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安倍晋三首相は、11月21日の首相官邸での記者会見で、今般の衆議院解散を「アベノミクス解散」と称した。さらに、「アベノミクスを前に進めるのか、それとも止めてしまうのか。それを問う選挙であります。」とも述べた。
仏ピケティ教授が問いかける「格差拡大問題」の本質
「アベノミクス」に対する評価はいろいろある。デフレ対策や景況をめぐる論点が中心的だが、経済格差をめぐる論点も注目されるものの一つだ。
第2次安倍内閣になってから、「大企業の従業員と中小企業の従業員とで給料の格差が拡大した」とか、「正規社員は減って非正規労働者は増えた」とか、「株価が上がって株を持つ人と持たない人の間で格差が拡大した」とか、「景況も都市部では悪くないが地方部にはその恩恵が及んでいない」など、見方はいろいろある。第2次安倍内閣になって以降、恩恵を受けたと感じられない人が、「アベノミクス」で格差が拡大したとみている傾向がありそうだ。
格差問題は、日本だけの話ではない。アメリカでは、フランスの経済学者トマ・ピケティ パリ経済学校教授が著した『21世紀の資本』(12月邦訳刊行)がベストセラーになった。
この本では、高所得国における格差拡大を問題視している。資本主義経済の大半の期間で、年率の資本収益率が経済成長率より上回っていることに着目する。
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21世紀のグローバル経済では、経済成長率とほぼ等しい個人の生産性の伸びより資本収益率が上回るから、資本を持つ者と持たざる者の貧富の格差がさらに拡大する。この本ではそう主張している。
これを踏まえて格差を縮小すべく、各国で協調して年に最高税率が2%の累進的な財産税を導入し、最高税率が80%の累進所得税と組み合わせることを、ピケティ教授は提案している。
グローバルな富裕層は、課税を免れようと財産をタックス・ヘイブンなどへ移そうとするから、それに対抗して、こうした富裕層への課税を国際的に協調することを念頭に置いている。
求められる「経済活力をそがない格差是正」の議論
日本国内でも、格差拡大を批判する人たちは、かねてから富裕層への課税強化に賛同的だ。「所得税の累進税率を高くせよ」とか、「相続税を増税せよ」とか、「法人税の減税には反対だ」、などなど。所得税や法人税は、今般の衆議院総選挙でもいくつかの政党が公約に挙げている論点でもあり、「税こそ民主主義」だからこそ、選挙で問うにふさわしいものである。
格差是正のための税制についての見方は、巷間では二分されるだろう。それは、格差をきちんと是正するべく累進所得税や資産課税を強化するのが望ましいという見方と、平等にしすぎると所得を稼ぐ意欲が低下するから、累進課税や資産課税は強化すべきでないという見方である。
これらは、完全に正反対で、見方が違えば議論はどこまで行っても平行線である。どの程度格差を是正するのが望ましいかについて、人によって見方が異なるのは、当然といえば当然である。
ただ、格差是正ができても経済活力を損なうようでは、身もふたもない。極論で考えればわかりやすい。国民全員を事後的に完全平等にする税制が導入されたらどうだろうか。実際にはあり得ないことだが、もしそうなれば、誰もまじめに働こうとしないだろう。
働いて人より多く稼げば、税制で事後的には働いていない人と同じ所得になってしまうのだから、それが事前に分かっていれば、所得を稼ぐ意欲がなくなる。でも、皆がほとんど働かなければ、事後的に完全平等にできても貧しい状態で完全平等になるだけである。だから、身もふたもない結果になる。
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累進所得税も資産課税も、一見すると格差是正に効果的と思われるが、経済活動を萎縮させる意味では両刃の剣、トレードオフ(二律背反)である。さらにいえば、国際的に協調して累進所得税や資産課税をしても、タックス・ヘイブンなどによって高率の課税を逃れられてしまえば徴税はできず、格差縮小には資さないことになる。これは、ピケティ教授も提案しつつも実現可能性が低いと認めている。
だから、富裕層憎しで狙い撃ち的に徴税しようにも、結果的に格差縮小に資さないのなら、その方法にこだわっていても埒が明かないというべきだろう。まさに、格差問題を解決しようにも、焦点がずれているといえよう。
低所得者だけ税負担軽減の給付を出す、という解決法
ならばどうすればよいか。経済学界からは、累進所得税や資産課税に代わるものとして、すでに良い知恵が出ている。もちろん、税制以外の格差是正策もあるのだが、ここでは税制だけに話を絞ろう。
それは、消費税率を均一に高くして、一方で低所得者にだけ税負担を軽減する給付を出す、ということである。ピケティ教授への反論として、複数の経済学者がすでにこれを提案している。
消費税は「逆進的」と思い込んでいる人からすると、これでは富裕層に重い税負担を課していないように見える。消費税は、高所得者にも低所得者にも同じ税率で課税しているから、所得に対して「逆進的」ではなく「比例的」に負担を求める税である。
しかも、消費のための支出には、今年稼いだ所得からだけでなくこれまでに蓄えた資産(貯金など)からも充てられる。だから、資産に直接課税すれば資産家に課税できるのは事実だが、資産を取り崩して消費する段階で課税することでも、資産に課税したのと同様の効果がある。そのうえ消費は、生きている限りするものであり、生活を営む場所で行うから、消費した土地で資産家から消費税をとれるのに対し、資産課税だとタックス・ヘイブンなどに逃げられれば徴税できない。
だからこそ、消費税率を高くすれば、そこで生活を営み様々なものを購入する資産家にも逃げられない形で重い税負担が課せる。ところが、これも諸刃の剣なのは、資産のない低所得者にも高い率で消費税の負担を課してしまう。ここが格差是正での難点である。
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そこで、低所得者にだけ税負担を軽減する給付を出すことで、格差是正の効果を強めることができる。消費税の軽減税率ではなく、給付措置の方が、格差是正に効果的であることは、拙稿「消費税軽減税率は、低所得者対策にならない」(2014年6月2日付)でも詳述したところである。
欧米諸国で進む、所得控除から税額控除への転換
加えて、日本では、拙稿「所得税改革は、『配偶者控除』だけではない 『103万円論議』の先にある大切なこと」(2014年10月6日付)でも述べたように、所得税制において所得控除をやめて税額控除に転換することが、格差是正に効果的である。
高所得者も低所得者も同額の所得控除を与えれば、累進所得税制では、高所得者の方が税負担軽減効果がより大きくなる。それでは、累進課税を強化してものれんに腕押しである。だから、累進課税を強化する以前の問題として、所得控除を税額控除に転換するだけで、格差是正効果はより強くなる。
欧米諸国では、すでにこれを踏まえて、税額控除化が進んでいる。日本では、未着手である。所得控除から税額控除への転換を、全員への所得税増税と勘違いしてはならない。低所得者への税負担軽減効果を変えずに、高所得者への税負担軽減効果だけを減らすことにすれば、低所得者は増税にならないようにでき、格差是正効果も強められる。
衆議院選挙やピケティ教授の著作の邦訳刊行などで、格差問題が政治的にもクローズアップされたならば、消費税率が再び引き上げられるまでの間、所得税改革がひょっとすると脚光を浴びることになるのかもしれない。
http://toyokeizai.net/articles/-/54670
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