01. 2014年12月09日 17:56:15
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<Vol 317:アベノミクス・パート2に必要なことは賃金の上昇>〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・ バックナンバーはHPで: http://www.cool-knowledge.com/ (過去の有料版も、抜粋し載せています) 無料版の登録/解除: http://www.mag2.com/m/0000048497.html 有料版の登録/解除: http://www.mag2.com/m/P0000018.html 著者への感想/連絡:yoshida@cool-knowledge.com 著者:Systems Research Ltd. 吉田繁治 42891部 おはようございます。早くも、12月の半ばです。気温も低い。年々、 時間が速い感じを受けるのは、1年に、だれでも確実に1歳の年齢を 重ねるせいでしょうか。 ▼年齢とともに短くなる心の時間 千葉大学の、一川誠心理学教授が、4歳から82歳までの3500人に、 「3分と感じたときボタン押してもらう」実験をしたという。 時計の3分を100とすると、9歳以下では98、10代103、20代105、30 代105、40代106、50代112、60代105、70代108でした。 50代以上にバラつきが見えますが、ならせば、ほぼ3歳上がるごと に、心の時計は実際の3分より1秒の割合で長くなっています。 70代の人たちは、3分14秒を3分と感じることが多いということです。 それだけ、心の時間は、短い。3分より長い、たとえば3時間では、 20代と50代では1時間くらいの差がでるかもしれません。 人が時間を長く感じるのは、新しいもの、びっくりするもの、珍し いもの、印象に強く残るものに接したときであるという。 新鮮な驚きや珍しさがないとき、時間は短く感じる。年齢を重ねる と、いろんな経験が記憶で重ります。このため新しいものへの驚き が減ります。心が刺激されない時が長いと、人は、経った時間は短 く感じているようです。 こうした時間感覚は、生活、仕事、人生観で重要なことです。2年 先が、永遠に遠いように思えるか、すぐに来るように思えるか、で す。あなたにとって、2年先は遠い時間でしょうか。大学のときの 教養学部の2年間は、誰にとっても長かったことでしょう。 2013年現在、日本人の平均年齢は、45.5歳です。約10年先の2025年 には3歳上がって48.3歳になります。2035年には49.9歳です(厚労 省)。その後は、平均年齢で50歳を超えます。 日本人全体の心の時間は、毎年短くなって行くでしょう。10年先に は、「高速に、あわただしく時間が過ぎた。」と感じるに違いない。 ▼2年前の12月も、総選挙だった 民主党の野田政権のあと、安倍政権が誕生したのは、2012年の12月、 まさに2年前、衆院選挙の圧勝によってでした。 鳩山、管、野田と続いた民主党政権の支持率は、出発当時は60%あ った野田政権も20%になっていました(12年12月)。 1人1区の小選挙区では、中選挙区と違い、世論調査での政権の支持 率が30%を割ると、壊滅的な負けになります。 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5236a.html 従来から、もっとも偏りの少ない世論調査の結果を出してきた共同 通信の調査では、安倍政権への支持は43.6%、不支持が47.3%です。 政党の支持では自民が28%、民主は10.3%です(11月28日、29日)。 政権と自民への支持が、積極的に高いとは言えません。政権への不 支持は47.3%と支持より高い。しかし野党の政策と、野党への国民 支持がまとまっていません。野党が自滅します。このため、自民は 小選挙区では20名くらい減らしても、前回につぐ圧勝でしょう。民 主が弱すぎます。 (注)現状は自民294名、公明31名、国民新党1名、連立与党で326 名(衆議院の定員480名のうち68%:2/3以上)。野党は民主党57名、 維新54名、みんなの党18名、未来の党9名、共産党8名、社民党2名、 大地1名、無所属5名でした。今回の定員は480名から5名減って475 名です。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ <Vol 317:アベノミクス:パート2に必要なことは賃金の上昇> 2014年12月9日:無料版 【目次】 1.実体経済のリセッションと、金融経済のバブルの同居 2.バブル的な金融経済(株価、円安、マネー) 3.実体経済はリセッション 3-1(1)減少したGDP 3-2(2)家計の収入と消費 3-3(3)大幅な円安でも輸出数量が増えない。 3-4(4)決定的なこと。賃金の上昇が、遅れている。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■1.実体経済のリセッションと、金融経済のバブルの同居 〔実体経済〕実体経済は、所得、家計消費、住宅投資、企業の設備 投資、在庫投資、政府消費(政府予算)、公共投資、輸出、輸入で す。企業の売上と利益、及び物価、賃金も、実体経済です。 〔金融経済〕他方、金融経済は、金利、マネー、外為、国債価格、 債券価格、株価、不動産価格などです。 2012年12月からのアベノミクス以降、金融経済では、バブル的な上 昇が見られます。他方、実体経済では、消費税増税以後(2014年4 月〜)、2期連続で実質GDPがマイナスする、リセッションです。 (注)政府とメディアは、リセッション(=不況)とは、決して言 いませんが、実質GDPの2期連続のマイナスは、IMFの定義では、大 きな景気後退を示すリセッションです。海外のメディア(FT紙、WS J紙)には、この11月から12月は連日、「リセッション陥った日 本」という見出しが踊っています。 ■2.バブル的な金融経済(株価、円安、マネー) ▼(1)2倍に上がった株価: 2012年10月の株価(日経225社平均)は、8815円でした(月中平 均)。2012年の10月からの円安とともに、上がり始めました。途中 で停滞はあっても(2013年夏、2014年春〜夏)、2014年12月は1万8 000円の大台に届きました。2年で約2倍という、バブルの時期にし かない急騰です。 円安→輸出企業の利益増加→海外と政府機関による株購入→株価上 昇です。 日経平均の予想PER(現在の株価÷15年3月期予想純益)は、16.82 倍です。予想PERで15倍前後(予想純益の15年分の時価総額)が、 現在の、国際的な基準と見ていい。10%〜15%、具体的な金額では 日経平均で、1800円から2700円のバブルが含まれているでしょう。 この株価バブルは、言うまでもなく、政府の「株価押し上げ策」が 誘導したものです。押し上げ策は2項です。 ・円安への誘導のための、政府、日銀主導でのドル買い、 ・130兆円の年金基金を運用している政府機関GPIFによる株式運用 への増加、です。(注)株を買う資金原資は、保有国債の日銀への 売りです。 ▼(2)53%の円安: 2012年10月は、今から見れば架空のことのように思えますが、$1 =78円(月中平均)でした。 日本政府が主導したドル買い(ドル国債買い)に、欧州系ファンド の円売り・ユーロ買い、米国系ファンドの円売り・ドル買いが重な り、急激な円安・ドル高、ユーロ高に向かっています。2014年12月 には、$1=120円の水準で、12年10月に比べて53%も円安です。 ▼(3)日銀の2年間での通貨増発が142兆円 日銀が発行に関与する通貨は、(1)紙幣と、(2)日銀当座という 預金マネーです。両方がマネタリー・ベースです。経済へのマネー の供給のもとになる基礎マネーという意味のものです。 2012年11月の紙幣の発行額は86兆円で、日銀当座預金は47兆円でし た。マネタリー・ベースは〔86+47=133兆円〕でした。 86兆円(86億枚の1万円札)の紙幣が5300万の世帯、260万社の企業、 そして金融機関に出回っていて、金融機関が日銀に預けた預金が47 兆円だったということです。 直近の2014年11月は、紙幣発行は87兆円でほぼ同じです。しかし、 金融機関が日銀に預ける当座預金額は、170兆円に膨らんでいます。 マネタリー・ベースは〔87+170=257兆円〕です。 日銀が金融機関から買って保有している国債残は251兆円に膨らん でいます。2012年11月末は、国債保有が116兆円でした。 2年間で135兆円(1年で67.5兆円)、日銀が国債を買い上げていま す。この国債購入の増加が、2012年11月に比べたときのマネタ リー・ベースの〔275-133=142兆円〕の増加です。日銀は、金融機 関から国債を買い、その代金を銀行がもつ当座預金に振り込んでい て、これを「量的緩和」と言っています。金融危機以外の、普通の 時期には、決して行わないことです。 日銀が「異次元緩和」と言いつつ、2年間で142兆円のマネタリー・ ベースを増やしたにもかかわらず、国内の実体経済には、ほとんど 回っていません。(このブタ積みは、異常なことですが、事実で す) https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2012/ac121130.htm/ 最大手の三菱UFJフィナンシャル・グループは、日銀に国債を8兆円 売っています(14年3月期)。国債を売って得た8兆円の現金は、海 外貸し付けと海外債券(米国+欧州)の増加になっているだけです。 国内には回っていないのです。 日本の長期金利が0.44%(14年12月)と極度に低い。米国の長期金 利は2.25%(10年国債:12月)であるため、1.8%の利ザヤ(イー ルド・スプレッド)があり、日本の余剰マネーは海外に流出してし まうのです。 国内では長期金利が0.44%であり、企業や世帯への貸付金利は、平 均で1.1%でしかないからです。国債を売ったマネーを国内に貸す より、海外の債券や貸付で運用したほうがいい。 (注)同行の、海外債券の増加は2.5兆円、海外貸付増加が8.4兆円 です(14年3月期決算IRの10ページ:13年3月末比↓)。 http://www.mufg.jp/ir/presentation/backnumber/pdf/slides1403.pdf ■3.実体経済はリセッション 日銀が異次元の量的緩和として、金融機関の保有国債を買って増発 した140兆円もの現金は、金融機関がもつ日銀当座預金の現金の増 加140兆円になっているだけで、「ブタ積み」されています。 理由は国内で運用(債券の買い及び貸付)するときの金利が、低す ぎるからです。このため、国内の実体経済には、マネタリー・ベー スとして増えた140兆円ものマネーは回らっていない。このためGDP は低下し、円安でも輸出数量は増えず、個人の所得も増えていませ ん。個人の所得が、物価上昇(3.3%)以上には増えていない。こ のため、家計の消費は、減っています。 ■3-1(1)減少したGDP 消費税増税後のGDPは、〔2014年4−6期〕が年率でマイナス6.7%で した。増税後3か月の反動減から回復し、GDPで2%程度のプラスに 転じると見られていた〔7−9月期〕も、ふたをあければ年率でマイ ナス1.9%(確定値:内閣府)になっていて、衝撃が走ったのです。 2期連続マイナスはリセッションです。まさに、「増税リセッショ ン」が襲っています。根底の理由は、家計の実質所得の2.1%の減 少です。実質所得は、〔手取りの名目所得−物価上昇〕です。 http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_mr.pdf ■3-2(2)家計の収入と消費 手取り額の名目金額(10月:48万8273円:2人以上の世帯:共稼ぎ を含む)は、世帯では、前年比で1.2%増加しています。しかし、 消費税分(約2%)を含む物価上昇が3.3%あるため、実質では2.1 %減少しています。 指数で言うと消費者物価は1033に上がったのに、5300万の平均世帯 の所得は1012にしかなっていない。このため、商品購買力では21分 (2.1%)落ちた。この実質所得の減少が原因になって、消費支出 額は、実質では4.0%(2014年10月)も落ち込んでいます。 http://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_mr.p df この事態は、増税前に政府とエコノミスト達が想定していた〔7-9 期〕の、実質プラス2%とは、6%もの乖離(かいり:幅)です。 所得増加率が、物価の上昇よりが低いためこうなる。日銀の生活意 識調査では、「生活にゆとりがなくなってきた」と答えた世帯が48. 5%(ほぼ半分)に増えています(2014年9月)。これは、6か月前 には、38.1%だったのです。 http://www.boj.or.jp/research/o_survey/ishiki1410.pdf 所得の増加に転じないと、「消費税抜きの物価上昇目標を2%にし ているアベノミクスは生活を苦しくする」という結果になります。 ■3-3(3)大幅な円安でも輸出数量が増えない。 30%〜53%の円安でも、輸出の数量が増えない。量的緩和の政策が 狙ったのは、円安でした。中央銀行が、マネーを増発することは、 その通貨の価値(購買力)を下げて、通貨安に向かうことでもある からです。 政府は、円安によって輸出が増え、輸出が増えることによってGDP が増え、それが企業所得の増加になって、賃金が上がることを目論 んでいました。しかし、ここで経産省にとっての想定外のことが起 こります。「海外での日本製品の価格が下がる円安でも輸出数量が 増えない。」 理由は、リーンマン危機後の円高($1=120円→80円)に懲りてい た、輸出企業はとくに2010年以降、海外に、工場を移転していたか らです。(米国の、ドル高の1980年代のような変化でした) 輸出の増加は実質では、〔2014年1−3期〕が+6.4%、 〔4−6期〕+0.5%、〔7−9期〕は+0.2%にすぎません。 他方、GDPのマイナス要素である輸入は、海外物価が上がったにも かかわらず、〔1−3期〕-5.4%、〔4−6期〕+0.7%、 〔7−9期〕-0.1%と減っていません(実質)。 円安と物価上昇の要素を入れた名目金額では、〔14年1−3期〕は、 輸出が83兆円、輸入が103兆円です。〔4−月期〕は輸出83兆円、輸 入96兆円、〔7−9期〕は輸出85兆円、輸入100兆円です。 (注)数値はいずれも年率換算値です。 〔2014年7−9月期(シチ・キュウキと読む)〕の貿易赤字は15兆円 と、GDPで3%ものマイナス要素にもなっています。 1979年の第二次石油危機のあと、ほぼ30年ぶりに貿易赤字になった のは、東日本大震災を原因に生産のサプライチェーンが切れた〔20 11年3-6期〕でした。当時は一時的な赤字だと思われていた。とこ ろが、その間、新設の工場の海外移転が、激しく進んでいたのです。 4年連続で、わが国の貿易は赤字です。2011年−7兆円、12年−10兆 円、13年−17兆円、14年−15兆円です。国内で作ったものを輸出し て、貿易が黒字になる時代は過ぎてしまった。(↓12ページ目) http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2014/qe143_2/pdf/jikei_1.pdf ■3-4(4)決定的なこと。賃金の上昇が、遅れている。 株価は上がった円安でも、実体経済の輸出が増えず、GDPも伸びな いため、個人の所得も、物価上昇以下しか増えていません。 実は、2015年、2016年の経済の予測も簡単です。 「家計所得の増加がない限り、GDPは増えない」 家計所得の中で最も多いのは、事業所に勤務する人の、賃金です。 賃金は一律に平均でとらえることはできません。金属年数と年齢が 変化するからです。以下は、総務省の、賃金統計です。男子高卒と 大卒のみを示します。 【男子高卒:全業種 平均月額給与】 平均年齢 勤続年数 給与/月 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 1995年 40歳 13年 34.4万円 2000年 41歳 14年 34.9万円 2005年 42歳 14年 33.2万円 2010年 43歳 14年 32.5万円 2011年 43歳 14年 32.2万円 2012年 43歳 14年 32.2万円 2013年 43歳 14年 32.1万円 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【男子大卒:全業種 平均月額給与】 平均年齢 勤続年数 給与/月 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 1995年 38歳 12年 41.7万円 2000年 39歳 12年 42.6万円 2005年 40歳 13年 43.7万円 2010年 41歳 13年 42.9万円 2011年 41歳 13年 42.8万円 2012年 41歳 13年 42.9万円 2013年 41歳 13年 42.5万円 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 いずれも2000年から2005年くらいが月間固定給(定額分)の頂点で す。高卒42歳(勤続14年)の平均は、34.9万円でした(2000年) 大卒40歳(勤続13年)での平均は、高卒より10.5万円高い43.7万円 でした。 それ以後、2000年代は、固定給の名目額は増えず、微減しれていま す。 こうした中で、消費税とともに物価が3%以上も上がれば、GDPの60 %を占める世帯消費は減って、わが国のGDPは、将来も増えること がない。なんとしても、個人の賃金を、年率3%くらいで増やす、 マクロの経済政策を実行せねばならない。 2014年までのアベノミスは、2年間で140兆円の、日銀による量的緩 和によって、 (1)53%の円安を誘導し、 (2)株価に2倍に上げました。 しかし、実体経済での、 (1)世帯所得の増加、 (2)世帯消費の増加、 (3)輸出の増加は、果たしていません。 2014年の消費者物価は、税込みで3%上がってしまいました。 2015年は、政府が主唱して、賃金を3%以上上げねばならない。 もしこの賃金の上昇が果たせないないなら、3%上げた消費税を撤 回し、5%に戻すことを行わねばならない。賃金が上がることがな いのに、税込みの物価が上がると、GDPは縮小に向かうからです。 間違った政策は、正さねばならないのです。財務省は猛然と反対し ますが、選挙後の政治が、その反対を押し切ることです。 ・3%の消費税の撤回か、 ・3%の賃金の上昇か、いずれかを政策化せねばならないのです。 物価が上がりつつ、GDPが縮小に向かえば、賃金は増えることはで きず、経済は縮小のスパイラルに陥ってしまいます。もし2015年に、 そうなるという認識が出ると、2倍に上がった株価は暴落します。 そうなってはいけないのです。(注)実質GDPが減れば、所得税が 大きく減るので、消費税増税分による増収も、効果が消えます。 【後記】 日経平均で1万8000円に上げた株価を見て、証券会社は沸(わき) き上って、2万円、2万2000円もあると言っています。これは危険で す。 実体経済(GDP)の上昇がなく、企業の利益の増加がない株価上昇 は、バブルであり、その後(2015年1月)になって、FRBの量的緩和 の停止(2014年10月)から、米国金利が上昇し始めた途端に、暴落 するからです。暴落の原因は、今回のような「根拠のない株価上 昇」です。 (注)政府部門が買うから株価が上がるというのは、実体経済の、 企業の利益という根拠がないものです。
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