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全国に100万台以上!持ち主が知らずに乗っている これが「タカタ殺人エアバッグ」搭載の全車種だ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41358
2014年12月08日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
命を守るエアバッグが凶器に変わる。「タカタ製エアバッグ問題」の裏には自動車メーカーの焦りと部品メーカーの実情、アメリカの思惑が交錯していた。世界の安全を揺るがすこの問題の背景とは。
■手榴弾並みの破壊力
「タカタのエアバッグ問題は、いまや全世界で1600万台の自動車がリコール対象車になるという前代未聞の規模にまで拡大しています。日本でも、各自動車メーカーで総計260万台以上のリコールが発生している。深刻なのは、そのうち100万台以上もの自動車が問題のエアバッグを搭載したままだという点です。タカタ製エアバッグの事故映像を見ましたが、爆発の衝撃は、小型の手榴弾ほどの威力とさえ言える。非常に危険な状況です」
自動車評論家の国沢光宏氏は、こう警鐘を鳴らす。
エアバッグが作動した瞬間、風船を膨らませるためのガス発生装置が破裂し、飛び散った金属片が体を切り刻む—。自動車部品メーカー・タカタの「殺人エアバッグ」が今、世界を恐怖に陥れている。
「現在までに、このエアバッグが原因とされている死亡事故はアメリカとマレーシアで5件発生しています。全世界で起きた負傷事故は100件を超え、今後も増加することが予想されます」(全国紙経済部デスク)
幸いなことに日本ではまだ人的な被害は起きていないが、これは対岸の火事ではない。一歩間違えれば大惨事となる事故が、すでに国内でも起きているのだ。前出の国沢氏が続ける。
「今年1月に静岡県で起きた事故は、タカタ製エアバッグの危険性を物語っていました。電柱にぶつかったトヨタ・カローラ'02年モデルの助手席エアバッグが破裂し、飛び散った部品が後部座席に引火したのです。もし車内でエアバッグが爆発すれば、死に至る高温の部品が目の前を飛び交うことを意味しています」
次ページに掲載した表をご覧いただきたい。これは、国内のリコール対象車のうち、100万台以上にのぼる未改修の車種一覧表だ。フィット(ホンダ)や前出のカローラ(トヨタ)など人気車種がずらりと並び、BMWの中核を担っている「3シリーズ」も軒並み名を連ねている。その車種の総計は、実に81種(11月27日現在)。これらすべての車種で、表中に記載されている製造年のものが、今この瞬間も国内を走り続けているのだ。
各自動車メーカーはリコール対象車の所有者へダイレクトメールを送るなどして、改修率の向上を図っている。それでも、達成率は決して高いとは言えないのが現状だ。
「メーカーとしても、転売を重ねられた自動車については、現在の所有者が誰なのか把握しきれない、というのが本音でしょう。最終的には、所有者自らがリコール対象車であるのかどうかを確認するしか手立てはありません」(業界紙記者)
現在、各自動車メーカーHPでは車検証に記載された「車台番号」を打ち込むと、自分の車がリコール対象車であるかを確認できる。また、電話相談窓口を設けるなどし、対応をしている。
■一族経営の限界
表からも分かるように、リコール対象となっている車種は、'00年代のものが大半を占めている。中古車として購入した所有者も多いことが予想されるため、該当する可能性がある場合は確認する必要がある。前出の国沢氏はこう警告する。
「この問題は、事故が起きれば即刻、命にかかわる。リコール対象車に乗っている人は直ちにディーラーに持ち込むことを強くお勧めします。無料で改修してくれる上に、1時間ほどで作業は完了します」
死亡者まで出す不良エアバッグを製造したタカタに対する批判は日に日に強まり、今や問題は深刻化の一途を辿っている。
11月20日には、アメリカ議会が開く公聴会に同社シニア副社長の清水博氏が出席した。ワシントン・ポスト記者のアシュレイ・ハルジー氏はこう語る。
「4年前、アクセルの欠陥問題でトヨタ自動車社長の豊田章男氏が公聴会に出席しました。公聴会が開かれるというのは、議会が国全体にかかわる重大な問題だと認識していることを示しています。
今回の公聴会では、問題のエアバッグを『動く手榴弾』にたとえ、タカタがすべてのリコール対象車を安全なエアバッグと交換するまで毎日罰金100万ドル(約1億2000万円)を科すように要求する上院議員もいました。それほど深刻な問題として受け止められているのです」
タカタは'33年に滋賀県彦根市で繊維織物会社として創業した。現在では自動車用安全装置を中心に製造し、従業員数は全世界に4万人以上、アジアやアフリカ各国に拠点を持つ巨大企業だ。
同社は創業家一族が経営を担い、現在の高田重久会長は3代目にあたる。リコールの対応が後手後手に回っているのは、一族を守ろうという社の風土も影響しているようだ。
「古参幹部らは、先代の故・重一郎氏の妻暁子さんのことを『奥方』、2人の長男である重久氏を『若』と呼んでいるようです。
相次ぐリコールでタカタは'13年度3月期に約300億円の特別損失を計上しました。それを受け、社内改革の一環として外国人社長であるステファン・ストッカー氏を迎え入れましたが、これは同族経営への批判をかわすため、古参幹部らが暁子さんに進言したもののようです。ですが、いくら外国人社長を就任させても、経営の実権は創業一族にあることは変わりません」(前出の業界紙記者)
■ホンダとの蜜月が裏目に
現在タカタ製品のリコールが集中しているのは、'00~'02年にかけて同社のメキシコ工場で生産されたエアバッグだ。タカタは'00年にメキシコ工場を建設し、エアバッグをはじめとする安全装置を製造してきた。つまり、メキシコ工場稼働の直後から、問題のエアバッグが製造されてきたのだ。
自動車業界に詳しい経営評論家の高木敏行氏はこう解説する。
「'94年以降、米国、カナダ、メキシコの3ヵ国間で北米自由貿易協定が発効され、自動車メーカーは人件費が安いメキシコに工場をつくるようになりました。国内メーカーでも、ホンダ、日産、マツダなどが進出しています。それと同時に、国内部品メーカーもメキシコで生産するようになった。現地で生産した自動車を米国やカナダに輸出しても、税金がかからないというのが大きな理由です」
当時のタカタは、やや拙速でも海外進出を選択せざるを得ない状況にあった。その理由は、同社の主な取引先となっているホンダの存在だ。
両社は、タカタ創業者の高田武三氏がシートベルトの受注を本田宗一郎氏に直談判して以来、数十年にわたり深い関わりを持ってきた。その強固な関係を示すように、ホンダ車のタカタ製エアバッグ搭載率は、実に50%を占める。その両社の関係が、今回の悲劇を引き起こしたともいえる。
「自動車メーカーが海外へ進出すれば、そこに部品を納める部品メーカーもついて行く。日系の場合は根強い系列が今も残っているため、『納入先と一蓮托生』が暗黙の了解となっています。
そんな関係では、受注する部品メーカーも自動車メーカーの要求に応えざるをえない。部品供給が間に合わなければ、『他社に任せる』という話にもなりかねないので、部品メーカーはなんとかして自動車メーカーの要望に応えようとします」(専門誌記者)
さらに、ホンダには他社と競うための「焦り」があったと指摘する声もある。
「ホンダは他社と比べ、次世代自動車の開発に遅れ気味でした。そのため開発費用確保を急ぎ、部品メーカーの商品を買い叩き、製造を急かした。タカタも、ホンダから納期やコストダウンの要求があれば、断れなかったのでしょう。
今回のタカタ問題は、自動車各メーカーが競いあって海外進出するなかで、無理な生産を部品メーカーに押し付けてきた弊害が今になって表れた象徴的な出来事と言えるでしょう」(前出の全国紙経済部デスク)
11月24日には、ホンダが'03年以降、報告を義務付けられている事故の60%をアメリカ運輸省に届け出ていなかったことが明るみに出た。そのなかには、タカタ製エアバッグが原因で起きた死亡事故も含まれている。そんなホンダの対応に、激しい批判が巻き起こっているのだ。
一方で、今回の騒動は、アメリカ側の思惑が隠されているという見方もある。前出の高木氏はこう語る。
「タカタがこのタイミングで大きく取り上げられているのは、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の問題もあるでしょう。TPPの自動車交渉では、安全基準を緩和するように迫るアメリカと、受け入れない日本という構図が続いている。進展しないTPP協議を有利に進めるため、アメリカが日本のメーカーに対して圧力をかけているのかもしれません」
11月26日にはアメリカ運輸省がリコール対象地域を国内一部地域から全米へと拡大するようタカタに命じ、応じなかった場合には1台あたり7000ドル(約82万円)の罰金を科す可能性も示唆した。これが実行されれば、タカタは社の存続すら危ぶまれる経営危機に直面することになる。
未だ収束の糸口すらつかめないタカタのエアバッグ問題。前出の国沢氏は、今後同社と自動車メーカーに求められる対応をこう語る。
「現在はメキシコ工場が取り沙汰されていますが、もはや問題は世界規模になり、工場や期間を特定できなくなってきている。最終的にリコールは3000万台を超えると語る関係者もいます。タカタや自動車メーカーは、とにかく持っている情報をすべてオープンにし、自動車業界全体で対応策を検討する必要があるでしょう」
人命に関わる今回の問題。一刻も早い誠意ある対応を、タカタと自動車メーカーは迫られている。
「週刊現代」2014年12月7日号より
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