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せめぎ合うアベノミクスの「効果」と「副作用」を検証する
http://diamond.jp/articles/-/63243
2014年12月5日 ダイヤモンド・オンライン編集部
12月14日に投開票される今回の衆議院総選挙は、安倍首相自ら名付けて「アベノミクス解散」。安倍政権の経済政策であるアベノミクスをこのまま継続していいかどうかを問う選挙というわけだ。
そこでDOLでは「シリーズ・日本のアジェンダ」で、アベノミクスをはじめ安倍政権が進めてきた社会保障、格差問題、エネルギー政策、女性活躍、外交について、その成果を検証する。1回目は直感的に分かる「アベノミクスの通信簿」をお送りする。
■物価上昇、名目GDPは上向きだが消費増税の影響判断にミス
まずは、復習。アベノミクスとは「第1の矢」である大胆な金融緩和と、「第2の矢」である機動的な財政政策、「第3の矢」である民間投資を喚起する成長戦略、という3本の矢から成り立っている。
大胆な金融緩和は、この15年間近く続いてきたデフレマインドをインフレマインドに転換させることが最大の狙いだ。人々のマインドが「物価が上がるぞ」というインフレ期待(予想)に転ずれば、消費や企業の設備投資が活発になり、企業収益が増えて賃金も上がり、さらに消費や投資が活発になる。この好循環に入るまで、当面の需要不足を補うのが財政出動で、好循環を長期的な安定成長につなげていく役割を担うのが、国内に新しいビジネスチャンスを提供する成長戦略だ。ここでは第1の矢と第2の矢を軸に評価する
では、総合成績としてのGDP(国内総総生産、図表1は暦年ベース)から見てみよう。安倍政権が掲げる目標は名目GDP成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度である。
「名目」はその時の金額ベースで測った数字、「実質」は物価変動の影響を取り除いた数字のこと。例えば、ある年に日本国が1年に1台自動車を生産し、価格が100万円だったとすると、名目、実質GDPとも100万円となる。翌年も生産は同じく1台だが、価格が110万円に上がったとすると、名目GDPは110万円で成長率は10%となるが、物価上昇の影響を除くと生産台数は1台で変わらないので、実質GDPは0%成長で、実際は豊かになってはいないということになる。
安倍政権になってから、確かに名目GDPは増加傾向にあった。ただ、実質GDPは民主党政権時代より大きく伸びたかというと、意外にもほとんど変わらない。さらに、名目、実質ともに目標数字にはまだ及ばない。むしろ、4月の消費税率引き上げで、景気は後退している。
13年の4月に、安倍政権と実質的に一体化している黒田日銀が「異次元金融緩和」を開始した。緩和が一番効いたのは株と為替。図表2に見るように株価は大幅に上昇、為替も円安に大きく動いた。日銀は消費税の影響を除いた消費者物価上昇率2%を目標としている。黒田緩和が発動されて以降、消費者物価もマイナスを脱して、対前年同月比で1.3%程度の上昇を続けてきた。
日銀によれば4月の消費税率3%の引き上げによる物価上昇への影響は約2%で、このため消費者物価の上昇率は一気に3%前半にまで跳ね上がった。だが、消費増税により個人消費が予想通りには回復しないうえ、石油価格の下落もあって、消費者物価上昇率は8月以降低下してきている。10月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の上昇率は2.9%となり、消費税率引き上げの影響2%を除けば0.9%と、1%を切ってきた(図表2)。GDP、物価とも弱くなってきたため、10月末に、黒田日銀がこれまた市場が驚く金融緩和第2弾を打った。
消費税率の引き上げはアベノミクスに入っていないと言うものの、最終的に、引き上げの判断を下したのは安倍首相だ。せっかく上向きかけた景気のモメンタムを、後ろに引き戻したわけで、税率を引き上げたのは判断ミスと言われてもしかたがない。
■雇用面では成果上がる。が、やはり格差は拡大した
一方、アベノミクスの恩恵は中小企業や個人に及んでいないと批判されるが、その点はどうだろうか。
完全失業率を見ると、民主党政権時代のピーク5.2%(10年6月)が、この10月には3.5%にまで低下した。増えているのは非正規雇用という批判もあるが、景気の展望に明るさが出て、働く人々が増えたことは確かだ(図表2)。
では、賃金どうか。安倍政権は「賃上げ率は過去15年間で最高の2%」と実績を誇る。ここでは大企業と中小・零細企業で賃上げ格差があるという事実はおいておくとしても、物価上昇を調整した実質賃金は13年7月以降16ヵ月連続でマイナスを続けており、民主党政権時代よりもマイナス月が多い。特に、消費税率引き上げ後のマイナス幅が大きくなっている。要は、物価上昇に賃金の上昇が追いついていないわけだ(図表2)。
大企業と中小零細企業の格差はどうか。図表3は資本金で分けた経常利益の増減である。資本金10億円以上の大企業が順調に利益を伸ばしているのに対して、1000万円未満の中小零細企業は12年度、13年度はむしろ減益だ(図表3)。
なぜこうなったか。一つには、異次元金融緩和による円安効果の誤算がある。図表3で分かるように、円安によって輸入金額は増えているのに対して、輸出金額はほぼ横ばいだ。輸出のうちドル建ては約5割、輸入では約7割だから、円安になれば支払いに必要なドルを手当てするためにより多くの円が必要になり、円ベースの輸入金額の方が大きく膨らむ。結果、貿易収支は2012年の半ばから毎月赤字が続いている(図表4)。
かつての日本であれば、円安になると輸出価格を引き下げて価格競争力を回復させて販売数量が増え、それが国内の生産数量増から中小企業への生産増加につながった。それが、長く続いた円高と新興国などの成長により、海外でビジネスを展開する大企業は生産拠点を海外の需要地に移転。しかも、今回の円安局面では輸出価格をあまり下げていないので数量が伸びない。このため国内の中小零細企業には生産増加という数量増の恩恵が及ばない。生産構造、大企業の行動変化が誤算を招いている。
景気対策のツケは財政に
財政再建の歩みは遅い
国内景気に即効性のある対策として、「機動的な財政政策」の名の下に13年度約10兆円、14年度約5.5兆円の景気対策が打たれた。これが民間主導の自律的な景気回復にうまく結びついているかといえば、消費は弱まり設備投資は力強さに欠け、14年度は景気対策を縮小した分だけ景気は減速する始末だ。
そのツケは、財政再建に回っている。国の借金である国債の発行高は安倍政権になってからも40兆円台半ばで、民主党政権時代と比べても横ばいのままである。安倍政権は国・地方の基礎的財政収支(PB=プライマリーバランス、社会保障など政策的に必要な支出を税収などでどれだけ賄っているかを示す指標。この収支が均衡すれば利払い費に充てる分以外に新たな借金はしなくて済む)の対GDP比率を15年度に10年度比(▲6.6%)で半減、20年度に黒字化するとしている。ただ、こちらも国の一般会計のPBをみると、民主党時代からほとんど赤字は縮小していない(図表3)。安倍首相は「来年の夏まで20年度黒字化の財政計画を出す」と明言しているが、GDP成長率が高まって税収が増えたとしても、たやすい道ではない。
■“劇薬”アベノミクスを支持する? 支持しない?
まとめよう。アベノミクスは大胆な金融緩和によって株価と円安を実現し、物価を上昇させてデフレからの脱却の一歩手前まで前進した。人々の期待を明るいものに変えつつある。この点ではプラス。
一方、消費税率の引き上げで判断ミスを犯して景気を減速させたこと、物価上昇は円安による輸入物価に負うところが大きく、そのため国民の所得の多くが海外に流れ出ており、国内景気にマイナスに作用していること、大企業・中小零細企業、都市と地方の格差を拡大させたこと、バラマキ型の景気対策で財政赤字が放置されていること。こうした「副作用」が大きくなりつつあるが、総じて見れば、60点で何とか合格点ということだろうか。
もちろん、アベノミクスを支持するか否かは、どの産業や企業、社会グループに属しているかでも異なるだろう。こらからアベノミクスの恩恵が各層に広がると判断すればYES、副作用の方が大きくなって危ないと考えればNOとなる。
アベノミクスは人々の期待に働きかけるという前例のない「劇薬」だけに、評価は二分されるだろう。案外と判断は難しい。
(ダイヤモンド・オンライン編集長 原 英次郎)
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