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森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 黒田バズーカは正しいか
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週刊実話 2014年11月27日 特大号
10月末、日銀黒田総裁が行った異次元緩和の第二弾は、市場に大きな影響を与えた。長期国債の保有残高を年間50兆円から80兆円に拡大し、ETF(上場株投資信託)やJリート(不動産投資信託)の買い入れもこれまでの3倍に増やすという大胆なものだった。
これで週明けの東京市場で日経平均株価は7年ぶりの1万7000円台を回復し、対ドル為替も114円の大幅な円安になった。
市場の予想を裏切る突然の金融緩和の目的について黒田総裁は、デフレ脱却を確実にするためだと記者会見で述べた。実際、生鮮品を除く消費者物価指数の前年比は、7月の3.3%から、8月は3.1%、9月は3.0%と、原油価格の低下もあって徐々に下がってきていた。
消費税引き上げの影響を除くと、1%程度の上昇となっており、日銀が目標とする2%(消費税引き上げの影響を除く)と比べると半分しか達成できていないから、金融緩和によって物価を上げることにしたというのだ。
私はこれまで一貫して金融緩和を支持してきたが、今回の緩和には疑問符を付けざるを得ない。それは、日銀が消費者物価指数の採り方を間違えているからだ。
メディアが採り上げる消費者物価指数には、帰属家賃計算というものが含まれている。これは、持ち家の世帯も世間相場の家賃を支払っているという想定をして、消費に加えるというものだ。家賃には消費税がかからないから、物価が上がっていない。しかも家賃の支出ウエートは高いから、払ってもいない家賃を加えれば、当然物価上昇率は実際よりも低く出てくる。
それでは、この帰属家賃を除いた本当の物価上昇率がどうなっているのかというと、9月は3.9%だ。帰属家賃と生鮮品を除いた場合は3.6%。つまり、消費増税の影響である2%を除いた本当の物価上昇率は、現在1.9%、生鮮品を除いても1.6%という数字なのだ。つまり、日銀の目標は、すでにほぼ達成されているのだ。
そうした状況下で、さらなる金融緩和を行えば、何が起きるのか。それは円安に伴う一層の物価上昇だ。私は、デフレはもちろんダメだと思うが、高率のインフレもダメだと思う。2%程度の緩やかなインフレが、経済を一番円滑に回すのだ。
黒田バズーカ第二弾の影響は、日銀の想定以上の物価上昇。そして万が一、年末に政府が来年10月からの消費税率引き上げを決めれば、さらなる物価上昇を招いて国民生活が破壊されてしまう。現在でも9月の家計調査をみると、実質消費が前年比5.6%と大幅に落ち込んでいる。実質所得が落ちているから、消費が落ちるという当たり前のことが起きているのだ。
日本経済は、欧米と異なり圧倒的な内需主導型経済となっている。GDPの6割は消費だ。だから、消費が失速していたら、景気回復などあり得ない。
ただ、私は今回の金融緩和をプラスに変える方法が一つあると思う。それは、来年から当分の間、消費税率を5%に戻すことだ。そうすれば、今回の金融緩和による物価上昇を十分吸収できる。
イギリスは、リーマンショック後に付加価値税を下げたから、日本もできるはずだ。どうしてもできない時は、せめて消費税引き上げを凍結すべきだ。
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