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イングランド中央銀行の判断が欧州中に広がる可能性は否定できない photo Getty Images
増税先送りの弊害を軽視し過ぎではないか? イングランド銀行が日本国債に「ダメ出し」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41365
2014年12月09日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
「日本は楽観的過ぎる。消費増税先送りがボディブローのように財政的な信認を損なうのは確実だ」――。
■中国や韓国より日本国債は危ない!?
先週半ば、日本経済の先行きに関して、米系証券会社の日本法人を身構えさせるネガティブ情報が欧州拠点からもたらされた。
日本の国債について、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスの格下げを受け、イングランド銀行のPrudential Regulation Authority(PRA、健全性監督機構)がリスクフリーを意味する「流動性資産」から外す方針を固めたという情報が飛び込んだのだ。
国内の世論や市場は、消費増税の先送りに伴い財政再建が遅れるリスクが高まったと指摘して、日本の国債を中国や韓国の国債より格下としたムーディーズの判断を過小評価するムードが強い。しかし、PRAの判断には、欧州の金融規制当局が今後、広く追随する可能性がある。そうなれば、欧州でビジネスを展開する金融機関がこれまでほど日本国債を保有できなくなる。
衆議院の総選挙を戦っている野党各党もほとんどこの問題を重視しているようには見えないが、消費増税の先送りを選挙に勝つための道具に使った政府、連立与党の判断は正しかったと言えるだろうか。歴史的な審判の日の到来を避けるには、財政再建努力をこれまで以上に精力的かつ着実に続けていく必要があるように思えてならない。
事の発端は、先週月曜日(今月1日)に、ムーディーズが発表した日本国債の格下げだ。同社は、日本国債の格付けを従来より1段引き下げて、最上位から数えて5番目にあたる「A1」にした。
これは米国、ドイツ、英国などの主要先進国やオイルダラーに支えられるクウェート、カタールなどの産油国はもちろん、アジアの中国、韓国、台湾などを下回る位置づけだ。“中国バブル”崩壊に悩む中国や、急激なウォン高に苦しむのが確実な韓国よりも、国際金融市場においてリスクの高い借り手と宣告されたのである。
■外為市場は「日本売り」、株式&債券市場は無視
その衝撃に対する反応は、はっきりと二つに分かれた。
「日本売り」とも取れる動きを見せたのは、一段と円安が進んだ外国為替市場だ。先週末(5日)のニューヨーク市場では、円が一時1ドル=121円69銭まで売られた。これは、7年4カ月ぶりの安値である。日米金融政策の方向性の違いや日本の貿易赤字といった円安要因に加えて、ムーディーズの格下げが、円安を加速する材料になった。
今なお、外為市場では、「年内に1ドル=130円」を懸念する声もある。原油安が緩衝材になって、くらしを直撃する輸入インフレを和らげているものの、製造業の空洞化によって円安になっても輸出が伸びない構造が定着し、実質所得の減少に歯止めをかける決め手は見当たらないままだ。
対照的に、国債の格下げを無視するかのような反応を見せたのが、株式市場と債券市場である。先週末の日経平均株価の終値は1万7920円45銭。こちらは7年4か月ぶりの高値を記録した。異次元金融緩和によって、事実上の日銀の管理相場になっている債券市場も、長期金利が不安定になることがなかった。
こうした中で、政府首脳たちは、強気のコメントを繰り返した。
甘利明経済財政・再生相が2日午前、神奈川県大和市内で街頭演説し、「首相は2020年までの財政健全化の工程表を来年夏までに作ると宣言した。市場はこの決意をしっかり見てもらいたい」と強調したのが、その第一弾だ。
同じ夜、安倍晋三首相は、NHKの番組に出演し、「アベノミクスに一定の評価をいただいており、市場は大変冷静に受け止めている」と胸を張ってみせた。事態の沈静化を狙っているのは、明らかだろう。
海外メディアの中にも、ムーディーズに批判的な論調がないわけではない。2日付のコラムで、「格付け会社は日本国債が結局投資家に売られるという上品な虚構を前提に議論している」と書いたロイター通信が、その例だ。
ロイターは、「(日銀の)量的緩和が国の債務に及ぼす影響に(格下げレポートで)触れていない」ことを根拠に挙げた。毎月の新規発行に相当する分の長期国債を市場から買い上げている日銀の力づくの異次元緩和の前では、国債の消化や償還が困難な事態になるとは考えにくいと、ロイターは主張しているのだ。
■「マクロ・インサイダー取引だ」
実際のところ、ムーディーズによる格下げを受けて、メガバンクなど日本の大手金融機関が大量に長期国債を投げ売りするような事態も起きないだろう。
余談だが、一部のメガバンクの中には、すでに数ヵ月以上も前から保有資産全体に占める国債の割合を大きく引き下げていたところがあるのは事実だ。そして、このメガバンクの幹部が政府首脳のブレーンの一人とされていることから、同行では増税先送りを政府に勧奨する裏で、自らは国債を売っていたのでないかと疑う向きもある。
それゆえ、ライバル銀行を中心に、この問題を株式のインサイダー取引になぞらえて「マクロ・インサイダー取引だ」と呼び、怒りをあらわにするところも存在する。とても真実とは思えないが、この噂話は資本市場で有名なものとなっている。
しかし、だからと言って、これから噂のメガバンクに追随して国債の投げ売りをしても、各行とも国債を大量に抱えているため、すべて売却するのは難しい。下手に一部を売却して、国債価格が下がれば含み損が膨らみ、自らの首を絞めることになりかねない。
どこの銀行でも、その程度のことはわかっているから、邦銀発で国債価格の暴落のような事態が簡単に起きるとは考えにくいのである。筆者が取材したメガバンクも「そんなことをしたら自殺行為。そもそも金融庁だって、黙っていないだろう」と話していた。
■影響力の大きいPRA
だが、それでも、ムーディーズの格下げの影響を過小評価するのは、危険である。冒頭で紹介したPRAのように、海外では早くも日本にとってネガティブな動きが現実になっているからである。
PRAは、英国の中央銀行であるイングランド銀行の組織で、金融機関の安全性・健全性を保持するための規制・監督権限を持つ。実際に所管している金融機関は、銀行、保険会社、投資会社など1700社に及ぶ。今年2月には、英国以外の銀行の英国支店の規制・監督を強化する方針を打ち出して、専門家たちを震え上がらせたこともある。
このPRAは、もともと諸外国の国債について、世界の3大格付け機関の2社以上でAA格以上を得ている場合、現金同様に「流動性資産」と認めてリスクフリーで保有することを認める一方で、この水準を下回る場合は自己資本規制が対象にしているリスク資産として扱うように求めてきた。
そして、今回のムーディーズの引き下げを受けて、PRAは、日本国債をルール通り「流動性資産」から外す検討に着手するという。PRAの動きに、欧州各国の金融機関規制当局や国際決済銀行(BIS)が追随する可能性も大きい。
冒頭で紹介した米系証券会社は、「当社は、現在、機関投資家の売買注文に応じるために多額の日本国債を保有しているが、これを減らさざるを得ない事態だ」と声をひそめて同社の事情を明かす。諸外国に比べて、日本の国債は国内で消化・保有される割合が高いのが特色だとはいえ、これまでより需給が緩むことは避けられない。
■「通貨安への誘導競争」
いたずらに不安にとらわれる必要はない。今年10月に強化を打ち出した黒田東彦総裁が打ち出した日銀の異次元の規制緩和策もあって、目先、新発国債が販売・消化しきれず、突然、長期国債相場が暴騰することは考えにくい。
しかし、その半面で、海外からは、いつ、日銀の異次元緩和が、自国の輸出を伸ばすための通貨安への誘導競争を煽っているとヤリ玉にあげられてもおかしくない状況にあることも忘れてはならない。
通貨安競争は、戦前、各国のブロック経済化を招き、日本を太平洋戦争の泥沼に追い込んだ要因のひとつである。
衆議院の選挙戦が過熱する中で、連立与党から、今年7−9月の実質経済成長率の伸びが2期連続でマイナスになり、経済の不調が鮮明になったから、来年秋に予定されていた消費増税の先送りを決めたとの公式見解を聞かされることが多いことにも注意が必要だ。
というのは、与党幹部には、「(不人気になることが確実な)増税は1度やれば、内閣として責任を果たしたことになる。1つの内閣で2度も増税をやるということは考えられなかった」と漏らす向きがあると聞くからだ。
この発言は、安倍政権が、早くから消費増税の先送りを決めており、それを打ち出すタイミングを計っていたことを意味する。これが事実とすれば、政府・連立与党は、選挙戦を有利に進めるための道具として、派手に消費増税の先送りを打ち出し、その結果、財政再建の実現性に疑問符が付く事態を招き、ムーディーズの格下げやPRAのダメ出しを誘発してしまったことになる。
日銀の異次元緩和策や日本の金融機関のやせ我慢的な国債保有方針を根拠に、海外から寄せられる日本経済への懐疑的な見方を一方的に否定して、やらなければならない財政再建をないがしろにするのは、日中戦争や太平洋戦争を「聖戦」と呼んで反戦の声を封じ込めたのと同じように、危うい独りよがりではないだろうか。
ここは、各人がじっくり自問自答してみる必要がある。
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