03. 2014年12月10日 07:31:20
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豊かなドイツの社会保障費に群がるEU外国人 EU統合で複雑化した経済格差と難民問題 2014年12月10日(Wed) 川口マーン 惠美 それはルーマニア人の女性だった。子供を連れて、ドイツのライプツィヒ市に引っ越してきた。 児童保護の見地から、EU市民(2国間協定により、スイス、トルコ、アルジェリアの国民も)は、EU内ではいつでもどこでも滞在国で児童手当を受けることができる。ルーマニアはEU加盟国なので、この女性も例にもれず、最初の日の分から、ドイツの児童手当(月184ユーロ)と子供の養育費(月133ユーロ)を支給された。 しかし彼女は、それだけでは足りないと思ったらしく、職業センターに生活保護を申請した。ドイツの生活保護は、2005年より、失業者に対する失業手当と、貧困者に対する生活保護が一括にまとめられている。申請者は、職業センターに行き、職を探している旨を届けなければならない。つまり、働く意志のあることが条件だ。 しかし、職業センターによれば、そのルーマニアの女性は、就職口を探していなかった。ルーマニアでも一度も働いたことがなく(つまり、失業保険を払い込んだことがなく)、また、これからドイツで働くつもりもなかった。 そこで、職業センターはこの女性の申請を受け付けなかった。すると、彼女はそれが差別であるとして、社会裁判所(社会保険・失業保険などの係争事件を扱う地方裁判所)に訴えたのだった。 裁判所は、職業センターの対応を是とし、それをルクセンブルクのEU(欧州連合)司法裁判所に上げて、その意見を求めた。 EU裁は、ドイツの社会裁判所の判断を全面的に支持した。「ドイツは、社会保障を受けることだけが目的のEU外国人に対して、社会保障費の交付を拒否することができる」という判を下した。 ここで日本人に注目してほしいのは、現在、EUの加盟国は、多くの案件を国内法だけで決められなくなっているということだ。EU裁の判決が、各国の国内法よりも高位に位置づけられている。今、進みつつあるTPPは、いずれ日本にもこういう状況をもたらすに違いないと思う。 手厚いドイツの児童手当 さて、現在、EU外国人のうち、誰がドイツで生活保護を受けられるかというと、ドイツで働いていた人のみだ。 また、今も働いているが、収入が低くて、最低の生活を営むことができない場合、あるいは、3歳以下の子供がいて、働くに働けない場合も受けることができる。支給額は、過去に働いていた年数(=過去に失業保険を支払った年数)で違ってくるが、扶養家族の無い場合、1人月300ユーロ弱。 ただし、無一文でドイツに来ても、3カ月の間は生活保護は受けることができない。つまり、職探しをするにしろ、しないにしろ、少なくとも3カ月間の生活費は、自分で都合しなければならない。 このルーマニア女性は、それを持たずにドイツへやってきた。だから、そもそもドイツに留まる権利も、生活保護を受ける権利もないという。 ドイツでは現在、急速に増えているEU外国人の問題がある。たとえば、EU市民なら、どこでも、すぐに必ず、職の有無に関わらず貰える児童手当だが、ドイツのそれは、第1子、第2子が184ユーロ、第3子190ユーロ、第4子215ユーロと高額で(いずれも月額)、子供が増えるにつれてさらに上がる。 しかも、季節出稼ぎ労働者の、故郷に置いている子供たちにも支給される。子だくさんの外国人にとっては、非常に魅力的な制度だ。だから狙われやすい。 ドイツの児童手当は、世界一お金持ちの国ルクセンブルクと並んで、ずば抜けている。EUのしんがりのギリシャでは、1子5.87ユーロ(月額)。ドイツの30分の1よりもまだ少ない。児童手当目当てでギリシャへ行くEU外国人はいないだろう。 「速やかに滞在、速やかに送還」を図る新法案 12月3日、内務省が外国人の滞在を規定し直す新法案を提出した。中身は、具体的には2つに分かれる。 1つは、すでに長くいる外国人の滞在を速やかに認めるようにすること、そして、もう1つは、不法行為を行う外国人を速やかに送り返すことである。「速やかに滞在、速やかに送還」と見出しを付けたメディアもあった。 まず、前者の「速やかに滞在」だが、ドイツには現在、10万人もの外国人が、難民資格なしに、滞在容認という形で留まっている。審査の結果、難民資格にも亡命資格にも該当しないが、様々な理由により送り返すこともできないというケースだ。 新しい法案は、このような外国人が一定の条件をクリアしていれば、滞在許可を与えようというもの。極端な場合、そういう中途半端な状態ですでに10年もドイツで不便をかこっている外国人もおり、彼らにとっては大いなる朗報だ。 また、自国で教育を受け、手に技術を持ち、職を探すためにドイツに来た外国人に対しては、これも条件付きだが、18カ月の滞在許可が与えられることになる。ドイツの産業界は常に技術者不足に悩んでいるので、これでよい人材が集まれば、有難い話でもある。 そして、後者の「速やかに送還」の方は、不法行為を行う外国人に対する規定を厳しくすること。ドイツで懲役2年以上の判決を受けた者、自由民主主義の基本的概念に抵触する行為を行う者、テロ組織に加わるなどしてドイツ国の安全を脅かす者は送還される。 また、虚偽の口述をした者や、偽造、あるいは、不完全な書類を提出した者も退去を命じられ、少なくとも5年は再入国できない。犯罪者の場合は10年。 なお、難民の拘束も可能になる。これまでに何度も逃亡し、あちこちの役所で難民申請を繰り返している外国人、あるいは、身分証明を紛失したなどとして身元を特定できなくしている者、難民斡旋業者にお金を払って不法入国してきた者も、逃亡する可能性が高い場合、拘束し、速やかに国外退去となる。 つまり、この新法案の主な目的は、本当に困っている人と、そうでない人との区別を明確にすることと言えるかもしれない。同法はクリスマス前にも議会を通過する予定だ。 自国の激しい差別から逃げて来るロマの流入 ただ、この背景には、難民の増加だけでなく、前述のように、EU外国人による違法な社会福祉費の取得問題もある。EU外国人は域内の移動が自由で、就業も自由、ケースバイケースで生活保護を受ける権利もあるのだから、社会保障費についても合法と不法の境目が曖昧になりやすい。 ルーマニアとブルガリアがEUに加盟したのは2007年。EU各国は、新加盟国の国民に対して、最初の7年間、就業の自由に若干の制限を掛けることができる。自国の労働市場を保護するためだ。ドイツはルーマニアとブルガリアに、その制限を掛けていた。 つまり、これまでドイツで働いていたブルガリア人とルーマニア人は、原則的には就労許可を持つ人たちであった。その数は多く、たとえば、ドイツの病院や老人ホームの介護などでは、この2カ国の女性がすでに大きなシェアを持っている。 「仏政府のロマ人送還は違法」、欧州委が法的措置も検討 フランス北部で公園にテントを張って暮らすロマの一家〔AFPBB News〕 ところが、7年間の制限の外れた2014年1月より、職を持たないルーマニア人とブルガリア人が大挙してドイツに流れ込み始めた。 この2国がなぜ問題視されるのかというと、グレーゾーンのところで社会保障費を狙っているロマが、たいていこの2国の出身であるからだ。 その他の、真面目に働いているルーマニア人とブルガリア人は迷惑しているだろうが、その根本のところには、ロマに対する壮絶な差別問題がある。 ロマは、自国で徹底的に差別されている。そのため、多くは教育も受けていなければ、技術もない。しかし、EU市民であるため、合法にドイツにやってきて、招かれざる客となっている。 2014年1年で、新参のルーマニア人とブルガリア人は、12万から13万人に達すると見られている。そのうちのどれだけがロマかは、統計がない。 国境は無いが国益は存在するEUの矛盾 ドイツは今、違法行為を働く外国人は、EU外国人であっても退去させ、至近の再入国を防ごうとしている。これは、当然の権利だが、しかし、ヨーロッパは一つではないということの証明でもある。 国境は無くなったが、貧富の格差はもちろん存在するし、各国は今でも自国の利益のために動いている。 たとえばドイツが、EUの優良な技術者や、不足気味の職種の就労者だけを受け入れていくと、貧しいEUの国は、頭脳流出、技術者流出、労働力流出で、さらに空洞化していくだろう。問題は山積みだ。 逃げ惑ってドイツに辿り着く難民、そして、ドイツの経済力に惹きつけられて続々とやってくるEU外国人。来年は、ドイツ人が、速やかな滞在と速やかな送還を巡って、様々な外国人と格闘する年になると思う。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42391 |