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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第101回 株価と所得
http://wjn.jp/article/detail/8968222/
週刊実話 2014年11月27日 特大号
久しぶりに経済学的あるいは「経済統計的」な話から始めたい。本連載でも何度か解説したが、所得の創出プロセスは以下になる。
所得とは、
「国民が働き、モノやサービスを生産し、誰かが消費、投資として支出する」
というプロセスを経なければ創出されない。
逆に、所得が上記プロセスにより創出されるため、生産された付加価値(モノ、サービス)、支出(消費、投資)、そして所得の三つは必ず同じ金額になる。
そして、モノやサービスが生産され、販売されない限り、この世に所得が生まれることは決してない。
現在の日本経済の最大の問題は、円安による輸入物価上昇や消費税増税により物価が上昇しているにもかかわらず、賃金の伸びが追い付いていないことだ。すなわち、実質賃金の低下である。
10月5日に厚生労働省が毎月勤労統計調査の9月速報値を公表した。実質賃金を見ると、現金給与総額がマイナス2.9%(対前年比)、決まって支払われる給与がマイナス3.1%であった(同)。
日本国民は、相変わらず実質的な所得が一年前よりも3%前後下落している「貧困化」の中でもがき続けている。
実質賃金が下落した国民は、主に消費を減らす。実際、総務省の家計調査によると、9月の実質消費は前年比で5.6%のマイナスだった。
消費が減れば、先の「所得創出のプロセス」に則り、誰かの所得が減る。誰かの所得、すなわち実質賃金が減少してしまうと、ますます消費は落ち込む。
消費が落ち込むと、別の誰かの実質消費が減るという形で、悪循環が延々と進行しているのが現在の日本の姿だ。
すなわち、安倍晋三政権が実施するべきは「実質賃金の底上げ政策」であるはずなのだ。
それにもかかわらず、安倍政権は企業が派遣社員を長期間使用可能とする労働者派遣法改正案や、労働時間規制の緩和(いわゆる、ホワイトカラーエグゼンプション)、さらには外国移民の受入、配偶者控除の廃止など、実質賃金を引き下げる政策ばかりに熱心である。
実質賃金が下落している環境下において、各種の労働規制緩和を推進する以上、安倍総理や閣僚は、問題を正しく認識していないか、もしくは国民を“故意に”貧困化させているとしか考えられない。
あるいは、安倍政権は国民の豊かさではなく、日経平均という「株価」をメトリクス(評価尺度)にしているのかも知れない。
金融政策やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)改革を見る限り、その可能性は決して低くない。
2014年10月29日、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は、米国債などを買い入れ、市場にドルを供給する量的緩和策について、10月末をもって終了することを決定した。
リーマンショック以降、3度に渡って繰り返されたアメリカの量的緩和策が、今回を持って幕を閉じることになったわけだ。
無論、FRBは政策金利については「ゼロ金利」政策を続けている。FRBの声明では、ゼロ金利政策について「量的緩和終了後も相当の期間維持する」となっている。
その2日後、10月31日、日本銀行の黒田東彦総裁が長期国債の買い入れ額を30兆円、上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の買い入れ額を3倍にする量的緩和拡大政策を発表し、為替レートが1ドル112円台にまで下落した。大幅な円安を受け、日経平均はなんと755円もの高騰を見せた。
アメリカは金融政策の縮小、逆に日本は金融政策の拡大に動いたわけだ。
為替レートが円安ドル高に動いたのは当然であり、さらに、外国人投資家が売買の主力である日経平均は、「円安で買われ、円高で売られる」傾向が強い。GPIFのポートフォリオの変更(株式の割合を12%から25%に引き上げ)が、ほぼ決定されたこともあり、10月31日の日本の株価が極端に上昇したのは、当然すぎるほど当然なのである。
問題は、株価がどれだけ高騰したとしても、国民の所得はほとんど増えないという点である(証券会社の手数料は除く)。
何しろ、株式とは企業の資本であり、国民が働いて生産したモノでもサービスでもない。
安倍政権が金融政策の拡大を繰り返し、市場にあふれた日本円が株式市場に雪崩れ込んでも、国民の実質賃金には直接的には影響しないのだ。
また、金融政策拡大で過度に円安が進むと、輸入物価が押し上げられるため、実質賃金は却って減少してしまう。
11月4日の国会答弁において、安倍総理は金融政策拡大による株価上昇が、
「大きな資産効果を呼び、消費に結びつき、経済成長にプラスになる」
と、発言した。
まさに、問題を正しく認識していない政治家特有の「トリクルダウン(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる)答弁」だ。
総理は株価上昇が消費を呼び起こすと“断言”しているわけだが、現実の資産効果がいかほどか、事前にわかる者はこの世にはいない。
安倍政権が経済政策のメトリクスを「株価」から「所得」に変えない限り、我が国の国民の貧困化は継続することになるだろう。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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