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[真相深層]あふれ出る鋼材、通商摩擦の火種
中国から輸出急増、背景に課税逃れ? アジアに保護主義の気配
中国で鉄鋼の過剰生産が止まらず輸出が急増している。1〜10月の輸出量はすでに前年実績を上回り、足元は世界2位の日本の粗鋼生産量に迫る勢いだ。中国は内外の課税を避けるため「高級鋼」としての輸出を増やし、アジア諸国は輸入制限で対抗している。中国経済の減速を背景にした鉄鋼バブルの終幕は保護主義の台頭を許し、日本も巻き込まれつつある。
日中統計にズレ
「どちらが本当なのか」。日本鉄鋼連盟の担当者は通関統計のズレに頭を悩ませている。例えば薄鋼板などに加工される熱延コイル。中国の統計では2年前から高級鋼である合金が急増し、昨年は日本向け輸出量の99%を占めた。日本の統計では5%で、残りはこれまで通り普通鋼だった。
日本側は「これまで通り普通鋼を注文している」(東京都内に拠点を持つ商社)。なぜ中国では合金と申告されたのか。ある商社の担当者は「微量のボロン(ホウ素)が勝手に鋼材に添加された可能性がある」と話す。
発端は2010年7月。中国は普通鋼に限って輸出品にかかる増値税(消費税)を還付しない措置を打ち出した。輸出を合金などの高付加価値品にシフトさせる狙いだ。ところが増えたのは「名ばかり高級鋼」。ボロンは鋼材に0.0008%含まれるだけで合金と認められるため、鋼材各社は本来必要のない鋼材にもボロンを添加し始めた。事態を重くみた中国政府が昨年から詳細な輸出量を調べると、ボロン鋼は主要品目の輸出量の8〜9割に上った。
価格の9〜13%にあたる還付金は「値下げの原資となっている可能性が高い」(鉄鋼商社のメタルワン)。加えてアジア諸国の多くは合金の輸入関税が低い。マレーシアは普通鋼の熱延鋼板で20%だが合金は非課税だ。合算すれば本来の価格より3割安くできる。
中国の鉄鋼業は苦境に直面してますます制御が困難になっている。粗鋼生産量が年約8億トンの中国で日本の粗鋼生産の約3倍にあたる3億トンもの設備能力が過剰だ。需要は伸びが止まりつつあり、上海市の熱延コイルは1トン約3000元と2年で2割値下がりした。
宝山鋼鉄など一部の大手を除きメーカーは半数が赤字続きだ。「資金繰りのための投げ売りも増えている」(阪和興業)。中国からの鉄鋼輸出は1〜10月に7389万トンと前年同期比42%増えて過去最高となった。
安価な中国材はアジアの鉄鋼産業を圧迫する。韓国は7月、中国材の鉄骨に反ダンピング(不当廉売)関税を課すための調査に入った。韓国材も押し出される形でアジアにあふれ、マレーシアは中韓の鉄筋について8月から調査している。こうした案件は今年1〜10月で19件に上り、うち11件は中国材が対象だ。
輸入制限の足音
より手続きが簡素なセーフガード(緊急輸入制限)も発動に向けた調査が増えている。1〜10月は8件と昨年実績の7件を上回り統計のある1999年以降で最多のペースだ。輸出国を指定せずに導入されるため、日本の鉄鋼輸出への影響も避けられなくなる。
中国鋼材の輸入は日本でも1〜10月に117万トンと前年同期の約2.4倍に膨れた。「ネジやくぎになる線材はボロン添加の中国材に取って代わられた」と合同製鉄の営業担当者は悲鳴を上げる。「円安なのに高水準の輸入はおかしい」(新日鉄住金の樋口真哉副社長)。鉄連は量の多い韓国材も含めた輸入品のモニタリングに入った。
9月、北京。経済産業省や鉄鋼メーカーの幹部はホテルで中国・商務部の幹部らと向かい合った。「ボロン鋼は中国の輸出政策の趣旨と異なるのでは」。日本側の問いかけに中国側は制度変更への動きを伝えたうえで、「解決には時間がかかる」と理解を求めたという。
韓国も焦りを募らせている。「不公正な貿易をなくす意思を共有すべきだ」。鉄鋼最大手であるポスコの呉仁煥専務は10月、中国・上海でのフォーラムで鉄鋼輸出国の日中韓による連携組織の結成を呼びかけた。
中国の前に高度成長を経験した日本の鉄鋼業は、70年から40年かけて55万人超の従業員を半減させた。中国は痛みを伴う構造調整にどこまで踏み込めるのか。アジアの鉄鋼業は長く厳しい冬を迎える可能性がある。
(高見浩輔)
[日経新聞12月5日朝刊P.3]
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