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日銀に出口も追加緩和もなし、対応能力喪失−早川元理事
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NFP0206JTSEO01.html
2014/11/28 00:01 JST
11月28日(ブルームバーグ):元日本銀行理事の早川英男氏は、政府の消費増税先送りにより日銀が追加緩和を食い逃げされた結果、「インフレが起きても量的・質的緩和の出口はない。景気が悪くなっても追加緩和もできない。日銀は当事者能力を失ってしまった」と述べた。
現在、富士通総研エグゼクティブ・フェローを務める早川氏は27日、ブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、日銀が10月31日に行った追加緩和について「黒田東彦総裁の頭の中ではやはり、消費増税の道を固める意図があったと考えないと説明がつかない」と語る。また、追加緩和で株価が上昇したことで、意図に反して「消費増税先送りの背中を押す要因になった可能性がある」と言う。
日銀が国債発行額のほぼ全額を買い入れる一方、安倍晋三首相は来年10月に予定していた消費増税の先送りを決めた。この組み合わせは、中央銀行が政府の財政資金をファイナンスするマネタイゼーションであることはもはや否定しようがなく、日銀はインフレや景気後退が発生しても、それに対応する能力を失ってしまった、と早川氏は指摘する。
早川氏は景気について「7−9月実質国内総生産(GDP)はマイナスだったが、主因である在庫の1次推計はあてにならないので、改定で変わる可能性が大きい。足元のデータを見ると、消費は家計調査以外は徐々に良くなっており、住宅も着工ベースで完全に底を打っている。生産も9月はかなり増えた。輸出は2カ月連続で伸びた」と指摘。
さらに、「原油価格の下落は大きい。鉱物性燃料の輸入は年間27、28兆円で、1割下がると消費税率の1%強、3割下がると4月の消費増税で取られた3%分が戻ってくる。天然ガスなどは長期契約しているのですぐ恩恵が全て出るわけではないが、インパクトは大きい。こうした要素を考えると、景気について心配すべき理由はない」と言う。
物価は16年以降、はっきり上がってくる
物価についても「少し長い目で見た場合、それほど心配すべき要素はない。足元の需給は緩んでいるが、10−12月以降は成長率がもう一度復活してくる。景気は基本的に悪くない。原油価格の影響はタイムラグが短いのですぐに出るが、為替相場のタイムラグはもっと長いので、春先以降はだんだん円安の効果が勝ってくる」と指摘。
さらに、GDPの1単位を生産するのにどれだけ人件費がかかったかを示す単位労働コスト(ULC)が「この半年間で急上昇しており、物価上昇圧力を相当ため込んでいる状態だ。原油価格が下がった分が来年いっぱいは効くので、来年は苦しいだろうが、その影響が剥落してくれば、物価は16年以降はっきり上がってもおかしくない」と語る。
そうした中で日銀が追加緩和を行ったことについて、早川氏は「どう考えても理解できない。景気はそれほど悪くないし、日銀の景気認識がすごく悲観的になっているわけではない。目先の物価だけを気にして、まさに『2年で2%』の物価目標実現というメンツにこだわった格好だが、それがそれほど大事だったのだろうか」と疑問を呈する。
マネタイゼーションを否定できない
追加緩和が不可解な理由として、まず、「追加緩和をしても、来春までに2%が達成できるかというと、もう手遅れだ。一方で、日銀は2年の期間を既に随分あいまいにしており、最近では15年度を中心とする期間と言っているが、16年前半には物価が結構上がってくる可能性があるので、まだ白旗を上げる段階ではない」という。
日銀は重視するインフレ期待にしても、「どこまで意味があるのか分からない。そもそも物価はここまでインフレ期待で動いてきたわけではない。円安で動き、需給ギャップが縮み、賃金にバトンタッチするタイミングだった。そう考えると、黒田総裁の頭の中ではやはり、消費増税の道を固める意図があったと考えないと説明がつかない」と語る。
追加緩和により日銀の長期国債買い入れ額は月間約10兆円と、国債発行額のほぼ全額、ネットの年間新規発行額の倍の規模になる。早川氏は「これがマネタイゼーションではないという根拠は、少なくとも日銀サイドにはない。国債引き受けではなく市場を介していると言っても、市場機能はもう死んでいるので、形式的な言い訳に過ぎない」と言う。
20年度プライマリーバランス黒字化の意味
唯一、日銀の国債全額買い入れがマネタイゼーションでないと言えるのは、「政府が財政健全化にコミット(約束)しているという前提がある場合だが、今回の増税先送りでそれが破られてしまったので、マネタイゼーションでないという理屈も崩れてしまった」と語る。
政府は2020年度のプライマリーバランス(PB)の黒字化を約束しているが、一方で、内閣府は「中長期の経済・財政に関する試算」の中で、2回の消費増税を実施しても10兆円以上の赤字が残るという試算を公表している。早川氏はそれを解く鍵として「実は、ある2つの条件がクリアされれば、20年度のPB黒字化は可能になる」と話す。
1つ目は、アベノミクスの成長戦略が成功し、実質2%、名目3%成長が可能になること。2つ目は、20年度に消費税率を15%にすることだ。「予定通り来年10月に消費税率を10%に引き上げていたら、20年まであと5年あるので、15%に引き上げることは不可能ではなかった。しかし、こうしたシナリオは完全に壊れた」と語った。
1年半の先送りだけでは済まない
2010年代は団塊世代の年金支給が始まったが、これから年金をもらう世代の人数が少ないので、社会保障費の増大という点では一息つける時期だが、20年代は団塊世代が75歳以上の後期高齢者に入っていくため医療費が爆発的に増える。「20年くらいにPBを黒字化をしておかないと追いつかなくなる。政府の目標にはそういう意味があった」という。
早川氏は「大事なポイントは、消費増税は1年半の先送りだけでは済まないことだ。日本の消費税率は10%で終わらない。1997年から2014年まで17年間放置した結果、想定される消費税率は最低でも20%、それでも足りなくて25%、30%という話になってきている。ここで先送れば、最終的に到達しなければならない山は一段と高くなる」と語る。
今回の追加緩和の結果、円安が進み、株価は上昇した。消費増税の道を固めようとした黒田総裁の意図に反して、追加緩和はかえって「安倍首相の消費増税先送りの背中を押す要因になった可能性がある」と早川氏はいう。その結果として、日銀は「にっちもさっちも身動きできない状態に陥ってしまった」と言う。
政策委員会をコントロール力を失った
まず、「出口が非常に難しくなった。16年のどこかで2%に達する可能性が出てきた中、それが本当に起こった時どうするのか。政府の財政規律が全く市場に信じられてない状況で、日銀が国債の買い入れを止めたら、まさに国債が暴落する可能性がある。その一方で、買い入れをやめなければ、どんどんインフレが加速していく」と語る。
さらに、「黒田総裁は消費増税が追加緩和の前提だったこと、財政規律が失われて市場が動き出したら日銀は対応できないことを明確に述べていた。この2つの発言からすると、そう簡単に追加緩和はできないことになる。万一そうしようとしても、政府にはしごを外されたことで、反対した4人の審議委員は『それ見たことか』と思っているはずだ。政策委員会をコントロールする力はなくなっている」という。
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