02. 2014年12月09日 07:50:22
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「ドイツ人経営学者は見た!日本のかっこいい経営」 問題山積の米国制度、良い国は絶対まねをしてはいけません! 米国人すら問題視、制度直輸入からの脱却を 2014年12月9日(火) ウリケ・シェーデ 近年、日本の上場企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)制度が劇的に変化してきています。法律が何度も改正され、企業は透明性、情報共有、経営目標の明確化について考え方を改めてきました。これは、日本的経営における大きな進歩です。コーポレート・ガバナンスは、大企業の経営陣が、個人や企業内ではなく、株主などの利害関係者の権益を反映しているか、監視し、査定する制度全般を指します。 それらを踏まえたうえで、外国人の私から見ると、日本がより発展するためには、2つの大きな改善すべき分野があると思います。まず、明示的にも暗黙的にも、新しく作られている日本の制度は、常に米国の制度と比較されています。しかし実は、米国のコーポレート・ガバナンス制度は欠陥が多いため、米国人でさえ、それが模倣されるべき制度だと考える人は滅多にいないことを、読者はご存じでしょうか。 安易に米国や英国などのアングロサクソンの制度を真似するのではなく、違う国の統治形態、例えばドイツの取締役会などの方が、より良い制度であり、もっと日本に合うかもしれません。 そもそも、日本のコーポレート・ガバナンス改革では、米国はもちろんのこと、他国と同じような制度を目標にするべきではありません。日本にとって転換期である今こそ、他国がまねしたくなるような、優れた制度をつくるチャンスなのです。 2つ目の改善分野は、新しい法律を日常に浸透させる工程です。社外取締役に関する規制などが改正されても、多くの企業では、昔ながらのしきたりが残っています。例えば、多くの企業では、取締役会が毎月開かれ、社内社外関係なく、取締役はいまだに、財務諸表を確認したり、経営改善案を聞かされたりするそうです。しかし、取締役会の本来の役割は戦略的決断をし、企業がどう競合していくか助言をすることです。日本の取締役会議が新しいマインドセットに適応していかない限り、法律を改正しても企業の根本的変革を引き起こすことはできません。これら2点について、順番に詳しくお話しましょう。 ベンチマークの選択ミス:米国の影響 1990年代中頃、日本のコーポレート・ガバナンス改革が始まった当初、多くの目標基準は米国を参考に決められていました。この大きな理由は、改革を推進していた日本の官僚と学者の多くが、米国で法律、経済、経営を学んでいたからです。 このため例えば、日本にとってよりふさわしいであろう、ヨーロッパの敵対的買収防衛策などではなく、米デラウェア州会社法の毒薬条項(ポイズン・ピル)のような、いかにも米国らしい法制度が日本に導入されたのです。今現在の社外取締役制度も、同じように米国の影響を受けています。 またこれには、在日米国商工会議所を含めた外圧など、日本の改革をうるさく要求してきた米国勢力からの影響もあるでしょう。日本の初期の改革の多くは、米国人をなだめる目的もあったはずです。確かに、最近の日本は、(投資家の行動規範を定める)英国のスチュワードシップ・コードや、経済協力開発機構(OECD)の基準など、模範とする制度を明示的に広げてきています。 しかし、英国もアングロサクソンの国であり、そしてOECDは米国の考え方に支配されているかもしれません。そもそも、日本の改革の進展を評価するための比較基準は、いまだに米国である場合がほとんどです。 今年のガバナンス改革の中心は、日本企業の平均利益率についてです。海外と比較すると日本の上場企業の利益率がかなり低いこと自体は事実です。今まで日本企業は、利益率を反映する経常利益率、純利益率、ROA(総資産利益率)などという会計項目をほとんど無視し、利益率よりも市場占有率を上げることに集中してしまいました。最近の日本上場会社の平均ROE(株主資本利益率)は4%ぐらいであり、15%である米国の4分の1ぐらいです。日本企業の業務や株主の国際化が進んでいる中で、利益率をあげることは重要な課題です。 そこで、安倍晋三首相が主導し、「持続的成長への競争力とインセンティブ」というプロジェクトを経済産業省が立ち上げました。企業の利益率を上げるために、国がプロジェクトを立ち上げるのはいささか不思議ではありますが、いずれにせよこの結果、プロジェクトの座長である、一橋大学の伊藤邦夫教授の名前から、「伊藤レポート」という報告書が発表されました。伊藤先生は、会計学における有名な教授で、1980年代に米スタンフォード大学で研究されていました。 8月に公表されたこの「伊藤レポート」では、全ての上場企業がROE(株主資本利益率)を最低でも8%以上にするべきだと提案されています。具体的には、 「中長期的にROE同上を目指す「日本型ROE経営」が必要。「資本コスト」を上回る企業が価値創造企業であり、その水準は個々に異なるが、グローバルな投資家との対話では、8%を上回るROEを最低ラインとし、より高い水準を目指すべき」 と書いてあります。原文のリンクはこちら これは大変いい提案だと思うのですが、そもそもどうしてROEに注目し、そしてなぜ8%という数字をボーダーラインに設定したのでしょうか。 ROEを重視するのは米国だけ? 私が思うに、これはROEを重要視してきた世界で唯一の国であろう、米国の影響を受けているのではないでしょうか 。このレポート作成の際に相談したグローバルな投資家は、恐らく米国人だったのだと思います。米国では現在、平均ROEが大体15%くらいです。そこで日本のROEを、15%の半分に近い、 8%に設定したのでしょう。けれども「資本コスト」、つまりリスクを計算した上で企業が資金調達するためのコストが、米国が日本より2倍高いとは想像できません。 そもそも、 ROEを国際比較することには、あまり意味がありません。なぜなら、2国の会計制度、特に純利益や自己資本の計算方法が違うため、ROEを比べるのは月とスッポンを比べるようなものだからです。「利益率を上げる」のはいいアイデアですが、目安は米国投資家に聞くより、国内企業の競争構造を鑑みて作った方がいいと思われます。 日本の配当金支払いからも、日本の改革における米国の影響が見られます。日本の配当利回り、または配当性向(DPR、 “dividend payout ratio”)は低すぎるとよく言われます。実際、米国やヨーロッパの数国と平均を比べたら、日本企業は配当性向も配当利回りも低いです。しかし、平均配当性向や利回りを単純に国際比較することも、これまたほとんど無意味です。米国内だけで見ても、産業別にしても企業別にしても、配当性向や利回りには大きく開きがあるからです。 平均値を見ることは、財務においてはもちろん、企業戦略においても全く意味がありません。企業がいくらの現金を手元に残し、いくらを株主に還元するかは、企業の将来戦略や財政状況、そしてライフサイクルのどのステージにいるか次第だからです。しかしそれでも日本は、金融制度が全く違う米国をベンチマークとしているようなのです。 もちろんある程度は、米国で成功している慣行を参考にする利点はあります。しかし、それには米国のコーポレート・ガバナンスに欠陥があることをはっきりと自覚していることが前提です。しかも、日本には、他のシステムをただ模倣するのではなく、それより優れたオリジナルな制度をつくることができると、私は思っています。 世界の専門家が評価するのはドイツの取締役会 私の大好きな取締役会の話題についてお話しましょう。米国の企業の取締役会には、まず社内と社外に取締役がいて、多くの企業では、監査委員会、報酬委員会、指名委員会などの委員会が設けられています。 最近の分析によると、米国の大企業の50%以上において、CEO(最高経営責任者)が取締役会会長を兼任しているそうです。これは米国の法律上は許されていますが、悪い慣行であるとほとんどの人が認めています。近年のウォール街の銀行や証券会社に関するスキャンダルにおいて、CEOと取締役会会長が同一人物であることが問題の根源にあると、特定されてきたからです。 コーポレート・ガバナンスを研究しているほとんどの学者は、経営の監視、助言両方において、ドイツの取締役会が最も適しているという点で合意しています。ドイツでは、執行役会という5、6人の役員が、経営を担っています。彼らは経営陣のトップグループであり,日本の「常務会」と似ています。 そして、執行役会のトップである「執行役会会長」は、日本企業における社長と、役目も、法的に認められた権限もほとんど同じです。 この点について日本とドイツが似ていることは、明治時代の商法がドイツとフランスの法律を基に規定されたことを踏まえれば、驚きではありません。日本の社長のように、ドイツの執行役会会長は、法的に企業を代表することが仕事です。そして、執行役会の管理も担当しています。しかし、意思決定権が強い米国のCEOと比べると、執行役会会長の権利は昔からかなり制限されています。 そして重要なのは、日本や米国と違い、ドイツの執行役会会長は、取締役会の一員であっても取締役会会長と兼任することを、法律によって禁じられていることです。その上、従業員が2000人以上いる大企業では、労働組合が従業員代表として取締役会に選任されるのですが、他の役員は、皆社外から選任されています。さらに、監査役会が執行役会を監督しているため、この制度は二層型取締役会と呼ばれているのです。 基本的にこの制度は、EU内のほとんどの大国で採用されています。フランスの大企業では、ドイツと同様、取締役会会長と執行役会会長の兼任が認められていません。 取締役会議に必要なマインドセット 米国もヨーロッパも,取締役会は3カ月に1度取締役会議を開きます。M&A(合併・買収)や、突然の取締役会の人事異動といった特殊な場合のみ、より短い周期で会議が開かれますが、これは滅多にありません。それから、会議は大抵丸1日かけて行われます。執行役会から提出された財務報告などについて簡単に議論した後、より重要な企業戦略、リポジショニング、利益率を高める方法などについて話し合います。 つまり、取締役会は、執行役会の提案を聞いて「ハンコを押す」だけではなく、企業戦略について助言するために存在しているのです。取締役会の役員は皆、経営、財務、競争先などについての専門家です。取締役会の役員を分析することによって、その企業のコーポレート・ガバナンスを査定することが度々あるくらい、重要な組織なのです。 以前の本コラムでお話したように、ドイツ人は効率的であることを好みます。それは取締役会についても、例外ではありません。彼らは企業の課題について、積極的に議論し、執行役会に助言します。理想的な取締役会は、企業戦略も立案します。もちろん、全ての企業がこの制度を喜んで受け入れているわけではありません。極論として、取締役会は社長を解任させることができるからです。しかしこれは、経営で誤った管理をしたという明確な証拠がない限り実行されない、滅多に起きない事例です。 ドイツの取締役会の構成は、日本にとって、すごくかけ離れたものでしょう。このような二層型取締役会は、日本では外部の影響を受け過ぎてしまうかもしれません。社外取締役が半数以上を占める取締役会は厳しすぎると、多くの日本人は考えるでしょう。しかし既に述べた通り、筆者は日本がドイツの制度をまねすべきだと提案しているわけではありません。 むしろ日本は、他の様々な制度の良い部分を組み合わせ、他より優れた制度を新しくつくるべきです。現在実行されている改革は、既に存在している構想から一歩踏み出し、新しくて効果の高い企業統治体制をつくるチャンスなのです。 改革を、実行に移すには 日本がどのような制度を導入するにしても、マインドセットも同じように変えない限り、改革の効果は最小限にとどまってしまいます。日本は、社外の人から助言を受ける制度を受け入れる準備が、本当にできているのでしょうか。そして日本の経営者は、強い権力のある外の人を取締役会に選任し、助言や指示、そして本当の意味での監視を受けることを、よしとするのでしょうか。 日本の優れた経営者達は、既に十分にマインドセットを切り替え、法律が規定するよりも早く改革を進めてきました。しかし、全体を見ると、日本企業の大半は、古い伝統的なしきたりに従って取締役会を開き、実際に変化を起こせるような機会を与えないまま、社外取締役会を選任しているように思えます。 日本のほとんどの取締役会は、毎月、3時間ほど会議をします。この唯一の理由は、昔からのしきたりだからです。取締役が社内からしか選ばれていない場合は、これは大きな問題ではありません。しかし、社外取締役がいて、しかも会議に参加するために遠くから足を運ばなくてはいけない場合は、頻繁な会議は現実的ではありません。 しかも3時間の会議は、瞬く間に終わってしまいます。それに対して他の国では、3カ月に1度、1日かけて会議を行うからこそ、企業指導について深く掘り下げて話し合うことが出来るのです。 さらには、社長が提出した報告書を確認しハンコを押すだけのような取締役会を、いまだに続けているような企業も、日本にはまだまだ残っているそうです。これもまた、昔からある慣習に従っているのでしょう。 ある社外取締役の方から、取締役会議の半分以上の時間が、その月の財務諸表を見るだけに使われていると、聞いたことがあります。社外取締役の1人は大抵会計士であるため、財務諸表の各項目について、長い時間をかけて確認しているのです。 これは、会議の時間を非効率的に消費しています。会計士である社外取締役 なら、会議前にあらかじめ数字を確認し、訂正されたものを会議で提出し、その承認と議論に会議の時間を使うべきです。取締役会全員で、財務諸表について事細かに会議する必要はないのです。 また、過去のことについてのみ議論することは、企業の経営にとって有益ではありません。むしろ、財務的業績を基に、これからどうするかを話し合うことが、会議の趣旨であるべきなのです。だからこそ、未来の戦略について助言し指導できる専門家を、取締役会に選任する体制を確立することが、日本のコーポレート・ガバナンス改革の根底にある目的なのではないのでしょうか。 しかしながら、現状のように会議の大半の時間を事務的に使っていては、本来の事業戦略について議論する時間はほとんど残されていません。 改革を進めるために 日本は、21世紀にふさわしいコーポレート・ガバナンス改革を行い、日本企業の国際競争力を高め、海外投資家に魅力的な市場をつくるための大きな一歩を踏み出しました。法律上では、日本は多くの改革を行ってきましたが、実際には、全ての日本の経営者が、助言・指導できる取締役会を確立ための課題に直面している状態です。経営者は、取締役会が企業の未来の方向性について議論できるよう、役員を導いていかなければならないのです。 改革を進めるなかで、既に実在するシステムをただ模倣するのではなく、オリジナルな一貫性のある制度にしていくことを日本に期待しています。今が、アジア初の、優れたコーポレート・ガバナンス制度をつくった国となるチャンスなのです。思い通りの制度をつくることができれば、現存の海外業務を改善し、日本企業の国際競争力を高めてくれるでしょう。 このコラムについて ドイツ人経営学者は見た!日本のかっこいい経営 アベノミクスの中で、復活の兆しが取沙汰される日本経済。「失われた20年」と言われ続けたけれどもさにあらず。国外から見ると、日本の経営にはたくさん素晴らしいところがある。ドイツ人経営学者が見た、「ニッポン型経営」の新しい魅力。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141208/274829/?ST=print
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