03. 2014年11月21日 06:17:44
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数字で会社を読む 【第155回】 2014年11月21日 週刊ダイヤモンド編集部 【ファミリーマート】 コスト増加し新店も稼げず 大量出店がはらむ危うさ ファミリーマートが今期の出店計画を下方修正したが、大量出店は変えない方針だ。出店コストの急増や新店日販の落ち込みなど危うさをはらんでいるにもかかわらずだ。 やはり、積極出店は背伸びし過ぎた計画ではなかったか──。 コンビニエンスストア業界3位のファミリーマートは10月8日、今期の出店計画を300店減の1300店へと下方修正した。 当初計画の1600店(2013年度実績は1355店)はもちろん過去最高で、業界首位のセブン−イレブンと並ぶペース。業界2位のローソンの1100店を大きく上回り、中山勇社長は「ファミリーマートは本気で勝ちに行く挑戦者だ」とぶち上げていた。 しかし、14年度上半期の出店数は597店。過去最高だったものの、当初計画からは下振れする結果で、中山社長は「採算性を重視していくため」と下方修正の理由について説明した。 出店計画にブレーキをかけざるを得なかった背景の一つは、出店コストの急増である。大手3社が出店攻勢を強めた結果、国内のコンビニ店舗数は今年に入り増加の一途をたどっている。日本フランチャイズチェーン協会によると、9月末時点で前年同月比5.3%増の5万1363店まで達した。 大手3社が、優良出店地を確保するための“陣取り合戦”を激化させているため、ファミリーマートの今期の1店舗当たりの出店コストは約5200万円と、前期の約4700万円から大幅にアップ。とりわけ目立った上昇を見せているのが賃料で「数百万円上昇している」(中山社長)。 出店コストの増加について、中山社長は「想定の範囲内。予算内の運用をしている」と説明しているが、積極出店の反動は、業績面へ影響を及ぼし始めている。 新店日販が急減 将来への投資は回収できるか 典型的な例が、営業利益の圧迫である。上半期の売上高に当たる営業総収入は前年同期比5.3%増の1843億円だったが、営業利益は同15.8%減の214億円にとどまったのだ。 上昇が顕著なのはやはり賃料で、上半期は同59億円増の489億円まで上昇。その結果、単体の販売管理費は同12.6%増と営業総収入の伸びを超えるペースで膨らんでおり、営業利益を押し下げる最大の要因になっている。 これに伴って、通期の見通しも下方修正。韓国撤退による株式売却益154億円があるため、最終利益は前期比12.8%増の255億円と増益を確保する予定だが、営業利益は同7.6%減の400億円(当初計画は460億円)へと引き下げ、5期ぶりの営業減益に転じる見込みになった。 セブン−イレブンもローソンも上半期に過去最高益を記録し、店舗数の増加を利益につなげているだけに、ファミリーマートの営業減益はひときわ目立つ。 ファミリーマートが利益を犠牲にしてまで積極出店を続ける理由は「コンビニは成長産業である」という方針に立っていることと、「いま出店しなければ、優良な立地を他社に確保され、もっと厳しい状況に追い込まれる」という危機感があるからだ。 将来の利益が約束されているならば、リスクを取って新店に投資することは悪いことではない。ただ、競合からは「ファミリーマートはわが社では採算が合わないような賃料や立地でも出店してくる。相当、無理をしているのではないか」という声も上がっている。 下の図を見てほしい。ファミリーマートが積極出店へとかじを切った12年度、新店日販(出店から1年以内の店舗の1日当たりの平均売上高)が42.9万円へと急激に落ち込んだのだ。 拡大画像表示 11年度の新店日販は、am/pmから転換した、実質的には既存店のものも含まれているため高かったことを考慮しても、「42.9万円はいかにも低過ぎた。急にアクセルを踏み過ぎたため、出店の精度が低かった」と経理財務本部長の小松ア行彦常務は認める。
ただ、オープン時の新店日販が低かったとしても、小松ア常務は「12年度、13年度に出店した店の売り上げは、年約10%のペースで伸びている」と従来通り新店は成長を続けているため、将来の利益につながると強調。物件情報の収集や審査など、積極出店の経験も蓄積されているため、14年度の新店日販見通しは45万円と回復基調を見込む。 とはいえ、14年度上半期の新店日販は前年同期比3.6%減の46万円。消費増税や冷夏などの外部要因を踏まえても、既存店日販より落ち込みが激しく、今期の目標が下振れするリスクをはらむ。 既存店日販の伸び率も、4月の消費増税後はマイナス続きで、プラスを維持しているセブン−イレブンとの差は開く一方だ。 来期の出店計画について「既存店強化と新店のバランスを見ながら検討する」(小松ア常務)が積極出店は続ける方針だ。 とはいえ、来年10月にはさらなる消費増税も見込まれており、新店が本当に将来の利益につながるかという疑問は拭えない。業界3位の“挑戦者”の積極出店という賭けは、危うさをはらんでいる。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之) http://diamond.jp/articles/-/62532
公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略 【第145回】 2014年11月21日 高田直芳 [公認会計士] 増税で混迷のヤマダ、ビック、エディオン、ケーズ 倒産確率デフォルト方程式などの独自分析で斬る! 近年、統計学ブームやビッグデータ解析によって、「確率・統計」に注目が集まるようになったのは、喜ばしいことである。ただし、「標準偏差」という響きに尻込みをしてしまう人は多いらしく、ブームも一過性の感がある。何事も、こつこつと学習していくしかないのだろう。
さて、今回は、本連載でいつ登場させようかと迷っているうちに、145回目になってようやく登場させることになった「倒産確率デフォルト方程式」の話である。いままで登場させることに迷ったのは、この方程式を迂闊に持ち出すと、風説の流布(金融商品取引法158条・173条)になりかねないからだ。 今回取り上げる家電量販店4社(ヤマダ、ビックカメラ、エディオン、ケーズと表記する)は、売上債権(受取手形+売掛金)が少なく、キャッシュが多いという特徴を有する。これらに倒産確率デフォルト方程式を当てはめても、特に問題はないであろう、と判断した。 倒産確率デフォルト方程式の登場 倒産確率デフォルト方程式にある「デフォルト」とは、債務不履行のこと。 債務を履行できない原因には、様々なものがあるだろう。その中で単純明快なのは、金策が尽きることである。どんなに豊富なキャッシュを抱えていても、それを上回る買入債務(支払手形+買掛金)が押し寄せては、デフォルトに陥る。 そこで、実際の現金保有残高(実際キャッシュ残高)が減っていき、買入債務などで支払いを要する資金残高(デフォルト残高)に近づけば近づくほど、倒産する確率は高くなるものと仮定する。それを方程式で表わしたものが、次の〔図表 1〕である。 〔図表 1〕の方程式の詳細については、拙著『会計&ファイナンスのための数学入門』235頁以降を参照願いたい。日本だけでなく、欧米の「確率・統計」に関する書籍を参照しても、〔図表 1〕と同じものはない。筆者オリジナルの方程式である。
シックスシグマは、不良品を 10億分の1まで管理するもの 〔図表 1〕の概要を紹介しておくと、左辺の「b」が、デフォルトになりかねない実務解(現金預金残高)を表わす。右辺の分子にある「S」は、前掲書『会計&ファイナンスのための数学入門』では「1.88」としている。 「S」の右横にある「σ(シグマ)」は、標準偏差のこと。 例えば「1.88σ」とした場合、それは「標準偏差の1.88倍」という意味である。月次決算において、30日のうち1日(30分の1=3%)は資金繰りに窮するだろうと想定した。 「1.88σ」と「3%」との関係は、〔図表 2〕で示すように、表計算ソフトのNORMSDIST関数で表わすことができる。 日単位の「30分の1」「365分の1」ではなく、月単位の「12分の1」でも差し支えない。どのような値を採用するかは、分析する者の主観に依存する。
ところで、生産管理の世界では「シックスシグマ」という用語がある。これは「6σ」のことであり、「標準偏差の6倍」という意味だ。この「6σ」を、NORMSDIST関数に代入すると、次の〔図表 3〕になる。 〔図表 3〕は、10億分の1の確率を表わす。すなわち、10億個の製品を作った場合に、不良品の発生を1個に抑えること。これが生産管理における「シックスシグマ」である。
家電量販店4社の 回転期間分析 〔図表 1〕の解析結果を紹介する前に、家電量販店4社の回転期間分析を見ておこう。その実務解は、営業運転資金回転期間を求めるものであり、式の構成は次の〔図表 4〕になる。 〔図表 4〕を時系列で展開したものが、〔図表 5〕から〔図表 8〕までである。
流通再編に、家電量販店も 巻き込まれるのか
回転期間は凡庸な分析手法だが、それでも〔図表 5〕から〔図表 8〕までには、いくつかの特徴が見られる。 1つめは、青色の売上債権回転期間が、4社とも0.5か月(2週間)前後であることだ。これが今回、倒産確率デフォルト方程式を持ち出しても、風説の流布にはならないだろう、と考えた理由である。 2つめは、緑色の棚卸資産回転期間が、右上がり傾向を示していることだ。なお、〔図表 6〕のビックカメラは、2012年にコジマを買収しており、解析結果が安定しないことから、以下の説明では省略する。 買収で思い出したのが、イオンがウエルシアにTOBを仕掛けるという話。第135回コラム(ドラッグストア編)では、「将来において、セブンイレブンがマツモトキヨシに、M&Aを仕掛けても不思議ではない」と述べた。 当時は軽い気持ちで記述したのだが、ドラッグ業界再編の実現可能性が高くなって驚いた。家電量販店をも巻き込む話は、ありやなしや、である。 3つめは、3社(ヤマダ、エディオン、ケーズ)の棚卸資産回転期間がいずれも、毎3月期にピークに達し、毎6月期に圧縮に向かう、という周期性を持つことだ。 ところが、である。 3社とも、図表の右端にある14/6(2014年6月期)が上昇傾向を示しており、「毎6月期に圧縮に向かう」という周期性が崩壊している。消費増税の影響だ。 ランニング・ストック方程式を 用いた最適在庫の求めかた 消費増税後の現場は、過剰在庫で溢れかえっているのだろうか。それを検証したのが次の〔図表 9〕から〔図表 11〕までであり、「実際在庫」と「最適在庫」を時系列で展開した。 赤色の実線で描いた「実際在庫」は、連結財務諸表の棚卸資産を、四半期移動平均で展開させたものである。青色の実線で描いた「最適在庫」は、次の〔図表 12〕に示す「ランニング・ストック方程式」で求めた。 〔図表 12〕のランニング・ストック方程式は、拙著『高田直芳の実践会計講座/原価計算』151頁で紹介している。〔図表 1〕の「倒産確率デフォルト方程式」とは微妙に異なるので、注意してほしい。
〔図表 12〕の「ランニング・ストック方程式」は、最適在庫を求める方程式である。この方程式は、最適キャッシュ残高を求めることも可能であり、その場合は「キャッシュフロー方程式」と名を変える。 さて、〔図表 9〕から〔図表 11〕までにおいて、青色の実線で描いた「最適在庫」は、3社ともほぼ水平に推移しているとみていいだろう。そうなると、ヤマダ〔図表 9〕の実際在庫が、徐々に右肩上がりになっているのが気にかかる。 なお、ランニング・ストック方程式や回転期間分析などは、筆者が制作した『公認会計士高田直芳の原価計算&管理会計システムVer.7』で標準搭載している機能である。スタンドアローン型の安価なバージョン(Oracle Databaseパーソナル版)も取りそろえている。 棚卸資産は、 キャッシュを殺す 経営分析は「収益性分析」と「キャッシュフロー分析」に分かれる。先ほど紹介した回転期間分析は、キャッシュフロー分析に属する。 売上債権や棚卸資産の回転期間が長くなれば、それは営業運転資金回転期間を延ばすことになり、キャッシュフローを窮屈なものとする。買入債務の回転期間が延びれば、それは営業運転資金回転期間を短縮させることになり、キャッシュフローに余裕を持たせることになる。 特に棚卸資産は、棚に札束を放置することと同じであり、棚卸資産が多ければ多いほど「キャッシュを殺す」。その「殺されかた」を調べたのが、次の〔図表 13〕から〔図表 15〕までである。 〔図表 13〕から〔図表 15〕までにおいて、黒色の実線は、連結財務諸表の現金預金残高を四半期移動平均で展開した。 赤色の実線は、〔図表 1〕の「倒産確率デフォルト方程式」で求めた。青色の実線は、〔図表 12〕の「ランニング・ストック方程式」を、「キャッシュフロー方程式」と名を変えて展開したものだ。 〔図表 13〕から〔図表 15〕までに共通するのは、左端の11/3(2011年3月期)において、青色の最適キャッシュ残高が、黒色の実線で描いた実際キャッシュ残高を上回るか(ヤマダ&エディオン)、接近しているか(ケーズ)だ。これは東日本大震災の影響であろう。 その後、ヤマダ〔図表 13〕とエディオン〔図表 14〕は、実際キャッシュ残高を急速に減らしている。特にエディオンの場合、右端にある14/6(2014年6月期)において、青色の最適キャッシュ残高と赤色のデフォルト残高とが、黒色の実際キャッシュ残高を上回る事態となっている。 この程度で「すわ、一大事」と騒がれては困る。〔図表 7〕において、赤色で描いた棚卸資産回転期間の周期性を、よく見てほしい。 エディオンの場合、2013月期まで、毎6月期の棚卸資産回転期間は低下する周期性を持っていた。ところが、2014年6月期は低下するどころか、上昇してしまっている。〔図表 7〕の右端(2014年6月期)で起きた逆転現象が、〔図表 14〕の右端(2014年6月期)で、一時的に逆転現象を引き起こしたようだ。 十分に注意してほしいのだが、エディオンの最適キャッシュ残高やデフォルト残高が、実際キャッシュ残高を上回ってしまっているからといって、それで「風説の流布」と評価されては困る。 他の業界ならいざ知らず、現金商売の小売業界は「当座のキャッシュ」に困らない。ヤマダ〔図表 13〕の実際キャッシュ残高が750億円もあるのは、さすがというべきか。だからこそ今回、分析の俎上に載せたという経緯がある。 オプション・キャッシュフローと フリーキャッシュフローの対決 〔図表 13〕から〔図表 15〕までにおいて青色で描いた最適キャッシュ残高を用いると、オプション・キャッシュフロー(タカダ式フリーキャッシュフロー)を求めることができる。 〔図表 16〕オプション・キャッシュフロー(タカダ式フリーキャッシュフロー) 「実際キャッシュ残高」と「最適キャッシュ残高」との差額が、使途自由なキャッシュとなる。余剰資金でもある。 経営分析の世界における「通説的な指標」として、フリーキャッシュフローがある。これは〔図表 17〕で表わすように「営業活動キャッシュフロー」と「投資活動キャッシュフロー」を足し合わせたものだ。 〔図表 16〕のオプション・キャッシュフローを赤色で描き、〔図表 17〕のフリーキャッシュフローを黒色で描いたものが、〔図表 18〕と〔図表 19〕である。
底が抜けた フリーキャッシュフロー 〔図表 18〕と〔図表 19〕から浮かび上がる特徴を、いくつか指摘しよう。 1つめは、〔図表 18〕のエディオンにおいて、13/3(2013年3月期)のフリーキャッシュフローが大幅に落ち込んでいる。これは、棚卸資産が200億円近く増加したことが原因だ。〔図表 8〕の棚卸資産回転期間の上昇と連動している。 しかし、〔図表 14〕の実際キャッシュ残高には影響を及ぼしていない。そこで同時期の財務活動キャッシュフローを参照すると、ほぼ同額の借入金200億円によって、在庫運転資金200億円が賄われていることがわかる。 2つめは、〔図表 19〕のケーズにおいて、12/6(2012年6月期)のフリーキャッシュフローが大きく落ち込んでいる。これは納税資金80億円の影響だ。 しかし、〔図表 15〕の実際キャッシュ残高には影響を及ぼしていない。そこで同時期の財務活動キャッシュフローを参照すると、ほぼ同額の借入金80億円によって納税資金80億円が賄われていることがわかる。 以上のことから判明するのは、経営分析の世界において「通説的な指標」として用いられるフリーキャッシュフローは、水面下にある財務活動キャッシュフローによって容易に操作が可能であり、指標としての意義をなさないことがわかる。 3つめは、〔図表 18〕と〔図表 19〕の左端にある11/3(2011年3月期)において、黒色のフリーキャッシュフローが大きく盛り上がっていることだ。東日本大震災のときに、これほど大きな「使途自由な資金」を抱えていたとは到底考えられない。 以上、3つの点において、黒色の実線で描かれたフリーキャッシュフローは、「現場の感覚」と掛け離れた動きをする。フリーキャッシュフローを「使途自由な資金」と称するなど、指標としての名折れもいいところだ。 にもかかわらず、フリーキャッシュフローを後生大事にする人たちが、あちこちにいる。「現場の感覚」とは異なる「机上の感覚」を大切にする人たちなのだろう。 4つめは、赤色のオプション・キャッシュフローが東日本大震災後、徐々に回復を見せてきたが、14/6(2014年6月期)では、2社とも右下がりになっていることだ。資金繰りが、かなりタイトになっている。これが、消費増税後の「現場の感覚」というべきものだろう。 上場企業としての、 鼎の軽重を問う さて、今回の分析で少し気になったのは、上場企業の一部で、連結キャッシュフロー計算書の開示が省略されていたことだ。会計制度上は確かに、開示の省略が認められている(四半期連結財務諸表規則5条の2第2項)。 それは、わかっているつもりだ。 しかし、連結キャッシュフロー計算書など、間接法で作成すれば、1人の力で、半日程度でできるだろうに。連結貸借対照表や連結損益計算書はできあがっても、連結キャッシュフロー計算書が決算短信の掲載に間に合わないようでは、上場企業として「鼎の軽重」を問いたい。 連結キャッシュフロー計算書の開示を省略する企業が多いのは、分析する側にも責任がある。連結貸借対照表や連結損益計算書に対する分析は精緻なものなのに、連結キャッシュフロー計算書に対する分析がフリーキャッシュフローだけでは、上場企業の側も作る気が失せるというものだ。 鼎の軽重を問うたところで、その故事が示すような野心が、筆者にあるわけではない。倒産確率デフォルト方程式やランニング・ストック方程式などのオリジナルをどんどん発案して、“底のある鼎”(鍋や釜のこと)で、ひと泡吹かせることができれば、それでいいと考えている。 http://diamond.jp/articles/-/62561 経営のためのIT 【第30回】 2014年11月21日 内山悟志 [ITR代表取締役/プリンシパル・アナリスト] IT部門の平均年齢が50歳超という企業が続出! ――深刻化する「IT人材高齢化」への対処法 多くの企業においてIT人材の年齢構成における歪みが問題となっており、筆者はこれをIT部門の「人口ピラミッド問題」と呼んで警鐘を鳴らしている。昨今ではとりわけ、ベテランIT人材の処遇や活用に頭を抱える経営者やIT部門長が多い。人事ローテーションやIT部門の業務領域の拡大などにより、ベテラン人材に活躍の場を提供することが求められる。 高齢化問題を抱える IT部門の実態 多くの企業のIT部門が、人材育成やキャリアパスに関する課題を抱えている。なかでも、昨今特に多く聞かれる話は、50歳代を中心とするベテランIT人材や定年後に再雇用したシニア人材の処遇や活用に関するものである。 筆者に寄せられる質問には、IT部門の役割変化やテクノロジの進化に対して、ベテラン層のスキルチェンジを促進する方法、ラインマネジメントとしてではなくエキスパートとしてのキャリアパスにおいてモチベーションを高める制度、ベテラン人材を活用すべき業務分野についてなどが挙げられ、その内容は多岐にわたる。 IT部門あるいは情報システム子会社において、高齢化問題を抱える企業は非常に多い。ベテラン社員の処遇や活用に関する問題は、IT部門に限った話ではないが、技術革新の著しいIT分野ではより深刻といえる。 ある金融業のIT部門では、平均年齢がすでに50歳を超えており、業務内容に対して賃金が見合わないことに苦慮している。また、ある製造業の大手企業では、情報システム子会社のベテラン社員が古い技術に固執し、本社IT部門が推進しようとしている新規技術の採用を阻止しようとする動きに困惑しているという。 処遇については、ラインマネジメント(課長・部長など)のキャリアパスと異なる専門的なキャリア職種(専任部長、エキスパート職など)を設置するという方法を採用しているケースが大手企業を中心に多く存在する。 ある製造業では、IT部門に限らず研究開発部門、製造部門、管理部門などで専門的な業務を遂行する人材をエキスパート職として別キャリアを設定し、部下を持たない専門家としてライン長と同等の処遇をするといった制度を運用している。 しかし、これによってベテラン人材が高いモチベーションを持って仕事に取り組むことができているかという点については、必ずしも成功しているとはいえない面がある。 なぜかというと、部下を持つライン長のほうが格上の成功者と見なされ、ラインを持たない専門職は格下の脱落者と見なされる企業文化や意識が残っていたり、専門的な能力や成果を的確に評価する手法が確立されていなかったりといったことから、エキスパート職が正当に処遇されないという声があがっている。 ベテラン人材のモチベーションは どうやって維持するか まずは、ベテラン人材のモチベーションについて考えてみよう。ベテラン人材やITスタッフに限ったことではないが、企業組織の中で仕事するうえで一般的に重視されるモチベーションの源泉には、(1)報酬、(2)ポジション(役職)、(3)社内的評価、(4)活躍の場の4点があげられる(図1)。 この中で(1)と(2)は、社内の人事制度などで形式的な対応を取ることは可能ではあるが、IT部門単独で実施できるものではなく、経営者や人事部門を巻き込んだ取り組みが必要となろう。また、闇雲に報酬や役職を与えることは、組織全体を見た時に必ずしもモチベーションを高めることには結びつかないという指摘もあるだろう。 (3)の社内的評価は、自分が周囲からどのように見られているかということであり、自尊心を守りたいという気持ちの表れともいえる。
(1)と(2)が整えば、ある程度の満足が得られる場合が多いと考えられるが、前述のように専門職を正当に評価しない企業文化や意識が根強く残る組織の場合は、さらなる工夫が必要となる。報酬や役職にかかわらず、仕事のやりがいをモチベーションの源泉とする人もいるだろう。 再雇用人材などの場合には、(1)の報酬や(2)ポジション(役職)への期待が必ずしも大きくなく、むしろ自分が必要とされているという認識がモチベーションの維持につながるというケースも考えられる。突き詰めていくと、多くの従業員、とりわけ長年その企業で経験を積んできたベテラン人材にとって、(4)の活躍の場が最も重要なモチベーションの源泉となると考えられる。 それと同時に、多くの企業で最もネックとなっているのがベテラン人材に「(4)活躍の場」をいかに提供するかという点ではないだろうか。これに対して、人事ローテーションを活用する方法が考えられる。多く取り組まれている方法としては、グループ企業や海外事業所のIT部門への出向、グループIT子会社への転籍、ユーザー部門のIT責任者への異動などがある。これらについては、受け皿となる組織の中で、本人の活躍の場があれば有効な方法といえ、このような人事ローテーションの形態を「噴水モデル」と呼んで推奨している(図2)。 シニア人材の活躍の場を どう作るか
一方、社内IT部門の枠を超えた、他部門やグループ企業との間の人事ローテーションが困難であるといった理由から、IT部門内でこの問題を解消しようとすると、IT部門の業務領域を拡大するか、あるいは高度な能力を必要とする業務領域の業務量を増やす以外に方法はない。 つまり、IT部門が従来と同じ業務分掌で同じ業務領域を範囲としていたのでは、ベテランを活かす仕事を与えることはできないことを意味する。 その取り組みの1つに、社内コンサルタントの育成がある。ある製薬会社では、「IT組織全体がコンサルティング会社へ、ITスタッフ個人がビジネス・コンサルタントへ」を合い言葉に、IT組織のあるべき姿を追求している。また、ある製造業では、情報システム部門内にITコンサルティング・チームを設置し、ベテラン人材を配置することで、社内の業務改革プロジェクトを推進する役割を担わせている。 その他、組織として設置しているわけではないが、PMO(Program/Project Management Office)、VMO(Vendor Management Office)、R&D(新規技術調査・検証)、IT法務、システム監査など、本来重要でやるべきではあるが、難易度が高くなかなか手が回っていない領域を拡張するという例も見られる。 グループITガバナンスの強化や技術標準化といったプロジェクトを立ち上げ、その推進を任せるということも考えられる。そのような分野にベテラン人材を配置することで、それぞれの分野で専門性を身につけるように仕向けつつ、ITマネジメントの高度化を図ることができる。 ベテラン人材にも 意識改革が求められる IT部門内に、「会計システムの保守を15年やっている」「ネットワーク運用を20年」といったその道一筋という技術者を抱えている事例は少なくない。こうした専門知識と実務経験を豊富に持った人材がIT運営を支えている部分が大きいのも事実である。 しかし、そのような塩漬け状態は、組織にとっても、本人個人にとっても決してよくないことは明らかである。会社側がベテラン人材の能力を活かす場や制度を整備していくだけでなく、ベテラン人材側にも、常に新しい業務分野に挑戦する意欲が求められることはいうまでもない。 IT部門の業務領域は、大きく企画系、技術系、管理系などに分類できるが、それぞれに豊富な経験や深い知識を必要とする高度な業務分野が存在する(図3)。ベテランIT人材およびその予備軍は、担当業務の延長線上にある高度なスキルや知識を習得し、企業の変革やIT運営の高度化に寄与する業務分野を自ら切り開いていくことが求められる。 IT部門の業務領域や責任範囲は確実に拡大しており、解決しなければならない課題は複雑化している。一方で、多数のプロジェクトや日常の運用に忙殺され、本来重要であると認識されつつも、手が回っていない重要な業務が多数存在するのも事実といえる。
クラウド化や外部活用の推進により期待される役割の変化を受けて、IT部門は自らのマネジメントのレベルアップを図るとともに、企業の変革に寄与する業務領域に踏み出していくことが求められる。 こうした業務領域でベテラン人材を活用することは、個人と組織の双方にとってメリットがある。その際、留意しなければならないのは、管理のための管理、業務のための業務を作らないこと、および経営者やユーザー部門の理解と協力を得るための説明責任能力を高めていくことである。 また、経営者は、IT人材に関する問題をIT部門に閉じた問題として取り扱うのではなく、将来を見据えた全社的な問題の1つとして捉える必要がある。式年遷宮の目的の1つが宮大工の技術を後世に継承していくことであったように、自社の情報化の経緯や自社システムの構造を理解しているベテランIT人材が社内にいなくならないうちに、手を打つことが求められる。 http://diamond.jp/articles/-/62380 ビジネスの失敗で苦しむのは地方の商店街に限らない。
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