03. 2014年11月26日 07:04:55
: jXbiWWJBCA
中小企業が良くならない限り、日本経済は回復しない伊藤忠商事前会長 丹羽宇一郎氏に聞く(前編) 2014年11月26日(水) 日経トップリーダー 少子高齢化に伴う人口減少に対応しつつ、短期的には東京オリンピックに向けて新たなフェーズへと向かう挑戦を仕掛けていく――。グローバル化が一段と進む中、日本の中小企業は今、2つの大きな課題に直面している。では、経営者として何をどのように考え、行動していくべきなのだろうか。伊藤忠商事前会長で、中国大使も務めた丹羽宇一郎氏に聞いた。 日本は今、少子高齢化に伴う人口減少で苦しんでいます。これを前提としたときに中堅・中小企業はどのように考えて対応していくべきでしょうか。 丹羽宇一郎(にわ・ういちろう)氏 1939年愛知県生まれ。62年名古屋大学法学部卒業後、伊藤忠商事に入社。ニューヨーク駐在、業務部長などを経て98年社長に就任。99年に約4000億円の不良資産を一括処理しながら翌年度の決算で同社史上最高益(当時)を計上し、世間を驚かせた。2004年会長に退き、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任した後、10年から12年まで、戦後初の民間大使として中国に駐在した。(写真・菊池一郎、以下同じ) 丹羽:それは非常に重要な問題です。ご存じのように、日本企業の99.7%は中小企業です。それが全従業員数の7割を占めている。つまり、日本経済の基盤を形成しているのは中小企業です。
ですから、中小企業の復活なくして日本経済の復活はあり得ません。にもかかわらず、今、その中小企業が追い込まれていて、後継者不足にも悩まされている。これは日本の強さの源泉を失うことになり、大変懸念すべき問題だと思います。 日本経済がこれまで強かったのは、全世帯の7割を占める中間層がいたからです。非常に優秀なこの層が厚かったから、世界の信頼を得るような商品を開発することができた。その力が今、かなりそがれている。 なぜかと言えば、企業のトップが、平均的労働者の10倍、20倍もの報酬をもらうようになってきたからです。これでは企業としての一体感を保てない。欧米流の業績評価が行き過ぎて、日本企業の強みであったはずのチーム力が発揮できなくなってしまっているんです。 若くて優秀な人材を採用できないのは魅力がないから おっしゃるように、人材に関して日本の中小企業は悩んでいます。まず、優秀な若い人をなかなか採れない。非常に名のある大企業ばかりに人材が殺到して、実力はあるのに名前が知られていない中小企業にはあまり人が集まらない、という状況が続いています。 丹羽:人材が採れないのは、その企業に魅力がないからです。そこは、経営者として言い訳してはいけないでしょう。規模が小さいから、知名度がないから、経済環境が悪いから、という理屈は成り立たない。採りたい人材が採れないなら、それなりの方法を考えなければいけません。 社会全体で言うと、もう、勤労者の4割近くがパート・アルバイト・派遣社員などの非正規雇用になっています。その中に立派な人もいますよ。それに、何も全員が新卒である必要はない。中途採用でもいい。採った人が辞めてしまうというのなら、その理由を考えて対処すればいい。 以前、米国の調査結果を見たことがありますが、社員が辞める一番の原因は給料じゃないんですよ。 社員が辞める一番の原因は何でしょうか。 丹羽:最大の理由は上司です。会社の中の人間と折り合いが悪い。特に部長。挨拶してもロクに返してくれないとか、疎んじられているとか、これで辞める人が多い。各社で一度、上司が理由で辞めている人がどれくらいいるか、調べてみるといいと思います。 一般論としてよく「3年以内に辞める若者が3割」というデータが引き合いに出されますが、これにはあまり意味がありません。第一に、いつの時代も若者は3割くらい辞めているのです。
真剣にその対応策を考えたいのであれば、どの業種、どんな企業で辞めていく割合が高いのかまで細かく調べてみてください。各企業を取り巻く環境がこれだけ大きく違ってくると、一般論で考えていては対策を打ち出せません。「若い奴らはこらえ性がないんだろう」で終わってしまう。 部下は上司を3日で見抜く 丹羽さんご自身はトップにいらっしゃる時、どんなことを考えて部下(社員)をマネジメントしてこられたのでしょうか。 丹羽:やはりね、部下の立場に立って考えることです。よく言うんですけれど、上司が部下を見抜くには3年かかる。しかしながら、部下が上司を見抜くのは3日もあれば済みます。この上司は能力があるか、信頼できるか、部下はすぐに見抜きます。だまされたような顔をして、だまされてはいない。政治家を見る国民の目と一緒です。だから、上司たる者、しっかりと部下の勉強をしないといけない。 中小企業の経営者も同じですよ。社員(部下)が結婚しているのか、していないのか。していないとすれば、したい気持ちはあるのか。既婚者だったら、家庭生活はどうか、奥さんが病気がちだったりしないか、とか、そういうことを把握しておかないといけない。 やはり人間は、人としての自分の存在を認め、理解してくれる人のために働くものです。お金のためだけじゃない。大げさなことを言えば、経営者は「この人のためなら死んでもいい」くらいの気持ちを持ってもらえる人間になることですよ。 ただね、認めてばかりでもいけません。大事なのはメリハリをつけること。例えばいつも褒めていると、人間は褒められるために仕事をするようになります。そうすると、会社のため、社会のために働くという大切なことを忘れてしまうんです。褒められるためなら、悪いことをしてでも利益を出すようになります。 経営者は社員を認めるだけでなく、おかしいなと思ったら、利益が出ていても「どうしてこんなに利益が出ているんだ?」と社員を問い詰めるくらいの器量が必要ですね。 仕事のできる部下・できない部下がいますね。できない部下に対しても、分け隔てなく目をかけてこられたのでしょうか。 丹羽:それはどうだろうか。私自身が平等だと思っていても、向こうがそう思っていない場合というのはあるかもしれません。 意識的にしていたのは、ちょっと生意気で斜に構えたような部下ほど気にかけて見ていました。そういう人間はたいてい自負心が強くて、自分の能力を過信している。「オレはこんなに仕事をしているのに、ちっとも評価されていない」と思っているわけです。 でも、社会に出てからの評価は自分がするわけではありません。他人がするのです。だから、そういう社員を呼んで、仕事は試験とは違うんだというようなことをよく話していましたね。 どの会社でもとんがった社員はいます。そういう跳ねっ返りの強いのを役員にしようとすると、たいてい上司が反対します。だけど、そういうときは上司にこう言うんです。「おまえはあいつの意見をちゃんと聞いてやったことがあるのか?」と。 生意気な社員の話をよくよく聞いてみると、けっこうまっとうなことを言っていたりします。私に対しても会社に対しても非常に厳しい意見を言うけれど、ちゃんと自分の意見を持っている。そういう人間を役員にしないと、会社は恐らく衰退するでしょうね。同じカラー、同じ考えの人間ばかりで固まっていってしまう。 だから、経営者というのは、そういう生意気な人間にも目をかけて、処遇していくということが大事だと思いますね。 経営者1人では何もできない。重要なのはチーム力 新しいことにチャレンジする際にも、臆せず、そういうとがった人材を抜擢していくことが大事でしょうか。 丹羽:新しいことって言ってもね、経営者1人では何もできませんよ。最初の話に戻りますが、結局はチーム力です。日本はこのチーム力で世界と戦ってきたんだから。
それがね、だんだんと欧米流の業績評価が強くなってきて、もっと個人を評価しましょうというふうになってきた。だけど、個々を評価していくと、それまでのチームとしての強さが消えていくわけです。社内がお互いにライバルみたいになってしまう。 そうではなくて、会社としての一体感がほしい。自分がサボったら、周りに迷惑を掛けるからやらなくちゃいけないとか、そういう気持ちが大切です。この上司・経営者のために頑張るんだというチームとしてのまとまりです。それが消えつつある、ということが今の日本の経営の一番の問題なんです。(後編に続く) (構成:曲沼美恵) 事業承継/知的資産経営フォーラムを開催します 基調講演のテーマは「古からの遺産を磨き、もっと輝く会社に」 独立行政法人 中小企業基盤整備機構は、「平成26年度 事業承継/知的資産経営フォーラム」を12月4日(木)、東京で開催します。入場は無料です。8代続く老舗企業、龍角散の藤井隆太社長の基調講演を始め、様々な業種の経営者が登壇し、事業承継について必要なものは何か、厳しい市場環境の中で何をすべきかについて語ります。詳細はこちらをご覧ください。 このコラムについて トップリーダーかく語りき
自ら事業を起こし数々の試練を乗り越えて一流企業に育て上げる。引き継いだ会社を果敢な経営改革で躍進させる――。 こうした成長企業のトップはどう戦略を立て、実行したのか。そして、そこにはどんな経営哲学があったのか。日経トップリーダー編集部が創業経営者やオーナー経営者に経営の神髄を聞く。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20141114/273863/?ST=print
|