01. 2014年12月05日 15:48:41
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基調判断3カ月連続で据え置き、一致は上昇=10月景気動向指数 2014年 12月 5日 15:06 JST [東京 5日 ロイター] - 内閣府が5日発表した10月の景気動向指数速報によると、CI(コンポジット・インデックス)一致指数は前月比0.4ポイント上昇し、110.2となった。 消費関連指標は弱かったが、生産関連指標がプラスに寄与し、全体では2カ月連続で上昇した。基調判断は3カ月連続で据え置き、「下方への局面変化を示している」とした。 景気の現状を示す一致指数は、5系列がプラスに寄与し、同じく5系列がマイナスに寄与した。プラスは投資財出荷指数(除く輸送機械)、大口電力使用量、中小企業出荷指数(製造業)、生産指数(鉱工業)、所定外労働時間指数(調査産業計)。マイナスは耐久消費財出荷指数、商業販売額(小売業)など、自動車関連の不振が響いた。 景気の先行きを示す先行指数は前月比1.6ポイント低下の104.0。2カ月ぶりに低下した。判明している9系列のうち、プラスは新設住宅着工床面積の1系列のみ。残り8系列がマイナスに寄与した。消費者態度指数などのマインド関連指標や、東証株価指数や日経商品指数などマーケット関連指標が弱かった。 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0JJ0B520141205 【特別企画】アベノミクスのジレンマ―破壊的再生か安楽な衰退か By JACOB M. SCHLESINGER 2014 年 12 月 3 日 11:08 JST iStock 2009年の終わりに私が日本に越してくる以前、日本が「景気後退」、「停滞」、「不振」といった不吉な言葉で表現されるのをよく目にしていた。ところが、引っ越しを終えて落ち着くと、私にとってより適切だと思われたのは英語の「comfort」に意味が近く、便利、信頼性、安全性、魅力など幅広い美徳が表せる「快適」という言葉だった。私は世界の日本に対する認識と国内で感じる雰囲気、並外れた豊かさの格差に衝撃を受けた。その繁栄ぶりは、前回私がここに住んだ20年前に知ったバブル時代の日本だけではなく、その後に私が米国で経験したいくつかの好況と比較しても引けを取らなかった。 景気後退期の東京には、同じような状況下の欧米で見られるような経済的困窮の象徴、たとえば板が打ち付けられた店舗、割れた窓ガラス、積み上がったゴミ、物乞い、舗装道路のくぼみ、荒廃した地下鉄の駅、深刻な路上犯罪の気配などが全くなかった。図書館や公園といった公共サービスの閉鎖もなかった。それどころか、私がいなかった「失われた20年」に東京はかなりおしゃれになっていた。大手町にある私のオフィスの界隈では、古ぼけたコーヒーショップが入った軽量コンクリートブロック造りのみすぼらしい事務所ビルが、客で賑わうグルメ向けレストランや高級デザイナーのブティックなどが入っているきらびやかなオフィスタワーに取って代わられていた。下町にある自宅の周辺では、古い店舗が頻繁に閉店したが、週末のあいだに大急ぎで改装工事が行われ、月曜日の朝には新しい看板を掲げた店が開店していた。 (東京・中央) Louisa Rubinfien データはうそをつかない。多くの指標によると、日本経済は歴史的な衰退をたどり、特に増加傾向にある不完全雇用者という底辺層や人口減少地域に弊害をもたらした。それでも日本は、全般的に見て、比較的苦痛が少ない、穏やかな衰退でどうにかしのいできた。これは、アベノミクスという形の積極的な行動を伴う反応が現れるまでにあまりにも長い年月がかかったこと――そしてあまりに早く日本国民がそれを考え直すことになった原因の一つでもあるだろう。
こうしたことから、過去5年にわたって日本の混乱した政治、金融、経済をウォール・ストリート・ジャーナルで記事にしてきた私はある結論にたどり着いた。日本の現代の政治経済には、デフレ主義対リフレ主義という特徴的な緊張関係があり、それぞれが思い描く日本の将来像も全く異なっているというものだ。 デフレ主義者たちは安定を優先させ、人口動態を運命と見なし、日本の人口の高齢化と減少は必然的に経済停滞を招くと考えている。彼らの反応はリスク、混乱、分裂を最低限にとどめ、その移行にできるだけ苦痛が伴わないようにするというもので、国が引退生活の計画を立てるかのようである。一方のリフレ主義者たちは、そうした見通しを無用な敗北主義と捉え、より発展性があり、活力に満ちた未来を求めているので、あらゆるリスクを冒すこと、さまざまな混乱を受け入れることにも前向きである。 日本の衰退期のイメージとして心に残っているのが、2011年3月11日の衝撃的な地震、津波、原発事故の三重災害である。そこには自然の脅威と無能なリーダーシップになすすべがない日本があった。より明るい未来の象徴としては、2020年の夏季オリンピックの東京開催決定があった。 過去20年間の大半で幅をきかせてきたのはデフレ主義者たちだが、安倍政権が発足してからの2年間ではリフレ主義者たちが優勢となっている。しかし、首相になって1年間は高い支持率を享受した安倍氏も今では高まりつつある疑念に直面しており、自分の名前を冠した経済再生プログラムの是非を問う国民投票として、12月14日に総選挙を実施することにした。その投票結果は、2つの統治哲学の勢力バランスを再調整し、向こう数年間に日本が――経済や市場だけではなく、外交や防衛の分野でも――進む方向を決める一因となるだろう。 日本の安倍政権以前の体制を「デフレ主義者」と呼ぶ一方で、私は物価、賃金、消費、投資の低下という経済を弱体化させる悪循環に陥ることが彼らの意図だったと示唆しているわけではない。それは主に、失策と麻痺状態の結果として起きたことだった。とはいえ、1990年代の終わりにこのような状況に陥った時、日本の指導者たちは、これはそれほど悪いことではなく、一般的に処方される対策は利益以上に害をもたらすリスクがあるという判断を暗黙のうちに下していたのだ。 考えてみてほしい。日本の国民1人当たりの国内総生産(GDP)成長率は、他の先進国と同等、あるいはそれ以上だった。平均寿命は伸び続け、世界最高水準であり続けた。その一方で犯罪発生率は世界最低水準を維持した。失業率は「失われた20年」のあいだにピークの5.5%に達したが、欧米の景気後退期の水準である2ケタを大きく下回っており、景気回復期に入って久しい米国の現在の失業率よりも依然として低い。 日銀の白川前総裁は退任半年後の2013年9月のスピーチで、穏やかなデフレは、ある程度において、雇用の最大化を確保するために日本社会が支払った代償だ、と述べた。慎重な白川前総裁はデフレ主義者たちの看板的存在となり、リフレ主義者たちの主な攻撃対象となった。白川前総裁によると、デフレは衰退を均一に分散させるための日本の「社会契約」の一環だという。大量一時解雇という欧米の慣習とは対照的に、日本企業は景気低迷期に賃金削減を通じて人件費を節約することができた。 おそらく米国のエコノミストたちにとっては苛立たしいそうした態度は、無秩序な市場への不信感が根深い日本ではむしろ主流なようだ。米シンクタンクのピュー・リサーチ・センターは今年、43カ国で経済に対する考え方を調査した。「富める人もいれば貧しい人もいるが、ほとんどの人は自由主義経済の方が幸せになれる」という意見に賛成か反対かを聞いたところ、日本では51%が反対だった。半数以上が資本主義の純便益を疑った国は日本を含めて4カ国しかなかった。 停滞のなかで安定する日本に共感することもあった。私は昨年、西武ホールディングスとその筆頭株主で、米国水準の利益幅を強く迫っていたニューヨークに拠点を置くプライベートエクイティー(PE=未公開株)投資会社サーベラス・キャピタル・マネジメントとの対立を記事にするのを手伝った。サーベラスのある幹部は、彼自身が最もばかげていると思った西武の非効率的な判断に関する詳細な資料をわれわれに見せてくれた。それには東京郊外を4両編成で運行している区間6駅の西武多摩川線の維持も含まれていた。娘が通学に使っていていたので、私はその路線のことをよく知っていた。これに不満を抱く米国の投資家たちの理屈も理解できた。しかし、西武をより繁栄させるための彼らの青写真には、混乱を引き起こす懸念を抱かせるものもあった。西武の幹部たちは自ら地元住民の意見を集約し、米国流の収益性が必ずしもさらなる効率性を生むとは限らず、むしろ非効率性が企業と株主から沿線のコミュニティーに移るだけだと示唆した。 約5年前に人口が減少に転じ、「高齢化社会」という自国像、そうした未来に合った政策や優先事項の新たな方向付けが定着すると、日本の危険回避傾向が強まった。デフレ主義者たちの最後の大きな行動は、3年後に消費税率を倍にするという2012年に可決した消費増税法案だった。目的は、欧州を襲ったソブリン債務危機のようなものが起きる可能性に対して追加的な防御策と、ベビーブーマー世代の引退に備えて老齢年金を補強することにあった。増税で成長が妨げられるということに疑問の余地はなかった。支持した人々は景気の減速を、老年期に入る人口の社会保障、そして国を維持するのに必要な代償だと感じていた。 当然だが、デフレにはマイナスの側面もあり、害悪と考える人々もいる。今や日本人の6人に1人が貧困線以下の生活を送っている。企業が従業員を一時解雇することをタブーにした「社会契約」は、給与と手当が保証された正社員の採用もより難しくした。日本の低い失業率は、低賃金の非正規雇用者の急増で維持されており、今やその割合はすべての労働者の3分の1以上に達している。デフレの時代に成年になった20代、30代の日本人の多くには、待遇が良く安定した職を見つけるチャンスがなかった。高齢者を保護するために将来の野心を縮小した日本は、若者の夢を台無しにしてしまったのだ。 リフレ主義者の関心は経済的苦難を通り越して、国際社会における日本の存在感の低下にある。地域のライバルである中国の台頭がそれに影響していれば、なおさらだ。中国の経済規模は日本の2倍になった。両国の経済成長率には大きな差があるため、日本に追いついてからわずか4年で達成された。領有権をめぐる2国間の緊張が高まり、最近、中国政府が高圧的にその経済力を誇示した――2010年には日本が必要としていた素材、レアアースの供給を絞り、2012年には巨大な国内市場で日本製品をボイコットした――ことは、リフレ主義者たちが景気停滞による経済上の危険と安全保障上の危険を結び付けるのに役立った。 そうしたチャイナショックの後に、休眠しているかのようだったリフレ主義の理念が一気に高まったのは偶然ではないだろう。そうした運動の政治的リーダーが、短命に終わった最初の首相在任期間に日本の失われたプライドを取り戻そうとしたことでよく知られている安倍首相になったのもやはり偶然ではあるまい。日本の平和主義は、いろいろな意味でデフレ主義――国家的影響力の低下と相伴うリスク回避の外交政策――と二つで一組になってしまった。再び首相に就任した安倍氏は、国家主義とリフレ主義の理念を融合させ、より活発な経済と同時に、より力強い外交と安全保障上の役割を目指してきた。 アベノミクスには、概念的に「新しいもの」はほとんどない。そのアイデアの大半は外国のエコノミストたちが長いあいだ日本に採用を促してきたことか、以前のデフレ主義政権が実施されなかった無数の「成長戦略」の一環としておざなりに支持したものだ。 新しかったのは、安倍首相が成長を加速させ、デフレを終わらせることが日本の最優先課題だと宣言したこと、そして、そのために必要とみられている措置の少なくともいくつかについてはやり遂げると決断したことである。両陣営の人々をよく知っている私の印象だが、デフレ主義者たちとリフレ主義者たちは実際には、アベノミクスの3本の矢(短期的な成長を促すための金融と財政面の刺激策、長期的な成長を後押しする構造改革など)がもたらし得る恩恵と波紋に関して共通の理解を持っていると思う。 両者を分かつのは、リスクに対する許容度の違いである。 安倍首相の下、成長を追い求める日本は刺激策を新たな極限まで押し進めた――これは日本に限った話ではなく、世界的に見ても極限と言える。 iStock 今や日銀はそのポートフォリオに、日本のGDPの約6割――他の先進国の中央銀行が達した水準の2倍――に相当する資産を保有している。安倍氏が首相に就任する以前でさえ、日本政府の債務残高はそのGDPの2倍以上という世界最高水準に達していた(これに近いのはジンバブエぐらいである)。それでも、来年に予定されていた消費増税――デフレ主義の前任者たちが成立させた法案――を先送りにすることで成長をさらに促進させようという安倍首相の最近の決断には、日本の記録破りの借り入れに対する市場の許容度を試すことへの猛烈な意欲が示されている。
日本のリスク回避からリスク負担への急転換は、約130兆円の資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)にも拡大した。あまり慎重ではない国でさえ、保守的に扱う傾向がある老後の支えだが、GPIFは今や安全だが低利回りの国債の比率を減らし、より利益性は高いが値動きが激しい株式の比率を増やしている。 安倍政権以前の日本はどうしてそうした賭けに出なかったのか。世界の投資家が日本の経済政策は不安定になったという結論を下し、その結果の資金逃避で経済を衰弱させるような何らかの相場崩壊――金利の急騰、底なしの円安、株価の暴落など――が引き起こされるのをデフレ主義者たちは恐れていたのだ。そうした大惨事が起きる確率は測定できるものではないが、その可能性が、より大胆な刺激策への意欲をそぐものとして長く機能してきた。 安倍首相の大博打にもかかわらず、少なくとも今のところは、デフレ主義者たちが長く恐れてきた市場の大混乱は引き起こされていない。一方で、夏場に景気後退に陥るなど、リフレ主義者たちが約束した停滞からの決別も実現していない。今やリフレ主義者たちの運動は、政治と政策において岐路に立たされている。 12月14日の衆議院選挙は、不完全であるとはいえ、日本の変化を見極める材料になるだろう。不完全というのは、今回の選挙がアベノミクスや安倍首相に対する明確な信任投票にはならないからだ。弱体化した野党の足並みは乱れており、ほとんどの選挙区ではまともに戦えそうな候補者の擁立さえ思い通りに進んでいない。したがって、安倍首相が実際に政権を失うというシナリオは描きにくい。とはいえ、多くの議席を失えば、自民党は安倍首相がリフレ主義改革を完遂するための自由度を制限することになるだろう。 安倍首相の勝利の影響は、それがどのようにして得られたかで決まるだろう。田舎や非効率的な中小企業を一連の変革から保護する新しい公約に焦点を絞った選挙運動を展開すれば、安倍首相の支持率は高まるかもしれないが、成長促進が約束されているとする経済改革への勢いはそがれてしまう。リフレ主義的な政治課題の第2段階を詳しく説明する選挙運動を行えば、安倍首相がこれまでに挑んできたいかなる改革をも上回るほど野心的な改革への道が開ける可能性もある。 安倍氏が政権を維持できたとして、日本の凝り固まったデフレ主義的本能に、安倍氏流のリフレ主義が一体どの程度まで挑むつもりなのかは、選挙後の計画ではっきりするだろう。アベノミクスは過去2年間にさまざまな動揺を巻き起こしてきたが、安倍首相の最も急進的な政策課題への取り組みはまだ始まったばかりである。長期的な成長を安倍首相が約束した野心的なペースに引き上げるのに必要となるのが「3本目の矢」と呼ばれる構造改革だ。これまでのところ、重要な規制緩和は実施されていない。それどころか、世界銀行が起業家の妨げとなっている官僚主義的な負担の大きさの指標として毎年発表している「ビジネスのしやすさ」国別ランキングでは、アベノミクス下の日本がすでに低かった順位をさらに落としている。また安倍首相は、日本を新鮮で身が引き締まるような市場の圧力にさらすことになる貿易、労働、移民の大規模な自由化についてもまだ強力に推進していない。 こうした自由化は、激変を嫌う国民に売り込む上で政治的に最も難しい変革である――しかも、そうしたより難しい段階に到達する以前に、リフレ主義は国民の支持を失いつつある。日銀が9月に実施した調査によると、1年前と比べて暮らし向きが良くなったと回答した世帯は5%にも満たず、半数近くが悪くなったと答えたという。最近の日本経済新聞の調査では、アベノミクスを支持する人の割合は33%、支持しない人の割合が51%だった。 こうした不満の一部は、アベノミクスによる経済復興がつまずいているという兆候に起因する。その逆に、アベノミクスは実際に成功しているが、その成功が必ずしも「快適」ではないということに由来する失望感もある。 アベノミクスの今日までの成果で最も分かりやすいのは、日本の多国籍企業の収益急増と日本の比較的少ない株主層に恩恵をもたらした株価の急騰である。その一方で、低中所得層の世帯は、安倍首相が必死に生み出そうとしたインフレが賃上げ分を追い越すのを目の当たりにし、内需志向の中小企業は材料費の上昇に苦しめられている。アベノミクスは持てる者と持たざる者の気まずい格差、デフレ主義者たちもかつて抑え込もうとしていた不均衡の拡大を促してしまったのだ。 現在の議論は、二つの大きな疑問に集約される。一つ目の疑問は、アベノミクスがこの国の代謝作用と野心を高めることに本当に成功できるのか、である。現在、アベノミクスの「失敗」に関する解説を多く目にするが、私は成功できると考えている。特に最近、金融緩和策と景気刺激策が新たに追加されたことを踏まえると、少なくともそこそこの成功は収められるはずだ。 しかし、その成功に伴って、この1年間で浮上した緊張や混乱は高まるばかりだろう。選挙後に構造改革への取り組みが始まれば、なおさらである。 そしてこのことが二つ目の大きな疑問へとつながる。長く続いた日本のデフレ時代をアベノミクスによって終わらせることができるとしても、日本は本当にそれを望んでいるのだろうか。 ジェイコブ・スレシンジャー ウォール・ストリート・ジャーナル アジア経済主席特派員・中央銀行担当エディター
ハーバード大学経済学部卒業。St. Petersburg Times 記者を経て、1986年ウォール・ストリート・ジャーナルデトロイト支局に記者として入社。89〜94年東京支局特派員。その時の取材をもとに日本の政治についての『Shadow Shoguns:The Rise and Fall of Japan's Postwar Political Machine』を執筆。帰国後ワシントンで経済記者、政治記者、ワシントン支局副支局長を経て2010年東京支局長に就任。2014年より現職。03年、特別報道チームの一員として企業不祥事を暴いて解明した報道シリーズでピュリツァー賞を受賞した。Twitter @JMSchles (この記事はウォール・ストリート・ジャーナル日本版の創刊5周年を記念した特別企画の1本です)
【特別企画】日本は期待した方向に前進=アダム・ポーゼン氏 By PETER LANDERS 2014 年 12 月 4 日 11:02 JST 日銀の黒田総裁(2014年10月) AFP/Getty Images ワシントンにあるピーターソン国際経済研究所の所長であるアダム・ポーゼン氏は20年にわたって日本経済を注視してきた。イングランド銀行(英中央銀行)の金融政策委員会(MPC)元委員でもある同氏は長年、日本経済を停滞状態から脱却させるためにより大胆な措置を講じることを日本銀行に求めてきた。それが黒田東彦日銀総裁の下で実施されたことは「とても喜ばしい」と話す。ポーゼン氏は日米貿易拡大の強力な支持者でもあり、提案されている環太平洋経済連携協定(TPP)は日本の消費者にとってかなりの追い風になると主張する。今回のインタビューで同氏は、過去5年間で驚いたこと、向こう5年間に日本が正しい方向に進むために必要なことについて語った。以下はインタビューの抜粋。 ――過去5年間であなたが驚いたことは何か。ウォール・ストリート・ジャーナル日本版が発足した2009年当時のあなたが予想していなかった方向に進んだこととは何か 物事は私が望んでいたが、半ばあきらめていた方向に進んだ。黒田総裁の指揮の下、日銀は明らかに中銀運営の主流に戻った。デフレに対処し、ハイパーインフレを引き起こすことなく自分の使命に対応できる、購入するものを変更し、その発表を的確に行うということが前提となっている。すべては予想できたことで、われわれが待ち望んでいたことだが、その実現には真のリーダーシップと変革が必要だった。白川(方明=まさあき)前総裁下の日銀のリーダーシップと、その任期の最後の数年間に実施された金融政策が中途半端だっただけに、それはとても喜ばしいことだった。 二つ目は、より一般的なことになるが、十数年前の小泉純一郎首相がそうであったように、日本では選挙に勝つだけで何らかの変化をもたらすことが可能だということが明らかになった。日本の無行動は運命付けられていたわけではない。何かが起きるためには、根本的な憲法改正や行政上の変更が必要というわけではなかった。 甘利TPP担当相(左)、フロマン米通商代表部代表(2014年2月) AFP/Getty Images 私にとって驚き――もちろん、良い意味でだが――だったのは、日米同盟の再強化の度合いである。そして、さほど嬉しくない驚きは、安全保障協力の方が経済協力よりもずっと先に進んでいるということだ。TPPやその他の経済連携への取り組みが安全保障上の連携に追いつくことを期待したい。
米国議会や自動車産業が盛んな北部の州には依然として日本に不信感を抱いている人もいるが、米国議員の大多数は日本が概ね経済ルールを守っていること、経済的に力強い日本は米国の利益にもなるということに気付いている。したがって残っている日米共通の関心事は、中国に責任ある行動を取らせることである。 ――2020年の東京オリンピックまでの5、6年を見通した場合、日本でうまく行きそうなこと、行かなそうなことは何か 現在の日本に関して良いことの一つは、少なくとも経済的観点からすると、15〜20年先の未来が、かつてなかったほど本当に不透明だということだと思う。女性の労働参加が前進し続け、安倍晋三首相がTPPを締結するのに必要な農業改革を実施し、米国からの天然ガス輸入を増やし、原発が再稼働されれば、非常に力強い回復と人々が考えている以上に高い持続可能な成長率を示す日本になるかもしれない。 しかし、財政再建策を1つでも先延ばしにすると、向こう2年間に比べて、その後の3〜4年間はかなり落ち込むだろう。すべては政策次第なのだ。労働力人口に占める女性の割合を増やせば、十分に大きな違いをもたらし、人口減少を相殺できる。日銀によるデフレとの戦いは、最終的には成功し、日本経済を助けるだろう。だが、この両者が組み合わされば、インフレ率が上昇し始め、短期的には国債の発行を助けるが、数年後にはその利子を支払うのが難しくなるだろう。 ――女性の労働力参加に関して注目すべき兆候は何か 東京都内の託児所 AFP/Getty Images 女性の労働力参加に関して、この18カ月間の成長ペースは非常に速かったので、それが維持できるかはわからない。その約半分ぐらいのペース、年間約20万人という趨勢増加率であれば確実に維持が可能であり、安倍政権――今のところ、これがその最大の功績だと私は考えている――は変化をもたらすことができるということを示してきた。差別是正措置に目標を設け、企業に圧力をかけ、教育や育児のための資金を出すなど、できることはある。この他にもまだあるはずだ。
安倍首相が主導した女性の労働参加という政策への反応によって、日本の政治や経済政策を悩まし続けてきた人口動態に基づく決定論は見当違いだということが再び示された。これはまたしても、私が他の数十人の人々と共に理論上で望み、20年間支持してきたことだが、それが実際に起きるのを目にするのは素晴らしいことだ。 ――3本目の矢の改革で他に注目しているのは何か。農業はどうか 今回の解散総選挙の話が出たとき、私が期待したのは、それが農業改革の断行に向けて政治的に身構えるためでもあるということだ。理論上、それが日本国民にとって有益だということは誰もが知っている。私が概算したところ、TPPの締結に必要な農業の自由化が行われれば、豚肉と牛肉が大幅に自由化され、それや米を除くその他の食品の関税がゼロではなく1ケタ台に下がれば、食品価格が値下がりし、日本の世帯当たり実所得は1.5〜2%増加することになる。政府が国民の実所得を引き上げようとしている今、これは非常に大きな影響を及ぼすだろう。 ――あなたが注目している構造的分野は他にもあるか 大企業の経営陣が莫大な手元資金を抱えながら、投資も、株主への還元もせずにいられるというのは、コーポレート・ガバナンスが基本的に機能していないということだ。そうした資金はそのように停滞したり、今の経営陣の支配下にあるべきではない。したがって、日本でも他の先進国のように、乗っ取りに関する法律、会計制度、外部取締役の議決権のどれかを変更するなどし、外部からの圧力を受けにくい経営陣が手元資金を遊ばせないようにするということは重要な問題になるだろう。 (聞き手はPeter Landers) アダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長。専門とするマクロ経済政策、金融危機対策、日米欧経済、中央銀行問題の分野では世界の第一人者のひとり。ハーバード大学で学士号と博士号を取得。米外交問題評議会、日米欧三極委員会、世界経済フォーラムのファカルティ(学識経験者)のメンバー。2009年9月から3年間、イングランド銀行(英中央銀行)金融政策委員を務めた。 (この記事はウォール・ストリート・ジャーナル日本版の創刊5周年を記念した特別企画の1本です) 関連記事 【特別企画】アベノミクスのジレンマ―破壊的再生か安楽な衰退か 日本の景気回復、着実に進んでいる=ポーゼン氏 WSJ日本版が伝えた世界のニュース 2009〜2014 WSJ日本版5周年 http://jp.wsj.com/news/articles/SB11920364258490754648804580314053406848366
【特別企画】日本は5年後も日本のまま=ジェラルド・カーティス氏 By GEORGE NISHIYAMA 2014 年 12 月 5 日 11:21 JST 海外からの観光客でにぎわう東京・浅草寺(13年8月6日) AP 日本の政治を専門とする米コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、過去5年の日本の政治で最も記憶に残るのは、民主党が政権を担っていた期間に信頼できる与党としての地位を確立できなかったことと安倍晋三氏が首相に返り咲いたことだと話した。日本の将来については、繁栄と礼節を維持しながらなんとか切り抜けて行くとみている。 ――過去5年の日本の政治で最も印象深かったことは? 2つある。1つは政権与党時の民主党の素人くささと無能さ。もう1つは安倍晋三氏の首相復帰だ。 民主党は自民党に代わる信頼できる与党になれるチャンスをあまりにも速く、決定的にふいにしてしまった。 野田前首相(2012年10月) AFP/Getty Images 民主党の指導者は官僚との協力の仕方が全く分かっておらず、官僚と戦わなければならないと考えた。これではどの国でもうまく行かないだろうが、意思決定に官僚がかかわってきた伝統が根強い日本ではなおさらだ。ドアに鍵をかけ、「われわれが決断するまで待って、それから言う通りにしなさい」と言っても駄目だ。
民主党は外交もまずかった。鳩山由紀夫首相(当時)の思慮を欠いた行動で大きくつまずき、野田佳彦首相(同)による尖閣諸島国有化の決定で日中関係に大きな危機を招いた。自民党が政権に就いていれば、石原慎太郎氏のはったりを見抜き、野田氏のように過剰反応しなかったはずだ。民主党は石原氏の思うつぼにはまった。 安倍氏は首相に返り咲いたとき、まるで別人のようだった。経済に全力を注ぐようになり、賢明なブランディング戦略を策定した。アベノミクスや3本の矢などだ。 彼は最短で最大の効果を発揮できるものに注力した。デフレ脱却に向けた金融政策の大胆な活用だ。日銀法を改正すると脅して日銀が自分の意向に沿うようにした。さらに、自分と同様に積極的な金融緩和を支持する人物を日銀の新総裁に起用した。 日本の戦争の歴史をめぐる安倍氏の修正主義的な姿勢は、日中・日韓関係をさらに悪化させた。しかし首相就任から2年がたとうとする今、安倍氏は歴史問題について発言することにはるかに慎重になっている。ここ数カ月は中国の習近平国家主席との会談実現に向けて熱心に努め、実現させた。 ――今後5年以降の主要な政治課題は何か 日中関係が主要課題の1つになるのは間違いない。今後5、6年だけでなく、今後数十年についてもだ。 中国はより大きく、強くなる。日本経済も成長していくが、ゆっくりとしたペースにとどまり、人口は縮小する。現在、中国の人口は日本の約10倍だが、2050 年には中国の16億人に対し日本は9500万人、中国の国内総生産(GDP)は日本の数倍になっていると予測されている。 日本の方が中国よりも生活水準が高く、格差も少ない状況は何年も続くだろう。日本は依然として中国が手に入れたいと思う優れた技術を持ち続ける。日本経済の中国への依存度は――中国からの観光客や投資を通じ、また日本製品の巨大な消費者市場として――高まっているだろう。 日中は互いに深く依存する運命にある。問題は、両国が経済関係を深めつつ戦略的競合に対応できるか、自国の経済的繁栄や地域の平和と安定を損なうような対立を避けられるかどうかだ。 ――2020年の東京五輪開催時に政権に就いているのは誰か 政治ではどんなことでも起こり得るが、安倍氏が(自民党党首として)2期、つまり首相として6年務める可能性が非常に高い。となると18年までだ。 野党が近い将来再編し、自民党に代わる信頼できる政策を示すとは想像しがたい。自民党が本当の意味で脅かされるようになるまでには時間がかかるだろう。 自民党が以前に政権を失ったのは党内分裂が原因だった。次に政権を失うときも恐らくそうだろう。しかし、今のところ党内に(現執行部に対する)強い不満の兆しは見られない。 五輪までの準備期間は政権に就いている党にとっては非常にプラスになるはずだ。たくさんのことが起き、国民は盛り上がる。日本人のプライドを高め、国を大いに活性化させることになる。 五輪開催時に自民党が政権に就いている可能性は非常に高い。 野党の問題は、アベノミクスを批判する一方で、その代替として何を提示すべきかについて確固たる考えがないことだ。アベノミクスが失敗すれば、自民党は多くの有権者の支持を失い、党内も安倍氏に背を向けるだろう。ただ、野党が自民党の自滅を待つだけではなく何かしたいのなら、代わりとなる経済政策を自ら提示しなくてはならない。その日が近いことを示す兆しはない。 日本は他の多くの民主国家と同様、深刻な政治的リーダーシップ不足に直面している。40歳以上の政治家の中で「この人が首相だったらいいのに」と国民に思わせるような人を見つけることは不可能だ。 ――安倍氏にとっての今後のリスクは? 安倍首相(2013年1月) AFP/Getty Images 安倍首相にとって事態は非常に良好に見えるが、それには1つ条件がある。アベノミクスが頓挫しないことだ。
黒田東彦・日銀総裁の政策がインフレ期待に関する人々の見方を変えられず、安倍氏が実現しようとしている構造改革があまり効果のない中途半端な措置に終わった場合、かなり厄介な事態になるだろう。 しかし、経済が破局を迎えない限り国民が自民党に背を向けることはないだろう。国民は1年ごとに首相が入れ替わる時代には戻りたくないと考え、安倍氏を好きでない人たちでさえ安倍氏を首相に就かせておく方がましだと思っている。 ――今後5年の最良のシナリオは? まずデフレから脱却し、構造改革によって労働市場の流動性が高まり、起業が活発化し、質の高いコメ・果物・野菜が中国などのアジア諸国に大きな輸出市場を見いだすような状態。 そして、女性が企業の主要な幹部職に就くようになり、人口減少の悪影響が緩和され、働く女性の子育て支援策によって人口構造がやや改善すること。 外国人向け観光産業が主要な成長のけん引役の1つとなり、高等教育制度の抜本改革と外国人の受け入れ拡大で日本国内の国際化が進むこと。 経済は安定的に低成長を続け、日本は高齢化と豊かな社会を両立させるモデル国家とみなされるようになる。 日本は地域の安全保障で役割をいくらか拡大し、安保政策では専守防衛志向を維持し、米軍と密接に協力する。中国は日本が再び軍事的脅威にならないと判断し、強固な日米同盟を目の当たりにし、日米間にくさびを打とうとするのではなく両国と協力しようとする。 ――最悪のシナリオは? 黒田総裁の政策が失敗に終わり、デフレが根強い問題として残り、構造改革は実行されず、労働、農業、その他分野での改革が不十分で政府の成長戦略に息が吹き込まれないような事態。 債券危機、金利上昇、外国人投資家の撤退が起こり、株価は下落する。 首相の任期が終わる18年までに安倍氏の人気が大きく落ち込み、後任者は政権基盤が弱いためにタカ派姿勢を強めて国家主義的政策で国民の支持を高めようとする可能性がある。そのため、日中関係が悪化する。米国は日本が対中姿勢を強め、米中関係とアジアでのリーダー的地位を維持するうえで問題が生じることを恐れ、日米関係に緊張が生まれる。 ――起こりそうなシナリオは? 日本は何とかやっていく。沈没することはないが、人口問題を解決して高成長経済に転じることもない。日本は現状のままだろう。 日本は対処可能な多くの問題を抱えた成熟経済国だ。GDPの数字はやや誤解を招きやすい。国民1人当たりで見ると、「失われた20年」中の成長もさほど悪くもない。ちょうど西欧諸国の平均と同じくらいだ。 したがって、今後も多かれ少なかれ現状のままだろう。日本は移民社会にはならない。日本人が質の高いサービスに見いだしている価値を投げ捨ててサービス部門の生産性を引き上げることはないだろう。 例を挙げよう。東京駅で新幹線を待っていると、清掃スタッフが全車両を掃除し、発車時刻の数分前に降りて、乗り込む乗客に対してお辞儀をする。清掃員の数を減らせることは間違いないし、列車が時間通りに出発しなくても世界が終わるわけではない。床には空のペットボトルやゴミが落ちたままになるかもしれないが、それは生産性向上の対価だ。米国人なら喜んでその対価を支払うかもしれない。われわれは抗議もせずアムトラックに乗っているのだから。しかし、日本人はそれに耐えられないだろうし、私個人としては決してそうなってほしくない。 日本を訪れる人は日本の何に感動するのか。秩序や清潔さ、礼儀正しさ、食べ物やサービスの質。丁寧さ、夜に1人で歩いても怖くないこと、子ども1人でも地下鉄に乗せられることだ。日本社会を特徴づける生活の質は定量化することができない。もちろん、日本がその基本的な価値観で妥協することなくサービス部門の生産性を向上させるためにできることはある。だが、日本が必ず米国のようになるはずだと考える米国人は失望してきたし、今後も失望するだろう。 豊かな国が、必ずしも米国のように見えるとは限らない。 (聞き手はGeorge Nishiyama) ジェラルド・カーティス コロンビア大学政治学教授、東京財団名誉研究員、元コロンビア大学の東アジア研究所所長。東京大学、慶應義塾大学、早稲田大学、政策研究大学院大学、コレージュ・ド・フランス、シンガポール大学など客員教授を歴任。大平正芳記念賞、中日新聞特別功労賞、国際交流基金賞、旭日重光賞を受賞。『政治と秋刀魚――日本と暮らして45年――』、『代議士の誕生』、『永田町政治の興亡』など日本政治外交、日米関係、米国のアジア政策についての著書は多数。 (この記事はウォール・ストリート・ジャーナル日本版の創刊5周年を記念した特別企画の1本です) 関連記事 安倍首相の第3の矢、参院選後に国民は失望へ=コロンビア大教授 【オピニオン】日本の政治漂流、食い止められるのは「危機」だけか 日本は期待した方向に前進=アダム・ポーゼン氏 アベノミクスのジレンマ―破壊的再生か安楽な衰退か WSJ日本版5周年 http://jp.wsj.com/articles/SB12598258265585683745604580317570476296194#printMode ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 【オピニオン】日本の政治漂流、食い止められるのは「危機」だけか 記事 Printer Friendlysmaller Text larger 日本では、「政治」と「リーダーシップ」は矛盾するものなのか。そもそも政治のリーダーシップとは、まずリーダーが存在すること、そのリーダーが目指す方向について何らかの考えを持っていることが前提となる。ところが今の日本の政治にはいずれの前提も備わっていない。 小泉純一郎氏が首相を退任した2006年以降、日本の首相はめまぐるしく変わり、有権者が以後の首相の名前を全部思い出すのはひと苦労だ。安倍、福田、麻生、鳩山の各首相の在任期間は1年足らず。菅直人氏は若干長く、15カ月踏みとどまった。昨年9月に就任した野田佳彦首相がこの「記録」を上回るのはかなり難しいだろう。 さらに目を引くのは、09年秋に民主党政権に移行して以来の閣僚の在任期間の短さだ。鳩山、菅両内閣の閣僚の在任期間は平均で8.7カ月(小泉内閣は18.6カ月)。少子化対策の担当閣僚は過去2年半で8回交代した。民主党政権の誕生以降、消費者・食品安全を扱う閣僚は7人、法務大臣は6人を数える。 民主党は政治主導を謳って政権交代したが、日本政府は元の形に戻ってしまった。民主党の初代首相となった鳩山氏がもっと有能であと数年首相を続けていれば、官僚を抑え、内閣主導の力強い政府を作るという党の目標は実現していたかもしれない。 民主党政権の発足で守勢に立たされていた霞が関の官僚エリートは、ひとたび鳩山首相が失速すると、官僚の復権にはまだ時間的余裕があると考えた。すぐに内閣の交代が起こるとわかっていた彼らは、政策実行を引き延ばした。そうすることで政府経験のない、場合によっては担当責務について無知も同然の新閣僚に官僚にとって好ましい政策を売り込むチャンスが生まれた。 このため、民主党が掲げた政治改革は大失敗に終わった。民主党は、内閣への政治一元化を目指して党政策調査会を廃止。ところが今、同調査会は復活している。また、日本の官僚のトップである事務次官が閣議前に集まり議題を準備、政策について決め、内閣がそれを形式的に了承する事前調整の慣習も民主党は廃止した。しかし、この慣習も復活した。 民主党が宣言した政策の実行がうまくいかないため、野田首相は、鳩山・菅両氏のような激しい官僚批判は控えた。野田氏のリーダーシップのスタイルは、前任者2人よりもはるかに自民党の古い指導者と似ている。野田氏は組閣の際、政策の専門性よりも派閥のバランスを考慮した。消費税引き上げについては財務省の主張を受け入れ、前任者のような脱官僚・政治主導の改革への意欲は示していない。 野田氏は、今こそ消費税を上げる時期であるということを国民に説得できていない。彼は、国民から支持をほとんど得られないまま、重い足取りで歩んでいる。野田政権が続いているのは、国民の支持を得られる政治家が不在であるからにすぎない。 ここでの問題は、当然だが、官僚はリードできないということだ。大臣間の政策調整や優先順位付け、また、国民や国会から政策について支持・承認を得るためにはどうすればよいか、といったことは、官僚のメカニズムではできないことだ。このことは、昨年東北を襲った地震、津波、原発事故の3大災害に対する日本政府の対応をみれば疑う余地はない。 日本のリーダーシップが弱い原因は、政党間の対立でも派閥抗争でもない(確かにそうした要因は政治を困難にする)。また日本では最近、現状打開策として参議院廃止と首相公選制の2つがよく話題に上るが、そのような制度改革が政治の行き詰まりを解消することもない。残念ながら、日本の政治停滞の根っこはもっと深いところにある。国家の目標をリーダーが示せないことと、民主党と自民党が質の高い政治家を十分に集められないことが問題なのだ。 1世紀以上もの間、日本は、西欧に追いつくことを国家目標としてきた。その目標を達成した1980年代後半以降、日本はさらなる繁栄のために何をすべきか必死にもがいてきた。国家の大きなビジョンを定められない政界のエリートは、些細な政策の違いを盾により優位な政治的立場に立とうとする戦術にしがみついた。2009年の自民党の野党転落も、2011年の東日本大震災も、真剣な政治の議論のきっかけとはならず、むしろ議論を避ける状況に陥ったのは驚くべきことだ。 どうしたら日本はこの政治的窮地からはい上がれるのか。唯一可能性のある方法は、政治リーダーの新世代を育てることだ。楽観主義者は、日本は今、政治の「創造的破壊」という長い局面を経験しつつある、と言うかもしれない。しかし、この20年が創造に乏しく破壊ばかりだったことを考えると、楽観主義者中の楽観主義者でさえ希望を失うだろう。もうひとつの選択肢は、エリート政治家が目を覚ますような危機が来るまで待つことだ。たとえば、領土をめぐる中国との軍事的衝突、北朝鮮による挑発的な対日行動、国債市場の危機。 危機に見舞われず、リスクを嫌って大胆な政策変更を支持しない国民に合わせていれば、日本の政治は漂流を続ける。日本の政治のリーダーができることは、せいぜいその曲がりくねった道をたどることだろう。 (筆者のジェラルド・カーティス氏は、コロンビア大学の政治学教授) http://jp.wsj.com/article/TPWSJOJP0020130309e85u00a09.html 安倍首相の第3の矢、参院選後に国民は失望へ=コロンビア大教授 2013 年 6 月 10 日 19:41 JST 米コロンビア大学政治学教授のジェラルド・カーティス氏は7月の参議院選挙での自民党の圧勝が予想されるものの、選挙後はアベノミクスの第3の矢となっている成長戦略をめぐって国民が失望するとの見通しを示した。ウォール・ストリート・ジャーナル・ジャパンが6日に東京都港区のアークヒルズカフェで開いたトークセッション「WSJカフェ東京」で同教授が話した。
主な一問一答は以下の通り。 ──なぜ安倍首相の支持率がこれほど高いのか。 「今日のように野党がこれほどまでに弱体化していることはなかった。自民党が今日ほど指導者に欠けていることもなかった。安倍首相の支持率が70%の理由はというと、(アベノミクスに対する)現在の失望感があっても支持率は高止まりするとみている」 米コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授 Hayoung Shin/The Wall Street Journal 関連記事 安倍政権が長続きする理由 日本は尖閣問題を「棚上げ」するのが得策だろう=コロンビア大教授 「理由は、他にどんな選択肢があるかということだ。例えば、あなたが自民党員だとして、安倍首相を追い出したとして、誰を後継者にしたいと思うのか。国民の心を捉えられるような魅力的な政治家がいるだろうか。答えはノーだ」
「アベノミクスは期待されたほど成功していない。自民党を排除しようと言っても、どの党と交代させるのか。民主党だろうか。民主党は参院選後は消滅もしくは崩壊する公算が大きい。では、維新の会だろうか。政治的な自殺行為に至った橋下徹共同代表の言動を考慮すると、維新の会も将来的にそれほど有望とは思えない」 「つまり、真の選択肢に欠けることから、安定している可能性がある」 「安倍首相の支持率が高いのは、国民が首相は素晴らしいと考えているからではなく、状況が改善すると信じたがっているためだ。このアベノミクスが実際、うまくいくことをただただ祈っている。ここ20年以上に及ぶ景気低迷から抜け出したいという願望のために、国民はうまくいくように願っているということだ」 ──安倍首相は参院選での圧勝が予想されている。しかし、あなたは安倍首相が選挙後に社会保障制度改革といった難しい政策を実行に移すことはないとみているが、その理由は。 「安倍首相は実際、党内ではある意味、妥協志向が強く、コンセンサス本位のリーダーになっている」 「また、経済面では、安倍首相が何かを是が非でもやり遂げようとする強烈な願望を抱いていると感じたことはない。その点、首相になる前から何年間も郵便事業の民営化についての信念を抱いていた小泉元首相とは異なる。小泉元首相はそれが非常に重要だと考えた。しかし、安倍首相はそうではない」 「安倍首相は国家問題や憲法改正を中核に据え、戦後レジームからの脱却に熱心だ。したがって、経済問題にそれほど積極的に本気で取り組む意向だとはみていない」 ──安倍首相の支持者は、首相が環太平洋経済連携協定(TPP)に参加したと主張している。安倍氏は自民党の中核的決定の1つを実行に移した。これは同氏が難しい選択を行っていることを示すものだ。 「TPP参加の判断については首相を評価する。米国との同盟関係の重要性のために、バス(TPP問題)が目的地に到達して日本が取り残される前に日本がバスに乗ったことに疑問の余地はない」 「しかし、国民の多くが首相は参院選後まで待つと予想していた。オバマ米大統領も安倍首相が参院選後まで待つと予想していたと思う。したがってワシントンの友人によると、安倍首相が2月にワシントンを訪れ、オバマ大統領にTPPに署名すると話した時にはオバマ大統領には意外だったという」 「これは政治的に非常に巧妙なやり方で、安倍首相を大いに評価する。首相は情勢を分析した。首相は日本国民が全体としてTPP参加を支持していることを知っていた」 ──参院選についてはどのようにみているか。予測できないようなことが起こる可能性はあるのか。 「自民党と公明党を合わせて過半数を獲得する以外のことは予想しがたい。自民党が単独で過半数を獲得する可能性もあるにはあるが、この可能性は非常に低い」 「自公の連立が維持されれば、衆参のねじれがおそらく解消されるので、このことは非常に重要だ。 ──選挙結果については今予想を話してもらったような状況だが、自民党の選挙活動自体は意味があるのか。 「ある程度は重要だ。自民党は医療改革や医療保険制度改革を掲げて選挙戦を行うわけではない。もしそういうことをすれば、他の誰かが選挙で勝つことになろう。強い対抗政党がないと言っても限界はある。国民が非常に憤れば、それを表現する方法を見つけるだろう」 「それ以外、安倍首相は国民が大いに抵抗すると自ら分かっていることには触れていない」 「選挙後、安倍首相の第3の矢についての発言に国民の多くが失望することになるだろう。国民は安倍首相が何かをひそかに用意していて、選挙後まで満を持していると期待し続けている。そして、その時こそ抜本的な改革──つまりアベノミクスの第3の矢が放たれるべき時となるだろうと。しかし、これまでも、そして、今日も私はそれが真実だと確信したことはない。安倍首相は何も準備していないとみている」 ──それでは、安倍首相が選挙で圧勝した後のアジェンダは何か。経済改革を続けるだろうか。それとも国家主義のアジェンダに立ち返るのだろうか。 「いずれも考えられる。安倍首相についての私の印象では、安倍首相の中には、現実的な頭脳と、極めて右寄りで感情的かつ、日本の歴史の高潔さについて心配し、国民に誇りを持たせたいとする心情との間である種の内面的な葛藤が存在すると思う。そして、後者の心情は、国民に誇りを感じさせるため、戦時中に起こったことについて、それほど悪く感じなくてもいい」 「それでは、頭脳と心情の戦いに勝つのはどちらだろうか。私は頭だと思う。頭の方が勝つだろう。現実主義で実用主義の方の安倍首相が勝つだろう。それが唯一の権力の座にとどまる方法だからだ。国家主義の問題をめぐる首相のアジェンダを広範な国民が支持していると私は思わない。以前に比べると支持はずっと増えているが十分ではない」 「安倍首相が憲法96条の改正に焦点を向け、選挙後もそうすれば、市場は首相が標的から目をそらしている、つまり、それはもはやアベノミクスではないと結論するだろう。日経平均は海外の投資家主導で1万5000円を上抜ける展開となったが、現実的なものではなかったとの判断が下されれば、ほぼ同じくらい速いペースで下げるだろう。首相の座にとどまり、成功を収めたいとの願望と、歴史問題を持ち出すことでは何もポジティブな得られないという現実について首相は理解しているはずだ」 http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424127887324449604578536893871516414
コラム:意識すべき「逆石油ショック」、日銀も気にする原油下落 2014年 12月 5日 13:44 JST 田巻 一彦
[東京 5日 ロイター] - 原油価格の下落懸念が収まらない。消費国にとっては「朗報」だが、急激な価格下落になれば、世界的なマネーフローがかく乱され、「逆石油ショック」のリスクもはらむ。その震源地になりそうな資源国や新興国の市場動向から目が離せない。 急速な原油下落は、デフレ脱却を目指す日銀にとっても、やっかいな問題になる懸念がある。 <大幅に緩む石油需給> 米WTICLc1は、今年6月下旬の1バレル=107ドル台から、4日には66ドル台へと半年間で約40%の下落となっている。 中国や欧州など景気が今年初めの想定よりも弱めの地域が多く、世界の石油需要が大幅に下振れしていることが背景にある。国際エネルギー機関(IEA)が今年10月14日に公表した2014年の需要見通しでは、世界の需要の伸びは日量70万バレルと、前回見通しから20万バレルの大幅な引き下げとなった。 一方、非OPEC(石油輸出国機構)の生産量の伸びは、同180万バレル強。そのうちシェールオイルの増産を背景に米国が同140万バレルと大きく伸びており、供給過多による原油価格下落を引き起こしやすい構図を形作っている。 それにもかかわらず、11月27日のOPEC総会では減産合意ができず、原油価格の下落に拍車がかかった。 減産を主張していた非湾岸諸国のOPEC加盟国当局者に近い筋は、サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相が、米国との市場シェア争いに言及したことを明らかにしている。その関係筋は、サウジが市場シェア争いを望んでいるため、減産を主張していた加盟国はサウジの意向に沿うしか選択肢がなかった、と述べている。 また、ウォールストリート・ジャーナル紙によると、サウジは60ドル前後の価格で安定する可能性があるとみており、同国や湾岸諸国はその水準を容認できるとの考えを示したという。 <ブラジル利上げにみるマネー流出の実態> 経済の教科書的には、原油価格の下落は消費国にとって富の流出の減少ということでプラスに作用する。特に消費国の消費者にとっては「減税」と同じ効果をもたらす。 だが、価格下落のテンポが急で、その幅が大きくなると違った様相が展開される。マネーフローがかく乱され、一部のマーケットで危機的な現象が発生するリスクが出てくることに注意が必要になる。 市場の目は、産油国ロシアのルーブルが対ドルRUB=EBSでこの半年間に約40%下落したことに集まりがちだが、市場の変調はそれだけにとどまらない。資源国・ブラジルが、景気停滞下での利上げを強いられている。 ブラジル中銀は3日、政策金利を11.25%から50ベーシスポイント(bp)引き上げ11.75%にすると発表した。インフレ抑制に向けて金融引き締めを加速、政策金利は約3年ぶりの高水準。ロイターのエコノミスト調査では、2会合連続で25bp利上げする、との予想が大勢。想定以上に大幅な利上げに意外感が広がった。 ブラジルの景気には逆風が吹いている。例えば、11月の自動車生産は前月比9.7%減少、販売は同4%減と振るわない。資源国であるブラジルには、商品価格の下落圧力がのしかかっているからだ。コモディティの代表的な指数であるCRB指数.TRJCRBは、4年4カ月ぶりの低水準である252ポイント台まで下がっている。 こうした経済情勢の中でブラジルレアルBRL=の下落に歯止めがかからず、約6年ぶりの水準まで下落している。つまりブラジル市場からマネーが流出し続けているわけだ。この現象に歯止めをかけるための連続利上げだが、景気にはマイナスだ。株価が下がり続ければ、さらにマネーが流出し、ブラジル市場に危機が起きるリスクが高まるだろう。 <マネーフローの急変、金融危機の火種に> 実体経済とマネーフローが逆回転しかねないリスクが、資源国・新興国の多くの国々で高まりつつある。同時多発的に資源国・新興国市場からのマネー流出が急速に進めば、1997年のアジア危機型の金融危機を招きかねない。原油価格の急激な下落がその発端であれば、この現象が現実化した場合は「逆石油ショック」と呼ぶことが適当だろう。 その時、世界のマーケットには「リスクオフ」心理が急浮上し、リスク資産の典型である主要国に株式市場からマネーが急激に流出することが予想される。世界的な超金融緩和をはやして高値を追ってきた米株市場だけでなく、東京市場でも急激な株安に直面する危険性がある。 「ガソリンと灯油の価格が下がってハッピー」という構図とは、全く違った世界がいきなり到来する危険性について、今からイメージトレーニングしておく必要があると考える。 <物価押し下げ大幅なら、日銀はどうするか> ここまでの危機が到来しなくても、急速な原油安が継続し、仮に一時的にせよ、原油価格が1バレル=60ドルを割り込むようなら、日本の消費者物価指数(除く生鮮、コアCPI)への下落圧力は、かなり高まるだろう。 コアCPIの上昇率が1%から0.5%方向に圧縮されていく中で、期待インフレ率の下方屈折リスクが意識され出すのかどうか。10月31日に市場の意表をついて追加緩和に踏み切ったばかりの日銀にとっても、大きな分岐点となるのではないか。 原油価格の下落という波紋が、世界経済に及ぼす影響を注意深く見守る局面に入ってきたようだ。 http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKCN0JJ0A720141205
アングル:来年の「逆張り」予想、中国バブル崩壊と輝くユーロ圏経済 2014年 12月 5日 11:41 JST [ロンドン 4日 ロイター] - 来年の経済を見通す上で、「逆張り」派の予想にも目を向けて見よう。コンセンサス予想が必ずしも当たるとは限らないからだ。
2015年のコンセンサス予想は、1年前に示された14年の予想とあまり変わらない。すなわちドル高、米国債とその他の国債利回りの上昇、米国経済のアウトパフォーム、世界的な株価一段高、そしてデフレ阻止のために「何でもやる」中央銀行、という組み合わせだ。 このうち一部は確かに今年実現したが、米国債利回りと世界的な債券利回りが急低下したり、原油価格が40%近くも下落すると予想した専門家はほとんどいなかった。 2015年の逆張り予想を以下にいくつか集めてみた。 (1)中国の経済危機 中国の信用バブルが崩壊し、不良債権が増大して全面的な金融危機を巻き起こす。政府が7.5%を目標とする成長率は2%に鈍化する。 ファソム・コンサルティングはこのシナリオの確率を35%としている。 (2)輝くユーロ圏 ユーロ圏がついに休眠状態から抜け出す。原油価格の下落、ユーロ安、欧州中央銀行(ECB)による追加金融緩和と金融システムの健全化が支えとなり、成長率は2%に大きく躍進する。JPモルガン・チェースは基本シナリオで成長率を1.6%に置きながらも、2%成長は可能だと予想している。1.6%成長であっても、エコノミスト50人超を対象とするロイター調査の予想平均1.1%より楽観的だ。 (3)ドイツ国債利回りが上昇 モルガン・スタンレーは10年物ドイツ国債利回りが来年1.35%と、先月付けた過去最低の0.69%から急上昇する可能性を予想する。ECBの物価押し上げ能力を投資家が信頼し、市場金利を押し上げるという理屈だ。 1年前に示された14年末のドイツ10年債利回りのコンセンサス予想は2.3%と大間違いになった。 (4)英国の政治リスク 英国では5月に総選挙が予定されており、キャメロン首相は保守党が勝利すれば欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票を行う計画だ。スコットランド民族党が躍進すればスコットランドの独立問題が蒸し返され、英国の政治リスクは一気に高まりかねない。 スコットランド独立を問う今年9月の住民投票の直前にポンドが下落した経験を踏まえれば、来年の総選挙前に投資家は再び怖気づくかもしれない。ソシエテ・ジェネラルは「選挙に向けて、英国資産から抜け出せ」と警告を発している。 (5)ドル安 金融市場は、2015年はドル高が進むとの見方でほぼ一致しており、意見が分かれるのはその「程度」だけ、といった具合だ。しかし「クラウデッド・トレード(取引の偏り)」と呼べるものがあるとすれば、現在のドル相場が正にそれだろう。ドルはことし既に11%上昇し、過去30年間で3番目にドル高が進んだ年となった。しかもほとんどが6月以降の上昇分だ。一息付く時ではないだろうか。 (Jamie McGeever記者) http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0JJ06Y20141205 |