05. 2014年12月03日 07:40:02
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原油安で深まるベネズエラの苦悩 2014年12月03日(Wed) Financial Times (2014年12月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
原油価格の下落は、エレーナ・ゴンサレスさんを個人的に直撃した。年金生活者のゴンサレスさんは、ベネズエラの国営スーパーマーケットでの物資不足と「行列、行列、行列」のせいで、体重が10キロ減ったと言う。 「食料だけじゃないんです。薬もなんですよ」。首都カラカスの店の前で列に並んで待ちながら、彼女はこう話す。「今度の原油安で、この先ほかに何が待ち受けているのか身構えているところです」 原油安による輸入減少で深刻な物資不足に拍車 苛立つ買い物客の行列は、社会主義者の集会やウゴ・チャベス前大統領のポスターに取って代わり、南米ベネズエラで最もお馴染みのイメージの1つになった。アナリストらは、石油輸出国機構(OPEC)が先週、原油価格を押し上げるための減産を求めるベネズエラの運動を退けた後、状況が一段と悪化すると見ている。 原油はベネズエラの輸出収入の96%を占め、ベネズエラは原油価格が1バレル当たり1ドル下落するごとに、およそ7億ドルの損失を被る。地元のコンサルティング会社エコアナリティカによると、今夏以降、原油価格が30%下落したことは、2年前は770億ドルだった輸入総額が今年は約430億ドルに落ち込むことを意味しているという。 輸入の減少は、すでにインフレに痛めつけられており、今年3%縮小することが予想されているベネズエラ経済の物資不足をいっそう悪化させるだろう。 ベネズエラ大統領選、マドゥロ氏が勝利 支持率を落としているニコラス・マドゥロ大統領〔AFPBB News〕 「原油価格の下落は、チャビズモ史上最悪のタイミングで訪れた」。カラカスの著名アナリスト、ルイス・ビンセント・レオン氏は、昨年死去したチャベス前大統領が導入した統治思想に言及してこう語る。 チャベス氏の後を継いだニコラス・マドゥロ大統領は、原油安に対して平静を装ってみせた。「原油価格の下落の打撃を、私は悪く受け止めていない」。大統領は11月28日のテレビ演説でこう語った。 「私は原油安を余分な贅沢と不必要な支出を削減するチャンスとして捉えている」。政府支出と自身の報酬の削減を命じ、大統領はこう付け加えた。ただし、社会プログラムは削減しないと強調している。 社会支出を削減したら、来年の議会選挙を控え、マドゥロ氏の支持基盤がさらに損なわれる恐れがあるとアナリストらは言う。大統領の支持率は25%で、1年以上前の55%から大幅に低下している。 マドゥロ氏は、ベネズエラ国民が安い商品を過度に買いだめするのを防ぐためにスーパーマーケットに指紋スキャナーを導入し、店頭価格が適正かどうか点検し、買い占めを阻止するために2万7000人の政府調査官を送り込む措置まで講じた。 大統領はまた、昨年の似たような戦略の成功を受け、バービー人形など、特価商品のクリスマスの投げ売りを命じた。電気製品の強制値下げの波は2013年の地方選挙で与党・統一社会党(PSUV)の地位を押し上げたが、この戦略が再び奏功するかどうかは不透明だ。 反政府デモ続くベネズエラ、大統領が南米各国に会合呼び掛け 今年3月、ベネズエラの首都カラカスで、警官隊に向けて催涙弾を投げ返す反政府デモの参加者たち〔AFPBB News〕 「人々はしびれを切らせた。火花一つで暴動が燃え上がるかもしれない」。カラカスの国営食料品店の幹部は、匿名を条件にこう語る。 今年の抗議活動――原油価格は11月末に1バレル70ドル台を割り込んだが、当時は100ドルを上回っていた――は、数十人の死者を出した。 「原油価格が横ばい、あるいは一段と下落するシナリオでは、ベネズエラは政府の不安定化と抗議活動、暴動のリスクに直面する」と、リスクコンサルティング会社IHSの中南米担当アナリスト、ディエゴ・モヤ・オカンポス氏は言う。 金融市場に広がる不安 金融市場も事態を懸念している。ベネズエラ国債の指標となる2027年償還のドル建て債券の利回りは、12月1日に19.5%に上昇した。 ベネズエラ政府は、デフォルト(債務不履行)はしないと強調した。また、報道では今月計画されているという投資家向けロードショーに先駆け、国家財政の透明性を高めようとしている。また今週は、追加資金を確保する取り組みの一環として、政府はロドルフォ・マルコ・トーレス財務相を、2006年以来ベネズエラに500億ドル融資している中国へ派遣した。 「当局は時間稼ぎをしている・・・が、経済政策における歪みに何一つ対処していない」。英国の大手銀行バークレイズは投資家向けのメモでこう書いた。 アナリストらは、マドゥロ氏の弱い政治的地位は、複数の為替レートが併存する体制などの経済政策を変更する同氏の力を抑制するかもしれないと指摘しているが、カラカスに本拠を構える世論調査会社のデータナリシスは、国家財政を是正するための5項目から成る改革計画を提案した。 改革に盛り込まれたのは、政府支出の削減、キューバなどの同盟国への補助金付きの原油輸出の削減、ドル建て原油収益の価値を高めるための通貨切り下げ、多額の補助金に支えられている国内ガス価格の引き上げ、そして、ベネズエラの米国製油事業であるシトゴなどの外国資産の売却だ。 どん底まで落ちた生活、これ以上悪くなりようがない? こうした措置は政治的に不人気かもしれないが、現行制度は継続不能だとアナリストらは口をそろえる。国内総生産(GDP)比20%と推定される財政赤字を埋めるための紙幣増刷は、63%の高インフレをもたらした。エコアナリティカはインフレ率が来年110%に達すると見ており、国民の怒りは高まるだろう。 「私たちは食べ物の物乞いであり、生活必需品の物乞いであり、薬、子供たちのおむつの物乞いだ。現時点では、あらゆるモノの物乞いなんです」。政府の補助金が付いた中国製冷蔵庫を買うために行列に並んでいた公務員のアンジェラ・トーレスさんはこう話す。「私たちはインフレに食いつぶされ、どん底まで落ちた。これ以上ひどいことにはなり得ないですよ」 By Andres Schipani in Caracas http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42357 |