03. 2014年12月10日 06:58:09
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山崎元のマルチスコープ 【第358回】 2014年12月10日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] 高齢者の資産運用心得7箇条 高齢者は特別ではない マネー運用の心得7箇条 雑誌の読者が目に見えて高齢化しているせいか、筆者は最近、「60歳からのマネー運用について」とか「退職金の運用方法について」といったテーマで取材を受けることが多い。この際、重要だと思うポイントについて、簡単にまとめておきたい。 現在の60歳以上の世代は、平均像では若年層に較べて圧倒的にお金を持っているのだが、お金の運用に無頓着に過ごしてきた方が少なくない。こうした方が、退職金のようなまとまったお金を持って「運用デビュー」するシチュエーションには、少なからぬ危うさを感じる。かと言って、何もしないのが正しいわけではないし、用意なしに金融マンやFPに相談に行くのは「はっきり危険」だ。 それでは、どうしたらいいか。まずは、気をつけるべき点について、高齢者のマネー運用心得を以下の7箇条にまとめてみた。 以下、7箇条を個別に説明して、最後に具体的にどうしたらいいかについてもお伝えしよう。
(1)高齢者向けの運用などない 運用にまで歳を取らせる必要はない 第一に強調しておきたいのは、高齢者だからといって、それらしい運用をしなければならないという先入観を捨てることの必要性だ。「高齢者向けの」運用方法、あるいは運用商品などというものは存在しない。 お金の運用には、「お金を、なるべく安全に、できるだけ増やす」という以外の目的などない。そして運用商品は、誰が買っても、同じ期間に保有していれば同じリターンだ。高齢であることを特別なことだと考えても利益はないし、かえってつけ込まれる隙ができる。 高齢者だから、若者よりも運用期間が短いという反論があるかもしれないが、頭さえしっかりしていれば、また兆円単位の資産を運用しているというのでなければ、10年もあれば運用期間としては十二分に「長期」なので、普通の運用でいい。 後述のように、高齢者は今後追加的に稼ぐことが若者よりも難しいという制約があるが、十分な資産を持っている方の場合、投資の損で許容できる金額・比率は、若者よりも大きい場合が少なくない。 また、利息・配当・分配金などのインカムゲインと、株式や投資信託などの値上がり益によるキャピタルゲインを分けて考えて、インカムゲイン中心の運用を組み立てるのは愚かだ。高齢者の運用というと、「インカムゲイン中心に」というイメージがあるが、この点は金融機関につけ込まれやすい。 (2)毎月の取り崩し可能額で リスクを考えよう たとえば、あなたが65歳でリタイアしたばかりだとしよう。少し長めに見て、仮に95歳まで生きるとしたときに、残りの人生は30年間であり、月数に直すと360ヵ月だ。 仮に、手元に360万円あれば、年金その他の収入を補完して毎月1万円取り崩してもいい計算になる。まだ現役で働いている方も、リタイア後の月数「360」で持っている資産額を割り算してみるといい。 たとえば、現在3600万円の運用額があって、1割運用で損したとしよう。この場合、リタイア後の「毎月10万円」の取り崩し可能額が「毎月9万円」に減ると考えたらいい。1万円の差は、それなりに生活に影響し、何より残念だろうが、「我慢できないことはない」と思えば、あなたは最大360万円までの損失可能性のある運用にチャレンジできる。 定額ではなく定率で取り崩すとか、年齢によって想定取り崩し額を変えたりするような、もっと緻密な計算をしてもいいが、人生の予定も運用結果も変動するものなので、ざっくりと「360」(たとえば)を単位に考えて見ることを、筆者はお勧めする。 実際に高齢世代に突入し、仮に現在あなたが75歳なら、240万円が毎月1万円取り崩せる資産額だ。「残りの月数」を使って、資産額(ストック)を毎月の取り崩し消費額(フロー)に換算して、資産の増減がどのくらいのインパクトを持つかを、具体的に実感できるようにしてみよう。 個人差は大きいだろうが、たとえば保有する不動産の処分価値まで資産にカウントすると(価格は現実に売れる価格である必要があるが)、案外大きなリスクを取ることができる高齢者が少なくないはずだ。 (3)相談相手から運用商品を買うな 特に銀行には注意 さて、高齢者のマネー運用で一番心配なリスクは、株価のリスクでも為替リスクでもなく、「人間のリスク」だ。株価や為替レートは、あなたに悪意を持って変動するわけではないが、人間、特に金融機関の人間は、あなたから儲けようという意図を持っている(逆に、持っていなければビジネスパーソンとして不真面目だ)。真に恐いのは、人間なのだ。 大まかな心得としては、運用を相談する相手から、運用商品を買ってはいけない。FP(ファイナンシャルプランナー)に相談する場合は、きっちりと相談料を払うべきであり、その代わりFPが勧める投資信託や保険商品などを、絶対にそのFPを介して買わないことが肝心だ。 リタイアする人の場合、特に気をつけて欲しい相手は、退職金が振り込まれる銀行(つまり給与振り込み口座がある銀行)の銀行員さんだ。1つには、取引口座のお金の動きを通じて、銀行は顧客の金銭事情を詳しく知り過ぎている。セールスマンとしては相対するには、あまりに手強い相手だ。 加えて、銀行の窓口で対面販売している投資信託や保険の商品は、ほとんど全てが手数料が高すぎて、はじめから検討に値しない商品ばかりだ。 運用の内容は自分で考えよう。運用商品の売買は、自分の懐具合を知らない相手と、自分の運用金額を知らせずに取引することにすべきだ。 なお、金融業者や各種の専門家(筆者のような自称経済評論家も含む)の言うことを信用してはいけないのと同時に、友人・知人のクチコミも大いに警戒すべきだ。怪しい運用商品やサービスなどに引っかかったとき、人はそれに気づいていなくても、なぜか自分の「仲間」をつくりたくなるものだ。お金の問題は、「気持ち」ではなく「論理と計算」だけで決めることが大切だ。 (4)リスクは商品ではなく 投資金額で調整せよ たとえば、退職金が2000万円入ったとする。これを全額100%株式に投資する投資信託に投資するのは、「リスクが大き過ぎる」と思って躊躇する方が多いだろう。しかし、ドル・円の為替リスクは株価指数のリスクのおおよそ半分くらいなので、退職金をドル預金にしてもいいと思う方はいるかもしれない。 しかし、運用額に対して「株価指数の半分のリスク」が適当だと思うなら、株価指数に投資する投資信託(インデックスファンド)に50%投資して、残りの50%は預金か個人向け国債(変動金利の10年満期型をお勧めする)で運用すればいい。 リスクの大きさは、資金を丸ごとどの運用商品で運用するかと考えるのではなく、リスクのある運用商品を「いくら」買うか、金額で調整する方がいい場合が多い。しかし、金融業者に運用しようとしている額を明かしてしまうと、彼らは目の前の顧客から最大限の手数料を稼ぐことを考えるので、運用資金を全額使わせるように誘導するし、その際に過大なリスクを取ることになる場合がしばしばある。 筆者がある女性アナウンサーから相談を受けたケースでは、退職した彼女の母親は、ある信託銀行の誘導で、退職金をほぼ全額(!)「米国のREITに投資して通貨リスクをブラジル・レアルにスイッチする毎月分配型投資信託」(筆者は劣悪な商品だと判断する)に投資したという。 (5)「毎月分配型投信」から 徹底的に離れよ その毎月分配型の投資信託なのだが、高齢者顧客を中心にいまだに売れているのは困ったことだ。 毎月分配型投信は、多くの場合毎月ほぼ一定額の分配金が支払われることから「年金を補完する収入を」という高齢者の気分的資金ニーズに合致していることや、高齢者の運用はインカム収入中心がいいという誤った先入観が流布していることなどから、よく売れている。 しかし、(1)毎年1回の分配よりも課税が早まるぶん毎月分配型という仕組み自体が不利であること(期待利回りがプラスなら必ず不利だし、マイナスなら投資することが無意味だ)、(2)分配金を高く出すために大きなリスクを取っていること(しばしば株価指数並みあるいはそれを超えるリスクだ)、(3)あきれるほど手数料が高いこと、の3つの欠点があり、投資するのが高齢者でなくても、筆者から見て投資していいとお勧めできるような商品は「一本もない」と、自信を持って断言できる。 毎月分配型投信には、そもそも投資すべきでないし、これを売ろうとする金融機関のセールパーソンともきっぱりと縁を切るべきだ。そこまでしなくてもいいのではないか、と思われる読者もおられようが、全く甘い。先ほど申し上げたように、運用で最も恐いリスクは「人間のリスク」なのだ。 (6)インフレヘッジにこだわるな 運用商品を販売する側から見て、二大商材は「老後の生活不安への備え」と「インフレへの備え」だ。これらを突きつけて不安にさせて、リスクの高い(ということは同時に手数料の高い)商品を売り込むのが、基本的なマーケティングテクニックだ。 年齢が上がり、老後の生活が具体的に見えてきた人を脅かすのに、一番使えるのは「将来のインフレへの備えが必要です」という台詞だろう。 追加的な稼ぎの手段が狭まり、年金などが頼りの高齢者の経済生活にとって、インフレが大きな脅威であることは筆者も否定しない。 しかし、将来のインフレの可能性を過大評価して過剰反応したり、インフレのリスクを完全にヘッジしようとしたりすると、端的に言って騙されやすくなるし、極端な運用に走り勝ちになる。 たとえば、株式は債券よりもインフレに強いが、理屈上インフレのリスクを常に完全にヘッジできるわけではない。実質金利が下がるインフレの初期は有利だが、金融が引き締められて実質金利が上がるインフレの後期には株価が下がったり、インフレに追いつかなかったりすることが十分考えられる。 アベノミクスのここまでの株高は、原理的にこのインフレ初期の株価上昇に近い。これから先も、対インフレで株式が有利であるかどうかは何とも言えない。 物価連動国債は、原理的にインフレに対する直接のヘッジ手段になり得るが、実質マイナスの運用利回りを確定するような現在の物価連動国債に投資するのが、有利な運用手段だとも思えない。 長期の固定利付債券よりも変動金利の債券や預金の方がインフレに強いし、株式や外貨建て資産はインフレ率が上昇する段階でまずますのリターンを提供してくれる可能性がある。こうした普通の運用商品を、自分が取ることのできるリスクの範囲内で、より高い収益を狙うという普通の運用意図の下に資産運用を考えたら、十分だろう。 また、将来もニーズのある仕事を提供でき、稼ぐ手段があるということが、原理上は最も柔軟で頼りになる「インフレヘッジ」だ。 付け加えると、インフレは急にやって来るわけではない。本格的なインフレ対策を考えるのは、物価上昇率が2%台に乗って、3%を超えそうになるくらいからで十分だろう。 インフレへの備えが重要でないとは言わないが、現状では将来のインフレリスクに強くこだわることの弊害の方が、大きいのではないか。 (7)手数料には徹底的にこだわれ 運用商品や金融機関は、運用業者、金融業者が手数料を儲けるために存在する。一方顧客の側では、自分のお金を増やす目的で運用する。 業者と顧客の間にあって、顧客の側にとって確実にマイナスのリターンとなるのが、運用商品の手数料だ。 たとえば投資信託だと、販売手数料が2%〜3%、継続的にかかる管理・運用の手数料である信託報酬が1%台半ばくらいかかる商品が少なくない。しかし、販売手数料はゼロの商品(「ノーロード」と称する。主に、ネット取引で購入できる)以外に投資すべきではないし、信託報酬も長期金利が0.5%にもならないときに年率1%以上払うのは払いすぎだ。 現状、投資信託では、株価指数に連動する「インデックスファンド」と呼ばれるタイプの商品以外に、投資して良いと思えるリスク運用商品はない。ノーロードのインデックスファンド、あるいは信託報酬の安いETF(上場型投資信託)を買うといい。 運用商品の中には、保険や仕組み債などのように、実質的な運用手数料がわからないものがあるが、こうしたものは実質的な手数料がおしなべて高いので、「全て」見送りと決めて、何の問題もない。 普通の人のための 「超簡単お金の運用法」 高齢者に特別な運用方法などない、と言った。拙著『全面改定 超簡単お金の運用術』(朝日新書)で提案した、普通の人のための運用の簡便法を以下に紹介しておく。 NISA口座はETFが利用できるように 銀行ではなく証券会社に持つといい
簡単に補足しよう。 リスク資産の内外株式の比率は、4:6〜6:4の間に収まっていれば、細かく気にする必要はない。また商品は、ここで挙げたものに限らないが、個人にとって、いちいち別の商品を調べる利益は乏しいと思う。これらよりも、手数料の高いものに投資しないことが肝心だ。 高齢者は、すでに確定拠出年金の利用年齢を終えていると思う。その場合、NISA(少額投資非課税制度)のみの利用となるが、NISA口座はETFが利用できるように、銀行ではなく証券会社に持つといい。 NISA口座では、国内株のETFか外国株式のインデックスファンドを買って、5年間持ちきりにする。リスク資産への投資額の調整は、NISA口座の中で行うのではなく、「NISA口座とそれ以外の運用資産の合計」を見ながら、主にNISA口座の外の資産で行うのが適切だ。 高齢者の場合、「しばらく使わないし、リスクも取りたくない」という「無リスク運用資産」としては、個人向け国債の変動金利・10年満期型をお勧めする。対面営業型の証券会社でMRFを持つと、余計なセールスに晒されるリスクがある。 この運用方法は、おおむね長期金利(10年国債利回り)が2%を超えるまでは、修正する必要がないことを念頭につくった。 なお、現在、いわば公的相場操縦によって、いささか不自然に株価・為替レート等相場が形成されている。株価で言うと、PER20倍(現在の利益水準なら日経平均で2万0360円)程度を上回って来たら、持ち株の一部を売ることを考えるといい(全部売る必要はない)。 読者の運用のご成功を祈る。 http://diamond.jp/articles/-/63449
“超円安”に勝つ資産運用byダイヤモンドQ 【第7回】 2014年12月10日 「ダイヤモンドQ」編集部 長期・分散投資の大本命 ETFは低コストが魅力 インデックスファンド同様、代表的な株価指数などに連動した成果を目指して運用されるのが、ETFだ。値動きが分かりやすく、信託報酬などの保有コストが安いので、長期・分散投資の大本命であり、ダイヤモンドQ編集部でお勧めのETFをリストアップした。 全部で150本程度 インデックスなどに連動 いきなり個別の株式投資を始めるほどの度胸や時間はないし、投信も多過ぎて選ぶのが大変という人にぴったりなのが、ETF(上場投資信託)。ETFとはExchange Traded Fundsの略で、証券取引所に上場し、株価指数などの指標への連動を目指す投信の一種。現在、全部で150本程度のラインアップがあり、株式と違って数千〜数万円の少額から購入できる。 その代表格はTOPIX(東証株価指数)に連動するもので、東証1部の全銘柄の動きを反映した株価指数に連動して運用される。 それでは投信のインデックス型のファンドと大して変わらないという印象を持つかもしれないが、ETFにはインデックスファンドに比べてメリットが多い。 まず、ETFはインデックスに連動するファンドに比べ、信託報酬などのコストが低い傾向がある。分散投資なら最初にETFを検討するのが正解だ。売買する際の手数料は株式と同じ扱いで、各証券会社により異なる。ETFがあまり注目されていないのは、証券会社にとってはあまりもうかる商品ではないからだ。
さらに、ETFは株式と同じように、市場が開いている時間に証券会社を通じてリアルタイムで取引ができる。信用取引もできるので、市場全体が下がると予測する場合にもカラ売りで対応できる。 欧米ではポピュラーな金融商品で、ラインアップも豊富。日本でも規制緩和が進み、代表的な株価指数だけでなく、特定業種の株価や金価格などの指数に連動するものや、ブル・ベアファンドのようなものもある。 ただ、本数は増えているが、中にはほとんど売買されないマイナーなものもあり、そうしたETFは売りたいときに売れない流動性リスクを抱えている。買う際は出来高が一定程度あるかチェックしよう。 まずは比較的出来高が多い日本株全体の指数に連動するものから始めるといいだろう。一定の時価総額があるETFで主なものを、ダイヤモンドQ「マネー運用特集」でリストアップしたので、その一部を紹介しよう。 東証に上場する主なETF一覧 投資対象 コード 名称 価格(円) 単元株数 特徴 日本株 1570 NEXT FUNDS 日経平均レバレッジ上場投信 12520 1 日経平均の値動きに対して2倍で連動(強気) 外国株 1552 国際のETF VIX短期先物指数 869 1 投資家心理を表す別名「恐怖指数」に連動 不動産 1343 NEXT FUNDS 東証REIT指数連動型 1826 10 東証に上場するJ-REITからなる指数に連動 ※価格などのデータは2014年11月5日現在。9月の月間出来高などを参考に、ジャンル別に代表的なものをピックアップ。データ協力:モーニングスター株式会社 http://diamond.jp/articles/-/63500
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