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トヨタ、資生堂…なぜ日本企業は消費者ニーズに“疎い”のか?ブランド戦略が“ない”理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141202-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 12月2日(火)6時0分配信
日本企業はマーケティングが下手だと、海外市場でいわれることが多い。これは、別に海外市場に限ったことではない。国内市場においてさえ、消費者の心理を洞察した上で、その考え方や感じ方の枠組みを自社のマーケティング活動で変えていこうとする強い意図が感じられないことがよくある。
しかし、10月に上梓した『合理的なのに愚かな戦略』(日本実業出版社)で考察したとおり、よく考えてみると日本企業が消費者の心理や行動に疎いのは、ある意味で当然のことだろう。なぜなら、驚くべきことに消費財を製造販売している日本の大手企業の中には、「消費者と直に売買交渉をしている」という自覚や経験のない企業が多いからだ。自動車、化粧品、家電、ビールなどのメーカーの中には、戦後いち早く垂直型の流通チャネルを構築するのに成功した結果として、その業界においてトップの地位を築いた企業が多い。卸問屋の特約店化や小売販売店の系列化を進めることで全国各地に進出を果たし、なおかつ競合他社の参入を難しくして競争を排除することで、高度成長時代に繁栄を謳歌したのだ。
例えば、化粧品でいえば資生堂、ビールにおいてはキリンが長年トップの座にあり続けることができたのは、商品(ブランド)力というよりは、流通チャネルの系列化を競合他社よりも早く確立するのに成功したからだ。その結果、メーカーにとって客は消費者ではなく特約店や系列販売店ということになってしまった。「あの会社だったら一流だし信頼できるから取引してもよい」と卸売業の社長や小売店のオーナーに思ってもらうことが大切であり、必然的に商品ブランドよりは企業ブランドが重要になる。
資生堂では、2001年まで店頭売り上げではなく小売店の仕入れの数字が社としての売り上げとされていた。つまり、消費者がどれだけ買ってくれたかではなく、小売店がどれだけ仕入れてくれたかで売り上げが決められていたのである。そのため、店頭では売れていなくてもノルマを達成するために小売店に「押し売り販売」する習慣があった。つまり、B2C(対消費者販売)をしていたようで実はB2B(対企業販売)だったのだ。
●ブランド戦略などなかった理由
自動車業界も同じで、1950年代に特約販売店(ディーラー)のネットワーク構築にいち早く着手したトヨタ自動車や日産自動車が市場の50%以上のシェアを占有し、その後も長い間、首位争いをする歴史が続いた。最初は「1県1ディーラー」のシステムをとっていたが、60年代になり個人の自家用車保有が急激に伸びると、これでは対応できなくなる。より幅広い層に訴求してシェアを拡大するために、1県1ディーラーの建前を守りながらも販売チャネルを増やす方策として、次から次へと新ブランドを発売した。
ブランドが違えば新チャネルをつくっても既存チャネルからの苦情に対処できるし、新しいブランドを既存のモノと差別化するためにも同一のチャネルで販売しないほうがよい。実際のところ、異なるチャネルで販売されるブランド間の違いはあまりなく、極端なケースでは、同一コンセプトの車種をネーミングを変更することで、異なるブランドとして異なるチャネルで販売するようなこともあった。
つまり、日本の自動車メーカーには販売チャネル戦略はあってもブランド戦略などなかった、そもそもブランドの役割など眼中になかったのだ。
●成功ゆえのツケ
こういった戦後の垂直型流通チャネル構築で成功した企業は、その成功ゆえに、のちに重いツケを払わされることになる。
例えば資生堂は、創業以来140年を超す長い歴史の中で、これといったブランドを育てることに成功していない。小売店に「押し売り販売」や「お願い販売」をするということは、ギブ&テイクの関係で小売店の要望も聞かなくてはいけないということになる。小売店側からいえば、常に目新しい新製品が発売されるほうが売り上げは上げやすい。こういった要望に応えるかたちで、資生堂は11年頃まで年間500〜600もの新製品を発売し、08年時点で100以上のブランドがあった。
これでは、消費者は新商品やブランドの名前を覚えることもできない。実際、1年前に発売されたブランドが、消費者に名前を覚えられる前に新ブランドへ取って代わられることが最近まで続いていた。
日経BP社が01年から毎年実施しているブランドランキング調査「ブランド・ジャパン」では、資生堂は化粧品最大手でありながら、過去10年に消費者による評価では30位以内に一度も入っていない。一方、ビジネスパーソンによる評価では30位以内に5回入っている。B2Bビジネスをしてきたので、企業ブランドとしてはある程度評価されているということだろう。
●レクサスにもブランド戦略はなかった
自動車業界でも同様の特徴がみられる。トヨタの高級ブランド車「レクサス」は米国市場では成功しているが、ヨーロッパを含めたその他の海外市場では苦戦している。ドイツの高級車ブランド「アウディ」「メルセデスベンツ」「BMW」に差を広げられ、世界での販売台数は、この3社合計の10分の1となっている。トヨタ社長の豊田章男氏はレクサス・ブランドの世界戦略を見直すにあたり、同社には流通チャネル戦略はあったがブランド戦略はなかったということを素直に認めた。
トヨタのような日本を代表する一流企業ですら、その成功はかつて非関税障壁だと外国勢に非難された垂直型流通チャネル制覇によってもたらされたものだ。つまり、そもそもトヨタはブランド戦略を持つ必要も、それについて学ぶ必要もなかったのだ。
家電業界でも、旧松下電器産業(現パナソニック)のナショナルショップに代表されるようなチェーンストアがピーク時には全国に2万店舗あり、ビール業界もキリンビール、アサヒビール、サッポロビールの3大メーカーが流通チャネルを独占し、他メーカーの参入を妨げていた。例えば宝酒造は57年にビール市場への参入を図ったが、流通チャネルが確保できず、67年に撤退して焼酎に特化した。サントリーは62年にアサヒの販売ルートにのせてもらうことで、かろうじて参入できた。そして、長い苦節の期間をへて、「プレミアム・モルツ」で高級ビールNo.1の地位を獲得するに至っている。
幸というか不幸というか迷うところだが、家電業界やビール業界は量販店やスーパーという新しい小売業態が既存の小規模小売店に破壊的ダメージを与えることによって、自動車や化粧品メーカーと比べて比較的早いうちに契約小売店制度という束縛から解き放たれた。つまり、B2Bビジネスではなく、本来のB2Cビジネスに早い段階で舵を切ることができた。とはいえ、家電メーカーはあいかわらずB2C戦略で苦戦している。消費者の心理を洞察できなかったことは、ダイソンやルンバのような外国勢が羽根のない扇風機や掃除ロボットで日本の消費者を魅了するのを、当初は黙って眺めることしかできなかったことからも明らかだ。
社内外にはびこる束縛をたちきることができず商品ブランドを育成できなかった資生堂は、ついに社外から元コカ・コーラ社長の魚谷雅彦氏を新社長として迎える結果に至っている。
過去に流通チャネル戦略で成功した多くの企業のブランディング能力が弱いということは、皮肉な見方をすれば必然的ともいえる。
ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授
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