じる景気や経済状況には、ずいぶん差がありますね。 Photo by K.S. ?増税に関して、霞が関ではまったく聞こえてこない論点があるんですよ。それはね、10%特有の怖さです。つまり、消費者は8%は暗算しにくいが、10%はパッと暗算できるということです。
?たとえば、消費税が8%のときに税込み2980円で売ろうとする。ということは、税抜き価格は2759円です。価格表示は外税表示が認められ、税抜き価格を表示してよいので、値札には税抜き価格だと表示をして2759円と書きます。 ?これが消費税が10%になったときにどうするか。もしそのままの値札で税抜き価格2759円とすると、消費税10%だから3034円になる。10%だと暗算しやすいから、消費税分の275円を2759円に足すと、すぐ3000円超えると消費者は想像できます。 ?これは小売業者にとって非常につらい。消費税10%でも2980円という割安感を演出するために価格設定をするなら、税抜き価格の2759円の方を値下げせざるを得ない。ということは、2709円となる。 ?これは、そのままデフレ圧力として、ストレートに効いてきますよ。政府と日銀がとっているインフレ政策とは、真逆になるということです。これはほとんど議論されていない。小売業者からすれば、当たり前のことなんですけどね。 ?何十円か値段を下げるということは、どういうことかというと、当社の経常利益率は約6%だから。そのマイナスの影響は極めて大きいですよ。そんなチキンレースをやれるんですか。もしかしたら、売上高1.5倍になっても、利益はあまり変わらないか、落ちてしまうということになる。10%というのは、計算しやすくてダメですね。 ?外税表示というのが、激変緩和措置ということで認められましたけど、10%というのは激変緩和措置としての外税表示がまったく効かないんですよ。 なぜ歳出についての 議論を先にしないのか ――政府や与党の議論を聞いていると、歳出(収入)と歳入(支出)の、歳入だけを見ているように感じる。歳出の部分はしっかり議論をしているのかが疑問です。 ?おっしゃる通りで、歳出と歳入の収支が合っていなくて赤字だから、それを補うためにすぐに増税しようとすることが問題です。 ?本来は歳出の議論をするのが先です。そこが議論の中心にならないといけない。しかし、すぐに増税だと言って景気の「気」を冷やす。実際、4月の増税で足元はまさにそうなってしまいました。歳出を減らすということをなぜ先に言わないのか。「痛みを我慢して、皆さんご負担ください」とは言うけど、「痛みを我慢して、歳出を減らしましょう」とは誰も言わない。 ?いや、企業だったらね、もし赤字になったら真っ先に経費を減らして、赤字を削減しようということになるじゃないですか。なのに、なぜ政府は歳出を減らすことを先に言わないんですかね。本当に不思議ですよ。議論の焦点を意図的に歳入の方ばかりに持っていっているんじゃないですかね。 「社会保障だ、福祉だから……」と言いますけど、痛みを我慢してある程度この部分を削らないと、どうにもなりません。福祉が大事だっていっても、国家が破綻していいのか。そんなことになったら、福祉もヘチマもないんですよ。ハイパーインフレにして、一気に政府の借金をチャラにするんですかね。歳出を削減するとなると、福祉は大事だ、削れないと言って、議論を封じてしまうように見えます。 ――可処分所得を上げるために、給料を上げるべきだということは、政府も言及しています。先月の政労使会議では安倍首相は経済界に賃上げを要請し、経済界もその必要性は認識しているようです。 ?確かに、当社も含めて給料は上げないといけないと思っています。しかも、中間管理職以上の給料じゃなくて、現場の人の給料を上げないといけないと思います。 Photo by K.S. ?私は政府や政治家が直接、企業に給料を上げろというのは、奇異なことに受け止められやすいですが、評価して良いと思っています。選挙対策もあったのかもしれませんが、政府がそうやって言っていかないと。
?ただ、現実に給料を上げられる状況にあるのは、一部の輸出企業に限られると思います。いま上げずに、いつ上げるんだって思いますね。しかし、当社のような内需型の企業は、怖くて上げられない。明日、どうなるか分かりませんからね。そんななかで給料を上げたら、なかなか下げられないし、怖いですよ。 ?消費税が8%になるまでは、株も上がって円も安くなって、外国人の旅行者も増えて消費が活発化しつつあった。賃金も上昇傾向だったと思います。でも、消費税を8%に上げて、一気に腰折れ。内需型企業は軒並み勢いがなくなった。 ?やっぱりね、内需型の企業がダメだと、景気全体もダメなんですよ。お客さまがどんどん消費してくれるような気持ちにならないんですよ。おカネを大事に抱え込んでいる自分が正しい姿だと思っていると思います。この際、使おうという気持ちになるにはどうしたらいいかを考えないといけません。 ?それには、株を上げて不動産価値を上げるような政策だけじゃダメです。やはり給料が上がらないと、それから内需型産業が良い状況にならないとダメだと思います。 法人税率が下がったら うちは給料を上げる ――政府は内需型産業が潤い、給料が上がるために何をするべきだと考えますか。 Photo by K.S. ?一年半増税が延期になりましたので、いろいろと次の手を打てる時間ができた。やはり政府は法人税率を下げるべきだと思います。その上で、政府は法人税を下げた分、給料を上げろと、かなり強い調子で民間に言う。どこの経営者も、法人税率が下がれば給料を上げると思いますよ。だって、国に払うよりも、自分のところのかわいい社員に払った方がいいに決まっています。
?日本の法人税率って、本当に高いんですよ。普通のビジネスマンは、企業が100万円儲かったら、国が税金でいくら持っていくか、知りませんよ。いくら持っていくか、知っていますか??約45万円持っていくんですよ。自治体などによって違うんですが、約半分持っていかれちゃう。ここを下げない限り、企業は給料を上げられない。 ?一年半の猶予ができたので、法人税率を下げて、給料を上げ、そうして初めて消費税率を10%にしても腰折れしない状況がつくれると思いますよ。法人税が下がっても給料が上がらなかったら最悪ですけど、経営者はみんな給料を上げると思います。すくなくとも、当社は上げます。同じ業績水準だったら。 ――しかし、財務省は消費税増税を先延ばしにするんだから、法人税引き下げはなし、という考えを持っているとも聞きます。 ?いやね、法人税率を下げないんなら、消費税増税を先延ばしした意味がないんですよ。法人税下げないんだったら、来年消費税を上げたらいいじゃないですか。 ?法人税率を下げるから社員の給料を上げろ、っていうのは、すごく話の筋が通るんですよ。政権の支持率も上がると思うんですけどね、なんでそうしないのかな。ストレートに言ったらいい、「法人税率を下げるからその分社員の給料を上げろ」って。 ?この議論は、なかなか主役にならないですね。それは「法人税を下げて、消費税を上げるのは、企業ばかりを優遇して国民から取るのか」って攻め込まれちゃうから。でもね、違うんですよ。法人税率を下げた分を給料に回せっていう、シンプルなメッセージを政府が出せばいい。政府もそうやって経営者を追い込んで、給料を上げるように強く言ったらいい。 思い切った開放政策で 外国人観光客を増やす ――他に政府がやるべき消費を刺激し、内需型の産業を元気づける政策はあるのでしょうか。 ?やはり多くの外国人の方に日本に来てもらい、観光してもらって消費をしてもらうことではないでしょうか。ましてや円安なので、この機会に日本は一気に開放政策をとって、より多くの外国の方に日本に来てもらうようにするべきでしょう。 ?日本に来てもらえばリピーターになってくれると思いますよ。魅力的な要素が日本にはたくさんある。日本の良さは、優れた商品を生み出すということだけじゃなくて、治安の良さ、それからホスピタリティです。 ?それを見れば、日本に対して必ずしも良いイメージを持っていない国の人でも、一度、日本に来てみれば、「日本は学校で教えられたような国ではないじゃないか、全然違う」ということはすぐに分かると思います。こういうことが分かるだけでも、国益につながると思います。 ――確かに、10月から免税対象品目が全品目に拡大してから、御社や百貨店などは非常に大きなメリットを得ていると聞きます。 ?それはもう、一部の都内の店はものすごい勢いですよ。でもこれは初動に過ぎません。まだ実態として、免税品対象品目が拡大したことを、知らない人が多い。来店された外国人観光客の方に説明すると、「えっ!」と驚かれます。 ?初めて日本に来る観光客の方の多くは、添乗員が案内するようなパック旅行でやって来る。だから、観光客の方が自由に買い物するのはアフターディナーの自由時間。でもその時間帯は夕方から夜なんです。その時間帯に、いろいろな分野の商品を揃えている店が、当社くらいしかないということなんでしょう。当社はたまたま、パックツアーで来られた外国人観光客の買い物需要の受け皿になっているのです。 ?思い切ってビザ発給条件を緩和したり、誘致策を大胆にとるべきだと思います。成田と都内とのアクセスを良くするなど、オリンピックまでにやるべきことはたくさんある。 http://diamond.jp/articles/-/63532 |