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立命館大学経済学部教授・松尾匡著 『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』
アベノミクスは失敗か? 経済政策の論点はこれでわかる!
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141208-00010000-php_s-bus_all
PHP Biz Online 衆知 12月8日(月)9時50分配信
自国中心主義的な経済路線に未来はない
昔の自民党みたいに、公共事業で経済を活性化させようという、古いタイプの保守派の経済政策路線は、もうダメだと言われます。無駄ばかりで、財政赤字を膨らませる一方だというわけです。でも、昔の社会党や共産党が音頭をとった自治体みたいな、古い革新系の経済政策路線も、やっぱりダメだと言われます。福祉のバラマキだとか、公営事業が非効率だとか言って叩かれました。
これではいけないと、小泉さんのときみたいに、民営化とか規制緩和とか財政削減とかの新自由主義路線が世界中でとられましたけど、格差は拡大するし、地方は荒廃するし、福祉も教育もボロボロになり、失業者もいっぱい出て、犯罪も増えて散々でした。
それじゃあと言うので、90年代半ばからのイギリスのブレア政権やアメリカのクリントン政権以来、日本の民主党政権に至るまで、「第三の道」などと言われて、新自由主義を多少手直ししてマイルドにしたような経済政策路線が、あちこちでとられたことがありました。でも、やっぱりなるべくおカネを使わないようにしようという姿勢なので、格差はなくならないし、多くの人の福祉のニーズも満たされません。日本の民主党政権の場合、震災復興もままならず、公約だった「子ども手当」なども尻すぼみになり、失業も地方経済の衰退も解決できずに政権がつぶれてしまいました。この路線の推進者のなかには、「不況で結構」と言わんばかりの言動も聞かれましたが、そもそも需要が少ない状況では、あふれる失業者をみんな農村や漁村や社会的企業にはめ込むなど、たとえ兼業でも絵空事なのは明らかです。結局、いつ他人と取り替えられるかビクビクしながら、どんなものでもありついた仕事にしがみつくしかない人々をどうすることもできず、「ブラック企業」をはびこらせるだけに終わったのでした。
このような閉塞状況のなかで、世界ではあちこちで極右政党が躍進しています。もちろん日本も例外ではありません。しかし、今日私たちの暮らしは、世界中の人たちによって支えられています。ちょっと輸出が減ればたちまち国中に失業があふれ、ちょっと輸入ができなくなればたちまち暮らしが苦しくなります。世界中の経済の流れが少し滞ると、世界中で何の罪もない人々が路頭に迷うのが現実です。自国中心主義的な経済路線に未来があるはずなどありません。
経済学の巨人たちの共通点とは
では、どうすればいいのでしょうか。
この本には『ケインズの逆襲、ハイエクの』というタイトルをつけていただきました。ご存じのとおり、ケインズは資本主義市場経済の働きには批判的で、そのまずい点をなんとかするための公的な介入の必要を唱えた人で、他方のハイエクは市場経済の働きはすばらしいとみなして、公的な介入に強く反対し続けた人です。
読者のみなさんのなかには、ケインズなんてもうとっくに時代に合わなくなったとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。ハイエクなんて、新自由主義を支えた思想家だろうと思っていらっしゃる方も多いかもしれません。本書をお読みいただいたらわかるとおり、そんなことはないのです。この二大巨頭をはじめとして、この本では超有名な人からそこそこ有名な人まで、様々な立場の経済学者が主張したことを、エッセンスを抽出してご紹介しています。
そして、本書の主眼は「これらの経済学者の主張には、実はある共通する視角が見出される」という点にあります。これこそが、前ページで述べたような、私たちが直面している手詰まりを打開する、あるべき経済政策路線の方向を指し示すものなのです。
それは、一言で言えば「リスク・決定・責任の一致が必要だ」ということであり、これとかかわって、「予想は大事」ということです。この視角を導入すれば、実に様々な経済システムや経済政策路線がうまくいかない理由や、望ましい理由が説明できます。なぜ、これまで試みられてきた経済政策路線がどれも行き詰まったのか。では、この先どうすればよいのかが、これによってわかるのです。
さらに言えば、この先、政権与党が新たな経済政策を打ち出した際に、その政策が真に私たちを幸福にするものなのか、矛盾をはらんだものでないかが見抜けるようになるでしょう。とりわけて、現実の資本主義経済のあり方に憤りを感じ、もっと人間的な血の通ったシステムを望んでいる人にとって、この視角は大きなとなるのではないかと思います。
(立命館大学経済学部教授・松尾匡著 『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』まえがきより)
松尾匡
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