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900頭の牛を飼養する亀田牧場。全国有数の規模を誇る牧場が、電気料金再値上げに揺れている=12日午後、北海道千歳市(津田大資撮影)
ズタズタにされる基幹産業「北海道」の悲鳴…原発動かず電気料金値上げ、1年余で33%急騰に「企業努力も限界」
http://www.sankei.com/premium/news/141129/prm1411290022-n1.html
2014.11.29 07:00 産経新聞
時折襲う吹雪が、北海道に長く厳しい冬の到来を告げた今月13日。道南部に位置する登別市も、日中の最低気温0.1度と厳しい冷え込みとなった。
登別市は工業都市として栄えた。隣接する室蘭市に明治期、日本近代化の象徴となった室蘭製鉄所(現・新日鉄住金)ができたからだ。
その工業都市を今、高齢化と人口減少の波が洗う。昭和60年代に5万9千人ほどだった人口は、2割近く減った。中心部も人通りは少なく、国道沿いはシャッターが閉じたままの店舗が目立つ。
この苦境に、電気料金の再値上げが追い打ちを掛ける。
「昨年の値上げでは、何とか顧客に価格転嫁をしてもらえたけど、これ以上はお願いできない。コスト削減も限界に近い。こんなに電気代が高騰すれば、中小企業はいずれ立ち行かなくなる」
登別市に本社を置き、昭和13年創業のカネカ冷蔵の社長、富田敦之(37)は、表情を曇らせた。
カネカ冷蔵は、冷蔵・冷凍倉庫を運営し、製氷と水産物仲卸事業を展開する。倉庫と製氷はかなりの電気を食い、年間の電気料金は3千万円に上る。年間売上高5億円の同社にとって6%にもあたる。
この電気料金が、跳ね上がり続けている。
北海道電力は昨年9月、家庭用を7.73%、企業向け電気料金を11%値上げした。そして今年11月1日には、家庭用を15.33%、企業向けは20.32%の再値上げに踏み切った。わずか1年余りで、電気料金は計33%も急騰する計算となる。
さらに、今年4月の消費税増税で3%、さらに原油価格などに電気料金が自動連動する燃料費調整制度による値上げ分も加わる。
北電は激変緩和措置として、来年3月まで企業向け値上げ幅を16.48%に抑えるが、4月以降、カネカ冷蔵は、年間1千万円ものコスト増が避けられない。
× × ×
昨年5月、脱サラしてカネカ冷蔵の6代目社長に就任した富田は、懸命にコスト削減に取り組んできた。
電力使用量が設定値を超えないようにする装置「デマンドコントローラー」を導入した。倉庫内が十分冷えている場合、2台ある冷凍機の片方を止める。エビやイカなどの冷凍温度を、マイナス25度程度から2度上げるだけで年間100万円程度の節約につながるからだ。
だが、富田の努力は、北電2度目の値上げで水泡に帰した。これ以上、冷凍庫の温度を上げることはできない。
再値上げの理由はただ一つ。北海道泊村にある北電泊原発1〜3号機(加圧水型軽水炉、計207万キロワット)が再稼働できないためだ。
泊原発の出力は、北電が持つ全電源の25%を占める。平成24年5月に全停止となって以来、代替の火力発電の燃料費が北電の経営を圧迫し、赤字に陥った。再稼働に向けた原子力規制委員会の安全審査も、原発がある積丹(しゃこたん)半島が、地震活動によって隆起したとの見方があり、進んでいない。
「北海道の皆さんに迷惑をかけて、誠に申し訳ありません。ですが、最も安定した重要なベースロード電源の原発が動かせない中では、手も足も出せないんです」
北電社員は、富田にこう言って、再値上げへの理解を求めたという。
富田の双肩には20人の従業員とその家族、100人近い人たちの生活がかかっている。1千万円もの電気料金上昇は、やむを得ないことかもしれないが、納得はできない。
「築44年が経過して老朽化した本社も、耐震性に不安があり、早く建て替えたい。ですが、電気代がこんなに上がり、東日本大震災の復興需要や、2020年東京五輪の影響で建築費が高騰し、建て替えどころではなくなりました。泊原発の一日も早い再稼働を願う毎日ですよ」
× × ×
電気料金再値上げは、北海道の基幹産業である農業にも暗い影を落とす。
新千歳空港から車で約30分。道東道の追分町インターチェンジの近くに、乳牛と肉牛合わせて900頭を飼養する「亀田牧場」(千歳市)がある。
敷地は300万平方メートルと、ヤフオクドーム40個分に相当する。牛乳生産量は年間2500トンで、個人経営では道内2位を誇る。昭和20年に乳牛2頭から始まった牧場は、少しずつ周辺の土地を開墾・購入して規模を広げ、今では11人を雇用するまでになった。
この巨大牧場は、コスト削減の努力を欠かさない。
牛の飼料は輸入に頼らざるを得ないが、敷地内でトウモロコシや牧草を栽培し、できる限り自前でまかなおうとしている。敷地内の自宅には、薪ストーブや太陽光発電を取り入れる。
電力も同様だ。
照明や換気扇、搾乳機、搾った牛乳を保管するクーラー、冬季に牛の飲み水を凍らせないヒーター、堆肥をつくるプラント…。すべて電力で動く。
亀田牧場は消費電力を徹底的に削減した。牛乳は事前に水で温度を下げた上でクーラーに入れ、照明にLED電球を採用した。
爪に火を灯すような努力の結果、電気料金は同規模の牧場と比べて6割前後、年間500万円しかかかっていない。それだけに、同業者の視察も相次ぐ。
だが、再値上げの影響は、企業努力で吸収できる限度を超えた。
「創業者の祖父の後を継いだ父は、オイルショックに苦しみ、あらゆるコストカットをコツコツやってきました。でも、2割も一気に値上げされたら、いままでの努力は一瞬で吹き飛んでしまう。うちも大変だけど、規模の小さな農家は本当に深刻だよ」
亀田牧場の実質経営者、亀田泰貴(45)はこう嘆く。
農林水産省の統計によると、北海道の酪農業者は昭和40年に4万9千戸もあった。飼料や光熱費のコスト高で収益率が悪化した昭和60年代以降、高齢化や後継者不足も重なり急速に減少、平成23年は7千戸しかない。
明治以降、入植者の不断の努力が、酪農王国・北海道を築いた。7千戸の酪農家は、売り上げ増とコスト削減を血の滲むような思いで追求し、生き残った。
その酪農王国を今、電力不安が襲っている。円安で飼料代がかさむ中、電気料金の高騰が続けば、廃業に追い込まれる農家も出てくるだろう。
亀田は言う。
「北海道は東北に近い。あれだけの事故があった原発を、これ以上増やせとはいわない。でも、日本に自給できるエネルギーがない以上、既存の原発を動かさないと何もできなくなる。原発を動かしながら、バイオマスのような代替電源の技術を確立するのが、現実路線ではないでしょうか」(敬称略)
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九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)は再稼働に向けて原子力規制委の安全審査をクリアし、地元自治体の同意も得た。ようやく「原発ゼロ」が終わろうとしている。
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