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すぎうら・てつろう
日本経済調査協議会専務理事。元みずほ総合研究所副理事長。1954年生まれ。早稲田大学卒。77年富士銀行(現みずほファイナンシャルグループ)入行。同行調査部、富士総合研究所研究 開発部主任研究員、ニューヨーク事務所長、経済調査部長、みずほ総合研究所執行役員、チーフ・エコノミストを歴任。『アメリカ経済の光と影』『病名:【日本病】』『日本経済の進路2003年版』など著書多数。
格差拡大で中間層は消滅に向かう!?“普通の人”がアベノミクスを支持すると割を食う
――杉浦哲郎・日本経済調査協議会専務理事に聞く
http://diamond.jp/articles/-/63300
2014年12月8日 ダイヤモンド・オンライン編集部
政府の発表する「新成長戦略」や「骨太の方針」で格差問題についてほとんど触れることをしてこなかった安倍政権。アベノミクスの掲げる経済成長は、都市部などの高所得者層や投資家、大企業を潤したが、中間層や中小企業、地方の底上げという視点は欠けている。このまま行けば、多くの先進国でそうであるように、中間層がはがれ落ちて行き、一部の富裕層と、その他大勢の貧困層という社会になっていくだろう。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 津本朋子)
■雇用と所得は増えたというが…アベノミクスは「先富論」
安倍政権では格差問題について、ほとんど政策で触れてこなかった。敢えて言えば、格差を容認というか、問題にフタをして見ないようにしてきたということではなかったか。
安倍総理は雇用や賃金が増えたと胸を張っているが、雇用が増えたのは主に非正規。正規はこの2ヵ月でやっと増えた程度だ。有効求人倍率(パートも含む)も上がってはいるが、実は今年の7月以降、有効求人の対前年伸び率は大きく鈍化してきた。
東日本大震災以降に言われ始めた人手不足を解消すべく、建設業界や外食産業などが人手確保に走ってきたが、ここにきて一服したのではないか。バブル時もそうだったが、人手不足というのはムードによって助長される傾向がある。大騒ぎをしてかき集めたものの、思ったほどではなかったということが起きるのだ。来年になれば、むしろ採用は減少に向かう可能性もあると見ている。
また、賃金に関しては、厚生労働省の賃金指数(事業所規模5人以上)を見てみると、現金給与総額が上がったのは、この半年くらいの話だ。しかも、消費者物価上昇率よりも賃金の上昇の方が低いから、実質的にはマイナスが続いているということになる。
今年の春頃、100万円のロレックスの時計が売れているという新聞記事を見たりしたが、買っていたのは株高で儲かった投資家たちや、一部の高所得者層だ。こうした現象をもって「消費マインドが良くなった」などと騒ぐのは、甚だしい誤認だ。
ケ小平は「先富論」で、「先に豊かになれる者から豊かになれ」と説いた。金持ちが豊かになれば、そこからお金が滴り落ちて、貧困層も潤ってくるだろうという理論だ。アベノミクスも、明確に謳ってはいないものの、「先富論」的な発想だったのだろう。
一方、地方経済や中間層・貧困層など、あらゆる層の底上げを目指すグラスルーツ(草の根)的な発想が、その対局にはある。世界を見回してみれば、多くの先進国では格差拡大が深刻な問題となってきている。「先富論」的発想で政策を進めても、投資家など一部の人にしかお金は回らないから、国全体が富むどころか、むしろ中間層が崩落し、格差が拡大したのだ。
こうした国々と比べると、日本人はまだ格差に眼を向けていないが、アベノミクスがこのまま続けば、格差拡大は必至だ。“普通の人”はまじめに働いても所得が減っていく。そんな社会で本当にいいのか。それとも、中間層や中小企業、地方などがきちんと潤うような政策体系に変えて行くべきなのか。
今回の選挙は、格差の観点から見れば、「先富論」と「草の根」のどちらを選択するか、有権者一人ひとりが問われているということだ。
■消費税引き上げで崩れた楽観論 成長を巡る甘言にだまされるな
今年春の消費税引き上げ以降、消費が低迷し、アベノミクスへの期待が薄れた感があるが、そもそも一部の投資家や高所得者が潤っただけで、「消費税を引き上げても大丈夫」と考えること自体が間違っていた。高揚ムードだけが先行して、実態がまったく追いついていなかったからだ。
しかし、消費増税が悪いことだとは思わない。それどころか、社会保障の財源確保のために赤字国債を発行し、未来の世代に借金を付け替えるという愚行を止めるために消費増税は必要だ。
問題は、景気回復という甘いムードで煙に巻き「消費増税をしても、痛みを感じることはない」と楽観論を振りまいた点にある。「痛みを伴うが、今やらなければ未来の世代の傷が増える」と国民を説得できれば、高揚感が剥がれて失望が広がる、という悪循環は避けられたのではないか。
こうしてアベノミクスに「失望した」「騙された」と感じる一般国民は少なくない。一方で、企業はといえば、消費者ほど単純ではなく、シビアに安倍政権と駆け引きをしてきた印象だ。
たとえば、法人税減税や派遣法改正、ホワイトカラーエグセンプションといった、自分たちに有利な政策を進めてもらうのと引き換えに、安倍首相の要請に応じて賃上げを多少飲んだりしていた。直近では、円安効果によって潤った大企業は多い。
しかし、こうした政策で企業が力を取り戻したとき、果たして国全体の底上げが図られるだろうか?
2000年以降、日本は輸出主導型を志向してきたが、何が起きたかというと、多くの工場が海外に移転し、非正規雇用が増え、そして地方は疲弊した。
一方、これはグローバルで同じ傾向ではあるが、労働分配率(生産した付加価値のうち、人件費が占める割合)は低下している。つまり、労働者への賃金が減り、一方で投資家への分配が上がっているということだ。
「非正規とはいえ、無職よりはマシだろう。そこからがんばって正社員になればいい」という意見もあるが、実際には非正規が正社員になるのは非常に難しい。「専門性を高めれば、派遣社員で生きて行く道もある」という意見もあるが、30代くらいまでならともかく、40代、50代になっても最先端の専門性をキープするのは難しいだろう。年を取って行くと、スキルも落ちるものだ。
こうした議論には、どこかにウソがある。
貧困解消というスローガンだけでは不十分
全国民の底上げが国家の成長には欠かせない
たとえば、中間層がまだ大勢いるドイツでは「ミッテルシュタンド(中小企業)」が製品の競争力を高め、経済を支えている。彼らの多くは都市部ではなく、地方に住んでいるから、ドイツでは地方・中小企業・中間層が元気だと言えるだろう。
安倍首相も今年に入って地方創生を掲げるようになった。しかし、使途を定めない「一括交付金」の創設を検討するなどとしているが、補助金をバラまけば、地方や中小企業、中間層が元気になるかというと、そんなに簡単な話ではない。それこそ、中小企業が海外に販路を見つけることをサポートするなど、地道で時間をかけたアプローチを積み重ねる以外に方法はない。
アベノミクスは株高・円安・公共投資増加など、いずれも短期で分かりやすく結果を出すことに腐心した。経済の底上げにつながってはいないから、一瞬良くなったように見えたが、効果が剥がれ落ちるのも早かったということだろう。
今回の選挙で、民主党などが格差問題を争点にしているが、単純に「給料が減りますよ」といった不平・不満に訴えかけるのではなく、地方や中間層、中小企業が元気にならなければ、日本経済の成長はないのだという大原則を、もう一度考え直す必要があるのではないか。(談)
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